18 緊急依頼
「……とまあ、話はこれで全部だ」
シャリーハット殿下が、モコトのために、さっきまで言ってたことをかいつまんで話し終えた。そのモコトは椅子に戻って大人しくしてる。律儀に、〔直接操作〕だっけ。オヤバンクに居なくていいとも思うけど。
モコトじゃないけど、幼くみえる殿下だよね。シャリーハット殿下。街で会ったら、絶対同い年だと思うよ。
「マジですか? シャリーちゃん」
「パスの誘拐は、ドリーヨーコ帝国の陰謀? シャリーちゃん」
「あのツェルト村って、いつもそうなの?シャリーちゃん」
「辺境の農村が国家を左右するって、変すぎカナ シャリーちゃん」
「き・さ・ま・ら、シャリーちゃん言うなっ!」
シャリーちゃん、あ、いや、シャリーハット殿下が、握り締めたティーカップを粉々にくだいた。
「無理だぞ、シャリーハット。王族の権威は消えたのだ。さっきのパペットとの、じゃれ具合をみせつけられた今は、威厳なとみじんもない」
「ぐ、ぐぐー」
床に両手をついて、へたりこんでしまった。たしかにね。モコトがいないつもりで、さっきのやり取りをみれば、ぬいぐるみを追いかけ回す可憐な少女って一幕だもん。重い会議が、和んでしまってるし。
前に会ったときは、あんなに怖かったのに、いまは気軽になんでもいえる感じ。
気になることがあるので、あたしも、聞いてみた。
「で、その話しをしたのは、なぜですか……シャリーち、シャリーハット殿下」
「フェアバールまで……、まあいい。これからの予定を話しておこう。お前たちは、5日後に出発するのだが、乗ってもらうのは軍艦だ」
「5日後?」
ガスラーさんが、思わず聞き返した。
頭にでっかいハテナマークを点灯させた見える。
「それでは、【合わせ月の焚】に間に合わない可能性があります」
うむ、ガスラーさんに頷いた殿下は、ゆっくり話を続けていく。
「氷虎の騒動に乗ったかどうかはさておき、時間的に、敵はこのポートベルに到着してると考えたほうが良い。いつかはわからんが、早晩、パスを連れ出すだろう。港には、大小たくさんの船舶がある。ドリーヨーコ船が怪しいのは間違いないし見張りもつけてあるか、他の船に乗せる可能性も高い。つまりわからんのだ」
「全部を検閲すれば?」
「それには、わたしが答えよう」
シャリーハット殿下の旦那さんだ。この街の冒険者ギルド長って言ったよね。貴族なのかな。パリッとしたオールバックがかっこいいけど、大人の男って感じで怖い。つい、リーゼの後ろに隠れたくなってけど、椅子に座ってるんだよね。
隣の殿下の手を握ってる。仲良し夫婦なんだ――?
あれ、回復魔法?
割れたティーカップで切った傷を治している。
「このポートベルでは、船乗りや商人の力がつよいのだ。むろん検閲はするが、港湾ギルドやらの圧力もあって流石に全部は無理だ。しかもこの時期、【合わせ月の焚】目当ての観光船も多い。港湾管理に手が回らないというのも本音だ」
旦那さんが目で頷くと殿下が、言葉を継いだ。
「それどころか、たかが子供の誘拐にムキになってと、笑われる始末だ。ツェルト村のことを公にできるはずもない。王大使の意見や誘拐犯の男爵からの話を聞けば、そもそも、それこそが敵の狙いだからな。まったく頭が痛い」
こういうの板挟みっていうの。
それとも八方ふさがり?
それより、回復魔法のほうが気になる。
「そこで、君らの出番だ。ポートベルでパスの捜索をしてもらいたい」
「はい? すでに冒険者や騎士たちが、血眼で探してるんじゃないですか?」
レガレルが、いつものように口をはさんでくる。
そうだよね。あたしたちの出番はなさそうだけど。
「彼らは、カウウルからポートベルまでの街道を探し回ってる。悪いことに、海賊討伐にも人手を割かれてる。とにかく手うすなのだ。そこで最初の話しに戻る。七日間、目一杯、パスの捜索の手伝いをしてもらいたい。その変わり遅れた海路を取り戻すため、王都に向かう高速の軍艦で送るってわけだ。どうだ?」
殿下は、オヤバンク〔モコト〕をチラ見して、あたしたちの目をみて順番に訴えた。
「猫の手も借りたいのだ。協力してくれ」
パスは、あのトッパさんの子供だけど、あたしと普通に接してくれる可愛い子だ。助けることができるなら助けたい、とは思う。リーゼも同じ考えなのか、難しそうな顔になってる。
でも、自分で言うのもなんだけど、【合わせ月の焚】に出場する予定のひよっこだ。捜索なんてやってことないし、ほかの人の足手まといになってかえって、邪魔になっちゃうんじゃないかな。
「あの殿下。あたしたち……ただの魔法使いで、魔法士でもないし。あまり役に立たないと思うけどなあ」
レガレルが大きくうなずくと、あんたは特にそうだよねとグレンちゃんカレンちゃんが同時に言う。なにをー、と拳を振り上げるレガレルを、ガスラーさんがなだめる。
いつのまに出来上がったんだっけ、にぎやかな子供っぽいやり取りは。
貴族や王族前にしても変わらないって、ある意味すごいよね。重くなった部屋の空気をすっと軽くしてくれた。
こんなあたしたちをどう見たのか、シャリーハット殿下が、子供っぽくない表情で目を細める。あ、子供じゃないんだっけ。
「そんなことはないぞ。この前会った時と比べて、魔力が増大してるぞ? 何かしたのか?」
不思議な質問がきた。魔力が増大。なんだろ。
レガレルもワケわからないという顔になる。
「なにかしたっけ?」
なにもしてないけど。
敵味方に分かれて、戦闘訓練?
あと、魔物退治?
そんくらいだけど。
「これも、ウィルの効果なのかもしれんな」
それを聞いたオヤバンク〔モコト〕が抗議する。
「なんでもかんでも、私のせいにしないで欲しいな――常時発動で余分なゲインを〔パーティ配給〕してるだけだよ」
え?
「〔パーティ登録〕している仲間が魔物を退治したりすると、私のほうにマナっていうかエネルギーの源が集まってくるんだよ。器のほうも増えているけど、余って捨てる余剰がでてるわけ。そんなのをみんなに、自動で割り振ってるだけだよ。これといって、変わったことは……」
「そ、れ、だ、ろーが!!!!」
瞬間ダッシュで移動したシャリーハット殿下。背後からオヤバンク〔モコト〕の頭に鉄槌を下した。
パンパンッ
埃をはらうようなしぐさで満足げに手を叩いた殿下は、もそもそと、自分の席に上がる。
「ま、ウィルについては王都でわかることもあるだろう。それよりも、パスの捜査だ。それこそ、ウィルの力があれば見つけることは難しくないと見ているのだが」
キューっと、椅子に沈んでいるオヤバンク〔モコト〕。
ったく勝手に何をやってんだか。
おかげで、断れない雰囲気になってしまったよ。
「この件で後手に回ると、【合わせ月の焚】が開催できなくなる恐れもある。やってくれるな」
そうですね。
国の危機ですからね。
あたしたちは、みんな渋々うなずいた。




