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4 チーム訓練中編

 うっそうとした森の奥。魔物と獣たちが思うがままに闊歩する文明を拒絶した世界に、彼らは散開していた。リーダーの男が、【通信機(ヘッドセット)】のマイクに

話す。


「こちらアルファワン。ファイアワンとツー、異常ないか?」


男が口を閉じると間をおかずに、次々と報告が寄せられた。


『こちらファイアワン、異常無し』


『ファイアツー、異常無し。ターゲットの動向変わらずカナ』


「よし。アタッカーワン、アタッカーツーはどうか?」


『えーと、アタッカーワン、配置に着きましたよ、リーゼライさん』


『アタッカーツーも、いいぞ敵は岩の陰だ』


「よし、そのまま指示を待て」


 付近を徘徊する魔物どもの気配を無視して、彼らはターゲットに全神経を注視する。





 話は、一日前まで戻る――


「魔法なしでの接近戦ですか、ガスラーさん?」


 面白い物でも見たような笑みを浮かべたリーゼライが、ガスラーに聞きなおした


「そうです。わたしは魔法が使えないから、訓練でも実践でも足手まといになることが多いし、みなさんもいつでも魔法が使えるわけではないでしょ? 魔力切れの心配もあるから。だから魔法なしの接近戦は必要です。一緒に訓練できますしね」


「接近戦かあ。いつも山仕事を手伝ってしてたから体力には自信があるけど。体術とか剣術ってのは、だめだな」


「斧やスコップを使うのと、剣を使うのは違うよね。グレンちゃんたちは?」


「プルカーンも山の村だから、あたしたちも似たようなものカナ」


 接近戦という言葉に、なんとなく苦手意識を持ってしまうのは、レガレルと双子の魔法使い達。乗り気とはみえない彼の姿勢に、ガスラーは不思議だとばかりに首をかしげる。


「いえ、そこまで深刻に考え込むことはいってません。ほんのすこしの魔法でもつかえる武器みたいなのは、持ってないんですか? たとえば魔法剣とか?」


「魔法剣?そんなもんないよ」


「読み物にある物語の中にはそのような武器も登場してますが、実際に見たことはないですね。むしろ商人のガスラーさんのほうが詳しいのでは?」


「魔法の武器はない?意外ですね。わたしは、魔法村には魔法を使った道具がたくさん使われていると聞かされたことがあったんですけど」


「デマです」


「デマだね」


「そんなものを作るより魔法を使ったほうが早いから」


「そうですか」


『私、造ったけど。見る?』


 さらりとモコトが答えた。

 しんと静まった一瞬。


「えええええええええええええええええーーーーーー !?」


 そんな大合奏をBGMにして、モコトはおもむろに、造った武器とやらをクラウドポーチから取り出して実体化させていった。


「ロッド?」


「マジですか?」


「どれも、ただの棒じゃんか」


 それは、40センチから150センチほどの木製の棒だった。


『見た目はね。持ってなにか魔法をつかってみて』


「ふーん?」


 フェアバールは、一番手近にあった、40センチほどの棒を手に取る。見た目より硬いらしく、ずっしりした重さを小さな手中に感じ取る。


「なにも、おこらないよ?」


『だから。なんでもいいから魔法を使って』


 フェアバールは、光魔法でも使おうと意識を集中させる。半信半疑で魔力をこめると、棒は重みがなくなる。同時に握った部分のすこし先から青白い光をまといはじめた。


「な、なにこれ?」


 木製の棒だったものが、握りしめた柄の部分だけを残して輝く光で形成された剣へと変わる。剣は長くなったが重量が無い。柄の部分だけになったような軽さだ。


『フェアが持ったのは光の剣(フォトンソード)ね。剣を振ってみて?』


「こう?」


 軽く片手を持ち上げて振ってみるフェアバール。光の剣(フォトンソード)を頭の上から降り下ろせば、ブォンという音を耳に届き、光の幕像が目に残った。


『光の残像が見えてるけど、残像じゃなくて防御の幕になってるからね。ほんの1秒間だけど攻撃を止めるバリアをつくりだす。光の塊でモノを斬る剣なんだけど、魔法の種類変えることで、幕は炎や風にもなるよ』


「ふーん?」


 フェアバールは可愛らしく首をかしげる。どういう場面で使うのかわかってないよだ。


『40から200センチまで伸び縮みする。人間の胴体くらいなら簡単に切れちゃうから、魔力を調整してつかってね』


「え?」


 びっくりして、手を離すフェアバール。魔力を失って地面に落ちた光の剣(フォトンソード)は、元の40センチの木製の棒へと姿を戻した。


「またとんでもない物を生み出しましたね。この前の地図とこれとで、世界の版図を塗り替えるつもりですかモコトさん」


『な、なにを言ってるのリーゼくん!』


「ま、冗談です。ここに出した棒は全部が剣です?」


 からかいながらも興味深々で目を輝かせているリーゼライは、中くらいの100センチほどの棒を握った。レガレル、グレン、カレン、ガスラーもそれぞれに、おっかなびっくり触っている。


『ちがうよ。光の剣(フォトンソード)はフェアがもったやつだけだね。ほかのはどれも、棒と飛び道具の兼用を想定したヤツ。射程と効果がそれそれ違うけど』


「ぼくが持っているこれは?」


『それは突撃魔銃(アサルトライフル)だね。魔力を込めてみて。握りが現れるから引金をひけば、最大300メートルまで魔法の弾が飛ぶってしくみ。弾は火でも水でもなんでもOKね』


「凄いものですね。この世界には空気魔法をつかった武器はあるらしいけど小型化できてないんですよ。魔法の弾をコンパクトにてきないらしく、舟に積んだり高台に設置するような大きさになってしまう。どうして、こんなアイデアがでたんですか?」


『くやしいけど。これ十勝川が言ってた言葉がヒントになったんだよね。あいつ、サバイバルナイフとかを作ってたから、私の世界にあるようなミリタリー物が出来ないかと思ったの。で、クリエイト系のスキルを探していたら、いろいろなモノに魔力を通せることがわかった。工房でいろいろと試してみたら、こういうのが……』


「もーこーとーさーーん!!! これ、他にも作れますよね? もちろん、売ってくれますよね? わたしと契約してくれますよね?ね?」


『いや、市場にでまわったりしちゃマズイでしょ』


「そんなこと言わないでー、ね?ね?」


フェアバールに抱きついて離さないガスラーの乱入によって場が混乱する。リーゼライとレガレルが無理やり引き剥がす。とりあえずお腹がすいたということで、夕食になった。






 ―― そして今。


『みんな大好き、魔法武器(マジックアーム)!』


「意味不明だけどつっこまないよ。それで、なんであたしたちだけが、狙われるての?」


『私たちのレベルが、違うからってことらしいよ?』


 ターゲット。もとい、フェアバールとモコトの二人は物置小屋くらいある岩の陰にかくれてぼやいていた。


「モコトが【通信機】? とかいうのも渡すからだよ。バラバラに隠れて誰も見えないよ」


『いいじゃないの。ガスラーさんなんか子供みたいに喜んじゃって。みんな威力を落としてるから当たっても痛いだけだよ?』


「その、痛いのが嫌なんじゃない!」


 ドキュンっ!


 岩の上を一発の銃弾がかすめていく。


『これは、カレンちゃんの狙撃銃かな? 〔マップ〕を禁止されるのがここまで不便だとは。相手とか位置が分からない。きっとここはバレてるから移動しないとまずいよ。グレンちゃんのグレネードも飛んで来そう』


 地球の近代戦を知るはずない彼らがここまで動けるのは、モコトの教えの賜物だ。とはいえ教えた内容というのは自分が見た映画の話。この世界にない戦闘文化を気に入ってしまい、試験的に行なっている最中なのだ。


 フェアバールが岩から顔を出して、周囲を警戒する。20メートルほど離れた林の中から人の影が動き、銃口、この場合は魔銃口が火を噴いた。


 パパパパッ!


 思わず顔を引っ込めると、岩を飛び越えた先に弾が当たる。


「これは、誰?」


『おそらくリーゼくん。これは、囲まれてるね。牽制してこちらを釘付けにして……あ? フェア、岩の反対から飛び出して!』


「え?」


『急いで!!』


 モコトの指示にしたがい岩から逃げ出すフェアバール。もちろん着弾した位置とは反対側だ。自分の武器をキツく握りしめて走り出る。直後、頭上から甲高い笛のような音が落ちてきた。


ヒュ〜ルルルルルル〜〜


 そして背後に着弾したグレンの魔法擲弾(グレネード)が、盛大な爆発音を響かせて破裂する。


ドカーン!!


 岩だった大量の破片が空中に舞う。それは、両手で頭を押さえて突っ伏ししていたフェアバールの体にもパラパラとふりかかった。


『ひぇー!グレンちゃん、加減を間違えたね』


「し、死ぬ……」


 倒れて起き上がれないでいるフェアバールめがけて、レガレルが特攻してくる。両手でかかえた短めの武器は、連射魔銃(サブマシンガン)だ。命中精度は低いが連射性能が高い。単純ですばしっこいレガレルによく似合う。


「ひゃっはー!!」


『どこの世紀末盗賊だ? フェア、立って!』


「うう。」


 パパパパッ


 右に左に障害物を盾に移動しながら、距離を詰めてくるレガレル。奇声はアレだが、慎重な移動には光るものがある。


『早く! レガくんに撃たれたら負けだよ!』


 レガレルの後ろには、散弾魔銃(ショットガン)を構えたガスラーがホコリを舞い上げて駆けてきている。


 急かされたフェアバールは、小石の積もった頭をどうにか上げた。今回は負けだなとぼんやり思いながら、なおも隠れながら走ってくるレガレルの方に目をやる。


「あれ?」


 視界に角をかすめた見慣れない何がが、フェアバールの神経に危険を告げた。


 慌てて立ち上がりながら、魔法を使う為に意識を集中していく。いまにも魔法を放ちそうな少女に驚いたレガレルは、連射魔銃(サブマシンガン)を構えて忠告する。


「おい、フェア! 魔法は禁止だぞ」


 しかし、フェアバールは無視して叫んだ。


「レガレル、伏せて! ウォーターアロー!!」



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