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3 チーム訓練前編


 東西をつないでいる街道は、当然ながら他の馬車も行き交う道だ。隠し事の多いメンバーなので、見られないような最低限の隠ぺいをしておく。


 レガレルは土魔法で壁を作り、フェアバールの光魔法に周囲の景色を投影。馬車とテントどころか広場の存在を消し去っておく。光魔法は時間がくれば消えてしまうが、フェアバールの魔力も上がっており、日暮れには食事にするつもりなのでそれで十分だった。


 寝たきり幼児のクラウディは例のエアマットを枕にして馬車にそのまま。氷虎のクレストは馬車から出はしたが車両の傍に寝なおした。


 爆裂魔法で広場をさらに拡張するなんてイベントは発生せず、訓練はまっとうに始まった。六人プラスモコト達は、チームに分かれた模擬戦を実施。今は、レガレル、ガスラー、フェアバールの三人と、リーゼライ、グレン、カレンの三人に組み分けしている。


 模擬戦ということで威力は抑えるように申し合わせているが、なにせ回復魔法使いが三人もいるのだ。多少の火傷やキズなど顧みない程度の荒っぽい攻撃が繰り広げられる。情勢は、レガレルをリーダーにしたチームが追い込まれていた。


「ガスラーさん、前衛が下がってどうすんの? 前に出て!」


「冗談! カレンちゃんの、火魔法は正確すぎる! わたしの盾が焼き壊されたの見てたでしょう?」


 レガレルが檄をとばすも、ガスラーは動けない。頼りにしていた木の盾が燃えて壊れてしまい、下がるしかなくなったのだ。レガレルはいったん後退して体制を立て直そうと考えるが、グレンの中級火魔法が魔法が後方に炎のカーテンを作り出した。


「これ以上、後ろには下がれないよ。グレンちゃんの炎魔法で囲まれてしまってる」


『とりあえずみんなを〔エリア防御〕したから、反撃の方法を考えて』


 誰もが進退きわまったと諦めかけたところに、モコトが防御スキルを展開して三人を包んだ。これでしばらくは時間を稼ぐことができる。


 いっぽう攻撃で優位に立っているリーゼライチームだが、あと一歩のところで攻めあぐんでいた。


「いいとこまで追い詰めたんだだけどね……」


「ガスラーさんの盾を壊しちゃったけど、弁償しろっていわれないカナ?」


「モコトさんの防御魔法は反則だな。あの状態を何日でも保てて魔力が尽きないって言うし。攻撃側が力尽きるのを待て相手を倒すのは、砦でも落とすつもりの覚悟がないと無理だな。分断して各個撃破するには……」


 先頭にいるリーゼライは、膠着状態を打開するた企てを思慮していると、左後ろにいるグレンが、驚きの声を上げてきた。


「わっ! なにかに叩かれた?」


 カレンが声のほうに目をやると、グレンの頭にポンポンぶつかっている正体が視界にはいった。


「ミニバンクカナ!あ、こっちに来た! 痛い!」


「向こうにはその手があった。グレン魔力を止めるなよ。貫け、ウォーターアロー!」


 高速で飛び回って二人の頭を叩いているヌイグルミを狙って、リーゼライが水の矢を放つ。見事に的中するが、ミニバンクがまとっているバリアに難なく弾かれて水滴と散っていった。水魔法の勢いに押されて動きがとまるが、それも数秒のこと。あん馬を飛び越える体操選手のようにひょいと後方に翻ると、またグレンとカレンの間を行き来しはじめた。


「このぉ。邪魔カナ!」


 炎のカーテンを作っているグレンを護ろうと、リーゼライの応援に加わるカレン。

しかし上部に気をとられてる隙を狙ったもう一匹のミニバンクがグレンの足にタックルしてきた。


「ひゃっ!」


「グレン!」


 なにが起こったのかわからないまま、グレンは草の生える広場の地面に倒れこんだ。集中を途切れて魔力の供給が止まり、レガレルたちの背後を囲んでいた炎の壁が消えて無くなった。


「よし、今だ! 突っ込め」


 レガレルの声で、モコトの〔エリア防御〕は解除。ガスラーを先頭にして三人が突撃してきた。リーゼライも黙ってみていない。


「させるか! カレン壁を作れ」


「いくよ! 軽く火傷の壁を作れ、ファイヤートラップ」


 足元をちょろちょろしているミニバンクを蹴る飛ばすと、自らも魔法をかける。


「よし。霧で俺たちを隠せ、エリアミスト!」


 たちまちのうちに深い霧が立ち込めてきて、リーゼライたちを覆った。駆け込む手前で視界が奪われ、手探りで進むしかなくなったレガレル達。それでも、霧が生まれる前に見えていた相手の位置をめがけて突っ込んでいくが、盲目に走りこんだ先に待っていたのは、カレンが設置した炎の罠だ。


「熱っ!」


「あつっ! これじゃ進めない! フェア! 風魔法で吹き飛ばせないか?」


 すでに伸ばした自分の手先さえ見えないほど霧は濃くなっている。これが森のなかであれば、確実に迷子になっているレベルだ。リーダー役になってるレガレルの指示に対して、異を唱えたモコトの声が敵味方に響きわたる。


『それも、いいけどね。1分待って、決着つけるから』


 何をするつもりだと憮然とした調子のレガレルの声が、霧の中から聞えてくる。

 モコトの戦術に気づいたのは、やはりリーゼライだった。


「こういうのはモコトさんには、通じないか。 こっちも視界が悪い、二人とも大きく退がって! 魔法を解くぞ! 」


 リーゼライがミストの魔法を解いていく。だが一向に霧は晴れていかない。


「どうなってるんだ?」


 なぜだ。魔法解除がうまくいかない。エリアミストの魔法は単純だ。水と魔法を初級炎魔法の応用による短時間に気温差を作るだけだ。魔力を込めれば濃くなって込めた魔力を止めれば、霧は四散する。より早く晴らしたければ軽く風魔法を唱えるが、ふつうはそこまでしなくても消えてなくなる。


 理窟が合わない。濃霧の中で戸惑ってるリーゼライの間を、貴重な時間だけが過ぎていった。


『はい終了〜。フェア、霧を解いて』


 モコトの言葉を合図にして、周囲を覆っていた霧が薄くなっていった。やがてすべてが晴れて、森に囲まれた草だらけの広場と、高い空にはやや茜色が加わった青空が見えてきた。


「フェア……」


 リーゼライの正面には、フェアバールがひとりで立っていた。残る二人はどこかと後ろを振り返る。レガレルはカレンを、ガスラーがグレンの肩を抑えている光景が目に飛びこんでくる。


「やられたな。どうりで霧が晴れないはずだ。フェアは、ミスト魔法を重ね掛けしてたってわけだ。その間、モコトさんの指示でカレンの罠を避けて二人を捕らえたと」


「うん!」


 してやったりと、フェアバールが返事をする。

 今度はモコトのほうに尋ねる、というか確認するリーゼライ。


「さっき、一度だけ声を出したのもワナですか?」


『そ。リーゼくんなら、裏を読んでくきそうだからね。利用させてもらったわけ』


「勝ったどー!!」


 レガレルが全身で吠える。前の模擬戦で負けを挽回できたことがよほど嬉しかったようだ。反対にがっくりと膝を折っているのがグレン。


「また負けてしまった。三敗するなんて」


 グレンは、前の二戦も負けチームに所属していた。人生の自信をすべて失ったかのように、広場の土を握りしめている。袋があれば詰めて持ち帰りそうな勢いである。来年こそ頑張ろう。


「今日はここまでだな。なかなか面白かったし有意義な訓練だったと思う」


 レガレルとグレンは勝敗の喜悲を無視して、訓練の終了を告げたリーゼライ。やっと食事の準備になるが、そこはモコトのクラウドポーチの出番だ。カウウルの街でたくさん買い込んだ出来立てそのままの食事が仕舞いこんであり、暖かいままで食べることができる。


「明日もまた別の組み合わせでいく? でも、ずっと勝ってるのは、フェアちゃんのいる方ばかりカナ?」


 そうカレンが感想を結む。この三戦の感想をまとめただけだが、まったくそのとおりだった。


「しかたないことだろうな。フェアはこの中で一番の魔法使いだしモコトさんの魔法は常軌を逸してる。ふたりを切り離すことはできなから、勝つのは仕方ない。前提が戦い方を考えるのが目的だから、勝ち負けにこだわることはないんじゃないか?」


『ごめんねー。空気読めなくて』


 たしかに仕方がないと、ガスラーもうなずく。


「そうですね。フェアバールさんとモコトさんのコンビは、レベルが違いすぎます。リーゼライさんの戦術をパワーで覆せるし。でもそれはそれとして……」


一息あけて、提案を申し出た。


「魔法以外の訓練はしないんですか?」


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