27 デュエル攻防
「これね。〔直接操作〕っていうんだ。アニメにある五感VRみたいなものよ」
「便利そうだな。それをくれ」
「ってことは?」
「デュエル、ってことだ!」
トカチガワが、身体にビシっとフィットするビジネススーツのボタンを外した。
裏地にならんだナイフホルダーから取り出した一本は、前回とおなじみ刃渡り30センチほどのサバイバルナイフ。片方が刃でもう片方がノコギリ状になっている、野外向きの万能ナイフだ。
少し違うのは、刃の部分が赤く熱く輝いてること。
「ヒートナイフ?」
「ご名答。こいつは、多少の防御なら熱で斬りふせる。そしてこれだ」
ナイフを左へと持ち替え、右手を背中の襟元に差し込む。そこから取り出したのは、シエラも使っていたトンファーだ。
「背中から引っ張り出すのは、バットかフライパンって、お約束を知ってる?」
「サブカルオタクの常識なぞ知らん。二刀流のオレを以前のままだと思うなよ。ふっふっふ。」
やる気満々の十勝川は、両手の獲物を見せびらかしながら不適に嗤う。対する芝桜藻琴は、短めの木製の剣を取り出した。木剣は前方の右手に持ち、左手は人差し指と中指を揃え肘を弓なりに頭の上で構える。
目でフェイントかけながら、互いに飛び込む瞬間を測っていた。ジリジリとミリ単位で間合いを詰め、隙のタイミングを待つ。
ウィル空間のど真ん中で相対する十勝川と芝桜だったが。
「トカチガワ? あんたトカチガワでいいんだよね?」
空気を理解しないシエラが、あいだを割って質問してきた。
「ここはどことか、なんで身体があるのとか、色々とわからないことだらけで、説明してほしいんだけど。――そこで何やってるの?」
「後にしてくれ、時間がないんだ」
会話の最中にもデュエル時間は進む。十勝川は、繋いだ緊張感を手放すまいと、敵の瞳を見据えたまま返答。むしろ話しかけないでくれと言いたげだ。
「わたしは、パスを取り返しにきたのよ。遊んでる場合じゃないの」
「オレだって遊んでるつもりは無い。これは因縁なんだ。オレとこいつの……ウィルのな」
「答えになってない……」
揉めはじめた二人を静観する芝桜は、定められたデュエル時間は刻々と過ぎていく中で、どうでも良い気分になっていた。前回のもそうだったが、この戦いは突発的事故のようなものだ。戦おうとか勝とうとか、覚悟の欠片すらない状況でいきなりの開始だ。
いまところ、ウィルは二人しかいない。それが、ブロック戦でスキルの奪い合いをしてるのだ。神とやらが設定したかも知れないが、落とし所というか、デュエルの意味がわからない。
もう中止にしようか。そう言いだしそうになったとき、十勝川の答えを諦めたらしいシエラが、いかみにしぶしぶといった風にワキへと避ける。
「とりゃー」
シエラが視界からずれた直後、武器を振り回した十勝川はが、奇声をあげながら芝桜へと飛びかかる。
あーあ。あんなに真剣な顔して。生きていたときに常備してた、口元のあの嫌味が消えてるっしょ。
何があったのか知らんけど、苦労はしたみたいね。前の宿主だった炭屋とも今のその娘とも、上手に接してるじゃない。その付き合いの良さが半分もあれば、あんな、人を陥れるような真似は仕出かさなかったろうにね。あそこで死ぬことも……。
その一撃を軽く受け流した芝桜は、避けた円運動を殺すことなく身体をひるがえすと、半身に背中をさらした十勝川の頭を狙って、木剣を振り下ろしていった。
「ほいよっと!」
避けられて体制を崩した十勝川だが、上半身だけ無理やしひねって、芝桜の攻撃をトンファーで受け止めた。
ばっしん!
ばっしん!!
受けては返す。返しては受ける。手足をかすりはするが、決定打がでない。
どちらも、いつの間に磨いていたらしい剣技で、互いのHPをすり減らしていった。燃え上がってしまった戦いは終わる気配がない。
「ふぁ~」
間近で眺めてた暗殺技を見につけてるシエラはあくびをかみ殺した。十勝川に聞くのはとりあえずあきらめると、中央を挟んで反対側のパスをみつめる。彼の頭をなでて、親しげにしている少年たちのほうへ、スタスタ寄っていった。
「ねぇ君たち。訊きたいことがたくさんあるんだけど、あおれは後からあいつに聞くとして――その子を返してくれない?」
最近ようやくガスラーに慣れてきたレガレルは、美人さんに免疫が少ない。ガスラーを上回るスタイルの良い金髪美人シエラが話しかけられると、がちがちに固まってしまった。
その横、レガレルから体調回復魔法をかけられていたパスは、一日ぶりで会うシエラの姿にホッとしていた。
「シエラ、ぼく……」
君と呼ばれたリーゼライは、面白そうな目つきで首をかしげた。
「返してといわれても……」
「パス。村へ帰ろう。わたしが連れてってあげるから」
「シエラが? 帰れるの?ママのところへ?」
「うん。絶対に帰すから」
リーゼライは、誰もが思う当たり前の疑問点を問いただした。
「あのー。あなたって誘拐犯ですよね?」
トッパの息子パスをさらったのは、紛れなくこの女性とほかにもいる誰かだ。自分たちは、シャリーハットに頼まれて取り返しに動き、無事なパスを取り戻すことに成功した。
なのに今、その犯人がパスを返せという。村に連れて帰るからと。パスのほうにも、嫌がっている風はどこにもない。友好的な関係が築かれていることはその様子からうかがえるが。
レガレルは、二重の意味で展開に追いつけてない。いつものツッコミさえ忘れ、ぼかんと口を開けたままだ。
「そう、わたしたちが実行犯ね。そしてあそこの太りすぎで動けない男が首謀者側の一人。ついでに言えば、わたしたちを殺そうとした人」
その男も、メイドに介抱されながらシエラの動きを追いかけていた。口をへの字にし、シエラから、フェアバール、クラウディを順に見る。そして興味を失ったのか、中央で戦う二人へと視線を移していった。
ウィルの空間に巻き込まれれば、冷静でいられなくなるのが普通だ。この状況で戦いを静観してられる神経に、リーゼライは不気味さを感じた。
「誘拐の理由はわかってます。あなたは、心変わりをしたと言いますが、パスを渡すわけにはいきませんね。誘拐犯という件を別にしても、見ず知らずの大人に僕の村の大切な子供を預けられませんから」
「君の村?そう……なら、なおのことね。パスを送り届けないとわたしのケジメが付かないの。後のことはどうでもいい」
「ならば。しばらくぼく達と一緒にいませんか? こちらも知りたいことがあるし、国としては事件の証人になって欲しいと思いますよ?」
「モコトォー、ガンバレーー!!」
フェアバールの大きな声援に、全員の注目が中央のほうへ向けられた。ウィルの戦いは佳境に入ったのか、持っている武器は先ほどとはまりきり違うものになっている。
「こいつは、使いたくなかったんだがな。オレだって、この世界を生きていくのに知識を総動員してるんだぜ」
十勝川が持ち出したのは、二連式散弾銃。西部劇でガンマンが使うことでお馴染みのブレイクアクション散弾銃を模して造ったようだった。
「あれは?」
「あたしたちのと似てるけど、性能は悪そう、カナ」
ぼそり酷評したのはガスラーとカレン。ガスラーは突撃魔銃を使うし、カレンは狙撃魔銃を持っている。今も持ってる木刀状態から変形させるというナゾ武器だ。
「はっはー。飛び道具が卑怯だとか言うなよ。どうせここじゃ死にはしないんだ。思い切りやらせてもら――」
ダダダダダダダダッ!
十勝川の体躯を弾丸が襲った
「口より先に手を動かしなよ。屁理屈が先行するクセは異世界にきても治らないみたいね」
芝桜が抱えていたのは、木製の武装兵器。連射した弾丸はデュエルHPを削り、直前まで勝ちを確信していた十勝川を青ざめさせた。
「あ、あ、アサルトライフルだとおー。お前、部品はどうした? 火薬は? 鉛の調達は? そもそもライフリングは素人では不可能……」
「だーかーらぁー理屈先行って言ったんだ。この異世界。イメージがあればなんでも、できる?」
「なんで疑問形だ。いや、そんなバカなことがあるか!ならば、次はコレだ!!」
内ポケットから取り出したのは、一握りほどある黒色の物体。そういえば渡されたっけとシエラが思い出す。十勝川は無骨に飛び出してるピンを口で引き抜くと、芝桜めがけて放り投げた。
「うわっ、手投げ弾!!」
二人のエネルギーゲインから作られたウィルの空間は、いわば魔法結界のアリーナ。戦いは肉弾戦が基本であり、魔法スキルの類いは使えない。いつもなら自律制御のコバンクが飛んでフェアバールを護る。しかしあらゆる物理障害を張り飛ばしてガードする守護神は機能しない。コックピットから操作するような〔重力〕も〔遠隔操作〕も〔自律起動〕も、ここでは不可なのだ。
どうする?
ゆるい放物線を描いて、飛んでくる手投げ弾。芝桜藻琴は、一秒を一万分割したかのように意識をフル回転させ対処を模索する。
斬れば爆発、撃っても爆発。なにもしなけりゃ数秒で爆発しそうだし。HPはまだ自分のほうが高いけど、まともに喰らえば人を爆散させる対物兵器。馬鹿正直に受ければ全損しそうだし、もしかすると、そのまま死んでしまう危険も……あるかもなあ。
蹴り飛ばす?
いや、それもまずい。うまいこと十勝川へ飛べばいいけど、私にはサッカー経験がない。蹴りはあらぬ場所へ行く確率のほうが高そうっていうか、仲間の方へ行くのは、マー○ィーの法則で確定路線。異空間だからって、フェアらギャラリーに被害が及ばないって保証は、無い。蹴るのも却下。
爆発を無効化して、かつ、被害を最小限にする。そんな都合のいい方法。
あるかっつーの!
一日五分で100万円儲かります的な、胡散臭いにげ道なんて――――
あったあ!
一瞬に満たない思考を終えた芝桜は、下降し始めた手投げ弾にダイブ。抱きつくように腹に抱えると床を覆うように倒れ込んだ。
「死ぬ気か?芝桜、それともオレの手投げ弾の威力をナメてるのか!?」
「モコトォーーー!ダメェーーーー!」
「だめ、フェアちゃん!」
あれはヤバイものだと直感したフェアバールは芝桜へ駆けよろうとする。同じく危険を察したカレンとガスラーがそれを食い止めた。
ウィルアリーナの時間がまのびする。
そして、手投げ弾は爆発した。
芝桜のエアマットの下で。
ぽっすん……。
間抜けな音がして、芝桜の身体は跳ね上がった。
爆風も四方へ広がったのだが、ほとんどの衝撃はマットが吸収。破片も飛び散ることなかった。爆破処理が終了した瞬間である。
「任務完了!」
「ば……」
―― デュエル終了! ――
抑揚ないアナウンスのあと、芝桜と十勝川の頭上には「勝者芝桜藻琴」の文字がデカデカと映し出された。
「ばかモコトォー!!!!」
「これ、丈夫だとわかってたからね三枚も重ねれば、命に別状はないっしょ?」
フェアバールが抱きついたののほぼ同時に、ウィルの空間が解除された。
この場の誰もが忘れていたことだが、ウィルのデュエルは莫大なエネルギーを消費する。芝桜も十勝川も活動できなくなるほどに。




