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存在意義

 ダンジョンを歩く黒髪の少年と白髪の少女。

 黒と白のコントラストが現れるモンスターを瞬時に倒していくその姿はさながら一枚の美しい絵画であるかのような錯覚をおぼえる。


「タツキ様、エリアマップの84%までの記録が完了しました。最下層へ続く道があるのは恐らく此処かと。」


 ブランシュはステータスを出したときと同じように、手の平を上に向けるとマップを宙に出した。


「うん、俺もそう思うよ。ブランシュのお陰で探索が凄い楽になったよ」


「お誉めに預かり光栄です、タツキ様」


 ブランシュが顔を緩めてニッコリと笑う。

 どうも誉められるのが彼女にとってとても嬉しいことらしい。

 確か頭を撫でたときも喜んでいた様だったし、ミラナディア様を助け出したらまた撫でてあげようか。


 そんなことを考えながら歩いている内に最下層へのルートがあると予想していた所へ来ると、やはり予想通り下へと続く階段があった。


「やはりありましたね、タツキ様」


「ああ、気を引き締めて行こう」


 思えばブランシュも探索を始めてからよく喋るようになった。

 時折呟いていた『言語ユニット』がなんたらとかの影響だろうか?

 まあ、自発的にも喋るようになったのは良いことだ。今までずっと一人だったこともあるのか、簡単な会話が出来るだけで楽しい。

 

 二人は階段を並んで降りていく。

 階段の下からは禍々しい瘴気が這い上がってくる。


「降りたらすぐに戦闘になるかもしれない。補助魔法をかけて準備しておけ」


「了解しましたタツキ様」


 全属性魔法を利用して全身に全属性への一時的な耐性を付与する。

 身体強化と暗殺術の極意も発動して完全に戦闘態勢に入った。



 降りた先に合ったのは広い洞窟の一部屋。

 一層分のフロアと言うには狭すぎるし、だからといって狭い訳では無い。

 そして、その中心に瘴気を放っている元と思われる黒い鎧がポツンと立っていた。

 後ろを見ると巨大な紫色の水晶があり、中に人影が見える。恐らくはあれが女神ミラナディアだろう。


「ブランシュ.........やるぞ.........」


 俺の言葉に彼女は無言で頷いて答える。


「ゴボォォアアァァァァアアァァッッッ!!!!!」



インヴェイドゾンビナイト

ランク:S+

Lv.180

HP120000/120000

MP73000/73000

攻撃80000

防御40000

速度50000

魔術53000

スキル:闇魔法Lv.MAX 火魔法Lv.MAX 再生Lv.-

 剣術Lv.MAX 身体強化Lv.MAX

称号:精霊殺し



 全身フルプレートアーマーのゾンビの騎士が気味の悪い叫び声を上げて切りかかってくる。

 おぞましい外見とは裏腹に非常に洗練された剣術だ。

 少しでも気を抜けば即座に斬られるだろう。


「『ククルカン』!!!」


 ナイフを使った暗殺術の一つ、未だ()の方には気付いていない相手に死角からそれを打ち込む。


「ガギャァァガァァァァ!!!!」


 不可視の一撃に大きなダメージを受けたゾンビの騎士が一瞬怯む、


「『神聖閃光(ホーリーグレイル)』!!!!」


 そこへブランシュがアンデッドが苦手とする光属性の魔法を放つ。


「よし、いいぞ!!!」


 俺の姿を捕捉したゾンビの騎士に対抗するために武器を刀へと持ち替える。


「『一閃』!!」


 一撃必殺の抜刀術。

 ゾンビの騎士はあっけなく真っ二つになって崩れ落ちた。


 おかしい。今斬った筈なのに途中から感触が無かった。

 軍刀不知火が恐ろしい切れ味であるとはいえここまで感覚が無いことなんてあるのか?


 ゾンビの騎士に注意を向けるが真っ二つになったその身体は一向に動く気配を見せない。


 勝ったのか?

 怪しんだ俺はその身体に鑑定を掛け―――



「タツキ様。それでは解呪の方を――」


「待てっ!!近づくなッッ!!!!」


 不用意に近づいてしまったブランシュに向かって身体を再び結合させたゾンビの騎士が襲いかかる。


 俺は身体強化を全力で使い、さらに風魔法の補助で一気にその間へと滑り込み―――――



「タツキ様ッッッッ!!!!!」


 まともに一撃を喰らってしまった俺は右腕を吹っ飛ばされてしまった。

 流血が激しい。

 一気に血が減ったことにより意識が朦朧としてくる。


「よくも、貴様ッッ!!!」


「待て!そいつはまだまだ余力がある!!撤退だブランシュ!!!」


 なんとか意識を呼び戻し撤退の命令を出す。


「...................くそっ!」


 ブランシュに抱えられて上の層へと全力で移動する。


「タツキ様!!タツキ様!!タツ―――」


 泣きそうな顔のブランシュがそう言っているのを最後に俺の意識は闇へと沈んでいった。









「うあーーーーーー」


「タツキ様!!!」


 全身が怠い。

 目を覚ましたのはダンジョンの一角。

 しゅんとした表情のブランシュの様子を見るに、そこまで長い時間気絶はしていなかったようだ。

 右腕も応急手当がしっかりしており、出血も止まっている。


「腕が無いのは困るな、『ヒール』」


 斬られた断面から肉と骨がミチミチと音を立てて再生する。

 今の俺のヒールは腕の一本や二本なら問題なく治せる。

 理由はまだわからないが使えるものは使っておく主義の俺からすればそんなことは気にならない。

 そんなことよりも言わなければならないことがある。


「ブランシュ、今回はこの程度で済んだから良かったけど、今度からは不用意に敵の死体に近付かないようにね。

 今回のあいつみたいにアンデッド系は死の偽装が得意な奴が多そうだしね」


「申し訳......ありません...........。

 ですが、道具である私を庇うなど主人としてあるまじき行動かと―――」


「それだよブランシュ。君は自分をもっと大切にするべきだ。

 今回だって結果として特に問題は無かったんだから今度は失敗しないように気をつけてくれればそれで充分なんだよ」


「しかし、私の存在意義としてタツキ様の身体と幸せをお守りすることが何よりも大切な事でして。今回の様に私が勝手に失敗したのであればその尻拭いをするのも私自身でして―――」


「なら主人である俺とその存在意義のどちらが大事なんだ?

 今回お前を庇ったのだって俺の選んだことだぞ?

 まぁ百歩譲ってその存在意義に俺も従うとしたら、俺の幸せはお前が幸せでいることだ。

 お前は機械みたいに振る舞ってるけどちゃんと心だってあるんだろ?だったらお前が傷つくことなく幸せでいてくれるのが一番だよ。

 それに俺ってご主人様ってことができるガラでもないしな。

 つーわけでお前は自分を大事にしろ。どんな事があっても自分を犠牲にして俺を救おうだなんて考えるな。いいな?」


「――――はい............了解しました.........」


「じゃあちょっと休憩したらもっかい行くからな。

 俺はこれから少し寝るからお前も休んどけ」


 ずいぶん頭の固い娘だ。

 人間に限りなく近い機械なんてのも難儀なモンだな。

 自我はあるのに存在意義とやらに縛られて何も疑問を持つことなく納得している。

 アトロポスって神様も一体どんな気持ちでブランシュを作っていたんだろうか。

 まあ、こいつを普通の女の子にしてあげられるように頑張ってみようかな?

 出来るかどうかは分からないけれど、彼女が外の世界でも幸せに生きていけるようにしてあげたい。

 いつもの自分勝手な自己満足なんだけどね...........。


 そんなことを考えながら俺はリベンジのために仮眠を取り始めた。

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