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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
五章

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28 壊滅

今日中に投稿しようと無理やり書いたので、いつも以上にみづらい可能性があります。

後日修正をいれると思います。


 ウィルの空間が解かれた。

 話には聞いていたガスラーだったが、目の当たりにした現象が信じられないでいた。


「戻ったのカナ」


 それは、思わず顔を見合わせたカレンも同じようだった。

 戦い?が終わり空間が解除されるとともに、空間内にいた人間はみな、一箇所にまとまるように戻ってきた。


 フェアバール、リーゼライ、レガレル、カレン、クラウディ。そして誘拐の実行犯といったシエラと、触るのも嫌な貴族カントナと同行するメイド。


 ガスラーは、すぐ全員の存在を確認していく。


 モコトと、そしてモコトが戦っていた男はウィル。ここに居ないのが当たり前か……と。


 声でしか知らなかった人物は、確かに人として実在していた。それなのに彼女は自分の生きている場所にはいない。舞台の上で会話をしていたはずなのに、スポットライトが光ったとたんその場から消えた。トリックを見せ付けられたような空虚感に肌がざわついた。


「みんな、いるみたいね」


 景色は波止場。潮の香が鼻をついてくる。湾内にあるたくさんの艦船上では、船員たちが慌ただしく動きまわる様子がみえた。


 さきほど、ありったけの大砲を一斉に発射した帝国の大型艦も泊地で威風をひけらかす。20隻を越える僚艦が整然と並ぶ姿と合わせて、さすが大国と思わせる。標的にされたクレセント艦が浅瀬だか養浜で傾いているのとは対照的。


 ほかのクレセントの艦艇は統制が取れてないらしく、とりあえず碇は上げたものの行動はばらばらだ。沖へ向かう艦や反対に岸壁側へ寄ってくる艦。逃げ惑う商船や、足の速いブレジャーボートが互いに行く手を邪魔しあう。航路へと向かう船もひしめきあい、湾内はいたるところで混乱状態だ。帝国の艦隊には近寄ろうとしない点だけは、共通していた。


 ほとんど全ての艀が離れてしまった桟橋で、撃ち壊された艦を見つめる男をみつける。四つんばいで倒れこみ、嘆き悲しみながら片手を伸ばし、何かを掴もうとしているようだ。


「艦が……処女航海もまだだったいうのに。なのに、オレのピングイーン号が沈む……」


 いまにも海に身投げしそうな海軍の士官。部下らしき魔法士官が、身体をはって腰を引っ張り押しとどめていた。


「あの人って昨日の艦長。ウンベッターさんだっけ?」


「あ、私たちを乗せてくれるとか言ってた。じゃ、あそこの浅瀬で傾いてる艦がそれカナ?」


「そうだな。沈むのがオレたちが乗る前でよかったじゃないか」


「そういう問題か?」


 そういう問題ではないでしょ君たち。気楽そうに状況を傍観している引率客に、そう言おうとしたが、偉ぶった男の声が遮った。


「いい景色ではないか、バルージュよ」


 ガスラーとリーゼライが振り返ったそこには、ドリーヨーコ帝国の海軍兵たちが屹立していた。前に立つのは貴族らしき壮年の男性。後ろには制服を着た部下が数人おり、その背後にはさらに、水兵らしき男たちが二十人以上整列する。


「兵は神速を尊ぶとか言うらしい。やはり、戦術はこうでないといかんな」


 この軍人らは、いつやってきたのだ。いましがたまで、そこには誰もいなかった。一人もだ。まるで転移してきかのような神出ぶりに仰天したのはガスラーだけではない。フェアバールは目をぱちくりさせてるし、冷静なリーゼライも面食らった顔をしていた。


 転移にはあっちとこっちに魔方陣が必要で、数人がかりの魔法使いでも、2~3人が限界といわれてる。転移でないならどこからだろう。まさか空から飛んできたのか。


「テゼール提督……か。いままでどこに――」


 ウンベッター艦長は、そこで何かに思い当たったらしく、地べたに座ったまま男に向かって叫んだ。


「テゼール!まさか、あんたがやったのか!?」


 テゼール提督と呼ばれた男は右の口だけでニヤリと笑って、同じくニヤついてる背後の部下たちへ目配せした。ウンベッターを眼下に見据え、三歩ほど距離を狭めた。


「クレセントには、貴族を粗末に扱ってもよい風習があるのかな。平民の貴様が、吾輩の名を呼び捨てにするとはな。ふむ。吾輩が何かをしたと、そう訊ねたのか?吾輩はどこにいる?いまここに立っておるのが見えんのか? 教えてやる義務はないが、ひとつだけ面白い話がある――」


 テゼールの部下たちは、ゆっくりと左右に散らばり動いて広がると、ガスラーや、この場の全員を囲むように半円状の陣形をとる。いち早く警戒を強めたリーゼライはレガレルとともに、ゆっくりと、フェアバールとパスを後ろにかばった。


「――帝国が所有する屋敷を狙い撃ちした、バカな艦があったとしよう。もちろん国は激怒するし、我が海軍も激怒する。条約では相互攻撃はしないとなっておるが、先に襲われたとなれば話は変わる。降りかかる火の粉は払わんと火傷が残からな。反撃するのはやぶさかではない。


 艦隊を預かる者としては、むろん、国同士の約束を反故にする行為はけしからんと思う。我輩も、日頃よりそう訓示しとるぞ。


 だが、自領が撃たれたのだ。軍人としてはこれを放っておくことはできん。舐められたまま捨て置けんという感情は、貴様にだって理解できるだろう?


 我が艦隊は数が多いだけあってな、イノシシのように制止の難しい人間もおる。吾輩の真摯な意見を破ってまでその艦に制裁を加えたい部下がいたとしても、止めるは難しいし責めるわけにはいくまい?」


 ガスラーは考えた。この提督は何を言ってるのだろうと。客観的事実を並べればクレセント艦がポートベル内にある帝国敷地を砲撃。怒った帝国艦が報復して沈めたと。そういうことのようだ。破損した艦と威風の帝国艦隊。両者を見比べれば、疑いようもない。しかし、何かがおかしい。


 それが何かとっさには分かならからなったが、リーゼライがヒントを出した。


「帝国の手際が、よすぎるよ」


 ウンベッター艦長は地面に置いた拳を握りしめる。かなりの力が入っているようで血の気がなく真白の拳だった。ぶるぶると唇を震わせ、喉の奥から絞り出すように言葉を発した。


「オレの、オレの艦を操って、自分のところの屋敷を砲撃したのか」


「どうだろうな? いや、貴様の部下が貴様の不在中にしてかしたことだろう。平民の艦長は配下の躾が苦手なようだな。何はともあれ、クレセントの艦が帝国を攻撃したのは、動かしがたい事実。せっかくの新造艦が沈没寸前だな。同じ船乗りとして残念至極なことだ」


 テゼールの口は相変わらずいやらしく笑ったままだが、その目は正しく語っていた御名答(・・・)と。


「きっさま――!!」


 ウンベッター艦長が立ち上がって駆け出した。テゼールの横面を殴ろうとしたのだろうが、それよりも素早く提督の部下が、長い金属棒を構えた。


「艦長――!!」


 ウンベッターの前に、危機を察した彼の部下が割って入った。

 鼓膜を破るような突発音が、ガスラーの耳の奥に届いた。


 これは……銃撃音だ。


 ガスラーたちにはすでに耳慣れた音。芝桜が生み出し、自分たちも散々使いまくった武器が発したのと同じ音だった。でもあれは、モコトと芝桜しか作れない物だ。複数の国を旅するガスラーでさえ、話にすら聞いたことはないのだから。


「フゥレン……? おい」


 ウンベッターは、どさりと倒れた部下の女性をゆすった。フゥレンと呼ばれた部下の身体から赤い血が流れていく。とっさに駆け寄ったのはフェアバール。傷の場所を確かめるなり治療魔法をかけ始めると、フゥレンの身体が淡い光につつまれた。


「忠実な部下ではないかバルージュよ。これは銃といってな小型の大砲のようなものだ。魔法使いの少ない我が国が魔法大国とやり合うのだ。兵器は常に新しく考えだされるのが当然だろう」


 包囲を終えた帝国の兵士がずらりと銃を構えた。これでは動けない。こんなときは、モコトさんがなんとか……。


 のそり。


 存在を無視し視界から消していた男がメイドに支えられ、重そうな尻の肉をどうにか動かして膝から立ち上がった。シエラが憎々しげに刃物を取り出そうとしたが、水兵から銃を突きつけられ刃物を奪われる。


「いやー、テゼール卿。みごとなお手並みですな。このカントナ、感服致しましたぞ」


 まるでブタのようにでっぷり太った男の声には、ガスラーの心を逆なでする不快感がある。大げさに手を振るたびに飛び散る汗。何滴かがぴちゃっと服に着いた。お気に入りだが焼却しなきゃいけないと決める。


「いやなに。カントナ卿の策があってのこと。貴殿も無事役目を果たしたようでなによりだ」


「なかなか、冷や汗ものでしたがな。はっはっは」


 リーゼライのほうを見やりながら、口走る。


「して。その子供が例の村の?」


「その通り。たくさんいますが、三人(・・)がツェルト村の子供ですね。名前は、パス、クラウディ、それと……」


「いや、名前などはよい。シュベーラー伯爵の元へ連れていくだけのことだからな」


 テゼールは、治療しているフェアバールとウンベッター提督へとさらに近づいて、ひょいと手をかざした。






 恐怖。それからことは恐怖でしかなかった。ガスラーは思い起こす。

 結果として、自分ひとりだけがその場に残されるまでの、短い時間のことを。






 テゼールが手をかざした瞬間、三人が消えた。


「え?」


 誰かが、疑問符を浮かべた。リーゼライか、カレンか。

 ひょっとしたらガスラー自身だったかもしれないが、何があったか認知を越えていた。ウィルの空間に戻ったのかとも思った。


「オッサン! 何をやった!? フェアは、フェアをどこへやった!!」


 叫んだのはリーゼライ。

 どこへやったと、そう言ったか?

 テゼールが消したということは。


「転送魔法? そんなことが……」


 できるはずがないと言ったのは、レガレルだ。リーゼライがテゼールへ殴りかかるが、彼はその兼を飼わそうともせず、ただ消えた。


「威勢がいいな小僧。魔法使いだろう貴様は?魔法はどうしたのだ?」


 次にテゼールの声がしたのは、すぐ後ろから。

 ガスラーが振り向くと、視線の先にあったのはパスだった。


「パス!」


 パスは、カントナに抱えられていた。逃げようもがくがメイドの短剣が細い首を抑えた。シエラが金切声を上げて飛び掛ったが、あと一歩のところで間に合わない。メイドを合わせた三人が消え、また港からいなくなった。


「聞いておるぞ。シエラといったかな?サジタール家の。クレセントに不幸を招いた末裔が御家再興を語るなど。まったくくだらん」


 シエラが、どこからか木製武器を取り出した。十勝川が使っていたのと同じ物だとガスラーが見立てる。


「パスを返せぇ!」


「伯爵への取入りに失敗するや、今度は義賊きどりか。その変節は家風よな」


「うるさい!」


 鋭く武器を振り回すが、今度も届くことはなかった。テゼールは、クラウディのところに現れると、彼をも消してしまった。


「クラウディ!」


 身体を抱えて離すまいとしていたカレンだったが、カレンを残して少年だけが腕の中から消えてしまったのだ。


 ちょこまかと消えては現れるテゼール。身体の動きを止めてしまえば、転移もできないだろうとと考えたらしいレガレルが、魔法を使おうと呪文を唱える。


「足を固めろ、シルトブロック!」


 だがその魔法は、まったく発動しなかった。


「な、オレの土魔法が」


 壮年の提督が悦にひたる。


「小僧。聞いてなかったか?我輩は言ったろうが。兵器は常に新しくとな。レジスト兵器なんてものもあるのだ。いつでも魔法が使えると思うなよ?」


 じゃらりと袖をめくると、腕輪を振り上げて手首に巻いた金属の見せびらかす。

 数秒ほど見せて満足したのか、首をこきこき鳴らして腕を下ろした。その腕は、手の届く範囲にいたカレンを突き倒す。レガレルは、よろけたカレンを受け止めるのをみるなり、テゼールは手をかざした。


「貴様らも消えろ」


 なっ。レガレルの一言だけが宙に残り、二人はいなくなった。

 それと同時に左右から襲い掛かったのは、シエラとリーゼライ。


「こぉのぉ~、フェアを返せ――」


「パスをどこにやったぁ――」


 そして、その二人もあっけなく消し去る。





 再び静寂が訪れた。





 ウィルの空間から戻ったのは、いつのことだったろう。あれから時間にして何時間も過ぎたように感じるが、実はほんの数分も経っていない。自分の仲間たちは、たった一人ガスラーだけを残していなくなってしまった。


「みんな……」

 

 ガスラーが、王都へ連れていくべき人たちはいなくなったのだ。

 直ぐ側の桟橋に当たってくだける波の音が、とても遠くなる。

 潮の香りも今は感じない。


 コキコキ。首を鳴らす音がやけに大きく聞えてきた。


「疲れたな。たくさん働いたからな。我輩は艦に戻るが後は予定通りにな。言うまでもないが商人はいらん……シリウチいいか?」


 それだけを言い残すと、テゼールも居なくなった。

 残ったガスラーには、二十を超える銃口が静かに向けられた。



やっと5章が終わりました!!

構想的には7章まで。


なのに、6章のプロットがまだだったりします。

いつも自転車操業の自分としては、20も30もストックを持てるパワーがうらやましいところです。

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