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dearert heart  作者: 一条 いちか
amor
2/3

情けない格好の俺に。

「ごめんね…」



グズッと泣く君。


「……」


本当に大事に思ってる。

本当は放したくない。

俺を好きでいて欲しい。


「終わりだなんて言うなよ…」



さようならなんて、もう会わないなんて、嘘だと言って欲しい。



「ごめんっ、ごめっ…」



小さく揺れる肩に胸が苦しくなる。

笑っていて欲しい。泣いて欲しくない。幸せでいて欲しい。



「…泣かないで」



泣いてる君を見ると抱きしめたくなる。



「楽しかった……。かけがえのない時間だったよ…」



そっと、彼女の頬に伝わる涙をふく。


触れた指先から思い出が零れ落ちて、他人になってしまうのが分かる。



「泣くなよ…」



どうやったら君の涙が止まるか術がわからない。

だから、精一杯優しくしてやれる最後。



「ありがとう」



優しく微笑む。

彼女の幸せを願えるから。



「……」


行き場のない切なさが胸を独占しようとする。



「早く行きな…」



俺が優しくしてあげれるうちに。

俺が痛い気持ちに独占されないうちに。

君が新しい恋へと駆け出す背中を見送れるうちに。



「っ……、」



背中を向け駆け出す彼女。

救いようのない気持ちが痛くて苦しくて、全てをやり直したい。


今からどうやって、やり直そうか。

タイムマシーンってどうやって作るんだっけ?


頭の中は忙しなくぐるぐる。


どこで間違えた。

どこでこの結果を招くレールを敷いた?

取り返せない時間だけが悔しく駆け巡る。




「行くなよ…」



大きな公園で捨てられた子どもみたいに立ち尽くす。



「お兄さん……お兄さん!!」


「はいっ!」



どのくらいぼうっとしてたのだろう。


大きな声と体を揺さぶられて顔を上げる。



「大丈夫?」


心配そうに覗かれたその顔が涙でうっすらと歪む。



「大丈夫…すこし、辛いことがあっただけだから」



上がらない口角を少しだけ持ち上げる。



「……じゃあ、あたし悪いタイミングと良いタイミングで来たんだね」



言ってる意味がわからず、目を合わせると得意げな顔をしている。



「情けないあなたを見たのと、頑張ってるあなたを見たの」



唇を二ッと上げて指す。

先程小さく口角を上げたことを指しているんだろう。



「お兄さん頑張ったね」


ふふっ、と優しく笑った彼女の言葉に言い表せられない気持ちになった。


ムッとする気持ちもあるのに、なぜか心に風が吹いた。



頑張ったねと、認められたのが嬉しかったのだ。

勝手に頑張った自分を褒めてくれたみたいで。

認めてくれたことが痛い心に少しだけ余裕を持たせてくれた。



「ありがとう……」



これで、新しい未来に走った彼女に背を向けて歩ける。



『情けない格好の俺に』





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