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7 塔のボス決定

 入ってきたのは、小柄なドワーフの中でもとくに小柄な少女だった。


「ターワです……。よ、よ、よ、よろしくお願いします……」


 シジュクはこれまでで一番自信のなさそうな子が来たと思った。

 むしろ今すぐ泣き出しそうなので、すごく悪いことしているような気がする。


「ええと……まず、応募された動機から聞きましょうかね……?」


「は、はい……。友達が勝手に応募しちゃったんです……」

 そんなこと本当にあるんだ! シジュクはびっくりした。


「なるほど。それでも、ここには来たんですね。けっこう、魔族の国って遠いのに」

「これで審査会場に来なかったらひどいことされるかもって思って怖くて……ぐす……」


 あっ、ついに泣いちゃったぞ! 焦るシジュクだった。

「あ~、泣かしてもうてるやん。ひどいな~」

「ちょっ! なんでわたくしのせいみたいな空気にしようとしてるんですか! 絶対事実無根でしょ! ターワちゃん、怖くないですからね。魔族は怖くないですからね。大丈夫ですからね?」


「はい……」

 こくこくとうなずくターワ。


 その様子を見て、なにやらユーフィリアが書き出した。


『この子は金になる』って書いてあった。


 シジュクは、この人、やっぱり本質は【オサカーの虎】と呼ばれた怖い女だと思った。


「ええとですね、それでは、自分の面白いと思うところを教えてください」

「わたしの名前、ターワっていうんで、それでタワーと名前似てて面白いからって友達が言ってました……」

「そうなんだ、大変でしたね……。でも、その年だと、お父さんやお母さんの許可がとれないから、この企画は無理そうですね」


 ターワと名のった少女はなぜか、そこでうつむいてしまう。

「わたし、橋の下に捨てられてて、今も施設で育てられてるんです……」


 触れてはいけないところに触れてしまった、とシジュクは思った。

 これって自分が悪いんだろうか? けど、事前情報ないから回避不可能だ。親の許可は確認するしかないし……。だから、自分は悪くない、悪くない!


「そ、それじゃ、控室で待っててくださ――」

「お嬢ちゃん、ちょっとええかな?」


 シジュクの声をユーフィリアがさえぎった。


「自分は、結局ボスになりたいん? なりたくないん?」

 ユーフィリアの目が予想以上に真剣であることに、シジュクもはっとした。


 たしかに、そもそもボスになりたくないんであれば、審査を続ける意味すらない。友達が勝手に応募したのは経緯であって、今の彼女の気持ちを聞いていなかった。


 すると、意外にもターワの瞳に強い意志の力が宿った。


「わたしはボスになりたいです!」


 どこかおそるおそるな表情はまだ残っているけど、それでも自分の言葉で彼女が語ろうとしていることは明白だった。


「わたしはずっと引っ込み思案で、いつもいつも誰かに助けられてばっかりで……これじゃいけないとは思ってたんです。だから、自分がボスになったら、そんな弱い自分を少し変えられるかもって思って、ここに来たんです。ボスにはなりたいです!」


 ゆっくりとユーフィリアはうなずいた。


「おおきに」

「オオキニ?」

「ありがとうって意味や。気持ち聞かせてくれてありがとうな。結果は追って連絡するから控室で待っとき。それまで口が寂しいやろから――」


 ぽんと何かを投げるユーフィリア。

 小さな二つの手でターワがキャッチする。


「これ、飴玉ですか?」

「飴ちゃんでも舐めて待っとき」


 ターワが出ていったあと、「採用」とユーフィリアはメモした。


「あの子にするんですね? ドワーフですけど、いいんですか?」

「自分を変えたいってあの子は言ってたやん。生まれ変わろうとする気持ち、それこそ『新世界』のコンセプトそのものやと思わへん?」

「あっ、たしかに……」


 弱い者が違う何かになろうとすること、それはメッセージ性としては悪くない。


「ええ偶像というのは、アイドルというのは、二種類しかないんや」


 ユーフィリアはピースサインのように手を作る。


「一つは誰もが従うしかないほど完全無欠であるタイプ、もう一つは誰もが共感できる親しみやすさを持ってるタイプ。あの子はみんなの弱さと、そこへの抵抗を表現してる。せやから、トップアイドルになれる。見に来れるアイドルになる」


「偶像よりアイドルという表現を重視することに引っかかり覚える以外は、いいこと言ってますね」


「それと、これは副次的なことなんやけど、神である者はどっか違う場所からやってくるほうがええ気がする。その地元から出てくると、いまいち信じてええかわからん。深淵神アビースも、深淵というところから流れ着いた設定やし、夢でも塔の上の偶像は外の国から来てた気がするんや」


 そのあたりのことは検証不可能だが、シジュクは「空の樹」という尖塔にも、空から来たという設定の星みたいな偶像があったかもしれないなと思って、受け入れることにした。


「しかも、友達が勝手に応募したっちゅう、本人の気持ちを最初は介してない偶然からはじまってるっていうんも、奇跡っぽくてええやろ?」

「なるほど」

「それに橋の下で拾われたってことは、彼女がドワーフの親を持ってたかすら、厳密には定かではない。一パーセントの確率で、ほんまに神みたいな存在がお造りになった子かもしれへんと言えるやろ」


「……あの、一応、前からわかってはいたんですけど」

「うん、何?」

 面と向かって言うのは恥ずかしくもあるが、言ってしまえとシジュクは思った。


「なんだかんだでユーフィリア様って理論派っていうか、頭は切れますよね」

 入口は突拍子もないが、理論武装するところはするというか、本質的にこの魔王は徹底した合理主義者ではないのかとシジュクは考える。


 もしやと思うが、合理主義者の面が前に出すぎると冷たい感じになるから、こういうキャラを装っているだけなのではないか? だとしたら、すごい天才なのだが。


「虎の牙は鋭いんやで。ガオー」

 手を突き出して、しょうもない虎のマネをはじめたので、やっぱり素だなとシジュクは判断した。


 ――そして、すべての審査が終わったあと。

 ユーフィリアとシジュクが控室にやってきた。


「お疲れ様でした。厳正な審査結果のすえ、合格者が決まりました。ドワーフのターワさん、通天楼のボスに任命いたします」

「そういうことで、よろしくな」


 ターワは結果が信じられず、また涙を浮かべていた。


「お嬢ちゃん、いいや、ターワちゃんが通天楼のアイドルや!」


「は、はい! わたし、頑張ります!」

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