八柱の邪神
説明回です。
長いので面倒なら読み飛ばしても可。
コッ......コッ.......コッ........コッ――――
時計が時を刻む音が部屋に響く。
「本当に.......よかったわぃ.......」
眠っているミラナディアを父親の様に優しく見守る白髭の老人。
ニコラスは安堵していた。
二人を向かわせる時、タツキがいるならガーディアンにも勝てると予想はしていたが、何処か嫌な予感が拭えなかった。
結果として二人とも無事に帰ってきたし、ミラナディアの封印も解くことが出来た。
だが、途中の話を聞いているとやはりまだ闘いに拙さが伺える。
二人とも場慣れしていないから無理もない。タツキは元々剣なんて握ったことのないただの学生だったし、ブランシュも能力や情報として戦い方は知っていても、目覚めたばかりだから実際に経験したことが無い。
むしろ剣の腕に関しては、このダンジョンを抜けてきたタツキの方が上だ。能力とはまたべつのところで差が出たと言うところだろう。
それでもタツキも対人戦はあまり慣れてはいなかったようだが。
「ふむ、そうじゃのぅ。邪神についても色々教えとかんと危ないかもしれんの」
ニコラスは少し思考し、食堂に居る二人の所までふわふわと移動していった。
食堂では、一仕事終えたタツキとブランシュが食事をとっていた。
今日のメニューは魔物肉をつかったビーフシチューの様な何かに、白パン、そして緑豆の冷製スープだ。
地上の宿屋よりもずっと豪華な食事に舌鼓を打つ。
「うまっ!!本当ここのゴーレムって凄いな」
「はい、このシチューもとても美味しくて幸せです、タツキ様」
俺の言葉をどう受け取ったのか、あれから事ある毎に幸せだと主張してくる。
幸せなのは良いけどやっぱり頭の固い娘だと思う。
ナデナデしてあげよう(意味不明)。
隣に座るブランシュの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに頬をほんのりと赤く染めて顔を緩める。
ああ、やっぱりこうなると凄い可愛いな。
普通だったら俺じゃあ彼女みたいな綺麗な娘には釣り合わないだろうけどこれもご主人様の特権だな。
さらさらとした髪の感触が心地良い。
ふわっといいにおいがする。
「俺も幸せだよ」
思わず気持ちが口からこぼれる。
洞窟に落ちてからここまでずっと独りだった。
だからニコラスとブランシュに会えたことは本当に嬉しい。生きていて良かったと心から思う。
ニコラスは優しくてちょっと茶目っ気のある気の良いお爺さんだ。
ブランシュも頭が固くて自分の存在意義に固執してしまう所があるけど、素直だしとっても良い娘だ。ちょっと犬っぽいところがあったりもするけど。
二人とも過ごした時間はまだ短いが、長い間連れ添った仲間の様な、それか家族のような感覚だ。自分の事だけど不思議な話だよな........。
ふりふりと揺れる尻尾を幻視する。
(この子を一人でも生きていけるようにしてあげるのが俺の役目かな?)
頭を撫でるのを止めて食事に戻る。
ブランシュはまた無表情に戻って食事を再開したが心なしか撫でられた余韻で嬉しそうに見える。
やっぱりちょっと犬っぽくて可愛いな。
犬、向こうの世界じゃ飼えなかったし飼ってみようかな?
そんなことを考えていたら扉の向こうからニコラスがやってきた。
「ミラナディア様の様子はどうです??」
「ちと弱っとるだけじゃな。此処で一週間も休めば直ぐに元気になるじゃろう。儂もやっと安心できるわい」
どうやら大丈夫そうだ。助かりそうで良かった。俺も安心できる。
それと同時に『彼』のことが気になり始める。
「そうですか、それなら良かった。
あ、それとなんですけど一つ聞きたいんですが。」
「彼女を助けたときに言われたんですけど、ミラナディア様の言っていた『王子様』って一体何者なんですか?」
「!!!!??っっ...........」
ニコラスが一瞬驚愕を顔に表すがすぐに落ち着いていつもの穏やかな顔に戻る。
「何か心当たりが...............?」
「っいや、あ奴めまだお姫様願望が抜けきっておらんかったのか!!
女神に、それも最高神級にまでなったというのに嘆かわしいばかりじゃ!!!」
ニコラスはそう答える。
うーん、様子を観察すると真実半分嘘半分ぐらいに聞こえるな。
ボクっ娘女神さんにはお姫様願望があったんだろうか?
「全く.........女勇者の友人達と色々話している内にそういった願望が芽生えたらしくてのぅ...........。
本物の姫がどんなにいそがしく働いておるのかわからんのかのぅ!恋愛結婚どころかその恋愛さえ難しい立場じゃというのに。儂の娘も本当に苦労したわい」
「はぁ.............」
なんだか大変そうだな..................。
「まぁ、それは置いといてじゃな。
二人に邪神について色々教えておこうとおもうのじゃが良いかの?」
ニコラスは以前言っていた邪神についての詳しい話をしに来たようだ。
「ええ、よろしくお願いします」
もちろ承諾する。
いつ戦うことになるかもわからない敵について色々知っておけるのは良いことだ。
「じゃあはじめるかの。
邪神とは以前話したように、異世界から来た侵略者のことを指す。奴らの見た目はこちらの神と同じく人とあまり変わらん。じゃが舐めてかかれば即座に殺されるじゃろう。それだけの力を持っておる。
この邪神じゃが、今確認されているだけでも8柱は居る」
桁違いの強さの邪神が8柱も...............。
こっちはどうなんだろう。
「此方の神は今どれぐらい居るんですか?」
「うむ、ミラ嬢を合わせてこちらも丁度8柱。
邪神の方が単純戦闘能力においては上じゃから劣勢なのは変わらんな。
次にそれぞれの邪神について説明していこう。
まずは序列8位『ゴルドロア』。
此奴は凄まじいパワーで戦う脳筋野郎じゃ。
じゃがちと面倒な脳筋野郎での。魔法による攻撃が全くと言って良いほど効かん。倒すなら此奴を超えるパワーの持ち主に任せるしかあるまい。今までは神側にそれが出来る奴がおったから大丈夫じゃったんじゃが前回の時に死んでしもうた。再び対策を練らねばならん奴で要注意じゃな」
今のが一番弱い邪神の様だがかなり厄介そうだ.....。
勇者の中に対抗できるぐらいになりそうなのは居ただろうか?考えをめぐらせる。
「次は序列7位『イーヴァ』じゃな。
魔導師タイプの邪神じゃ。此奴とは最初の戦いからずっと戦っておってのぅ。奴の時空間魔法は凶悪の一言じゃ。
何とか撃退するだけでいつも精一杯じゃよ」
次の邪神は魔導師タイプか。
時空間魔法、俺の使えない魔法だな。強そうだ。
でもそれを撃退できるニコラスも相当だと思う。
「そして序列6位......『イタガキ』...」
「?..............!!!」
「そう、此奴は『元』勇者にして日本人。
700年前に新しく邪神となった男じゃ............。
欲にまみれた男でのぅ....勇者として散々悪事を働いた挙げ句に他の勇者に殺されかけて邪神に連れて行かれた阿呆じゃ。
元でも勇者じゃからの。こやつは勇者として聖剣が使える。更には無限の魔力と安定した能力で長期戦を得意としておる。じゃが恐らくお主であれば..........まぁ、ここで明言出来る程ではないかの。忘れてくれ」
勇者まで邪神になっていたとは。
うちのクラスメイトももしかしたらそうなるやつが居るかもしれない。
あの死んでしまった三人組なんかももしかしたら邪神に連れられて行ってそうなってしまっていたかもしれない。
勇者であっても油断は出来ない..........な。
「ふむ。次は序列5位『エルデヒルド』。
儂はこいつは悪いとは思えん............。元はこの世界に住んでいた人間じゃった。この男は人間だった頃は魔導師として妻と二人で幸せに暮らしておった。儂とも交流があったし決して悪い男では無かったのじゃ..........。
あの男を邪神にしてしまったのは他ならぬこの世界の神。その神の名は『ゼウルギス』。最高位神なんじゃがとんでもなく女好きの神でのぅ、天界でも周りから呆れられておったわい。
ある時そやつはエドという男の妻、アイシャを見初めてしもうた。ゼウルギスは強引にエドからアイシャを奪い天使へと進化させて自分の妻にしてしまった。エドは絶望しゼウルギスへの恨みを募らせる。そこへ現れたのが邪神じゃ。
邪神は心優しいエドに邪神となって世界を滅ぼす手伝いさせることを条件にゼウルギスへの復讐とアイシャを取り戻す事を約束した。
結果としてゼウルギスは邪神エルデヒルドとなったエドに殺され、アイシャは堕天使となって今はエルデヒルドと共に有る。
邪神の契約は絶対。約束を果たした邪神に応える為にあやつは不本意ながらも敵として戦っておる...........。助けてやりたいが強すぎて儂では抑えきれん。結局今まで引きずってきてしまったということじゃ」
「この世界の神にもどうしようもないのがいるんだな..........」
ゼウルギス、名前までゼウスとそっくりな神様だな。確かゼウスも女好きで周りに迷惑をかけまくってた筈だ。
こんなのに振り回されてエルデヒルドも不憫だ。
「序列第四位『テスカトリポカ』」
「うええっ!!!??」
「うおっ!?なんじゃ?!どうした!」
まさかの変化球だった。
地球の神様まで来てるとは............。
しかもなかなかのビッグネーム。四位でこれだとかなりキツそうだな.........。
「いや........それ多分こっちの世界に居た神様だと思います...............」
「そ、そうじゃったのか。驚いたぞい。
そういうことなら知っているかもしれんが此奴が得意とするのは呪術の類じゃ。こう聞くとブランシュ嬢だと簡単に勝てそうにも聞こえるがこの呪術はちと特殊じゃ。真言なるものを使用したり魔族を生贄にする等して変幻自在の戦いをする。はっきり言ってここから上の邪神は一対一では勝ち目が無い。要注意じゃな」
「うえぇぇ.........マジですか...........」
「うむ、どんどんいくぞい。
序列第三位『アトゥムス』。
得意とする戦法は魔法による補助を山ほどかけてからの正面戦闘じゃ。何より面倒なのは奴の探知能力じゃの。あらゆる方向に死角無し。常に真っ向勝負を強いられる。近接戦闘が苦手な者は絶対に会いたくない邪神じゃな」
「序列第二位『イヴォルディア・スティルツキン』。
戦いの全てを知り尽くした女邪神じゃ。あらゆる戦法を得意とし、これといった弱点が全くない。頭もよく切れるから本人が出て来ずとも軍団戦においてもその力は健在じゃ。そういった邪神ではあるが尊敬に値する者じゃと儂は思っておる。邪神ではなく此方側の神であれば良かったんじゃがのぅ」
「そして、最後に序列第一位『ウルティミトル・コヴィントリ』。
この世界にやってきた初めての邪神にして、最悪最凶の邪神じゃ。ありとあらゆる力を使いこなす。真言や時空間魔法に重力魔法、素のステータスも桁違いじゃ。
過去に一度、勇者が此奴を殺したことがあるのじゃが此奴は直ぐに生き返りよった。そのことから死を偽装する、又は死を無かったことにする等の能力を持っていると思われることから、あ奴を続けて殺す事の出来る者出なければ勝てないじゃろう。
まぁ、こんなところじゃな。よく覚えておきなさい」
「ああ、有り難うニコラスさん」
「本当は戦わんのが一番なんじゃがなぁ。
自分の命を何よりも大事にするんじゃぞ」
全く勝てる気がしない邪神達の話で少し眠くなってきてしまった。
気づくと時計は既に12時を過ぎていた。今日はもう寝て休むとしよう。
いつも読んで下さりありがとうございます。
最近寝不足で半分寝ながら書いているので文章がおかしくなってるかも...............。




