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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
六章

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2 三人目

五章の最後に、メインキャラの紹介を投稿しました。よかったらチェックしてみてください。



 カントナは、メイドに寄りかかって立ち上がる。


「では私は、屋敷に引き上げます」


「屋敷へか?まだ危険なのではないか」


「作戦は予定通りでもはや敵はおりません。家族を港に残してますし護衛もおりますので安心です。なにより皇帝陛下よりお預かりしてる屋敷を、壊れたままにはしておけません。暇をだしていた者達も呼び戻してさっそく修繕にとりかかるといたします」


「そうか。ならば直ぐ送ろう。さっきの港で良いのか」


「ありがとうございます」


 テゼールが片手をあげた。カントナは探るような目をしていたその手を見ていたが、メイド共々消えていなくなった。





 独りとなった艦長室の中。テゼールはどっかりと椅子に座った。右足が床にちらかる料理を踏んでる。もったいないとは思わない。コックから叱られるなと、少し頭をよぎった。


「疲れたな。おい」


 ぼそり、ひとり言をつぶやいた誰もいない部屋。

 だが。


『おいオッさん。あんま調子に乗るんじゃねーぞ』


 ぶっきらぼうな、苛立ちまじりの子どもの声が返答した。テゼールがグラスにワインを注いでると、手を伸ばしてない料理が大皿ごと次々に消えていく。


「吾輩は仮にも貴族だぞ。しかも提督で貴様より大人だ。少しは敬うことをしないかシリウチ」


 眉をひそめたものの、とくに怒りもしないテゼールがグラスを口につける。


『オッさんはオッさんだぜ。オッさん。平民の国からきたオレに貴族なんかわかるわけねーべ。ん。美味いなこれ』


 シリウチと呼ばれた声の主が、口から出たままセリフをぶつけていく。


『むしゃむしゃ……いつオッサンが魔法使いなった? ごくん……オッサンが魔法使いなら俺の出番はお終いか? むしゃむしゃ……いつになったら殺らせてくれるんだ? ん??』


 テゼールの目の隅には、皿に乗ったごちそうをムシャムシャやっている十五歳くらいの少年が映っていた。知内と言う名のウィル。これが声の正体だった。


「殺すとは物騒なことだな」


『物騒だぁ? オッサンの仕事は提督だろ。提督といやゲームじゃ海軍のエライさんで戦争屋じゃねーか。人殺しの親玉がふ抜けたこと言うなや』


「忘れたのか? 戦は手段であって軍の本分は虐殺ではないと聞かせたのを。制圧して従わせることこそ目的だ。敵味方とも最小の被害で成功に結びつけることこそ上策なのだ。とくに今度のような場合にはな」


 たいらげた皿がテーブルに再出現。どこへやったのが食べかすは無く、洗ったようにピカピカに輝いてる。礼儀知らずな態度に反し、意外とキレイ好きなウィルのようだ。




 知内湯里(しりうち ゆり)は、女のような「ゆり」という名前が嫌いだ。小学校のころから男女(おとこおんな)とからかわれたからだ。少女にもみえるつり目の大きな瞳が特徴的だが、レッキとした15歳の高校生――になる予定の男子だった。


 彼は、道南から札幌の進学校を受検して失敗した中学生だった。「ゆり」というのは、一人目と二人目が男だったため三人目に娘を期待した親が用意した名前だった。大きな瞳という女子のような顔立ちも拍車をかけ、幼いときからいじめられる。小学校卒業のころには立派なコンプレックスになっていた。


 瞳は大きいが、やや吊り目なところがむら気な性格を物語っている。ゲーム好きだが飽きっぽく攻略できたものが無い。


『あーあ。つまんねーつまんねーつまんねー。せっかく異世界にきたってのに、自分の身体は無くわ狭い部屋からは出らんねーわ。とどめは、今の相手は厳ついオッさんときた。不自由だぜ不自由!!魔物やら人間を殺し放題でレベルアップってのをやりたかったのによ。これなら、前のガキのほうが自由だったぜ』


 いかにも、飛行機のコックピットといった風情の部屋でシリウチは嘆く。あの飛行機事故のあと、兄に似たウサ耳の神から引き合わされた宿主は、十歳にもならない少年だった。


「子供は柔軟性が高いって言うのはウソだな。オレの声にビビリまくって泣いてばかりだった。腹が立って腹が立ってしかななかったベや、言うことを聞きやがれって、むちゃくちゃスキルを使ってやった。あんときはオレも使い方をわかってなかったからな」


 頭にきたシリウチが、黙らせてやろうと転移した先は、なんと海の上だった。


「溺れた子供を見つけたときは、さすがの我輩もおどろいたものだ。引き上げたのはいいが、ほとんど死にかけてたな。しばらくしてから貴様の声が聞えたときは、心底仰天したぞ」


「オレも子供と一緒に死ぬかと思った。二回も三回も死んでらんねーし。オッサンに乗り移ったのもなんでかわからねー。どうでもいいけどな」


 シリウチは、こうしてテゼールを宿主とした。艦隊を自由に指揮できるテゼール提督はシリウチにとっても都合がよい相棒だった。足の速い高速船へ乗り移ったテゼールは、シリウチを案内していった。ここの世界の常識を教えながら、ドリーヨーコ帝国やクレセントが面している(グローリエ)海の上を闊歩するような数週間だった。


「そんで。どんぱちは、いつ始まるんだ? オレ、ひまなんだよなー。退屈きらいだしよー。テキトーなヤツ殺してレベル上げていいか? さっきのブタでもいいぞオレは」


「レベルとは何だ?なんのことを言ってるかわからん」


「決まってるべや。魔物とか人間を殺すとな、経験値が入ってレベルが上がるんだよ常識だろ?」


「経験値?人や魔物を倒すとか? それでレベルと言うのが上がるとどうなるのだ」


「はぁ? 強くなるに決まってるべや。筋力とかスピードとか魔法力があがんだよ。ゲームの常識だ」


「聞いたことがないな。何ごとも経験だとは昔から言われるし真理であるとは思うがな。人殺しで強くなれるなら、殺人狂を捕まえることは不可能で魔物退治の冒険者はやりたい放題となる理屈だ。そんな話は聞いたことがない」


「殺しても、レベルが上がらないっての? なんのための異世界よ」


「貴様の常識が何を指しているかわからんがな、期待してるような都合の良い世界ではないぞーー人生をなめるな」


テゼールは敵を攻める際に手段を選ばない。正面から闘わずにウンベッターの鑑を撃ったことからも無情な方針がわかる。それとは別に大人としての良識ももっており、人生を歩んだ経験で若輩をいなそうと考えた。これは悪手だった。


「んなもん、どうでもいいんだよ! 人生? いつか死ぬのが人生だべ。死んだことない奴が人生語んなバカ」


シリウチのコックピットには、左から右へ包むように湾曲した外を映し出す画面がある。その手前には浮き上がる三つのサブモニター。うち一つのスキルをサポートするモニターには、四角いイエローが現れて部屋にある固定されてないあらゆる物体をマーキングする。


シリウチは、手の届く範囲にあるスイッチをめちゃくちゃ押しまくった。〔物体移動(テレキネシス)〕された艦長室内のあらゆる物がふわりと浮いて、縦横無尽に飛来していく。


皿、ワイン瓶、コックが腕によりをかけた料理、書きかけの航海日誌、ペン、インク瓶、ワインの入ったグラス、磨いて並べてあった軍靴、サーベル、テーブルや机は鑑の揺れで動かぬよう固定されてるが、開いた引き出しからはノートや文具の類が散らばりだした。クローゼットからは軍服。奥に仕舞ってある金庫からは金貨や銀貨がバラバラと飛び出していく。


「おい、やめんか!」


シリウチは、キツく固定された天窓も開けはなった。ぐるぐると空中で渦を描いていた浮遊物体が、開いた窓から外へ出ていきだす。カゴから解放された小鳥が喜んで逃げていくようだった。


「はっはー!! 飛んでけ飛んでけーーー! 」


シリウチは、他人は何もしてくれない生き物だと固く信じてる。家族も他人。自分でない人間はすべて他人だった。とくに大人はウソをつく。言ってることとやってることが違う。建前と本音。大人はそう言って笑うが実行できない言葉は、シリウチにとってすべてがウソだ。


「窓から出した物を戻せシリウチ! 」


「オレに命令するな! 偉そうに語るな! 」


ウィルの少年は叫んだ。すべての大人と嘘つきに天罰を与えてやりたい。異世界に命を拾い、あり得ない力を持った自分には、それくらいの権利があるはずだ。


「わかった。頼むから言うことを聞いてくれ」


頼むと何度も、テゼールが繰り返す。提督という立場の大人のなりふり構わぬ懇願。シリウチは溜飲を下げて言うとうりにし始めた。


「提督、いかがしました!」


上番中の部下が騒ぎをききつけて、扉を激しくノックしてきた。いまにも開けて入り込んでこようとする勢いだ。


「なんでもない。魔法の訓練をしている。気にするなと皆にも伝えておけ」


窓から飛んで出て行った物物は、ガチャガチャと音を立てながら再び窓から戻り元の場所に収まっていった。テゼールは今度こそかっくりと疲れ果てて椅子に座り込んだ。こいつは……ジャジャ馬娘より扱いが難しい。そう脳裏に刻みながら。




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