7 シバザクラ乱入
神さまに背中を押された私は、そのまま、子供に突進していく。この子に入るとか言ってたか。なんのこっちゃ?
その、肝心の女の子?だけど。
おい。
死にかけてるじゃかねーかぁ!
どうすんの?
どうすんの?
どんどん近づいてくよ。……10メートル……5メートル
……おわっ、ぶつかるぅ!
思わず目を閉じた……
あれ?
衝突してた感触がない。するっとスルーしたような。
ぎゅっと瞑っていた片目を開けると、見たことのあるような小部屋の真ん中いた。
上下左右。というより見渡す全てにはモニターと半透明のコンソールパネル。
コンソールには、指タッチできそうなボタンと各種ゲージ。
手元にあるのは操縦桿か。
「スゴイ! 5倍以上のエネルギーゲインがある!」
そう叫びたくなる、あの、アニオタ垂涎のコックピットに私は座っていた。
思わずテンションが上がる。完全に同じではなくむしろ進化してるっ!
いや、ポイントはそこじゃないだろ。
ここってどこさ?
ぐるりと見回していると、どこからか声が響いてきた。
『何もできないで』
『このまま、終わるのかな』
どうやらここは、あの子の中みたいだ。ロボットだったん?
そして神様が言ってた「おなじみのやり方」がこのコックピットってこと?
『暗くなってきた』
『身体の感覚が無くなる』
あ、そんなツッコミしてる場合じゃなさそう。
なんとかしないとマジで死にそう。マニュアルはないのかな?
目の前には、さっきの大きな黒いゴブリンが映っている。
正面のゴーグル型の大きなモニターに移る景色が、左右に振れる。
これは女の子視点っぽい。
ともかく。
これ以上の傷はヤバイ。
まずはこの子を守らないと。
この子が死んだら、中にいると思われる私も危なくなる・・・気がする。
モニター下にあるタブレットのようなパネルをさわる。
タブレットとPCのツリーメニューの合体版みたい。
指で触れて、右下に【子メニュー】が出たり出なかったりする。
あった!
〔衝撃対策 5〕のボタン。
横にある小さな数字はエネルギー消費量?
〔衝撃対策 5〕をタッチしてみる。
おお!
女の子が、無色の幕で覆われたようだ。
《もっと、いろんなことしたかったなあ》
「ちょっと待ってね」
パネルを探って、止血とか回復ができないか探していく。
「あいつ、不親切だなー、マニュアルの読み方くらい教えろっての」
女の子の声が聞こえるということは、こっちの声も届くはず。
「私の声、聞こえるかな? 死んでないよね?」
《なに? なに、この声?》
よかった。意思の疎通はできるようだ!
「あー、生きてるね。今、あなたの身体ガードしてるから。修復したいんだけど、使い方が不明中なの」
あった!
■ 回復・修復
〔フェアバール・G >画像〕
これだろうきっと。身体の状態を表してそうな略図を発見。
一番上に出しとけっての!
えーと。頭部と腹部が赤くなってるな。
赤が損傷を表してるようだ。
赤くなってるところタッチ。
止血と回復の文字が展開する。ここにも数字がある。
まず、止血してと。
やった!血が止まった!
で、次はキズの回復っと。
略図バックライトすべて、赤から薄い青へと変わった。
カラーの意味をチェックする。濃いブルーが完全回復らしい。
いまは青が薄い。疲れが残ってるってところか。
あれ。さっきのエネルギーゲインが、半分まで減ってる。
さっきの数字がそうか。使うと減るのか。
減った分のエネルギーってどこから持ってくるんだろう。
ガンっ!
コックピットが揺れた。
デカイゴブリンが攻撃してるのだ。
獣と人が混じった顔がモニターにドアップ。
怖いです。正直いって逃げたい。
硬いガードで護られているから安全みたいだけど、いつまでもこのままってわけにはいかない。ツリー型メニューをタッチしてみていく。
■ 戦闘
〔物理防御〕
〔衝撃対策 5〕
〔熱対策 5〕
〔毒対策 5〕
〔魔力防御〕
〔水魔法対策 5〕
〔風魔法対策 5〕
〔火魔法対策 5〕
〔土魔法対策 5〕
〔光魔法対策 5〕
〔闇魔法対策 5〕
〔全魔法対策 30〕
〔範囲拡張 1mにつき 5〕
■ 常時
〔通話〕
〔フェアバール・G 0〕
〔周囲全体 1mにつき 1〕
〔対象A 2〕
〔対象B 2〕
〔固有登録〕
〔移動〕
〔浮遊 1分につき 2〕
〔瞬歩 10mにつき 5〕
〔転移 500〕
〔地図〕
〔オートマッピング 1〕
■ 直接操作
〔〕
■ 遠隔操作
〔〕
■ 追加効果
〔風〕
〔水〕
〔火〕
……。
いろいろあるんだな。順番で試していきたいところだけど、いまはかまってられない。
攻撃ワザっぽいのが欲しいんだけど、見つからないんだなー。
ミサイルとかレーザーとか期待してるんだけど。
『ゴブリンに叩かれてるのに、痛くない。あたし。生きてるの? もう死んでるの? 』
なんだか、この子も余裕が出てきたようだ。よし。もう一踏ん張りしてもらおう。
「ねえ、あなた、魔法使えるんだよね?」
『誰? どこから話かけてるの?』
「そんなのは後で話すから。まだ、魔法使えるよね?」
『うん。少しなら』
「よーし。身体を浮かすから、みんな倒しちゃって!」
そう告げて〔浮遊 1分につき 2〕を選択する。
おお、景色が下になっていくよ。
どういう仕組みなんだか、考えないようにしよう。
『わ、わ、なにこれ??』
操縦桿とペダルで感覚的に操作。
ゴブリンから届かない、でも離れ過ぎないくらいまで高く上がる。
「いまよっ。ありったけ攻撃して!」
『わ、わかった。黒いゴブリンに突き刺され ウォーターアロー! ウォーターアロー! ウォーターアロー!』
おおー。水の矢だ。スゲー。
どんどん突き刺さっていく。
でもまだキズが浅いかな。致命傷を与えるにいたってない。
「斬り刻む魔法はできる?」
『じゃ。斬り裂け! ウィンドカッター! 』
ちょうど突き出していた右腕を切り落とした。
やった・・・が、戦意はまだ消えてない。しぶといのね。
「グ、グヌヌ……」
一声唸ると、ゴブリンは村人達の方へ踵を向ける。
攻撃対象を変えたようだ。攻撃の届かない空中の敵に見切りをつけたらしい。
村人達がピンチ。だが、敵は腕を一本無くしているのだ。
どれほど強い魔物が知らないけど、戦う力は削いでる。
残っている片腕を落とせば、それで終わり。
止めることさえできればいい。
勝てるぞ。私は腕を振り挙げて高揚する。
「がんばれ。もう、一押しだよ」
『も、もう、魔力がな……い……』
女の子は、そう言うと黙ってしまった。気を失った?
状況が悪化したようだ。まずいんじゃね?高揚していた気分が急激に失速していく。
「ウソっ? どうすんのー?」
私には、攻撃の手段がないのかい?
焦ってパネルを操作するのだが、武器のようなものはやはり見当たらなかった。
そうこうしているうちに、浮いてる高度が下がってくる。
ペダルを踏んでも、さっきのようには上昇できない。
何故か、私もだるくなってきた。
「どうしたんだろう?」
エネルギーを確かめると、ゲージは赤色。ライン位置は一番下に着きそう。
〔浮遊〕の最中はどんどん減っていくのかもしれない。
ジリジリと地面が迫ってきた。
身体にかけてた衝撃対策が消失する。
〔衝撃対策 5〕のボタンはグレイに。触っても反応しない!
やばっ。
地上に落ちれば、女の子もろともゴブリンの餌食になる。
やばっ。
やばっ、やばっ!
足が地面に着いた。
せめて立っていればよかったのだか、気絶してる女の子は、そのまま倒れ込んでしまった。これじゃあ格好の標的だろうが。
村人達が何か叫ぶ。
逃げろと言ってるのだろうか、余計なことを。
注意を引いてしまったろうが!
ゴブリンが振り向いた。
その口元がニヤリと動いた。
槍を構え直して近づいてきた。
「立って、ねぇ、立って」
女の子はぴくりとも動けない。
その中にいる私も、当然移動できない。
このままやられてしまったら、私はどうなる?
また……死ぬ……のか?
槍を構えてくるゴブリン。
あと5メートルほど。
思わず両手で顔を覆ってしまった。
……どさり!
鈍い音が耳に届いた。
覆っていた手の指を広げて、モニターを見る。
ゴブリンの腕が 槍を握ったままで地面に落ちていた。
ゴブリンは、腕が落ちたことに気がつかずに、歩みを進めようとする。
ところが、上げようとした足の膝から下が付いて来ない。
足は、見事にスパッと切られて、膝と腿が離れていたのだ。
身体のバランスを崩して、ゆっくりと倒れていく。
信じられないという、ゴブリンの顔。
何事?
誰がやった?
なんだかわからない。
わからないけど、ありがとう。
助かった……よう……だ。
目の前が暗くなっていく。