14 エライ人
混雑の収まりつつある通用門。入門を待つ人と馬車の列は、恐ろしげな氷虎に目を合わせないようにしつつも、順当な流れで処理され裁かれていった。
フェアバール達が待たされた場所は、十一ある入り口の十一番のさらに外れ。入門者らの邪魔にならないよう離れておけという厄介払いだった。カイゼル髭の意を汲み、12と彫られた石柱から12メートルは離れていたが、わざわざ近くに寄る者はおらず、8より外側の受付門には閑古鳥が鳴いていた。
少女たちに撫でられ気持ち良さげな氷虎。かわいいという声が時々あがる。興味津々に近づいてくる子供もいたが、すぐに首根っこを掴まれ、列に戻される。
「いつまで待たせるつもりだと思う?」
「ホントに中に入れてもらえるの?」
「追い返されたりして」
「不吉なことを、言わないでくださいっ! 足止めなんかされて、間に合わなかったりすれば、わたしの、商人としての信頼が下がります!本来、【合わせ月の焚】参加者は、無条件で通れるはずなんです」
ガスラーは頭を抱えて最悪とばかりに、よよよとなげく有様は、いくらか芝居がかっている。多少の足止めで間に合わなくなるほど、無理な旅程は組んでないガスラーだ。日数にはゆとりがあった。
「ガスラーさん。あなたが言ったことは正論です。ぼくらは、ここから船に乗る権利がある。そして、氷虎に関しても獣使い証明があります」
「ここはシャリーハット様を威光を信じて待つしかないでしょう」
「成長不足のなっ」
レガレルが付け足した一言がフラグになったのか、怒りの込もった幼い声の人物が登場した。
「誰が成長不足だっ、レガレル!!」
その背丈は十歳のフェアバールと同じほど。むんと、張る胸には大人女性の気配がない。警備兵らと冒険者なのだろうか、十人ほどの集団に連れられ、いや、引き連れた、シャリーハット・サンドバン殿下25歳がいた。
え? なんで?と驚いたのはフェアバール、ガスラー。レガレルの驚愕ぷりは秀逸で後世に語り継がりたいほど。モコトは思わず画像のRECを開始した。
「こ、こ、こ、こ、で、で、で、お、お、お、お……」
「これは、殿下、お久しぶりでお美しい。今しがたも、あなた様の美貌の噂をしていたところです」
屠殺直前の家畜のように丸く震えて平伏したレガレル。そのセリフを翻訳するリーゼライが大仰に首を垂れる。
「わっはっはっ! 空々しいなリーゼライ。そして、横に這いつくばったレ・ガ・レ・ル。今すぐ八つ裂きにして、口を縛って軒下に吊り下げたい思いでいっぱいだぞ」
豪快に言い放つシャリーハット。レガレルに乗り上がるなり、渾身の地団駄を頭に踏む。
「殿下の罪はその純真なおすがた。あなた様の手にかかった断罪ならば、レガレルも喜んでお受けするでしょう」
警備兵と冒険者らもリーゼライを見習い王家への服属を示す礼をとる。シャリーハットは底冷えする笑い声を上げながら、レガレルの背中をぴょんぴょん何度も跳ねる。
「そうであろう、そうであろう。平伏するがよい愚民どもよーわーっはっはっは……」
傍目にも権威ある者王家の人間に見えない上、こうした行為が見た目相応のあどけなさに拍車をかける。遠巻きに見てた彼女を知らない人々は、はしゃいでいる少女貴族の姿に、微笑ましいものを感じていた。警備兵と冒険者の間に、シャリーハットファンが増えたのだが、彼女に伝えないほうが親切だろうか。
「……もういい、バカバカしい」
飽きたのか満足したのか、レガレルから降りてしまった。
「一緒に冒険者ギルドへ来い。話はそこでだ」
良い映像が撮れたとつぶやいて、モコトは映像を保存した。
街の外壁と同じく、冒険者ギルドも壮言な石作りの建物だった。フロアの構成はカウウルに似ており長い受付カウンターと広い待合場がある。併設されてる酒場も広めだった。港湾都市ならでは特色として、室内の壁には碇や舵や縄などの飾り物。依頼の多くも、港湾の事件に関する物が占める。
氷虎をつれた一団にざわめきが走ったが、シャリーハットや見知った冒険者たちを確認すると、興味をなくしたよう平常にもどっていく。
少ない冒険者が集まっていたのは依頼票のある壁。貼られている依頼をちらりとみたグレンの目に、どかんと目立つ依頼票が飛び込む。依頼料は破格で募集人数も多い。頻発する海賊に、駐留する多国籍業を煮やしたらしい。数日前から大掛かりな海賊退治計画が始められていると、冒険者たちが話している。腕に自信のある連中のほとんどが話しに乗ったという話で盛り上がっていた。
階段を上がり、三階フロアの豪華な応接室に入ると、全員座るようシャリーハットがうながす。クレストは壁際に陣取り、珍しく目を覚ましているクラウディは、それによしかかった。王弟姫本人は、奥の机の上に後ろ向きにぴょんと飛び乗って座る。膝より長いスカートから小さい足がブラブラ揺れた。
おそるおそる口を開いたのはレガレルだ。
「ど、どうやって、ポートベルに来たんですか?」
「転移陣だ」
「転移陣?」
『なに、そのファンタジーな響きのあるシステムは?』
「おおモコトか。姿が見えないというのは悩ましいな。この前みたいに、オヤバンクに乗り移らんか」
モコトは、クラウドポーチに仕舞っていたオヤバンクを登場させると、タブボタンを組み合わせて自分と同期させる。オヤバンクはぺこりとお辞儀。いいよと言って、完了の合図を告げる。
「転移陣は、王都や主要都市に設置してある、人を転送できる魔法陣だ。知らんのか? 」
「そんな、便利なものがあるんなら、馬車も船もいらなくなるんじゃ、ないすか?」
「多大な金と魔力を要するからな。貴族でも滅多に使わん」
「そんな大それた魔法を使ってきたんですか? なんのために?」
「わたしは、ここのギルドも管轄している。ギルド長ではないが役人の一人に名を連ねているので、こうしてときどきな。それに……」
めったにない面白い実物を見物にきたとはさすがに言えなかった。氷虎という魔物を連れているなら、入門のときに揉めるのは必須。パニックになって騒動になるのはカンタンに予想できたし、その通りになった。列に並んだと知らせを受けた彼女は、一部始終を影から眺めていたのだ。出来栄えは想見していた以上。会心の観劇に充足感を覚えていた。
「まあその、誘拐犯が、そろそろ、ポートベルに到着してもおかしくないからな。指示をだしたギルド責任者の一人として、ま、気になったわけだ」
言い淀んで誤魔化したが、大正解であったことをまだ知らない。
「この厳重な入り口を突破するというのですか? いや、できなくもないですが」
「できると、リーゼライは思うのか?」
「モコトさんとフェアがいますからね。ごまかしかたはいろいろです。上空から入り込んでもいいし。ぼくならば、さっきのような騒動を絶対に逃しません」
「それはそうか」
氷虎パニックをニコニコ観戦していたシャリーハットだが、自身の立場を省みれば、街に逃げ込んだ連中こそを観察すべきだったか。少々の反省とともに、苦い汗がつつと頬を流れていく。
モリグズとシエラが、カトンナ子爵の屋敷に着いたのはその頃だ。あやふやな記憶をたぐり、騎士や警備兵に出くわさないように神経をすり減らし、潮風の吹く広大な都市をさまよいながら、どうにかたどり着いたのだった。屋敷の門番に言伝を頼むと、拍子抜けするほど簡単に中へと通される。
「屋敷の大さのわりには、人が少ないな」
モリグズが感じた印象だった。屋敷内を案内するメイドの後に歩いていくが、途中、住人や仕事をする庭番、家令などには遭わなかった。パスの手を引いているシエラが答えた。
「そう? 他国の駐在なんだしこんなものじゃないの?」
「貴族の建物には規模相応の風格が必要になる。大きいということは維持の人間も多いものだ。それは他国にあっても同様だとオレは視るが。しがない辺境貴族のオレが言うのも何だが、お前も貴族ならそう思うだろう?」
「う、うん。そうだね。そういえば、少ない気がする。人が少ないわ。うん」
慌てたように付け足すシエラに、モリグズは不思議そうな視線を投げる。
カンフー映画の舞台になりそうだな。十勝川が感想を述べた広い階段の、中央から左右に分かれる右側のほうから二階に上がって、しばらく歩いて、さらに階段を三階に昇る。赤いカーペット敷きの廊下の扉を5つほど移動すると、正面の両開きのひときわ大きな扉の前に到着した。
くるり。洗練された仕草で、メイドが振り向く。
「当主はこちらにてお待ちでございます」
『さて、ここが終着点か?』
モリグズをからかう口調の十勝川。胸元をつかめる相手であったならば、遠慮なく殴っていたかもしれない。終着点だって?どうだかな。
新たな展開の幕が上がる。
プロットは五章までできており、構想は6章まで考えてます。
でも展開が難しく、最近は胃がいたいです。主人公ズ、もっと活躍しろ!




