マスターキー
「なっ!!?なんでこんな所に女の子が!!??」
封印を解くためのマスターキーがあると聞いていたのにそこに居たのはメイド服のようなものを着た、雪の様に溶けて消えてしまいそうな程に美しい白髪の少女だった。
「まぁそう思ってしまっても無理もないがのぅ。
その娘は神繰機と呼ばれる神の作りし機械人形じゃ。見た目は全くといっていい程人間と変わらんし、食事だってとれる。ただ一つだけ違うのは頭の中身じゃな」
「この娘........機械なんですか..........?」
「そうじゃよ。儂も最初見せられたときは信じられんかったがの。技巧の神アトロポスが最後に作った物じゃ............。あ奴はこれを作った直後に邪神に殺されてしもうた................」
「......................」
ニコラスは昔を思い出しているのか、感慨深そうな顔をしたり、哀しそうな顔をしたりしている。
友人が殺されるのは心にかなりつらい物があるだろう。
俺も竜牙達が死ぬところなんて見たくないし考えたくもない。
「........ちとしんみりしてしもうたのぅ。さっきも話したとおりじゃが儂にはこれを動かすことは出来ん。お主の力を覗いたときに確信したのじゃが、お主の持っているその光の力。他の人間の持っている同じものとは異質の物としか考えられん。そしてその力をこれに流せばおそらくは動き出すはずじゃ」
「...........わかりました。やってみます」
俺は少女の側に近付くと、その額に手を当てて力を流し始める。
だんだんと少女の身体が光りはじめ、力が溜まっていくのを感じる。
「......おぉ!!これは........これは..........!!!」
少女の身体は更に輝きを増し、俺は力が溜まりきったと感じた同時に手を離した。
輝きは少女の身体へと吸い込まれていき、場は静寂に包まれた。
――――エネルギー充填完了
―――――初期動作確認................確認完了
――――所有者の生体認証及び設定完了
――――起動します
「うわっ!!?」
いきなり目を開いて起きあがった少女が金色の双眸で此方を射抜く。
「お待ちしておりました。マスター、これから宜しくお願い致します」
機械的な抑揚の無い口調で少女が喋り始めた。
「ま、マスターって俺のことでいいのかな..........?」
「勿論ですマスター。マスターのあらゆる情報は起動時に保存、登録されております。他にご質問はおありでしょうか?」
本当に機械みたいだ...........。
頭の中身だけが人間と違うといったのはこういうところの事だろう。
「おお......本当に...動きおった...........!!」
ニコラスが嬉しそうにしている。
少女はニコラスを見ると、ニコラスに挨拶し、アトロポスに貰った情報でニコラスの事を知っている事を伝えた。
「よもやこんな日が来ようとは............嬉しくて泣けてくるわい...........」
ニコラスはぼろぼろと涙をこぼして感慨深そうにそう言った。
「あの男に娘が出来た様でこう.......いろいろとこみ上げてくるものがあるのぅ。あの頃の思い出が鮮明に思い出されるわい」
ニコラスがひとしきり泣いてから落ち着くと、再び質問を始めた。
「えっと......名前とかってあるの?」
「名前は付けられておりませんが、マスターがつけて下さると言うのであればお願いいたします」
「そうか........じゃあどうしようか...........」
ニコラスに視線を向けたが、彼は首を横に振った。
彼女はマスターに名前を付けてほしいと言っているし、彼としては彼女が動いたところを見れただけで充分なんだろう。
「そうだな.........『ブランシュ』なんてどうかな?」
真っ白な頭髪の『白』からとった安直な名前だとは思うが、これより思いつく名前も無かった。
美しい白髪に透き通る様な白い肌、機械的ではあるが何処か気品を感じさせるような雰囲気。
その全てが汚れのない『白』に感じられたからだ。
「了解です。『ブランシュ』を名前に登録します」
「うん。じゃあ質問を続けるよ。ニコラスが言ってた人を助けたいんだけど、本当に封印は解けるの?」
「...............。対象は『女神ミラナディア』で宜しいでしょうか?」
「!!!?」
彼の友人の娘で神だと聞いていたから女神であることはわかっていたし、驚かなかった。
でも、今のクリンドル王国で最もメジャーな神様なんていうビッグネームが飛び出して驚きを隠せない。
そもそも、宗教自体は活動を続けているのに本人は封印されているとは知らなかった。
恐らく協会関係者も知らないんじゃないだろうか。
「ニコラスさん.......合ってますか..........?」
「そうじゃな.......それであっておるよ。」
「では、質問に答えます。答えは『可能』です。私は元々その為に作られた機械ですので、解呪や封印の解除はほぼ全てにおいて可能だと覚えていて下さい」
「それなら良かった.......って結構すごい能力だな」
「戦闘についても最上級天使と同等のポテンシャルが有るように作られております。今はまだ大したお力にはなれませんが誠心誠意尽くしますのでそちらも是非宜しくお願いいたします」
「最上級天使ってのはよくわかんないけど...........凄いな。こちらこそこれから宜しく頼むよ」
手を伸ばして握手すると、今まで無表情を保っていた彼女の顔が少し緩んだ。
心は持っていないのかと思っていたがそういうわけでは無いらしい。
まぁそんなわけで新たな仲間を加えて、三人で女神を助けに行く為の準備を始めるのだった。