五人の勇者
6日目、遂に10層まで降りてきた。
9層あたりから冒険者だったらしき遺体が増えた。
それだけではなく、生前はそれなりに良い身分であっただろうと思われる格好をした遺体もある。
(こんなに沢山.......よく残っていたな........)
捨て置くことも出来ずに、一人一人の遺品の中からギルドカード等の身分を証明する物を取るとアイテムボックスにしまっていく。
上に戻ったときに彼らの死を伝えなければならないと思ったからだ。
そうして、集まったそれらは既に38枚にもなった。
一応、武器も貰っておく。
今のメイン武器はアダマンタイトで作られた細身のロングソードだ。
アダマンタイトは貴重な金属の部類に入る。
灰色のカードを持っていた遺体が持っていた物だが、生前は名の知れた冒険者だったのかもしれない。
「ここは................。」
しばらく歩いていると目の前に明らかに人の手によって造られたと思われる円形の広間が現れた。
奥には金属で出来ていると思しき扉があり、広間を囲むようについている五つのステンドグラスからは何故か光が射し込んでいる。
「ボス部屋......ってとこかな.........?」
一瞬進むことを躊躇うが、ここで退いたら帰れなくなる気がして前へと足を踏み出す。
洞窟での暮らしにも大分慣れてきていたが、本来の目的は上へと戻ることなのだ。
それを忘れてはいけない。
五つのステンドグラスから射し込む光が広間に五つの影を作る。
歩みを進める度に影はどんどん伸びていく。
(...................来る!!!)
広間の中心まで歩いてきたところで影は俺の足下から離れてそれぞれ集まり、ぬっとその黒い固まりから五人の真っ黒な俺が現れた。
自分のコピーとボス戦で戦うというのはテンプレ通りで有り得ると予想していたのだが、五人とは予想外だった。
「我ら五人は汝の写し身なり」
「五人の全てが汝と同等の力を持つ」
「力有るものよ、汝は何を求む」
「真実を知りたくば我等の全てを打ち倒して見せよ」
「力を手に入れたくば我らの全てを越えて見せよ」
彼等は五人全てが本物と同等の力を持つと言った。
つまり、戦力差五倍の相手に真っ向からぶつかって勝てと言っているのだ。あまりにも無茶ぶりすぎる。
五人の俺達が一斉に構える。同時に俺も身体強化を全開にした。
「「「「「いざ、尋常に!!!!」」」」」
五人とまともにぶつかり合うわけにはいかない。
一斉にかかってくる五人を俺はまず身体強化でゴリ押しの一点突破で包囲網を抜ける。
「おおおおおぉぉぉぉッッッッ!!!!!」
重い。
一撃が重い。
同等の力を持っているのだから当たり前ではあるが単純に吹っ飛ばすことはかなわないだろう。
故に、俺は一瞬まともにぶつかり合うようにフェイントをかけると受け流しの構えをとって一気に駆け抜けた。
「逃がさん」
「っッ!!?くそっッッ!!!」
五人の連撃は全く収まる気配を見せない。
二人の俺に挟まれた俺は二人の聖力によって作られたトンネルのようなものに捕らえられた。
(まさかこれはッッ!!!?)
トンネルの前と後ろの入り口から巨大な光のドリルを持った二人の俺が同時に突撃してくる。
俺はそれをアダマンタイトソードと聖力で作った刀でなんとか受け流し、方向を調節して二つのドリルをぶつかり合わせた。
二人は一瞬ドリルのぶつかり合う衝撃にひるむも、直ぐにその場から待避し――――
次の瞬間、トンネルを形成していた二人の俺が巨大な光の剣を作って、水平斬りと垂直斬りを打ち込んでくる。
「ぬっ!?はあっっ!!」
こちらも二刀流でいなしきるが、
「『黄龍剣』!!!!」
「何ッッッッ!!???」
光の奔流が襲いかかる。
少し離れた所に居た俺が本物の俺が持っていない技を放ってきた!
「お前等、俺のコピーなんじゃないのかよ!!?」
間一髪で避けたが少しかすってしまった。かすった右腕がヒリヒリと痛む。
(だが、今のは悪手だったみたいだぞ?)
直後に隠密と身体強化をフルに使って彼らの視界から消えると一気にその一人との距離を詰める。
他4人は即座に反応し、身体強化を発動し、迫ってきたが残った一人はの反動で一瞬出遅れた。
「死ね」
斬り飛ばされた頭が宙を舞う。
いやな感触が手に残った。
ダンジョンが作り出した偽物とはいえ、今俺は人を殺したのだ。
だが、そんなことを考えている間もなく、現実に引き戻される。
「『鎌鼬』!!!!」
「『テレポート』!!!」
不可視の斬撃にすんでの所で反応し、光の盾で防ぐが
「ぐがあぁっっ!」
瞬時に真後ろに出現した一人に背中を深々と斬られてしまった。
「......っぐ....『ヒール』ッッ!!」
『ヒール』、聖力がLv.7になったときに覚えた魔法だ。
光属性の持ち主ならLv.1でも覚えているが、俺のは大分遅かった。
それに俺の『ヒール』は『ヒール』とは何か違うようにも感じる。
治すというよりも戻すといった様な感覚。
失った血は完全にとはいかなくともある程度まで戻せる回復力。
この力で何度も危険なところを乗り切ってきた。
「チートかよ、お前等..........」
「ああ、そういえば話していなかったな強きものよ」
「我らは全員が一つずつ千年前の勇者の力と同じ物を保有しているのだ」
「故に一人一人が単純な能力ならオリジナルである強き者よりも強いと心得よ」
「..........そういうの、最初に言ってくれよ」
一人減ったが、未だ四人相手にしなければならない。
俺のもの以外の能力が判明したのはまだ二人。後二人はまだ能力が判明していないアドバンテージがある。
(キツいな.......。)
一人がおもむろに印を結ぶ。
「『金剛真力』!!!!」
全身から真っ赤なオーラが立ち上りパワーがとんでもない上昇を見せたのを感じる。
「沈め」
縮地で俺の目の前まで一瞬にしてそいつは移動してきた。
この一撃は絶対に食らうわけにはいかない!
光の壁を即座に展開するとそれを使って空中へと逃れる。
金剛の俺が放った一撃は床に半径五メートルはあろうかという穴を空け、衝撃波が此方にまで伝わってきた。
更に、空中へ逃れた俺に転移の一人が追い打ちをかける。
「二度は喰らわん!!!」
俺は全力で後ろに現れたそいつに回し蹴りを打ち込んだ。
首の骨を折られたそいつは壁へと吹っ飛び口から血を吐いて倒れたが、
「出遅れたな?」
ドッゴオォォォォォォォォォォォ!!!!
「ごっ!!???がああぁぁぁぁ!!!!」
先程の一撃から体勢を立て直して再び距離を詰めてきていた金剛の俺の一撃をモロに喰らってしまった。
全身の骨が軋み、内蔵が破壊されるのを感じる。
恐らく肋骨は完全に逝ってしまっただろう。
「..........こふっ.........ぐっ............」
そのまま吹っ飛ばされた俺は壁に激突して床までずり落ちる。
身体が動かない。
壁にもたれたまま、動いてくれない。
意識が朦朧としてくる。
(あぁ、死ぬのか。)
思い出すのはあの頃の光景。
四人で下らない話をしていたあの日。
今はもう戻ることの出来ない平和な幸せ。
「誇るがいい、我等の内二人まで倒す者などここ400年は存在しなかった」
「強き者よ、汝は立派に戦った。誇って死ね」
金剛の拳が振り下ろされる。
(ああ、死にたくないなぁ)
―――――少しズルしちゃうけど、良いよね?
(えっ??)
(『■■■の担い手』の効果が一時的に解放されました。擬似■■■モードへと移行します。)
「!!!??」
目の前まで来ていた拳が見えない何かによって防がれた。
金剛も驚いた顔をしている。
いつの間にか全身の痛みは無くなり、沸き上がる力を感じる。
「擬似神装具『ヘファイストスの火種』発動」
使える、そう感じた。
流れ込んでくる知識の中から一つそれを選んで創り出す偽物の神装具。
「何!?そんな力はコピーした時には存在しなかっ――」
そこで金剛の言葉は途切れた。
ヘファイストスの火種を押しつけられ、全身が灰となり爆散したからだ。
「こっからは、俺の、ターンだ」
火種を仕舞うと今度は有名なあの槍を創り出す。
「擬似神装具『グングニール』発動」
現れるのは凄まじい雷の力を纏った黄金の槍。
「そんな馬鹿な!!?その様な力、一人の人間が持っているはずがない!!!」
「汝は一体何者だ!!??」
「只の高校生だよ」
そう言って槍を思い切り投げつける。
「くそっ!『星盾アトム』!!!!」
夜空に輝く星の如き盾が残った二人の前に出現する。が、
「相手が悪かったな」
盾はその役目を果たすことなくその一人と共に貫かれ、消滅した。
「.......そうか、我等は最初から詰んでいたのだな」
「そうでもないと思うけどな。俺が死にたくないと思ってたまたま運が良かっただけさ」
最後の擬似神装具。
「終わりだ。『ツクヨミ』発動」
現れたのは光無き夜の如き闇を内包したような漆黒の刀。
その美しい刀身からは身の毛もよだつような圧倒的なオーラが放たれている。
そして、刀は振るわれた。
「...........見事で、あった.....」
最後の一人はそう言葉を残し、消滅した。
「終わったか.........」
力が抜けていくのを感じる。
どっと疲れが押し寄せて来た。
恐らくは力を使った反動によるものだろう。
「あの声は........何だったんだろうな........」
何処か懐かしいような少女の声。
よくは解らないが確実に彼女に助けられたということだけはわかる。
「ありがとう..........」
そう呟いた俺は奥の扉へと手をかけた。
次の瞬間目の前は凄まじい光によって見えなくなり、俺の意識は闇へと落ちていった。