進化の理由
ゆっくりと目を開ける。
「知らない天井だ。」
くぅーーーっ!!言ってみたかったんだよね!この台詞!!
周りを見ると子供ぐらいの大きさのゴーレムが掃除をしていたり、何やら物を運んだりしている。
石造りの綺麗な部屋。
その部屋にあるふかふかのベッドの上に俺は寝かせられていた。
「目が覚めたようじゃの。」
ドアをすり抜けてニコラスが入ってきた。
「えっ!??」
人間だったころとたいして変わらない生活が出来るんじゃなかったのか!?
完全に幽霊じゃないか!!
「おお、この姿が気になるんじゃの。これはの、儂の分身体じゃ。本体は精霊王の仕事があって精霊郷から出てこれんからのぅ。」
「ホッ........」
良かった、割と普通だった。
自分もああなるかと思うのはすごく嫌だったからな。
「それにお主の進化はまだきっかけを与えられたばかりの卵のようなものじゃ。これから少年が妖精王になるか、それとも儂のように精霊王になるか、それとも神になるのか。まだ始まったばかりじゃ。」
「進化先は決まっているわけでは無いんですね。」
「勿論じゃ。じゃがここから先は夕食を食べてからにしようかの、ついてくるがええ。」
ニコラスに連れられて食堂へと向かう。
その間に自分のステータスを確認することにした。
日向達樹 人族? 16才 ♂
天職:勇者・軽業師
Lv.1
HP100000/100000
MP120000/120000
攻撃57000
防御50000
速度48000
魔術60000
スキル:全属性魔法Lv.2 聖力Lv.MAX 拳法Lv.MAX アクロバットLv.- 身体強化Lv.MAX 暗殺術の極意Lv.- 天歩Lv.- 鑑定Lv.- 痛覚耐性Lv.MAX
称号:勇者・■■■の担い手・エースキラー
「うおっ!?すっげぇ!!??」
ステータスがとんでもないことになっている。
レベルが1に戻ってはいるが桁がおかしい。
十万とかもう訳が分からん。
それだけじゃない、初級魔法をいくつか使えるようにしていたのだがそれらが統合されて、全属性魔法になっている。
隠密と暗器術も統合されて暗殺術の極意になった。
さらにそれを手に入れたことにより、称号『エースキラー』も手に入れた。
エースキラー:暗殺術の極意を手に入れた者へ贈られる称号。自分や周りの人々へ向けられる殺意を完全に捉えることが出来るようになる。隠密を使用すると完全に敵に見つからなくなる。暗器によるダメージが倍増する。
かなり強い称号だったので手に入れられて嬉しい。
これからこの世界で暮らしていく上でもこういった力があると何かと楽だろう。
しばらくすると食堂へと到着し、夕食が運ばれてきた。
どうやらゴーレムが調理しているらしい。と、いうかこの隠れ家はいたるところにゴーレムがいる。 生身の無い分身体の代わりに色々なことをこなしているといったかんじだ。
夕食は白パンとこのダンジョンでとれた魔物肉のステーキに隠れ家にある畑でとれた野菜のサラダ、それにカボチャのポタージュが出てきた。
中々美味しかったし、量も多くて満足だ。
「さて、そろそろ話そうかの。」
「ええ、お願いします。」
「まずはお主を進化させた理由についてじゃ。これについてはなんじゃが、儂が造ったこのダンジョンの役目でもあるんじゃよ。」
「えっ?でもあの広場のそとは管理外だって........。」
「そうじゃよ。儂が管理しておるのは入り口たる穴とあの広場にこの隠れ家だけじゃ。入り口は人間しか通さない上に、邪な考えを持っている者も通さない様になっておる。」
「そうだったんですか。」
なるほど、謎が一つ解けた。あの地竜が死んだのは大体の俺の推理通りだったわけだ。
「このダンジョンは1000年前にこれから先の勇者やその仲間達に力を与えて、戦いに勝利させるために作ったものじゃ。実際にクリアしたのはお主だけじゃがの。」
「つまり、俺が魔王を倒すために進化の秘術を使ったと言うことか?」
「惜しいの。確かに魔王は倒さねばならん敵じゃ。じゃが本当に倒すべきはその向こうに居る。奴ら北の魔族共の崇める神、『邪神』じゃ。」
「まさか.......神を倒せと........!?流石にやれと言われてもやる気にはなれませんよ...........??」
「そうじゃな、それが普通じゃ。じゃが勇者である限り、人間である限り、いずれ邪神共と戦わねばならんことも又宿命。今はどうなっているかはっきりとはわかっとらんが、儂のもてる限りの情報も教えよう。それにお主を進化させた一番の理由はこれでは無いしのぅ。」
「その一番の理由というのは.........?」
「儂の1000年前の仲間を救って欲しいのじゃよ。儂では助けることが出来んのじゃ。」
「助ける相手が何者かは知りませんが、貴方が出来ないことが俺に出来るとは思えないんですが..........。」
「心配することは無い。儂はお主の力を見て確信しておる。お主ならアレを起動させられるとな。」
「...........まぁ、出来るならやってみましょう。」
「申し訳無いのぅ.......。その助けて欲しい仲間の話でもするかのぅ。まぁ、あやつは儂の親友の娘だったんじゃよ。1000年前の戦いが邪神の封印によって終わった後にあやつは神へと進化した。それで儂と同じように世界を守り続けてきたわけなんじゃが、600年前にあった戦いの時にあやつは邪神共の手に掛かって封印されてしもうてのぅ、何とか封印された本体だけは取り戻してきたんじゃが切り離されて分けられた力は各地のダンジョンに封印されて、儂は本体の封印を解くことも出来ずに待ちぼうけておったわけじゃ。」
「それで.......俺なら封印が解けると......?」
「正確には封印を解くことの出来るマスターキーの機動を出来るというかんじじゃな。そのマスターキーの作成者も死んでしもうたからこの世界に封印を解ける者はもうおらんかったわけじゃわい。」
「600年もかかって、その友人の娘ってのは抜け出せないのか?」
「穴を開けることには成功したようじゃがの、それもまだ最近の話じゃ。封印を自ら解こうしておったら邪神に世界が滅ぼされた後になってしまうわい。折角最高位神までなったというのに残念な限りじゃの。」
「.......解りました、助けに行きましょう。マスターキーを取りに行きましょう。」
「そうか、助けてくれるか!申し訳ないのぅ、儂に力があれば問題なかったんじゃが。」
ニコラスは申し訳ないと顔を歪める。
「気にしないでください、友達なんでしょう??」
「ホッホッ、まさかこんな若い友人に助けられるとはのぅ。人生長生きしてみるもんじゃな。」
俺はニコラスについていき。
宝物庫まで来た。
「この中の隠し部屋にマスターキーは置いてある、盗まれたら大変じゃからのぅ。」
そう言ってニコラスは壁のレンガの一つにぐっと手をかける。
そうするとレンガは奥へとズレていき、しばらくすると目の前には金属製の扉が現れた。
「この先じゃ、入ってくれ。」
扉を開き、その目の前にあったものは――――
大きな椅子に座ったまま目を閉じて動かない、白髪の絶世の美少女だった。