情けない格好の俺に。
「ごめんね…」
グズッと泣く君。
「……」
本当に大事に思ってる。
本当は放したくない。
俺を好きでいて欲しい。
「終わりだなんて言うなよ…」
さようならなんて、もう会わないなんて、嘘だと言って欲しい。
「ごめんっ、ごめっ…」
小さく揺れる肩に胸が苦しくなる。
笑っていて欲しい。泣いて欲しくない。幸せでいて欲しい。
「…泣かないで」
泣いてる君を見ると抱きしめたくなる。
「楽しかった……。かけがえのない時間だったよ…」
そっと、彼女の頬に伝わる涙をふく。
触れた指先から思い出が零れ落ちて、他人になってしまうのが分かる。
「泣くなよ…」
どうやったら君の涙が止まるか術がわからない。
だから、精一杯優しくしてやれる最後。
「ありがとう」
優しく微笑む。
彼女の幸せを願えるから。
「……」
行き場のない切なさが胸を独占しようとする。
「早く行きな…」
俺が優しくしてあげれるうちに。
俺が痛い気持ちに独占されないうちに。
君が新しい恋へと駆け出す背中を見送れるうちに。
「っ……、」
背中を向け駆け出す彼女。
救いようのない気持ちが痛くて苦しくて、全てをやり直したい。
今からどうやって、やり直そうか。
タイムマシーンってどうやって作るんだっけ?
頭の中は忙しなくぐるぐる。
どこで間違えた。
どこでこの結果を招くレールを敷いた?
取り返せない時間だけが悔しく駆け巡る。
「行くなよ…」
大きな公園で捨てられた子どもみたいに立ち尽くす。
「お兄さん……お兄さん!!」
「はいっ!」
どのくらいぼうっとしてたのだろう。
大きな声と体を揺さぶられて顔を上げる。
「大丈夫?」
心配そうに覗かれたその顔が涙でうっすらと歪む。
「大丈夫…すこし、辛いことがあっただけだから」
上がらない口角を少しだけ持ち上げる。
「……じゃあ、あたし悪いタイミングと良いタイミングで来たんだね」
言ってる意味がわからず、目を合わせると得意げな顔をしている。
「情けないあなたを見たのと、頑張ってるあなたを見たの」
唇を二ッと上げて指す。
先程小さく口角を上げたことを指しているんだろう。
「お兄さん頑張ったね」
ふふっ、と優しく笑った彼女の言葉に言い表せられない気持ちになった。
ムッとする気持ちもあるのに、なぜか心に風が吹いた。
頑張ったねと、認められたのが嬉しかったのだ。
勝手に頑張った自分を褒めてくれたみたいで。
認めてくれたことが痛い心に少しだけ余裕を持たせてくれた。
「ありがとう……」
これで、新しい未来に走った彼女に背を向けて歩ける。
『情けない格好の俺に』