夢とこれからと
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俺は昔から変な夢を見る。
単純で、子供っぽい夢。
その夢に登場するのは煌びやかな剣を携えた勇者の青年と純白のドレスを身に纏ったお姫様。
勇者の青年は凄く強いけど、他人が苦手で誰ともまともに話せない。
お姫様はとても綺麗なのだけれど、男嫌いで恋を知らない。いつも周りには女の人ばかり。
二人が出会うのはいつも一緒。
王宮勤めの召喚士によって、辺境の村でたった一人で剣を振るい続けていた青年が呼び出されて、その場に来ていたお姫様と出会う。
聖女になったお姫様と勇者の青年は王様の命令で魔王を倒す旅に出されるのだけど、始めの頃は二人はまるで噛み合わずギクシャクしてばかり。
でも、旅の中で勇者の青年はだんだんと他人を受け入れられるようになり、お姫様は優しくて強い勇者の青年に惹かれていく。
そして、最後は世界を脅かす魔王を倒した二人は晴れて結ばれて王様や国民達から祝福を受けて終わり。
ゲームのストーリーなんかでもよくあるような単純な話。
でも、初めてその夢を見た時だけは最後が変わっていた。
最後、勇者の青年は二人よりも強かった魔王を倒すためにお姫様の制止も聞かずに自爆の魔法により一人犠牲となって魔王を道連れにして死んでしまう。
残されたお姫様は魔王を倒した聖女として国民達から祝福を受けるが、勇者の青年を失った悲しみからだんだんと弱っていき、そして王様や兄妹達に囲まれてベッドの上で息を引き取る。
二人とも救われない、悲しい夢の終わり方で小さい俺は起きてからすぐに泣いたのを覚えている。
夢の続きは、見たことがない。
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どうやらこれは予想通りのテンプレよろしく異世界召喚らしい。
ドレスの美少女は続ける
「私はこのクリンドル王国の第二王女アリア・クリンドルと言います。勇者の皆様には北の大地に復活した魔王を打ち倒し、この世界を救って頂きたいのです」
彼女の言葉に今まで放心状態だった者も気を取り戻し、騒ぎ始める。
「ちょっ!意味ワカんないんですケド!!?」
「マジ!?俺って勇者なのか!よっしゃぁぁぁ!!!」
「これって誘拐なんじゃ......」
「家に帰りたい.........」
わいわいと怒ったり泣いたり喜んだり騒ぎ始めるクラスメイト達。
周りを見れば興奮しだしたクラスメイト達を抑えようと甲冑の騎士達が動こうとしているがお姫様に制止されている。
このままだと拙そうだ。
「皆さん落ち着いて下さい!!!!!」
お嬢先生『若葉姫乃』の一言で生徒達が静かになる。歳は23才でキリッとした顔付きで厳しい印象を受けるが、優しい性格で生徒達(特に男子)からの人気も高い。
お嬢とあだ名が付けられたのはその強気そうなツリ目とサラリとした焦げ茶色の長髪からだ。
「まずは状況を確認するべきです。アリア王女、私達の質問に答えて頂いても宜しいでしょうか?」
王女はその言葉に頷いてみせる。
「では、まず私達は元の場所に帰れるんでしょうか?」
「申し訳ありませんが元の場所に送り返す方法は存在しません」
生徒達が再びざわつきはじめる。無理もない、突然見たこともない場所に連れてこられた上に今までの日常には戻れないことをはっきりと言われたのだ。落ち着けるはずがない。
「皆さん静粛に!すみません、続きをお願いします。
私達が魔王というものと戦うのは絶対なのでしょうか?
戦いたくない者は逃げてもよいのでしょうか?」
「戦いたくない人は戦わなくても構いません。生活は私達が保証させていただきます。
ですが、魔王が攻めてくるとなるとこの国もタダでは済まないでしょう」
王女が悲痛そうな面持ちで言う。
その言葉でクラスの皆はお通夜ムードになってしまう。
周りの騎士達の様子を見るに嘘はついていないのだろう。中々に切迫した状況だということだ。
そんなことを考えていると一人の生徒が手を挙げた。
「なら俺が戦う!!オレ一人でも魔王を倒して世界を救ってやるぜ!!!」
『遠藤光太』だ。スッキリとした顔のイケメンで身長も高く、カリスマも有り、クラスのリーダー的存在。
噂では大企業の役員の息子らしい。
祖父が社長で父親が役員だと聞いている。
ファンクラブもあるらしく俺も彼のカリスマ性には一目置いていたのだが。
まさか自分からこんな事を言い出すとは思わなかった。
あまり考えない単純なタイプだったのだろうか。
(しかし........これは..............)
40人。
これだけの勇者が召喚されたにも関わらず王女の顔はいまいち浮かんだようには見えない。
それほどまでに過去の魔王は強かったということだろうか。
ともかく勇者一人で勝てるような存在では無いのだろう。
だが、
「へっ、なら俺も戦うぜ!世界を救ってやんよ!!」
「遠藤君がやるなら私も!!」
「オレだって勇者だ!!!」
「一人でなんて水くさいぜ!光太!!」
腐ってもカリスマはカリスマでイケメンはイケメンなのだ。
お嬢先生は呆れたような諦めたような顔をしている。
竜牙の方を見ると彼も彼で楽しそうだ。
この先にあるものがどれだけ危険なのか想像していないのだろうか。
「貴方はあれに便乗したりしないのね。てっきりこういうのが好きなんだと思ってたわ」
渋い顔をした栗色の髪の少女が話しかけてきた。このクラスの学級委員長の『東堂伊織』である。
「流石にあれに便乗しようとは思わないよ。それに俺は戦いを好き好んでるわけじゃない」
「へぇ、意外とまともな返事をするのね。いつもボーッとしてるから何も考えていないと思ってたわ。オタクだし」
「そりゃあ心外だね。僕だって少しは物を考えるさ
」
「少しなのね.......」
達樹は『浅く広くのソフトオタク』を自負している。
正直この『異世界召喚』された事に気付いた瞬間は飛び上がりそうになった。(そこは理性で抑えたのだけど)
でも同時に気付く、『もしこれがテンプレ通りなら自分のような微妙な立ち位置の苛められっこはたいした能力も無くフェードアウトしていくのではないか?』と。
自分はガッツリ苛められてるタイプでもなければ誰もが羨むようなキラキラした主人公タイプのイケメンでもない。
そう思ったらスーッ、と興奮が冷めていったわけだ。熱が冷めれば冷静に考えられるようになる。
自ずとこれから先の展開も読めてくるといった所だ。
ただ一つ、彼は読み違えていた事があった。
彼は自分が陰で『ハイスペック苛められっこ』と言う意味不明なあだ名を付けられているのに気付いていなかった事。
なんだかんだいって何でもそつなくこなせる子なのだ。
それがこの先どう絡んでくるかはテンプレ様の御心のままなのだけれど。
そうしている内に王女が気を取り直して皆に向き直った。
「皆さんにはまずステータスを確認して頂きます。まずはこちらの水晶に手を触れてみて下さい」