6 塔のボスを決める
ユーフィリアの無茶振りの成果もあり、人間の国家四か国は合同で穀物を送ることを約束した。
本当に魔族側が塔や砦を破壊したというのもある。
これで穀物を渡すのを拒否すれば、魔族側が激烈に攻めてくるのは確実で、人間側の国家もそれは怖かった。
実のところ、かなりの期間、魔族と人間側は本格的な戦争をしておらず、小競り合いが続いているだけだった。でないと、人間の国家同士で争うなんてことも起こるわけがない。
なので、攻撃を仕掛けないという魔族側の言葉もある程度の信用が得られた。
魔族側の国家に入った穀物は早速、王都に運び込まれ、高騰していた料理の価格低下をもたらした。
そして、急ピッチの土木工事のおかげもあり、ユーフィリアの魔王就任から一年の間に新市街地はかなり形になってきた。
シンボルとされていた塔も完成を迎えた。
「そんなに高くないですけど、見上げるとけっこうかっこいいですね」
シジュクもずっと、塔ができるのを眺めていたので、愛着が湧いてきていた。
「ええやろ。こういう塔は軍事目的のやつを除くと、都市にしかないからな。新市街地にぴったりや」
ユーフィリアはすごくドヤ顔しているけど、こういう大きな建造物を作るのは為政者にとって楽しいことだと思うので、シジュクも別にいいかと思う。
「ちなみに名前はどうするんですか? 『空の樹』にしますか?」
「なんで、その名前にこだわるん? せやな、それも参考にしつつ、『天へ通る楼閣』にしよ」
「それ、言いづらくないですか……?」
「じゃあ、『通天楼』で、どない?」
「ユーフィリア様が決めればいいと思いますよ」
シジュクはまんざらでもない顔をしていた。
「それと、新市街地にも名前をつけられたほうがよいのでは?」
「せやな。じゃあ、計画の名前にちなんで、新世界にしよか」
「新世界……。また、大きく出ましたね」
「でも、シンプルでわかりやすいやろ」
「その点に関しては否定はないです」
これで新世界の建設は落ち着くなとシジュクもほっとした。
オサカー城で働いていた時と比べても、この一年は激務だった。しかし、おかげで魔族の復興がかなり進んだことは間違いない。通天楼が新しい時代を示すものになることは間違いないだろう。
「内乱の次には平和が来るべきですし、ここがそれを意味する場所になればいいですね」
「うん、平和は大事やな。でも……何かが足りん」
シジュクは嫌そうな顔をした。
また、ユーフィリアが余計なことを考えているのではないか……?
「すべてが満ち足りてるようにしか見えませんけど?」
「いや、平和のシンボルとしても、これは塔やで。てっぺんにはボスがいてしかるべきやと思わへん? つまり偶像、アイドルっていうもんがいるわ」
ユーフィリアが前世に見ていた塔にも最上階には、偶像がいた気がする。ビリーケーンとか、そんな名前の何かだった。
「ボスですか。そういえば、ここの管理者を決めてなかったですね。誰を任命しましょうか」
「一般公募ってどうやろ? 『通天楼のボスコンテスト』。どうせやから、めっちゃかわいい子がなってたら、来るお客さんも増えて収益アップに貢献せえへん?」
「お客さんって、もしかしてお金取るんですか?」
「入場料は取らんと、『新世界計画』で割とお金減ってるし、稼げるところは稼いでおきたいやん。それに、そういうコンテストやったら、おもろいやん」
シジュクは、その言葉でいろいろと諦めた。
おもろいかどうか。
それでおもろいと思ったら、この魔王は絶対に実行するのだ。
「ユーフィリア様が魔王なんですから、好きなようにやればいいんじゃないですかね」
投げやりにシジュクは言った。
こうして、全国で「通天楼のボス」の公募がはじまった。
なお、ボスは三年契約で、それ以後は一年ごとの更新という形をとっている。扱いとしては、国家公務員の期限付き採用というものになる。
こういうのは、最長三年とか期限が決まっているのが多いが、ユーフィリアは面白いと思えば、原則、ずっと契約を続けるつもりらしい。
最終的に応募したのは千三百五十人。
ボス決定の委員長にされたシジュクは、こんなに来たのかとびっくりした。
官房長官なので、ほかの仕事も掛け持ちなので、割と迷惑な話である。
かといって、すべてをユーフィリアに任せると、面白さだけを狙って、人間の勇者をボスにしますとかマジでしかねないので、手綱を握らざるをえない。
「一次審査は書類選考でごっそり落としますからね。いいですね?」
書類の山を見ながら、シジュクが言った。
「ええで。ただし、人種差別はナシな。勇者が応募してたら、それはそれでよさそうやったら二次にまわして」
「うわ……。ほんとに考えてたんですか……」
「魔王城の近所の塔を勇者が管理って、ツッコミどころとしてはええやろ?」
「それに関しては同意しかないです。けど、ダメでしょ。まだ、猫をボスにしたほうがマシです」
「あっ、それ、ええかも! 猫をボスにするっていうのもアリかも!」
「ネコの応募は残念ながらないです」
こんな感じで、審査は進み、ついに最終選考になった。
ユーフィリアも見ている前で、誰にするかを決める。
「次、エントリーナンバー五百六十四番、エヴィルアイのポートリーさん」
事務的にシジュクが名前を呼んでいく。
巨大な目玉を触手が支えている魔族が会場に入ってくる。
「ポートリーです。よろしくお願いします」
「では、自分がボスだと何が面白いか教えてもらえますか?」
「はい、大きな目玉が最上階にいて、新市街地を監視してるっていうのが面白いと思って応募しました」
かりかりと何かユーフィリアが選考用紙にメモを書いた。
『とくにおもんない』
そう書いてあった。これはユーフィリアにとっての最大級の否定なので、シジュクはかわいそうにと思った。けど、目玉で監視って、別に笑える要素ではないのは事実だ。
「はい、ありがとうございました。では、控室でお待ちください~。次はエントリーナンバー七百四十六番、ドワーフのターワさん。あれ、ドワーフ?」
再度、シジュクは書類を確認した。ドワーフって魔族ではないぞ……。
入ってきたのは、小柄なドワーフの中でもとくに小柄な少女だった。
「ターワです……。よ、よ、よ、よろしくお願いします……」
次回は明日の更新になります。