勇魔大戦
説明回になります。
迷宮の地下の奥深く。
千年前のクリンドル国王にして現・精霊王のニコラスの隠れ家の一角にて三人はテーブルを囲んで話し合っていた。
「まずはミラ嬢の居場所についてじゃが、このダンジョンにはもう一層だけ下の階があるのを知ってはおるかな?」
「いや........知らないですね。俺もこのダンジョンがあること自体知らなかったですし、他の人だって知らないでしょう」
「ん?お主ここにダンジョンが有るとは知らずに落ちてきたのかの?儂の著書にそれとなくダンジョンの存在を書いておいたんじゃが.............」
ちょっと残念そうなニコラスをブランシュが無表情のまま撫でて慰める。
「ブランシュ嬢は優しいのぅ.......。いや、話がそれてしまったのぅ、まあこのダンジョンにはもう一層だけ残っておるということじゃ。そしてそこに封印されたミラ嬢が眠っておる。そこに行って封印を解けば終わりなんじゃが一つだけ問題があってのぅ........」
「ん?ニコラスさんが取り返して来たから大丈夫なんじゃなかったのか?」
確か、ニコラスは封印されたミラナディアを取り返してきたと言っていた筈だ。
ならばいつでも封印が解ける様に準備していると思っていたのだが........。
「実は300年前の第7次勇魔大戦の時に力を取り戻した邪神の一人がミラ嬢を奪いに来てな、儂が戦ってなんとか追い返したのじゃが、重ねる様にミラ嬢に封印を掛けられた上に邪神の眷属のガーディアンまで付けられてしもうた。しかも儂が手を出せんように『精霊殺し』の力まで与えてのぅ」
「他の神や妖精王とかには頼めなかったのか?」
「神は邪神との戦いで消耗しておった上に数も減っておって回復にしか集中できんかった。妖精王も戦いによって荒れた土地を生き返らせるのに奔走しておったからガーディアンの相手をする暇も無かったわい」
邪神達との戦いを聞いているとどうやら此方がじわじわと劣勢に追い込まれていっているらしい。
それに前々から気になってはいたのだが。
「そもそも勇魔大戦ってなんなんだ?」
「そういえば話しておらんかったのぅ。まあ今のお主ならガーディアンにも問題なく勝てそうではあるし。うむ、そちらから話すとしようか」
ブランシュもその方が良いというように頷いている。
ニコラスは少し考えると話し始めた。
「まずは邪神についての説明から始めんといかんの。
邪神はまず最初に言っておくがこの世界に元から居た者ではない。言わば別世界から来た侵略者達じゃ。正直奴等が元々別世界に於いても神だったかというと疑問ではあるが、奴等はこの世界の神々の座を簒奪しようとしてやってきた訳じゃから邪神と呼んでおる。
事実として奴らはこの世界の神と同等かそれ以上の力を持っているしそう呼ぶのに問題は無かろう。
邪神についての更に詳しい話はミラ嬢が助かってからすることにしよう。
話は続くが、邪神達はまずこの世界を支配するために北の大地にいた魔族を配下として選んだのじゃ。結果として魔族は二つにわかれ、この時から魔王と呼ばれる者が現れるようになったわけじゃな。
戦いが始まり、神とこの世界の英雄達では勝つことが出来ないと察した当時の最高神の1柱『エルティミシア』は人族の王、つまりこの儂に『進化の秘術』と『勇者召喚の儀式』を授け、それに従って儂は勇者召喚を行った。
これが勇魔大戦の始まりじゃ。」
成る程、元々この世界は今ほど物騒じゃなく、勇者召喚も元から存在した訳では無かったということだ。
勇魔大戦とは言わば世界を侵略から守る為の防衛戦争だったということだ。
「異世界より召喚された勇者は最初こそ弱かったもののめきめきと力を付け、魔族や邪神達を殲滅、撃退していった。
じゃがこれで終わる邪神共では無い。奴らは魔族だけでなく、あらゆる人々の中から邪神へと至るだけのポテンシャルを持つ者を探しては誘惑し、新たな邪神を作りだした。
更にそれだけではなく邪神達はそれぞれの力を集めて魔王へと与え、100年毎に死んでも復活出来る力と無限の魔力を手に入れさせたのじゃ。
数を増やして反撃してきた邪神や強くなった魔王に此方の戦線は崩れ、神々も何柱も殺されたり封印されたりしていった。
そこで此方も今度は『進化の秘術』を使い、各地から集まった英雄やその仲間達、そして勇者達の中から了解を得られた者を進化させ。神にも等しき力
を手に入れた我等は何とか邪神達との戦いを互角にまで持ち込み、撃退することによって今までに至るということじゃ。
まぁ、これが簡単に説明した勇魔大戦じゃな。
そして余談ではあるが第一次から弱っていた邪神達も力を取り戻し、今回は第一次と同規模の大きな戦いになることが神々のなかで予想されておる。」
百年周期の戦いは邪神の残した魔王の能力によるもの。
そして、戦いは依然此方側が不利なままであることがわかった。
「でも、それならもっとニコラスさんが出向いていって色んな人に進化の秘術を授ければ勝てるんじゃないか?」
同じ数の神が居て勝てないのなら、大量の神を用意すれば勝てるはずだ。
安易な考えだけどそうすれば勝つことは簡単だと思う。
「一度は儂もそのことを考えた。じゃがの、邪神に至る秘術も又進化の秘術なのじゃよ。
力を与えたときにはよい心を持っていたとしても、それが続くとは限らない。
進化の秘術の進行具合によっては邪神に堕ちてしまう可能性も無きにしもあらずなのじゃ。エルティミシア様もその事を考慮した上で儂に授けたのだから儂はその思いに応えねばならぬ。
故にこの力を多用することは出来ぬし、よくよく見極めなければならぬ。そして、このダンジョンを作るに至ったのじゃよ。」
「..........そうか。そうすると難しいな.............。」
邪神達の戦いに勝つためには進化の秘術により進化した人々が必要。
だが、進化の力を与えた相手によっては戦線を乱し、相手に力を与えてしまう事態になりかねない。
そして、そのためにも人物の本質を見極めることが必要。
「ん?って事は俺は大丈夫だったのか?」
「うむ、お主は1000年間踏破する者の居なかったダンジョンを踏破したのじゃ。それにお主の精神の中も覗かせてもらっとるから間違いは無い。
そもそもこのダンジョンに入れる時点でほぼ合格ではあるからのぅ。最後は折れるか折れないかを確かめているだけに過ぎんよ。」
自分が認められたことにいまいち納得仕切れないがありがたく受け取っておくことにしよう。
「とまあ、勇魔大戦についての話はこんなところでいいかの?
そろそろミラ嬢を助けに行こうと思うのじゃが。」
「ええ、大丈夫です。できる限りやってみますよ。」
「ホッホッホッ、その意気じゃ。
それじゃあお主とブランシュ嬢の装備をなんとかしようかの。
ついてくるがええ。」
俺達は席を立つと、隠れ家にある武器庫へと向かった。
歩いているとブランシュが寄ってきて話しかけてきた。
「マスター、武器庫にまで行く途中なのですが私のステータスをお見せしますので此方を見て下さい。」
ブランシュは手の平をスッと上に向けると、その手から半透明の板のようにステータスが浮かび上がった。
ブランシュ 神繰機 ♀
天職:最上級天使
Lv.1
HP20000/20000
MP50000/50000
攻撃5000
防御6000
速度6000
魔術6400
スキル:光魔法Lv.MAX 天歩Lv.- 剣術Lv.5 槍術Lv.5 弓術Lv.5 斧術Lv.5 自動HP回復Lv.- 解呪Lv.MAX
称号:アトロポスの最高傑作
アトロポスの最高傑作:アトロポスの最高傑作たる少女に贈られた唯一無二の称号。一日につき一回までその身の死を無かったことにし、更にあらゆる状態異常に掛からなくなる上に即死無効の効果もある。
うん、控え目に言ってクッソ強いな。
とりあえず勇者だったクラスの皆よりずっと強い。
もしかしたら勇者は大器晩成型だったのかもしれないが初期ステータスがこれは異常と言って差し支えない。
称号に関してもアトロポスの親バカ(?)っぷりが伺える程の圧倒的な防御系能力だ。
「凄いな、お前.........」
「お褒めに預かり光栄です、マスター」
「そのマスターってのもなんかむずがゆいから普通に名前で呼んでいいよ」
「了解です。タツキ様」
「いや........様も付けなくていいんだけどね...........」
「ほれ、ついたぞい。この中じゃ」
ニコラスに言われて扉を開けて武器庫の中へと入る。
「そうじゃの、お主にはこれなんかどうじゃ?
確か、暗殺術の極意を持っとったから上手く使いこなせるはずじゃ」
そういってニコラスが指さしたのは一振りの刀と一本のナイフ。
手に取ってみると程良い重さが手に伝わってくる。
気になったので鑑定を掛けてみた。
軍刀・不知火:国宝級の魔道具。鈍い輝きを放つその刃に斬れぬもの無し。特殊効果は一切無いが耐久性能、切れ味は圧倒的。
黒刃ニーズヘッグ:国宝級の魔道具。伝説の毒竜、ニーズヘッグをイメージして作られたナイフ。切れ味もさることながら斬った相手に致死性の毒を与える能力は非常に強力。任意で毒を出さないことも出来るので使い勝手も非常に良い。
「こんな凄いものを...........本当に良いんですか?」
「ホッホッ。構わんよこれぐらい。
これからミラ嬢を救って貰うんじゃから中途半端な装備は渡せんじゃろう?
依頼料だと思って受け取ってくれ。
それに防具もじゃな」
ニコラスが指さしたのは黒地に白い縁取りや金のラインが入ったコート。
鑑定してみると。
常闇のコート:古の勇者が仲間の暗殺者の為に、神に頼んで作って貰ったコート。等級は神装具。装備した者はあらゆる状態異常から守られ、即死無効の効果もある。防御力もかなり高く、壊れても自動で再生する。
「.......まじか....」
「マジじゃよー。ホッホッホッホッ」
ニコラスが楽しそうに武器庫をうろつきながらそう言う。
相変わらず茶目っ気のある爺さんだ。
「ほれ、こっちはブランシュ嬢にじゃ。」
次に指さしたのは蒼い刀身のロングソードに細かな装飾が施された美しい盾、そして最後にその盾とセットになっているぼんやりと光る紅色のラインが入った女性用の鎧だ。
湖水剣ニムエ:国宝級の魔道具。とある妖精が作ったと言われる聖剣。魔力を通すと蒼い光を放ち、光属性の力が上昇する。切れ味も良く、壊れても自動で再生する。
光盾サテラ:国宝級の魔道具。国で最強の聖騎士に与えられたという盾。鎧とセットになっており、同時に装備すると魔法への一定のリフレクト効果がある。
光鎧イスカ:国宝級の魔道具。国で最強の聖騎士に与えられたという鎧。盾とセットになっており、同時に装備すると物理攻撃への強い耐性を得る。大きさは装備者に合わせて変わる様になっている。
すげぇ........................。
なんかもうすごくてもうすごいな。
至れり尽くせりだよ。
「良かったな、ブランシュ」
「はい、タツキ様!ニコラス様感謝申し上げます」
心が追いつかなくて思わずブランシュの頭を撫でてしまった。
まずいと思ったが以外とそうでもない。
さっきの様に少し顔がゆるんで感情が表に出てきた気がする。
心なしかブンブン揺れる犬の尻尾が見えるのは気のせいだろうか?
「ホッホッホッ、いいんじゃよブランシュ嬢。
今の儂は友の娘の門出を祝う只の老いぼれじゃからのぅ!」
いつのまにかブランシュがアトロポスの娘に格上げされている.................。
まあ、それは置いておこう。
「さあ、装備も決まったところで二人とも頼むぞい!
じゃがまずは自分を優先するんじゃよ?危なくなったら直ぐに帰って来なさい。
死んでは元も子もないからのぅ!」
こうして俺とブランシュは隠れ家を出て、まだ見ぬ最下層を目指して歩き始めたのだった。