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2 小麦粉料理問題

「人間と戦うんか。順番としてはそうなるやんな。セで勝ったら次はパやんな。鷹と戦わんとあかん」


「なんですか、そのセとかパっていうのは。しかもなんで鷹なんですか?」


「いや、うちもようわからんけど、これも前世の記憶なんかな……」


 たまにユーフィリアのように前世の記憶が無意識に出てくる者はいる。シジュクも出てきはするが、ユーフィリアほど極端ではない。


「人間と戦うのはもっと後でええやろ。というか、うち、戦争は好きと違うんや。そういうんは、スーパーでの一ゴールドのキャベツ争奪戦だけで十分や」


「スーパーって何ですか? だいたい、一ゴールドでキャベツが買えるわけないじゃないですか。デフレしすぎですよ」

「いや、だから目玉商品なんであって、ほかのもんはもうちょっとまともな値段やったで。けど、たしかにスーパーって何やろ?」


 その時、ぐぅ~とユーフィリアのおなかが鳴った。


「おなか減ってきた」

「言われなくてもわかります。ほんとに、はしたないですね。魔王になるんだから、もうちょっと品格みたいなの出してくださいよ」

「けど、うちは庶民派王女ってキャラで、人気が出たところあるで? そりゃ、シュッとした格好になることは簡単やけど、それやと庶民からは何をいちびってんねんって思われて、志願兵とか減るで」


 けっこう正論なので、シジュクも言い返しづらかった。

 そうなのだ、支城にやってきた魔王の一族は、地元の魔族にとってみれば、よそ者なのだ。よそ者のために命を懸けて戦ってくれる者は多くない。

 その点、ユーフィリアは偉そうな態度をとることが全然なく、むしろ、庶民の前で平気であくびしたりして、好感度があがったという点はある。


 なお、シュッとした格好というのは、ちゃんと身だしなみを整えた格好ぐらいの意味である。シジュクはずっとユーフィリアのそばにいるので、意味がわかる。

 いちびっているというのは「調子に乗っている」程度の意味だ。


「とにかく、おなか減ったわ。666の氷の精霊のアイスシャーベットない?」

「氷の精霊は今、いません」

「じゃあ、オクトパスボールちょうだい」

「オクトパスが入荷されていません」


 オクトパスボールとは、小麦粉生地のボールの中にオクトパスの足を入れた食べ物である。ユーフィリアが夢の中で作っているのを見たと言って、専用の鉄板を用意させて、開発した。

 小腹を満たすのにはちょうどいいので、オサカー城近辺では名物になっている。


「ということは小麦粉はあるんやな。シジュク、おやつ代わりに何か出して。小麦粉使った料理、なんか作ってや。お願い、一生のお願い」


 シジュクは今月だけで一生のお願いが三度目だということを思い出したが、手を合わせているユーフィリアがまあまあかわいかったので、大目に見ることにした。腐っても魔王なのだから、あんまり突っぱねるのもまずいだろう。


「わかりました。しばらくお待ちください」

「でも、一生のお願い、今月で三度目やな」

「わかってたんですか! もう、何度も死んで転生してください!」


 十五分後。

 シジュクはやけにテンション高く、鉄板と金属のボウルにぐちゃぐちゃになった材料を持ってきた。


「はい、どうぞ、ユーフィリア様」

「なにが、『はい、どうぞ』なん……? うち、これでも魔王やで。作ってや」


「ははは、何をおっしゃいますか。こういうのって、自分で作るのが楽しみのうちではないですか」

「なんでやねん。うちは『作って』とちゃんと言うたやんな? これ、未完成やん。店入って、これが出てきたら、何サボってんねんてキレるで?」


 しかし、これにはシジュクも譲らなかった。


「まあ、ここがお店じゃないという前提は一度置いておきますが、材料を用意するまでがお店の仕事で、それを作るのはお客さんの仕事ですよ」


「だいたい、なんでこれ、こんなに液体多いん? めっちゃゲ……あかん、あかん、おしとやかにしよ……。めっちゃ吐瀉物っぽいやん」

「ちょっと、それは新魔王様でも許せませんよ! 吐瀉物って最大の侮辱ですからね! すぐ、わたくしの料理、モンジャーをバカにするんですから!」


 シジュクも怒ってるらしく、尻尾がぶんぶん左右に動いていた。


「やっぱり、モンジャーやん! モンジャーは食べた気がせえへんからあかんねん。オコノミかモダンかにしてや!」


 オコノミもモダンもユーフィリアが作り方を開発した小麦粉料理である。


「そりゃ、わたくしもオコノミもモダンも作れますよ? 作り方、単純だからできますよ? でも、ユーフィリア様のそういうところがいけないんですよ。モンジャーは受け入れないじゃないですか。そのあたりが偏狭なんですよ!」


「ちゃうねん。別に受け入れんとかやなくて、モンジャーって食べた気せえへんやん。オコノミのほうが一般性あるやん……。ほんま、それだけなんやって……」


 ユーフィリアもシジュクが割と怒ってるので、これはまずいと思った。

 たしかに、おやつの準備までさせて、否定したのは悪かったかな……。ユーフィリアも後悔した。


 一方で、シジュクもユーフィリアに半ギレみたいになってしまい、家臣としてこれはよくないのではないか、しかも理由が料理についてとか小物臭くないだろうかと後悔していた。


 早い話が、二人とも問題を解決したいと思っていた。


「じゃ、じゃあ……うちがオコノミ作るわ……。それをシジュクと一緒に食べるっていうんで、どうかな……?」

「ユ……ユーフィリア様に作っていただけるなんて、家臣として望外の喜びです」


 どうにか落としどころが見つかって、お互い、ほっとした顔になる。


「うん、それじゃ、ヤマイモと干した小さいエビも持ってきて」

「はい。揚げた油の玉はいります?」

「それもあるんやったら、ちょうだい」



 そのあと、二人はユーフィリアが言うところのオコノミというものを焼いて食べた。

 ユーフィリアは小麦粉を使った料理限定だと、かなり上手である。


「うん、ユーフィリア様、ふっくらしてるのが美味ですね」

「せやろ。うちは、ぺちゃんこカリカリ派よりふっくらふわふわ派やからな」


 料理を食べている時は、二人はそれなりに仲良しである。シジュクも侍女をつとめて長い。


「なんだか、新魔王様の料理を食べてると、昔見た夢を思い出します。たしか、わたくし、東京という街の京成沿線に住んでいたんですよ」

「うちもたまに、自分が南海沿線に住んでた夢見るわ」


「下町っぽいところなんですけど、物価安くて、住みやすかったんですよ」

「あ~、物価やったらうちもキャベツ一玉一ゴールドで買った夢見るわ」

「いや、それはウソでしょう。安すぎますって」

「ほんまやねんて。一ゴールドやねんて。どうせ、夢の話やけどな」


 ほんわかしながら、二人はお酒を飲んでごきげんになった。


「酔った勢いで言いますけど、わたくし、ユーフィリア様の下で働いてほんとよかったと思ってますよ」

「どうせ、上げて落とすんやろ。素直に喜ばへんで」

「だって、ユーフィリア様の支配地域、なかなか発展しましたよ。深淵神アビースを祀る邪神神殿も最初はまた適当なこと言ってるなと感じましたけど、あれで民への訴求力も上がりましたよ。その証拠に魔王にまでのぼりつめたじゃないですか」


「せやな、魔王かあ。上手くやれるかなあ……」

「わたくしが支えますから」


 シジュクが胸をぽんと叩いた。

「うん、シジュク、ありがとうな。どうにかやってくわ」


「さて、そろそろ新魔王としての所信表明を国民に告げねばなりませんね。できればスローガンもあったほうがいいです」


「ああ、それはもう決めてるわ」

 すっくと、ユーフィリアは立ち上がる。


「この魔王城周辺をまったく新しい空間にする」


「おお! なかなか素晴らしいですね!」


「ずばり、『新世界計画』や!」


 新しい世界という意味しかないはずなのに、シジュクはなぜか嫌な予感がした。


この世界の一ゴールドは日本円の一円の設定で書いております。よろしくお願いします。

今日中にもう一話更新したいです。

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