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4 小麦粉入手計画

 国家復興計画は、まず王都周辺からはじまった。


 市民のための広い公園と動物園を作り、さらにその周辺に美術館や博物館のような文化施設に、巨大公共浴場なども作る。


 さらに内乱で崩壊寸前になっていた、王都にあった邪神大聖堂も復興対象になった。


 そして、なにより、その新市街地の中心に塔の建設がはじまった。


「『新世界計画』っていうぐらいやし、シンボルとしての塔はいるやろ」

 その工事の様子を視察しながら、ユーフィリアは言った。その横にはシジュクも同行している。


「ですが、塔を作るなら、もっと高い塔にしたらいいんではないでしょうか? この塔、けっこう低いですよね?」

「ええねんて。どうせシンボルなんやから、ほどほどの高さでええって。こういうんは、存在することに意義があるねん」


「どうせだから、『空の樹』と呼ばれるぐらいのものを作っても」

「そんなん、金かかるわ。それやったら巨大邪神像でも作るわ」


 シジュクは自分でもよくわからないぐらい、高い塔にこだわる。前世の記憶によるものかもしれない。


 巨大な公共事業が進んでいるせいで、新市街地のあたりは妙ににぎやかになっていた。

 そこでの仕事を当て込んで、地方から流れてくる魔族も増えている。それ自体は予想していたことなのだが――


「あの、それと、人口が一時的に急増したせいで、闇市みたいなのも広まってますけど、ああいうのは放置してていいんですかね? ひどいのになると靴を片方だけで売ったり、一ゴールド貨幣を二ゴールドで売ってる露店までありますよ」


 そういうのは購入者がいないだろうからどうでもいいが、塔の建設現場付近ではわけのわからない露店が増えていた。


「ええんとちゃうかな。これまでの魔族が秩序を求めすぎてたところもあるし。混沌神だって、魔族の信仰対象の一つやん」

「それはそうなんですけど、今のうちに手を売っておかないと、闇市が既成事実化しますよ」


 二人の近くを、オコノミ売りがカゴを提げて、歩いていた。このオコノミもユーフィリアが魔王になって王都に広まってきたものだ。オクトパスボール屋も増えてきている。


 建設ラッシュでおなかをすかしている魔族が多いので、すぐに食べられるこういう小麦粉料理はなかなか需要があるのだ。


「闇市なあ……」

 ユーフィリアは一応、腕組みして、考えるふりをした。

「シジュク、その闇市っておもろい? おもんない?」

「え……? 変な店が多いっていう意味では面白いんじゃないですかね……?」


「よし、じゃあ、そのままでええわ。おもろいことが今の魔族には必要なんや。メンツとかプライドとか、そういうのは後回しな」

「わかりました。明らかにヤバくなるまではユーフィリア様にお任せします」


 シジュクはため息をついてみせたが、そこまで不安視しているようでもないらしい。

 新市街地の建設はそれなりのハイペースで進んでいる。内乱が終わって、大きな働き口があるということで、工事で働こうと思った魔族がどばどば集まってきているのだ。


 一時的にかなりお金も減るが、復興そのものはいい調子で進むかもしれない。


 その二人の横をオクトパスボール売りが歩いていた。

「オクトパスボール十個、六百ゴールドだよ~。本場のオクトパスを使ってるよ~」


 しかし、その声にユーフィリアのこめかみがぴくぴく動いた。


「なあ、シジュク、オコノミ売りとオクトパスボール売り、麺類屋と、あと、小麦粉そのものの値段を大至急調べてくれん?」

「あっ、魔王らしい目をしてますね。わたくし、感激しました」

「そういうんはええから、手配して」


 シジュクの事務能力はすこぶる高い。すぐに国家財政再建省という新規に作った部門に命じて、三日後には仮の資料を作らせた。


 それをユーフィリアは魔王の政務室で読んだ。

 なお、壁には魔族の言葉で「猛虎魂」と書いた額縁が飾ってある。ユーフィリアは虎好きである。


「たっか! めっちゃ、たか! なんなん、これ! オクトパスボールの平均価格が十個五百ゴールド超えてるやん!」

「それだけ、新市街地建設に人が入ってきてるんですよ。内乱で住むところなくした魔族だって多いですからね。これだけ大規模な事業なら、日雇い労働の仕事もたくさんありますし」


「そんなんわかってるわ。それでも高すぎる。小麦粉が足りてへんねんよ。もっともっと増産せな」


「すでに耕作地を増やす計画はユーフィリア様もお命じになっておられますよ。もうちょっとお待ちください」

 シジュクもその政策はいいものだと考えていた。


「あかん。遅すぎる。これだけ値段が高いっていうことは、買うのを渋る民衆も出てくる。おなかがすいたまま我慢せんとあかんなんてのは、おもろいことやない。安うておなかいっぱいのほうがええに決まってる!」


 おもろいことをやる、これはユーフィリアのたった一つの政治理念と言ってよかった。


「ですが、どんなに頑張ってもすぐに小麦の収穫量を増やすことはできませんよ」

「せやな。それやったら、輸入するわ」


「輸入?」

 シジュクは首をかしげた。


「魔族による国家は、ここしかないですよ。輸入先がありません」

「人間の国があるやろ」


 その言葉にシジュクはぽかんと口を空けてから、右手を全力で横に振った。


「それはないです! 人間が小麦くれるわけないじゃないですか! 今は戦争してないですけど、どれだけ仲が悪いと思ってるんですか?」


「こういうことわざがあるやろ。『オールスターでは虎と兎も手を結ぶ』」

「オールスターって何ですか?」


 シジュクはまた変なこと言い出したなという顔をした。しょっちゅう、変なことを言ってくるので、ちゃんとツッコミ入れられる者でいないと、ユーフィリアの側近はつとまらないのだ。


「わからん。でも、勢いで言ったら格言ぽいやろ?」

「そこは認めましょう。けど、今はオールスターではないです」


「大丈夫や。虎は敵国の将を何度も司令官にしてきた歴史がある。度量広いねん」

「いや、虎は動物ですので、そんな戦争の歴史みたいなの、ないと思いますよ。あと、人間側の度量が狭いと意味ないんじゃないですかね……」


 シジュクもいいかげん疲れてきた。権力者は好き勝手なことを言うものだが、ユーフィリアは好き勝手すぎる。


「こんなことわざもあるやろ。『鳴かぬなら鳴かしてみようロック鳥』」

「初耳です。ユーフィリア様、オリジナルなことわざを一分以内に二つも出さないでください」

「というわけで、鳴かしてくるわ」


 ユーフィリアの翼がばさばさと動く。


「どこに行かれるんですか……? 嫌な予感しかしないんですけど」

「人間の国に行って、小麦粉ちょうだいって言ってくる」

「ひゃーっ!」


 シジュクは変な声を出した。


次の話も割と早くに更新します!

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