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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
五章

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12 ポートベル


 石舗装の、ほとんとホコリのたたない街道を一台の馬車が快調に進んでいた。世界初となるベアリングとクッション機能を足回りに従え、恐ろしいほどなめらかに車輪が回り、身体に感じる振動を減らして走る。


 引いてる二頭の馬にも好評のようで、機嫌よく、二割り増しの体感速度で、ぱからぱから駆けていく。


 気分が良いのは馬だけではない。馬車の持ち主で販売権利を持っているシュリ・ガスラーも、うはうは笑いが止まらない。この最新馬車や地図を売りまくって儲け、自分の店を王都に打ち建てるという青写真が脳内に出来上がっていた。


「秘密兵器もいただいたしねっ」


 背中に背負ったバッグはカウウルで入手できた逸品だ。モコトの【クラウドポーチ】に適うものではないが、およそ一部屋分の物品が収納できるアイテムポーチ。ベアリングの専属制作契約か交わしたお礼だとして、鍛冶師から贈られたのだ。これもモコト効果のひとつだが、収納しているシロモノもとんでもなかった。


アイテムポーチに手を入れて長短の棒の感触を確かめると、自分の店がクレセントの全ての街を席巻する様子が目に浮かんでくる。最悪、これを売るだけでも生涯の贅沢を約束するだけの金貨が手にはいると見込んでいる。いまは我が世の春。もはや恐いモノなぞどこにもない。うはうは笑いが佳境にはいった顔は崩れまくり、うら若き女性の矜持を手放しつつあった。


「いけないいけない。捕らぬオークの肉算用になってしまう。堅実に、堅実にいかないと」


 垂れたヨダレを拭き拭き、首をブルブル振る動作を器用にこなしているうちにも馬車は走っていく。そうして短い林を抜け、緑が切れたその先に、次の到着地が輪郭を現しはじめた。


 それは丘のように左右に広がる建築物。距離に霞みながらも太陽に照らされても威風堂々、外的を阻む威厳を失わない。東からやってきた旅人は圧倒的存在感に気圧され、住まう住人らは安心感を覚える。


「見えてきましたよ。あれがポートベルですっ!」


 旅商人ガスラーがドヤ顔で、馬車の住人たちに叫んだ。ワクワク、ドキドキ、驚き。そうしたリアクションを期待したのことなのだが。


「シーン……」


 あーとも、うーとも、反応がない。さっきまであれほど賑やかだったのにこの静けさ。嫌な感じがして、座席の客たちを振り返った。


「誰もいない!」


 どうなってる。理由はわからないが、様子を確かめななきゃいけないと、ガスラーは馬車を停止させる。


「どうどうっ!」


 力任せに制動をかけるが、すぐ止まるはずがない。慣性の法則に抵抗したタイヤが軋むも、急な停止命令を受けた馬も悲鳴をあげた。


 キキー!!

 ヒヒーン!


「ごめん、後で人参をいっぱいあげるから」


 無理やり馬車を急停止させたガスラーが馬をなだめる。背中に張り付けた棒束を背負い直して御者台から中へと大慌て飛び込んだ。


「まさか、落としてしまった? 」


 これはまさしく怪現象だと思っていると、頭の上からミシミシという音が聞えた。首を上げて音のしたほうを眼をむけると、幌の中側が異常に凹んで動いているのが見える。


「全員、馬車の上でしたか」


 ホッと胸を撫で下ろしたものの、次なる不安が頭をかすめる。


「ですが――」


 長旅用に作られた特別丈夫な生地の幌。風雨に耐えてある程度の防寒力を備えるといっても、人が乗るようにはできてない。いつものように、レガレル一人くらいならビクともしないが、少年たち六人を支えられるほど強靭なつくりはしてない。とくに骨組みは。


「――そんなに乗ったら危な……ぎゃー!」


 ほんの小さな切り目が、ぴりりと入ったかと思ったのもつかの間。幌はビリビリと破けていき、乗っていたやんちゃな客たちが、ガスラーの上に落下してきた。


「言ったろうが!ここはオレ一人で定員オーバーなんだよ」


「ふん。レガレルがなんと言おうと、景観の独占は許されるものでない」


「クレストを連れてきたカレンのせいでしょ。爪で破いちゃったし」


「ぐるるる」


「それを言うならグレンだって。寝ているクラウディをわざわざ上げなくてもよかったカナ」


 破いたと言われたクレストは屋根の上に。クラウディの衣服のえり首を、パクリと噛んでおり、アゴで捕まったクラウディはぶらぶら揺れている。


 繰り返すが、彼らが落ちた下にいたのは商人ガスラー。お互いがお互い、罪をなすりつけあってる場所もまた、ガスラーの上だった。


「ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……」


 こんな擬音が相応しそうな、女商人の怒りが目覚める。

 ゆっくりゆっくり、五人の身体は大型ジャッキのような力で下から持ち上げられていって。


「み・な・さ・ん? いいかげん、わたしの上から、どいて、もらえませんかぁぁぁぁぁ??!」


 「ていやー」の掛け声とらともに、馬車の外へと放り投げられた。


「うっわぁぁぁー」


 塊のように石舗装の地面にぶつかるかにみえた五人だったが、激突の直前、ふいっと、何かに支えられる。ほんの数秒、地面から5センチばかり浮いていたが、そこからゆっくりと痛みのない静かなランディングが実現された。五人はそれぞれに、安堵のため息をついていく。


「危なかったー。モコト、ありがと」


 年令も身体も、この中で一番小さな少女フェアバールが、自分の内部に棲むウィル芝桜藻琴に礼を言う。どこからともなく、ビーバーのような大型魔物が現れピョコンと片手を上げた。


「なんの。とっさのときこそ重力制御。だいぶ慣れてきたね」


 これは退治したアーヴァングを剥製にしたもの。通常の飾るだけでの剥製と違い、手足胴体が自由に動くように作りかえられている。名づけて【オヤバンク】。ほかの二匹の小型アーヴァング【ミニバンク】を従える自律製人形だ。今は、主たる制御者である芝桜藻琴によって直接操作されている。


「うあ――!! わたしの、わたしの馬車がぁぁぁ!!」


 馬車の中から盛大な悲鳴。ビリビリに破れかれた屋根の幌を愛しそうに撫でるガスラーが、この旅の何度目になるかわからない悲運を嘆いているところであった。


「破れちゃったけど、あれも直せるモコト?」


「修理や修繕は難しいかも。やっては見るけど期待できないかな」


 モコトは思う。壊れた物を直すくらいなら、原料になりそうな材料を集めて作ってしまうほうがカンタンだなと。


「まぁ。なんとかするよ。後でね」


「ほんとですよ、モコトさん」


 オヤバンクに両手を合わせるガスラーだった。




 座っていた道から立ち上がるリーゼライたち。ぱんぱんとローブのほこりを払うと、改めて、遠くにみえる威風ある街に目を凝らした。


「あれがポートベルだな」


「やっとここまできたか」


 港湾都市ポートベル。急峻な山地で南北に分断されたクレセントの南側の玄関。内陸の他国にとっても内海の産物を入手てきる重要な交易地であり、官民とわず各国の艦船が絶え間なく入れ替わる拠点でもある。


「そういえばうちの村長が、言ってたな」


「大きな都会って?」


「でかいばかりでつまんねー街だ、と」


ぐっと、歯をくいしばったのはガスラー。なんと言うことだ。リーゼライは、枯れきった大人に毒されてしまっている。よほど貧しい心根の親に育てられたのだろう。彼の責任ではないのだと自分に思い聞かせる。


「聞いたことあるけど、魔物は絶対に入れないんだっけ?」


 今度のはレガレルだ。年令標準サイズのリーゼライよりも小さな少年。行動のすばしっこさは、そのまま性格になったように、落ち着きとこらえ性がない。


「そうですよ、護りは鉄壁なんです!」


「出入りが、やりにくそうで、やだな」


「そこですか」


 思わぬ方向での拒絶に、うなだれるガスラー。


 ポートベルは、陸の魔物の侵入を防ぐ巨大な壁に護られている。高さ10メートルに迫る石づくりの壁は、土魔法の上位魔法を駆使して短い行程で形成されたと言われている。深い森から表れる凶暴な魔物への、強固な防衛対策だが人間の出入り口は限られていた。


「すごい壁だね、カレン!」


「そうだねグレン。模様もかっこいいし、護ってやる!って感じが伝わってくるカナ」


 少女たちがわいわいと話す。カレンとグレン。炎魔法村のプルカーンから乗り込んできた双子は、強力な炎魔法使う。広範囲の爆裂魔法を使うグレンに、ピンポイントで的に当てるカレン。性格は似ているようだが、幼児好きと獣好き違という違いがある。


「ですよね? ですよね!」


 この反応だ。これこそガスラーが待ち望んでいた、初めて見る景色に驚きをみせるポーズ。観光案内で喜ぶお客さんの正しい姿だ。


「でも、あそこに並ぶのは。うんざりするね」


「そうだね。できれば並びたくないカナ」


 人間を通すための門は二つ。貴族や軍隊の出入りに使われる大門と、商人や町人や外部の者が出いりする通用関門である。二人が指差したのは後者。朝も遅く、むしろ昼に近い時間。街の中で食事を摂ろうというのだろうか。列は長蛇となっていた。


 巨大な街だけに出入りする人間も多い。身元確認を短時間にさばくために、通用関門は横に長くなっている。最大三十三人の受付が待機し、一度に十一の関が稼働する。それでも列は長い。これだけ離れているにもかかわらず、列があるとわかることが、街の大きさと出入りの多さを顕わしていた。


「国際線の手荷物検査ゲートみたい。流れは結構早そうだね」


「なんですか、それは?」


 モコトは時々、意味のわからないことをつぶやく。



「おう、どいたどいたぁ!」


 突如、遠くから威勢のいい掛け声がした。ここは街道のど真ん中、都市が近いことから、道幅も広く舗装されている。行き交う馬車の数も多くなっているわけで、いつまでも留まっているのは危険だった。


「みなさん早くよけて、道を空けないと踏み殺される!」


 そう急かしたガスラーはと、自らも急いで御者台にあがりこみ、馬達に軽く鞭をふるう。道の端のほうへとゆっくり馬車を導くと、その横を勢い良く三台の馬車が抜けていった。

 

 ガスラーはいったん馬車を止めると、破れた幌にしかめ面をつくりながら、全員が乗り込んだことを確かめた。


「じゃあ、列に並びますよ」


 最後の街が間の前にある。あそこから船に乗れば、王都まで数日。それで旅は終わる。誰もがそう思っていた。



ガスラー視点の、キャラと状況確認というニュアンスの強い回、になりました。

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