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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
五章

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6 オーク戦の後

 三人が、グレンのカレンの元に駆けつけることができたのは、それから十分ほども後だった。オーク殲滅には五分とかからなかったが、走りにくいでこぼこの林の移動に時間をとられたのだ。棒に戻した魔法武器(マジックアーム)を杖にしてなだらかな斜面を登っていく。


「ハァ、ハァ、二人は、大丈夫!?」


『苦戦はしてたけど無事。さっきまでは……』


「さっきまで? あ、リーゼ!」


 現場にはリーゼライが一足早く到着していた。再会を喜ぶべき場面なのだが、視界の先を遮っている邪魔な物体を見るなり、レガレルがため息をついた。


「おいリーゼ、見えないじゃねーか。またまたお前がしでかしたのか?」


 レガレルのいうとおり、一行の視線の先には深い霧が立ち込めていた。グレンとカレンが中で戦っているはずだが、音どころか気配さえ感じられない。


 霧の原因のついて思いを巡らしていたリーゼライだが、自分の仕業だと決め付けてきたレガレルに、むっとした目つきを返す。白々しいほど大きなため息を吐くなり反撃を企てた。


「おいおい、レガレル君。いくら僕が、君には困難な霧の魔法を多用するからと言って、すべての霧を僕の仕業だと決め付けないでもらいたいものだな」


「おーおー、出やがったな嫌味参謀のリーゼくんよ。おめーこそ、土魔法で穴掘ってみろよ。できないクセに」


「なるほどキミ得意の落とし穴だね。自ら入る墓穴を掘る深さを誇るなんて、若いにのに関心きわまりないセンスだ」


 十五歳のリーゼライと十六歳のレガレルが、互いに鼻を突き付け合わす。幼さを滲み出してる子供っぽい喧嘩の真ん中に、十一歳のフェアバールが割って入った。


「二人とも、なに言い争ってるの? 早いとこ霧を晴らすよ」


 先にフンっと、言って離れたのはレガレル。

 やれやれと、肩をすくめて挑発を継続するリーゼライ。


「これだから、子供は……」


「なにおー?」


 売り言葉に乗ったレガレルがリーゼライに殴りかかるが、逆に腕をとられて投げ飛ばされた。投げられたレガレルが相手の腕を放さなかったために、リーゼライが一緒に転等。二人は倒れこむと、そのまま絡み合い、寝転びながらの乱闘が始まった。リーゼライが上に乗ると、レガレルは足を絡めて引き倒す。さながら柔道の寝技の応酬だ。ケンカというより、子猫の兄弟ががじゃれついているような一幕である。


 さんざん暴れ倒して、どちらの動きも止まったところで、フェアバールが水魔法をぶっかけた。ホコリだらけのところに水が撒かれ、どっちともドロだだけになってしまった。


「ぺっ、冷めたい汚い!」


「ひでーじゃねーか、フェア」


 怨み言をいう男ども。


「まだやるつもり?」


 キッと見上げたものの、仁王立ちで見下ろしているフェアバールのひと睨みに圧倒されて黙り込む。しかたないと言って、渋々、矛を収めた。


『こんな時に、なにをやってんだか』


「ほんとにね」


 旅に出てからは初めてだが、こうした男の子どもの戯れは村では珍しいことではなかった。辺境に生きる人間の暮らしは過酷だ。なによりも身体が丈夫であることが生きるうえで重要なのだ。アドバンテージとしては、魔法使い能力よりも高い必要がある。ケンカは、身体を鍛えられついでに、魔物退治の実戦にも役立つ。村ではわりと推奨されており、ときに娯楽の対象にもなっている。もっとも、戦闘技術としては素人なのだが。


 呆れた風のフェアバールだが、表情には余裕がみえた。リーゼライとレガレルがふざけていられるのは、グレンとカレンの無事を確信しているからなのだ。あれしきのことで殺られる二人ではないと、ここにいる全員が信じている。


「二人は、自分で勝手に乾かしてね」


 フェアバールはそう言うと、両手を広げて着ているローブを左右に背に払って天に向かい大きく腕を開いた。手の平に魔力がみなぎってくるのを感じると短い呪文を唱えていく。


「立ち込める霧を風の威力にて消し飛ばせ、ウィンドストーム!」


 そよと風が吹いたと思うや、すぐに強風へと変わり始める。魔法が作り出した広範囲の風は、木を傾がせ、枝を曲げ、葉を剥ぎ取っていく。数分とかからずに辺りの霧を吹き飛ばしてしまった。霧の消え方にやや違和感を覚えるが、一切がなくなったのことに満足すると魔法の風を消滅させた。


「グレンさん!、カレンさん!!」


 待ちきれないガスラーが、双子の名前を呼びながら林の中に走り消えていく。視界が開放され、丘の林のその奥まで見透せるようになると、フェアバールが続いた。風の魔法で身体を乾燥させたリーゼライとレガレルが、ホコリをパタパタ落としながら、後から追っかける。


「あそこっ!」


 どこにいるのかと思う間もなく、ほど遠くない場所に双子の姿があった。


「来てくれた!」


「おーい! こっちだよー!」


 大樹の根元にぺたりと座り込んでいるグレンとカレン。焼け跡が点々としている林の中で、草が張り付き泥に汚れて疲れた顔をしているが、五体無事であることが確認できる。


「これって」


フェアバールが息を飲み込んだ。


「これは…たしかにすごい。よく生きていたよね」


 その視点の右墨に映るモコトも同意する。幹から無くなっている木があったり、地面が深くえぐられていたり。画面に収まりきれないほど、大きく散った燦々たる光景は、戦闘の凄まじさを物語っていた。


 双子を中心とした広い範囲には、倒されたオークがあちらこちらに散らばっていた。数は二十を軽く超えているだろう。フェアバールのすぐ足元にも、血を流した二匹が死んでいるし、向こうのオークは手足が無残にもがれている。あれはグレンの魔擲弾砲(グレネード)の犠牲者なのだろうと、フェアバールが推測する。さきほど自分の後ろで粉々になった大岩の残骸を思い出しながら。


 用心深く四辺に目をやって警戒しているのはリーゼライだ。まだ生き残っている魔物がいるかもしれない。その目が、正面の木の上でプカプカ浮かぶミニバンクを見つけた。遅れて付いてきたオヤバンクと合わせれば、防御面で頼りになできることが実証されている。思い至ったとたん肩の力を抜けていった。


 最初にグレンとカレンの元に到着したガスラーが、言葉で無事を確かめる。


「ふ、二人とも、大丈夫ですか?」


「まあまあ、ね」


「どうやら、生きてるカナ」


 少し遅れたフェアバールは、双子の前にしゃがみこむなり、息を整えることさえもどかしそうに怪我の状態を診断する。二人とも怪我はしてるが命に関わるほどではない。グレンのほうが軽そうだ。自分の初級魔法でも治せるはず。


「痛くない? いま治すね、レガレルはカレンちゃんを」


 怪我の深いカレンは、中級魔法の使えるレガレルに任せよう。カレンの左手からは中着の袖口が破れて、生々しい傷が覗いていた。


「血がでてるじゃねーかカレン。治癒魔法で直してやる。腕を出せ」


 差し出されたカレンの手を優しくつかんだレガレルは、慣れた手つきで水魔法で汚れを洗い流して、すぐに傷を治す魔法をかけていく。


 いつもはレガレルに憎まれ口をたたくカレンが、大人しくされるがままになっている。少し嬉しそうなのは、傷を治してもらってるからか。ほほには赤みがさしている。


 ぐるるる。


 その時、大樹のかげにいた魔物が唸り声とともに姿をあらわしてきた。


 いち早く、目つきが鋭くなり警戒度を高めたリーゼライだが、すぐさまレベルを引き下げる。


 誰もが不思議そうに首をひねりはするが、あまり驚いていないようにえる。普通なら驚いて逃げる状況なのだが……現れたのは氷虎だった。頭の毛がトサカのように立っている最近見慣れてしまった白い魔物だ。


「クレスト? なんで?」


 氷虎のクレストは、グレンの足元にゴロリと寝転んだ。レガレルがふと見れば、カレンの膝の上にも、いないハズの人間が眠っている。


「クラウディも。なんで?」


『レガくん、気づくの遅過ぎっ』


「きっと、カレンに見とれてたんだろうな」


「な、な、なにを言う?」


 ある意味間違っていないが、リーゼライがからかわれたレガレルが、顔を真っ赤にして怒った。


 カレンのほうは、レガレルに治療を任せているのと反対の手で、クラウディの頭をなでなでた。


「この子が助けてくれた。そうじゃなきゃ、わたしたち死んでいたカナ」


 治療を終え名残惜しそうにカレンから離れたレガレルが、妙ちきりんなことを言うなと小首をかしげた。


「こいつが? どうやって? 子供だろ」


「霧の巨人……」


『おー――――!伝説の巨人ね!』


 巨人という単語の登場にモコトが乱入。この手の言葉が大好き魂の琴線にひっかかり、テンションが上がり始めた。


「好きだよね。巨人って言葉」


 呆れ顔をするフェアバール。

 こうなると、一通りしゃべり尽くするまで止まらないモコト。その性格を、最近把握しはじめたところだ。


『巨人だけじゃないよ!ほかにも転生とか異世界とか時間旅行とか、仮想世界(バーチャルワールド)ってのも……』


 すいっとリーゼライが前にでる。フェアバールを見つめると、その奥に居住しているモコト目掛けて、桐のような一言を放った。


「ちょっと黙っててください。アラサーの騒がしい幽霊(ポルターガイスト)さん」


『グハッ!』


 喋りを強制中断させたリーゼライの手腕に、惜しみない拍手が沸きあがる。

 凍結(フリーズ)するモコトを黙殺し、カレンに問いかけるレガレル。


「で? おとぎ話に登場する巨人がどうした?」


「それが、この子カナ」


 愛おしそうに、柔らかな頭髪をなでるカレン。うんうんとうなづいているのはグレンだ。


 そのすぐ側で倒れているオークどもは身体を圧迫されていた。まるで巨大な手で胴体を掴まれ、握り潰されたかのような形状だった。


「クレストの背中に乗ってやってきて、いきなり霧になったカナ」


「ウソ、だろ?」


「ほら。いくらあたしたちが強いと言っても、オーク多すぎだし。多勢に無勢? 二人とも、弾切れになっちゃってね。武器の再装填時間(リロード)は、もっと短くならないん? クラウディたちがこなかったら、危なかったよ」


 グレンが補完すると、みんなの視線が、クラウディとクレストに集まった。


 ぐるるる。


 クレストが、グレンの顔に頭をすり寄せる。


「あ、お前もがんばったね」


 グレンに撫でられて気持ち良さげに目を細めるクレスト。氷虎という凶暴な魔物ではなく大きなネコにしか思えない。まして、カレンの膝で穏やかな眠りを貪る幼児を、無垢で無害な子供ではないと看破するのは無理があった。


 じっと考え込んでいたリーゼライだが、その横でフェアバールが口を開いた。


「二人がそういうなら、間違いないんだろうね。巨人だろうがなんだろうがあたしたちの騎士救ってくれた恩人だよね。じゃ、今日の訓練はここまでにしとこうか。お腹も空いたしね」


「そ、そうだな。新しい武器の使い方もわかったし。オークの乱入は予想外だったが、収穫があったっつーことで。うんよかったよかった!」


 まとめたフェアバールに、レガレルが陽気に答えた。

 リーゼライも自らの思考から戻る。


「そうだな。ではまた倒した魔物を収容するか。モコトさんお願いします」


『アラサーのポルターガイスト、アラサーのポルターガイスト、アラサーガイスト? アラポスト?』


 モコトの精神は、凍結(フリーズ)から逡巡(ループ)へ移行していた。


「ほらモコト、宿営場所に戻るよ。オークを回収して!」


『はっ! え? これ全部、回収するの?』


 うへーと、嫌な顔をするモコトだが「オークは食べると美味しいんだよ!」という言葉を聞くと積極的にクラウドポーチに回収していく。オークが次々と消えていき、跡には戦いの痕跡だけが残った。



一話あたりの量が長くなる傾向に・・・


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