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7 もう一つの世界  

 


 薄暗い教室には、誰もいなかった。


 抱えていたユシロを近くの机の上に座らせる。大人しくされるがままになるユシロ。どうやら、先ほどの言葉がよほど効いたらしい。心なしかその表情もしおらしく見える。



「うーん、たしか湿布持ってたはずなんだけど・・・」



 がさがさと鞄を探る白神。


 初めはとりあえず保健室に連れていこうとしたのだが、ユシロが断固として拒絶したのだ。それなら教室に戻れば剣道部時代の遺物を使ってテーピングなんかもできるから、とりあえず行ってみるか、という流れになって今に(いた)る。


 廊下を歩きながら、またあの足軽が現れるんじゃないかと白神は密かに心配していたのだが、いつもながらにグラウンドで部活動をしている生徒の声が響いている廊下には誰もおらず、簡単に教室までたどり着けてしまっていた。


 今までの出来事が嘘であったかのような呆気なさに戸惑いながらも、とりあえずはユシロの手当てという当初の目的を果たそうとする白神。


 白神自身も軽く槍で切られていたりするのだが、傷が浅かったためかもう血は止まっていたのだ。



「あったあった、まだ乾燥してないとは思うんだけど・・・ほら、お前の右腕に貼るぞ」


「そんな、大した怪我なんてーーー」


「いいから、捲った捲った」



 ユシロが渋々といった感じにその長い袖を捲ると、その細く白い腕は赤く腫れていた。隠そうとしていたようだが、白神の目は誤魔化せない。恐らくは内出血だけだと思うのだが、用心に越したことはないのだ。


 湿布を貼りつける。


 しかし、湿布が大きすぎて、すぐに剥がれてしまいそうだった。テーピングを巻いてもいいけど剥がすのが大変そうだし、かといってこのままじゃなぁ、と悩む白神はそこでふとあるものを見つける。



「おお、懐かしいな」



 それは剣道で面をつける前に巻く布、面タオルだった。きっちりと折り畳んで入れたまま、ずっと忘れていたらしい。面タオルは薄く細長いため、包帯代わりにするにはちょうど良かった。


 広げて、くるくると湿布の上から巻き付けていく。そして手早く端と端を結んでほどけないようにして、一応は形を整えてみる。



「よし、できた」



 ぱっと見ではそれっぽい形になっていた。


 我ながら上手くできたな、と自画自賛する白神。といっても治療なんて大したものではなく、ただ湿布を貼ってその上から面タオルを巻きつけただけなのだが。



「ありがとう、ええっと・・・」



 こちらを少し困ったような瞳で見てくるユシロ。


 そして、そのままじっとこちらを見つめてくる。何だ? と白神は首を傾げて少し考え、そこでようやくまだ名前を教えていなかったことに気づく。



「っと忘れてた、俺は白神だ。今さらだけどよろしくな」



 しらかみ、と噛みしめるように呟くユシロ。

 その様子は覚えようとしているようにも見えるが、なんだか考え込んでいるようにも見える。



「ユシロ?」


「なんでもない、こちらこそよろしく」



 少し慌てたようにユシロが言う。


 ずっと無表情のように見えるのだが、よく見ないと分からないような目元や口元の僅かな動きでユシロの感情がわかるような気がするのだ。とは言っても、ただの白神の気のせいなのかもしれないのだが。


 それでも、ちょっとだけユシロと心を通わせられたような気がして嬉しかったりするのだ。



「・・・意外とわかりやすい奴なのかもな」


「?」



 白神の呟きに首を傾げるユシロ。

 そんなことを直接確かめても仕方がないので、とりあえず白神は本題を切り出す。



「いや、なんでもない。それよりも話してくれないか、今までのこと」



 先ほど起きた、疑問だらけで今でも本当かどうか信じられないような凄まじい出来事の数々。ユシロはその全てを知っているはずなのだ。今までの出来事、その全ての中心にいたのは、間違いなく目の前の白い少女、ユシロなのだから。


 じっ、とこちらを見つめてくるユシロ。



「・・・本当に、知りたいの?」



 まるでこちらの心を覗きこんでくるかのような瞳。


 それは、確認なのだろう。本当に知りたいのかと、知って後悔するのではないかと問いかける、少女からの最後の確認。



(っ、迷うことなんてないんだ、もう決めたことなんだから)



 その瞳に見据えられ、躊躇いそうになる白神。それでも一度つばを飲み込むと覚悟を決めて、はっきりと答えようとする。



「ああ、俺は本当にーーーっ!?」



 その時、不意に。


 カツン、カツンと廊下を歩く靴音が響いてくる。


 思わずビクリ、と反応してしまう白神。全身が緊張で強張っていく。一気に速くなっていく心臓の鼓動。手のひらに嫌な汗が滲み、膝が震えそうになる。



(足軽か!? それとも、またあいつらなのか!?)



 脳裏に(よみがえ)るのはあの巨大な爆発。もしあんなものをこの場でも自由に引き起こせるというのならば、白神にはどうすることもできない。ただ殺されるのを待つしか道はないのだ。


 教室の前で止まる足音。


 恐怖と緊張で硬直したまま扉を凝視する白神の前で、扉は当然のように開かれる。


 そして。



「やあやあ、生きてるかい?」



 そんな緊張感をまるごとぶち壊すような軽い言葉と共に入ってきたのは、黒いスウェットを着た一人の女性。髪を後ろで束ねたその姿は、間違いなく職員室からの帰りに出会ったあの女性教師だった。



「っ!? あんたが、どうしてーーー」



 白神は思わず身構える。


 まるで、こちらの様子を窺っていたかのようなタイミングで、それもあの予言じみた言葉を言い残した女性教師が入ってきたのだ。さらには『生きてるかい?』という、今までの出来事を指すかのようなことを言いながら。


 常識的に考えても、今までの出来事と関係していると考えるのが自然だろう。もしかすると、敵かもしれないのだ。身構える白神に対して、女性教師は全く緊張感のない様子で、



「いやいや。どうしてもなにも、この状況を見て声をかけない教師はいないさ。客観的に考えてもみろ、放課後の教室、その中にいるのは男子学生と部外者であろう幼い少女だけ。そして二人は向き合っていて、学生の方はこちらに気づくとぎょっとしたような様子で硬直している・・・」



 その口から出てきたのは、敵意なんて微塵も感じられない、少しおどけたような言葉。そのあまりにも予想外な言葉に、身構えていた白神は毒気を抜かれてしまう。思わずそのまま普段通りのリアクションを返してしまう白神。



「・・・確かに、そのまま職員室直行ルートだな」


「だろだろ? 私じゃなかったらそのまま保護者呼び出し、果ては警察で取り調べルートにまで発展するかもしれなかったんだぞ? 全く、私に感謝するべきだな」



 そう当然のように言いながら、こちらへと歩いてくる女性教師。


 完全に毒気を抜かれてしまった白神は、確かに見つかったのがこの人で本当に良かったな、なんてことを考えかけてーーーそこでなんとか現実へと戻ってくる。



「ーーーって違う違う! そもそも、あんたはどうしてこの教室まで来たんだよ!? 生きてるかってことは、まさかーーー」


「そのまさかだよ。そろそろ説明して欲しい頃かなー、なんて思ったから来てみたんだけど・・・ベストタイミングかな?」


「・・・空鵺(からや)、あなたはしらかみと知り合いなの?」



 驚いたような素振(そぶ)りすら見せず、話を遮るように目の前の女性教師にそう問いかけるユシロ。その言葉から窺える事実、それに思い到ってきょとんとする白神。



「・・・えっと、お前らまさか、知り合いだったの?」



 思わず二人の顔を見比べる白神。

 空鵺(からや)、そうユシロに呼ばれた女性教師はその問いかけに大きく頷く。



「二人の問いにはそうだ、と答えるしかないね。まあ、そこの白神とはつい一時間弱ほど前に、初めての会話をしたばかりだけど」



 そう軽い口調で話す女性教師。

 その言葉を聞いて、ユシロは鋭い視線を向ける。



「まさか、空鵺(からや)がしらかみにあんな無理をーーー」


「いやいや、そんなことはしないさ。そもそも、そんなことしても私には何のメリットもないからね」


「めりっと?」



 意味がわからなかったのか、訝しむように聞き返すユシロ。対して女性教師は苦笑しながら、



「利点、みたいな意味の外来語だな。まあ、そんなに疑うのなら直接本人に聞いてみればいいじゃないか」



 その言葉を聞いて、こちらに視線を向けてくるユシロ。白神は違う違うと身ぶりで示す。それを見たユシロは僅かに考え込んだ後、大きく息を吐き出す。



「・・・確かに、空鵺(からや)がこんな手を使うとは思えない」


「そうそう、もし私にそんな気があったなら、初めから君に手をかしたりしないさ。私はあくまでも『中立』だからね」


「ええっと、全く話が見えてこないんだけど・・・」



 完全に話の外においてけぼりにされている白神は、とりあえず話に割り込んでみる。すると女性教師は、



「ああ、悪い悪い。君の存在を完全に忘れていたよ。とりあえず自己紹介をしておこうか、私は黒宮(くろみや)空鵺(からや)、今年度からここで働くことになった教師だ」



 地味に傷つく言い方で自己紹介をしてくる、女性教師改め黒宮(くろみや)空鵺(からや)。やはり新任の教師だったらしい。


 だが、それでもユシロとの関係が全くわからない。敵ではなさそうなのだが、今までの話を聞く限り仲間でもなさそうなのだ。とりあえずそのことについて聞くため、自分も自己紹介をしようとする白神。



「えっと、俺はーーーってあんたは俺のことを知ってたんだったよな。・・・ええっと、あんたはユシロとどういった関係なんだ?」


「おお、まるで彼女の男友達を警戒してるみたいな言い方だな」


「いや、別にそういう訳じゃーーー」


「まあ、冗談は置いておいて、君は守り手から名まで聞き出した、と。そこまで信頼されるとはなかなかやるねぇ。ちなみにさっきの質問に答えるのなら、私はそこの守り手の保護者みたいなものかな」


「いや、守り手の保護者ってなんだよ」



 思わずツッコミを入れる白神。

 もはや、真面目に話しているのか馬鹿にされているのかわからなくなってくる。話をはぐらかされているのだろうか。


 はあ、とため息をつく。


 こんなことなら、ユシロに直接話してもらっていたほうが絶対に早かった、なんてことを思いながらユシロへと視線を向けてみると。


 付き合いきれなかったのか、白い少女はこの短時間の間にうつらうつらと船を漕いでいた。


 思わずため息をつく白神。



「・・・なんだかなぁ」


「まあ、寝かせてやってくれ。今のあの子にとって、今は寝ているほうが良いんだ」



 そう言ってユシロを見つめる空鵺(からや)

 その表情はどこか寂しげで、ユシロのことを心配しているような、そんな瞳をしていた。


 こんな訳のわからない人でも、ユシロの知り合いということはやっぱり良い人なんだろうな、なんてことを思いながらも白神は質問を続けてみる。



「それで、その守り手っていうのがユシロのことを言ってるんだってことはわかるんだけど、保護者っていうのはどういう意味なんだ?」


「まあ、保護者というよりは教師のほうがニュアンスとしては近いかな。その子に現代の知識と言葉、大まかな地理を教えて逃げる手助けをしてやったんだよ」


「現代の知識と言葉って・・・ユシロってやっぱり外国人なのか?」


「う~ん、その質問には非常に答えにくいんだけど・・・まあ似たようなものだね、正確には住んでいた時代が違うんだよ」



 なにやら訳のわからないことを言い出す空鵺(からや)。もはやツッコミ所が多すぎて、白神としても対処しきれない。



「・・・なんだかもう訳がわからなくなってきた」


「わからなくてもいいから受け入れてくれ。それで全ては済む」


「じゃあなんだよ、ユシロは過去か未来から来たとでも言いたいのか?」


「来たっていうよりも、今の時代までずっと眠っていたっていうのが一番正しいかな。最初に会った時、その子と話したのは古語だったしね」



 さらっと訳のわからないことを言う空鵺(からや)。とりあえず白神は今日パラパラと流し読みした、古典の教科書の内容を記憶から引っ張り出してみる。



「古語って・・・『まめまめしきもの~』的な?」


「そうそう、ちなみに『まめまめしきもの』で有名なのは、やはり更級(さらしな)日記だな。教科書とか試験問題にもよく取り上げられる、まさに不朽の名作だ。なにしろストーリーが良い、子どもの頃に本の中の世界に憧れていた主人公が成長するにつれて現実というものを知り、そして想像していた華やかさなんて全くない人生を送り、最後は一人孤独の中で宗教にのめり込んでいくという、自身の人生を第三者目線で描いた日記文学の代表作でーーー」


「あれってそんなに暗い話なのかよ! というかあんた、さては古典の教師だな?」



 長々と語り始める空鵺(からや)に白神は思わずツッコミを入れる。


 話を振ったのは白神なのだが、そんなに熱く語られても困るのである。なんだか笹川に似たものを感じるなぁ、と心の中で悪友の暴走する姿を思い浮かべる白神。空鵺(からや)はそんな白神の心を知ってか知らずか、軽い口調で言葉を続ける。



「まあ、免許はあるから教えられないこともないけど・・・専門は別だね。別に古語じゃなくて中世の頃の言葉でも通じるはずだけど、君が話せなきゃ意味がないからね。だから、もし私がその子に現代語を教えていなかったら、君は会話すら満足にできなかったと」


「・・・確かに、古典は国語におけるラスボスだな」


「ちなみに漢文書いても通じたぞ」


「古典とならぶ国語の双璧をあえて引っ張り出すなよ! そもそも、あれが国語に入ってる時点で謎だし!」



 思わず叫んでしまう白神。


 この女、絶対俺をからかってやがる! と白神は空鵺(からや)を睨みつけてみるが、軽くスルーされる。睨んだのに気づかれてすらねぇ! と一人敗北感に打ちひしがれる白神。


 空鵺(からや)はそんな白神を気にすることもなく、



「まあ、その辺りの歴史は時間のある時にでも教えてあげようじゃないか。それよりも、聞きたいことっていうのはそんなことなのかい?」



 こちらをじっ、と見つめてくる空鵺(からや)

 雰囲気が変わる。話が明らかに脱線していたことは確かだったが、それを強制的に引き戻すかのような、そんな言葉。


 また少し躊躇いが生まれる白神。それでも、すでに決意していた白神は本題に入るために口を開こうとする。



「ああ、俺はーーー」



 ちょうどその時、うつらうつらと船を漕いでいたユシロがいきなりこちらへと倒れてくる。とっさに両手で受け止める白神。当のユシロは白神に抱えられたまま、穏やかに眠り続けていた。


 ・・・なんだか、シリアスな場面に入ろうとする度に雰囲気壊されるな、と思わずため息をつく白神。


 対して、空鵺(からや)は興味深そうな笑みを浮かべる。



「本当に信頼されているんだね。本来なら、その子に触れられているだけでもあり得ないことなんだぞ?」


「いや、さすがにその猛獣的な扱いは酷すぎるだろ。そもそも、あんたが触ってもユシロは怒らないって」


「いやいや、私は信頼なんて全くされていないよ。もし私が触れようものなら、腕を落とされるかもしれないし」


「そんなことユシロがするわけないだろ」



 言いながら、試しに寝ているユシロの頬を軽く引っ張ってみる白神。その柔らかな頬を引っ張られ、ユシロはいつもの無表情が信じられないような間の抜けた表情(かお)になる。それでも起きることなくされるがままになっているその姿を見て、空鵺(からや)は苦笑いする。



「そんなことをされている守り手の姿を見たら、驚きのあまり発狂しそうな奴らを何人か知っていたりするんだけど・・・まあ本来なら、私なんかじゃその子の相手にすらならないからね」


「相手にすらならないって・・・やっぱり、あんたもーーー」


「当然、君の知らない世界の関係者さ。じゃないと説明なんてできないだろ?」



 さらっと言う空鵺(からや)


 白神からすると、そこまではっきりと断言されても信用できないというのが本音なのだが。というより、目の前の人間があの時のコートの男みたいに爆発を起こすことができる、なんて言われても信じられるはずがない。



「そんなこと言われてもなぁ・・・信じられないって」


「じゃあ見せてあげよう。そのほうが話も進めやすい」



 空鵺(からや)はそう何でもないように言うと。

 一瞬にしてその姿が消える。



「!?」



 そのあまりにも突然の出来事に辺りを見回してみるが、空鵺(からや)の姿はどこにもない。消えた、そうとしか言いようのない状況に白神は呆然とする。


 そしてぽん、と叩かれる肩。


 慌てて振り向くと、頬に指が当たる。そこには、目の前にいたはずの空鵺(からや)がニヤニヤと笑いながら立っていた。



「まだまだ色々と使えるんだけど、あんまりやり過ぎると他の奴らを呼び寄せかねないからね」



 と言ってまた消えたかと思うと、一瞬でまた元の位置にまで戻る空鵺(からや)


 それはどう考えても生身の人間には不可能なことだった。机という障害物がいくつもある教室で、白神の前から後へと僅か1秒にも満たない時間で移動したのだ。


 瞬間移動、そうなんとか理解する白神の前で、空鵺(からや)はよっこいしょと言いながら机に腰かける。



「まあ、こんなものかな。要するに、『力』と呼ばれるものを使って普通の人間じゃできないことをする、とでも思ってくれれば良い。まあ、私の『力』は結構珍しいタイプになるからね、他とは大きく違っていたりするんだけど・・・理論は変わらないから問題ないだろう」



 言いながら、スウェットのポケットに手を突っ込む空鵺(からや)



「そして、これが私の持っている『護石』だな。様々なことを可能にする『力』を引き出すための、必須アイテムだ」



 そして、取り出した宝石のようなものをこちらに見せてくる。それは透明でとても綺麗な、十円玉ほどの大きさの玉。それは教室の蛍光灯に照らされて、独特な輝きを放っていた。白神はその玉の輝きに、思わず目を奪われてしまう。



「まあ、あるあるの展開で『護石』は家に代々伝わる、みたいな感じだから、基本的には持ってる人間は限られてくるのさ。『護石』ごとに秘めた『力』は異なるから、それぞれの家の特性みたいなことになってくるんだけど・・・白神家なんて聞いたことがないね。たぶん君も『護石』なんて知らないだろう?」


「見たことも聞いたこともないな。というより、そんな家の生まれで無双できるみたいな設定、ゲームくらいでしか見たことねーよ」



 目の前で見せられたこと、そして語られたことをなんとか飲み込み、受け入れようとする白神。とにかく動じていないように振る舞いながら、必死に理解しようと試みる。


 空鵺(からや)はそんな白神の心の内を知ってか知らずか、軽い口調のままに言葉を続ける。



「いやいや、現代の社会も似たようなものだと思うけど・・・つまり、君は『結界』とか『護石』についてどころか、こっちの世界にある組織とかについても全く知らないと」


「知ってる訳ないだろ。ユシロも『結界』とかなんとか言ってたけど、さっぱりわからない。だから教えてもらおうとしてるんじゃないか」


「・・・君は本当に知りたいのかい? 今ならまだ引き返せるよ? 私が今話したことはゲームの設定ということにでもして、全て忘れてしまえば良いんだ。逆に言えば、この先を聞いてしまったらこちらの世界に片足を突っ込むことになる。命の奪い合いが正当化される、別の(ルール)によって支配されたもう一つの世界に」



 それは、こちらを試すかのような言葉。


 白神の心、その中にあるどうしようもない不安や恐怖を見透かしたからこそ尋ねてきたのだろう。引き返せない所まで進む前の、最後の警告として。



 それが、警告だと理解できたからこそ。本当に、あり得ない現象を目の前で見せられたからこそ。




 白神は、即答できなかった。





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