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3 新魔王の演説

 魔王城の前には魔族の民衆がわらわらと集まっている。

 上空でもワイヴァーンやロック鳥がばさばさと空中を浮かんでいた。


 今から目の前の大きな壇上で、新魔王の所信表明演説があるのだ。なお、空を飛ぶ者が見下ろすこと自体はしょうがないこととして認められている。ワイヴァーンやロック鳥が地面に降りるとデカくて邪魔だ。


 長い魔族の歴史の中でも、女魔王は極めて珍しいので、いったい何を話すのかと民衆も興味津々の様子だ。


 やがて、その壇にユーフィリアが立つ。


 もともと、美貌で知られていただけあって、その立ち居振る舞いは絵になった。魔王にはカリスマ性も求められているので、こういったスペックはあって損はない。


 さて、演説の場なので、ユーフィリアも正装のはずである。

 ただ、なぜかヒョウ柄のコートを羽織っているので、少し魔族たちがざわついた。

「なんで、ヒョウ柄なんだ……?」「女魔王はそういう服装ってルールがあるんじゃないのか?」


 しかも、なぜか大きな袋を魔王は持っている。

「あれには何が入ってるんだ?」「さっぱりわからん……」


「みんな、このヒョウ柄の服、何万ゴールドしたと思う? なんと、たったの四百五十ゴールドやで! 安いやろ!」

 四百五十ゴールドと言えば、店によってはお酒一杯も飲めない値段である。


 そこに官房長官のシジュクが壇に登ってきた。

「なんで、値段言うんですか! 恥ずかしいじゃないですか!」

「ええやん。安くてええもん買った自慢やって」

「新魔王の威厳が損なわれるでしょうが! ていうか、十万ゴールドぐらいの服、着てくださいよ!」


 しかし、民衆の反応は悪くなかった。

「新魔王様は国が苦しい中、そんな安い服を着てここに立っているのか……」「民衆想いのやさしいお方だ……」「わしらの気持ちをわかってくださっている!」


 シジュクもあぜんとしていたが、「結果オーライということでよしとします……」と言って下がっていった。


「ツッコミ役が上がってきて、邪魔したな。よ~し、続いて、みんなにプレゼントや~」


 ユーフィリアは持っていた袋に手を入れると、民衆に向かって、撒いた。


「なんだ、これ」「包んでる飴だな……」


「こういう時は飴ちゃんを投げるところからはじめることにしてるんやわ。それ、それ、それ! 鬼は内、福は内やで~」


 その壇にまたシジュクがすごい剣幕で登ってきた。

「あんた、何やってるんですか! 式次第にないことしないでください!」


「ええやん、魔族らしく真っ黒なやつにしたんやで。パイン味とは違うで」

「味とか色とかの問題じゃないです! こういうのは普通でいいですから! あと、前から言おうと思ってたんですけど、なんで飴にちゃん付けしてるんですか? 普通に飴でいいじゃないですか。飴に敬意はらうのおかしいでしょ?」


「理由を聞かれると難しいけど、前世の記憶的なアレやって。しっくりくるねんて」

「とにかく、飴は没収します! 飴まき禁止!」


 シジュクに飴の袋は取り上げられたので、ユーフィリアは仕切り直しになった。

 飴を舐めている者もいる。はじまる前から、けっこう異様な演説になっていた。


「え~、聞こえてるかな、聞こえてるよな。うちが新しい魔王のユーフィリアや。以前に治めてたオサカーでは【オサカーの虎】として恐れられてたわ」


 民衆たちの表情が引き締まる。多数の兄弟姉妹の中で勝ち残ってきた新魔王なのだ。相当な武断派ではないかと考えて当然だろう。


 早速、人間に攻め込むなんてことを言い出すのではないだろうか。長らく魔王継承戦争で国土が荒れているので、それはきつそうだなと思う者も多かった。


「え~、人間との戦争やけど、しばらくの間はやらんから」

 あれ? と思う民衆が多数いた。


「魔王城の近くもかなり焼けて荒れ地みたいになってるところもあるし、しばらく国土を休めることにする。ずばり、『新世界計画』!」


 その言葉が大掛かりなので、みんなが目を見開いた。


「王都近辺をこれまでにないぐらいの理想郷にしたいと思うてる。まだ検討段階やけど、新市街地を作って、そこに塔を建てる。それと憩いの場になるような大きな公園と、動物園を作ろうかなと思うてる。どうや、すごいやろ? すごいんとちゃう?」


 民衆からも「なんかよくわからないが、壮大だぞ!」「立派な王都になるかも!」といった声がする。


「そやろ、そやろ。もっと褒めて、褒めて」

 腰に手を当てて、ユーフィリアはドヤ顔していた。


「ほかにもいろいろ考えてるから、期待しといてな。むっちゃええ国にしてみせるからな!」

 あんなに調子に乗ってて大丈夫かとシジュクはひやひやする。


「ただ、うちのやり方がどこまで通用するか、正直わからんところも多いねん。治める規模も違ってくるし。失敗することもあるかもしれへん」

 一転、弱気な言葉が出てきて、民衆たちがざわつく。


 シジュクもまた壇上に行くか迷ったぐらいだ。いきなり不安を煽ってどうするんだ。


「せやから、おかしいって思うことがあったら、ちゃんと言ってほしい」

 その声はとても真摯なものにシジュクに聞こえた。

 それはユーフィリアの顔を見れば、正しいとすぐにわかった。


「うちは魔王になったけど、魔王になるために生まれてきたわけやない。偶然が重なって、今、魔王って地位についてるだけや。少なくとも、この国を自分のものやとまでは考えてない。みんなが生きてておもろいと思えるような国にしたい。どんな国にやって問題なんて山積みやけど、それでもおもろいって思って生活できたら幸せやと思わへん?」


 やけに民衆に問いかける、異例の演説だった。

 だからこそなのか、民衆も耳を傾けていた。


「もしも、おもろないと思うたら教えてな。たくさん笑える国にできたら、それがきっと正解なんや」


 誰かが拍手を送った。

 その拍手は次第に周囲に伝わって、全体に広がっていった。


「新魔王様!」「新魔王様万歳!」

 そんな声もどんどん聞こえてくる。


 シジュクもその新魔王の様子を見て、少しほっとしていた。

「あの人は普段は適当だし、『行けたら行く』って言って結局来なかったり、会話の最後に『知らんけど』ってつけて責任回避したり、問題多いけど、基本的には民思いの立派な方なんですよね」


「ま~、うちが歴代最高の魔王やと呼ばれるんとちゃうかな。知らんけど」


 また、知らんけどって使いやがったなとシジュクは下で聞いていて、思った。


「それじゃ、長い内乱で国もボロボロやし、ゆっくり復興させていこな。人間が来た時に、『うわ、こっちの国のほうが発展してるし、ええやん! 住みたい!』って思える国にしよ!」


 また、拍手が広がる。


 異例ばかりの所信表明演説はこうして幕を閉じた。

明日も複数更新できればと思っております!

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