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5 直接交渉

 言うまでもなく、ユーフィリアは止めた。むしろ、ほかの家臣団も一斉に止めた。


「人間の国に行くなんて危険すぎます!」「ここで魔王様が害されることになったら国は終わりです!」「連中は魔族にはどんなひどいことでもすると聞いております!」


 しかし、ユーフィリアは譲らなかった。


「あー、もう、うるさいなあ!」

 一喝に家臣たちも黙る。

「食べるものがなくて困ってたら送るんが人情や! そりゃ、戦争中なら兵糧攻めだってあるわ。けど、戦争中ちゃうんやから、もろてもええはずや。うちが行ってくる! だいたい人間に負けるほど、うちは弱ないはずや! 【オサカーの虎】や!」


 シジュクも、これは止めるのは無理だと判断した。


「わかりました。その代わり、わたくしも同行します。わたくしは眠りの魔法のほか、戦闘補助の魔法を多く習得しておりますので」

「うん。じゃあ、今からいくで!」



 人間の国家でも大国のアレンス王国。

 肥沃な大地では、毎年多くの小麦のほか、多数の作物が収穫されている。


 そのアレンス王国第十二代の王であるルバニカ三世をゆさゆさ、真夜中にゆする者がいた。


「むっ……。いったい、何事じゃ?」

 ルバニカ三世はまだ四十代前半で黒い髪が、一瞬のうちに白髪になるのではというほどに驚いた。


 黒い翼を持った魔族二人が目の前にいるのだ。


「お邪魔いたします。魔族の官房長官であるシジュクと申します」

「邪魔するんやったら帰ってええで~」

「帰りません。ユーフィリア様を一人にできるわけないじゃないですか!」


 ユーフィリアという言葉を聞いて、ルバニカ三世はおしっこちびりそうになった。むしろ、ちょっとちびってしまった。


 新魔王の名前がユーフィリアということぐらいは、情報として入ってきていたのだ。


「どうして、魔王がここに……。そんなの卑怯ではないか……。魔王が、人間の国王をピンポイントで殺しに来るとか、そんなのどうしようもない……」


 国王が窓を見ると、きっちり割られていた。

 上級の魔族は翼が生えていて、空を飛ぶ者も多いので、奇襲を仕掛けられた場合、割と詰んでいる。


「心配せんでええよ。命とるつもりはないから。今日はお願いに来たんや」

「ま、まさか……国土を一ゴールドで貸せとか、言うのではなかろうな……」

 ルバニカ三世はパニックになっていた。目の前に魔王がいるので、今更助けを呼んでも間に合わない。


「そんな地上げみたいなことはせえへんよ。今、魔族のほう、小麦が一時的に不足してるんやわ」

「身勝手なお願いではあるんですが、余っている穀物を譲っていただけないでしょうか?」


 ユーフィリアだけだと話が進まないと思ったのか、シジュクがサポートする。


「魔族に穀物を譲る? ありえん! そんなことしたら、魔族の同盟国だと思われて人間のほかの国から攻撃される!」


「あ、なるほどな。そういうことは考えてなかったわ」

「考えててくださいよ……。行動してから考える癖、ほんと困ります」


 ルバニカ三世を放置して二人は話をはじめる。


「じゃあ、こうしよ。この国だけやなくて、もっといろんな国から穀物譲ってもらうってことで」


 純真無垢な顔にユーフィリアがなっているので、ルバニカ三世は訳がわからなくなった。

 ただ、新魔王が美しいという噂は入ってきていたが、そこにいる女はたしかに美貌という点では魔族にしておくのが惜しいぐらいではある。


「ふん……。どこの国だって魔族に穀物なんて渡すわけないではないか……。敵に塩を送る国家があるか……」


 くすりとユーフィリアは笑った。


 変なしゃべり方をするが、その容姿だけは文句なしの傾国の姫君のそれだ。腰のくびれ方など、画家が理想化して描いた架空のもののようだ。その流れるような髪に手を入れたくならない男などいないだろう。


「敵に塩を送る国はない、か。せやな。それやったら敵でなくなれば、ええやんな?」


 シジュクがふところから、一枚の羊皮紙を出した。


 そこには穀物を差し出せば今後五年、絶対に人間の土地を侵略しないと書いてあった。

 いわば、それは不戦協定である。


「ちなみに、りみたいですけど、下も読んでくださいね。前線基地的な塔のいくつかを破壊することを約束します」

「そういうことや。軍事費がまあまあ浮くし、その分、穀物くれてもええやろ?」


 国王は思った。この魔王は無茶苦茶なことを言ってくる。だからこそ気味が悪い。

 常識が通用しない相手とどう交渉すればいいのか、わからなくなってくる。


「こんなもの、履行される根拠がない……」

「じゃあ、塔の破壊を先にしたるわ」


 あっさりとユーフィリアは言った。


「突飛な内容っていうことは、さすがのうちも百も承知や。だからこそ、魔王が直接ここに来たんや。うちの本気を伝えるにはこれが一番手っ取り早いやろ?」

「ええ、官房長官であるわたくしですら、全力で反対したぐらい、突飛ですからね」


 シジュクはいまだにあきれている。


「この城にはそれなりに強力な結界を張っておったはずだが……」


「全部解除いたしました。すいません、これでも上級魔族ですので。勇者と呼ばれるトップレベルの冒険者一同にも一人で立ち向かえると思いますよ。魔王様に至っては、やってることも言ってることも壊れてますが、戦闘能力はこれまでの魔王でも最上級だと思います。いや、ほんと、人間を根絶やしにするとか考えてなくて、よかったと思いますよ」


 シジュクはなんだかんだでユーフィリアの実力は認めていた。


「……ほかの国と交渉が必要だ。人間の国家同士の争いも少し前に落ち着いたばかりであるし」


「うん、もちろん。そのつもりや」


 婉然と微笑を浮かべるユーフィリアに、国王は魔族相手に惚れそうになっている自分がいることに気づいた。


 他国の王は代替わりで若い者も多い。こんな女が来たら口車に乗ってしまうのではないか。自分すら心が揺れ動いているのだから。


「近いうちにほかの国と会談をする……。それで同意が得られれば考えなくもない」

「うん。わかった。調印式の時にはうちも顔出すから」


 ユーフィリアはばさばさと翼を動かす。


「じゃあ、次の国やな」

「はいはい。ユーフィリア様の下で働いてると、飽きることがないですよ」

「そんなに褒めんでもええで」

「これ、褒めてるように聞こえてます? あほですか」

「あほは褒め言葉やで。うちの辞書にはそうなってる」


 こんなことを言いながら、二人の魔族は窓から飛び立っていった。


次回は夜遅くに更新します!

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