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8 超巨大ダンジョン建設計画

「新世界」のシンボルとも言える通天楼のボスが決まったこともあり、「新世界」の建設は一段落した。


 塔からは放射線状に北西・真北・北東の三方向にまっすぐに伸びた道ができており、塔の東側には広い公園といろんな珍獣を集めた動物園が作られている。


 さらにこの公園の北側には、これまた広大な邪神大聖堂があり、多くの民の信仰を集めていた。


 そこからまた北へ行くと、二重の巨大な堀に囲まれた魔王城がそびえている。

 いわば王都は南北に発展していると言えた。


 地形的に人間が攻めてくるのは北側からだけであり、南へ行けば行くほど魔族の勢力が広がっている構造である。北側に魔王城が建っているのもそういう理由からだ。北からの攻撃には強いが、南は段丘が続いているので、比較的もろい。


「う~ん……」

 その日、ユーフィリアは王都近辺の地図を広げて、難しそうな顔でうなっていた。


「ユーフィリア様、何か悪いものでも食べましたか? それ、特売のチラシじゃなくて、地図ですよ」

 ユーフィリアはたまに市場の特売日にお忍びで買い物に行こうとする癖があるので、その都度シジュクが止めていた。そういうのは下っ端にやらせてほしい。


「いやな、この魔王城ってたしかに立派やねんけど……」

「ええ、魔王城はとても立派ですよ。かつてから戦闘用要塞であったところを、いくつか前の王朝のハヌマーンが本格的に作ったのが、今の直接的な成り立ちですかね。そういえば、そのハヌマーンはオサカーに似せて街作りをしたと言いますから、王都とオサカーは似てますね」


 そう、オサカーと王都は似ていることがユーフィリアが上手く統治できてる理由の一つでもあるのだ。

 といっても完全な偶然というわけではなく、城を作るのにちょうどいい場所というのは、だいたい条件が決まっているので、似た自然地形のところに置かれるものなのである。


「うん、けど、城の北側がちょっと弱いんとちゃうかなって……」

「そんなことないですよ。城の北に行けば、大きなよどんだ大河、通称『淀川』にぶつかりますから、それがさらなる堀の役目を果たしてます。西側に至っては、海ですし」


 魔王城はオサカー城に似てとにかく落としづらい。こんなの、二重になってる堀を埋めたりしない限り、絶対に落城しないはずである。


「そりゃ、人間の大軍が渡ってくるのは『淀川』があるから難しいとは思うわ。でも、人間の国の許可得てない個人的な冒険者とかやったら渡ってきたりはするやん。過去もそういうことはけっこうあったし」

 そういう輩も魔王城を攻略できずに退散したのだけど、小さな攻撃はかつて何度も受けている。


「それはしょうがないですよ。人間の国だって、すべての民を管理できるわけじゃないですし、魔王を倒せば英雄になれますからね。冒険者はみんなユーフィリア様の首を狙っていますよ」


 そこで、こほんと空咳して、シジュクは姿勢を正した。


「もちろん、わたくしがいる限り、ユーフィリア様には指一本触れさせませんけどね。それがわたくしの本来の役目ですから」

 だいたい、ツッコミ役になっているが、それはいつの間にかそうなっているだけであって、あくまでもユーフィリアを守るのが仕事である。


「せやな。シジュクは信頼してる。麺料理の味付けが濃すぎる点を除けばやけど」

「いいじゃないですか、味のことは! わたくしの地元は漆黒を重んじてスープは黒いんです!」


 また、話がそれてしまったとシジュクは反省する。


「で、冒険者対策の何かを用意したいってことですか?」

 人間の国家とは現在、休戦状態であって平和だが、王都近辺に防御施設を作ることぐらいは違反でも何でもない。


 こくこくとユーフィリアはうなずく。

 それから地図に指を這わせる。


「『淀川』と魔王城の間に広い埋め立て地があるやろ」

「通称『ウメダ』地域ですね。王都の北側なので『キタ』とも呼ばれていますが」


「ここに世界一の超巨大なダンジョンを作ったら、ええんとちゃうかな?」


 シジュクは、またとんでもないことを言い出したぞと思った。


「ユーフィリア様、新世界建設だけで、とんでもないお金がかかってるんですよ。また、大きな公共事業なんてやれるお金はないです」

 ダンジョン作りは多額の金が動くので、土木の会社はやりたがるが、一度に行うには限度がある。


「けど、ここに超巨大なダンジョンがあったら、『淀川』渡ってきた冒険者は絶望して帰っていくやろ。魔王城の威厳も増すと思うんやけど」

「別にその発想を否定してるわけじゃないですよ。お金がないから、もうちょっと待てと言ってるだけです。税金を増やしたりすると、民の不満もたまりますし」


 ぽんとユーフィリアは手を打った。


「そうや! 税金やない方法で金をとったらええねん!」

「どういうことですか? こんな川沿いの埋め立て地を掘っても、高価な金属類なんて出ませんよ」


「まず、ダンジョンを順次作るやろ」

「はい」

「で、そのダンジョンに店をたくさん置くやろ」


 なんで、そこに店という概念が出てきたのかとシジュクは奇妙な顔をした。


「この店から家賃をもらう。それで、その家賃でさらにダンジョンを拡大する。また、そのダンジョンにも店を置けば、無限にダンジョンは広がる!」

「いやいやいや! そんな無計画なことしたら、ダンジョンがぐちゃぐちゃになりますって!」


 これはなんとしても止めないと。こういうのは一度動き出すと為政者もコントロールできなくて、おかしなことになる。


 しかし、そこで、ユーフィリアは勝ったぞという顔になる。


「なんですか、そのチェックメイトだぞとでも言いたそうな顔は……」

「ダンジョンがぐちゃぐちゃになるって今言うたよな?」

 ずいっと、ユーフィリアが一歩前に来たので、シジュクが一歩退いた。


「言いましたよ。お金が入るたびに次を作るなんてやり方をしたら、コンセプトもデザインもあったものじゃないです。継ぎ足し継ぎ足しの化け物みたいなダンジョンになります」


「それこそ高難易度のダンジョンやろ? 設計思想すらよくわからんダンジョンやったら冒険者は迷う! 魔王城に来るまでにバテる!」


「しまった! わたくしとしたことが助け舟を出してしまってた!」


 シジュクは負けを認めた。もう、奇怪なダンジョンの建設は止まらないだろう。


「よーし! 早速ウメダ地区にダンジョンを作るで!」


 こうして、長い年月をかけての超巨大ダンジョン計画が進められることになったのである。


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