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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
五章

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2 騎士と訓練


 ガスラーの率いている【合わせ月の焚(クロスロア)】参加者一行は、三日滞在したのちカウウルから出発した。ヨシュアが連れている行商一団から一日遅れの出発であり、これから5日ほど先にあるポートベルを目指す。


 港湾都市であるポートベルからは船に乗り込む、船が到着するのは王都であるベシュトレーベン。船は商船だが護衛艦がつく予定なので、旅の安全は確保されたも同然だ。つまり、どきどきワクワクの冒険はポートベルまでのこととなる。


 空を見上げれば、雲がほどよく行き交っている。旅路終盤の開始としてはまずまずの日和。


 一台の馬車に乗っているのは、大人が一人、少年少女が五人、幼児が一人。さらに、大きなトラが一頭に、人間サイズの魔物の剥製が一つあった。馬車の中は人でいっぱいになっていた。


「も、モコトさん! そのアーヴァンクの剥製、片付けてもらえます?」


 御者台で馬車を操縦しているシュリ・ガスラーが、馬車の狭さを見かねてお願いする。


『えー? せっかく作ってもらったのに、みんなでなでようよ』


「せ、狭すぎるよ、モコト」


「収納自由な機能をもってるのに、なんでわざわざ、じ、邪魔になることを?」


 狭い空間でぴったりくっついているフェアバールとリーゼライが、小言を絞りだす。ちなみにフェアバールの膝にはミニバンクが乗っている。


『それなら、クレストを外にだせば? トラなんだから乗り物に乗らなくたって』


 クレストというのは、グレンが【魔獣使い(ビーストテイマー)】登録した氷虎の名前。ちなみに、幼児はクラウディという。一度だけ目を覚ましたときに聞き出した。


 クラウディと旅をしていたらしいクレストは、魔物のくせに人間の話がわかるようだ。大きな頭を持ち上げて、ガウ、と小さく吠えると、ソッポを向いて寝直した。


『この!ケモノの分際で!』


「馬車が、気に入ってしまったみたいだね」


 床にぺたんと座っているグレンが、クレストを撫でながら解説した。

 ガスラーも大きく同意する。


「モコトさんのおかげで、格段に揺れなくなりましたから。わたしの懐もホクホク……そうしゃなくて、いくら快適でも、狭いのはご遠慮願います!」


『せっかく馴染んでもらおうと、思ったのになあ。わかったよ。オヤバンク!馬車の上に移動して!』


 オヤバンクと呼ばれたアーヴァンクの剥製が、小さくうなずいた。毛並みの良い水生生物の身体をふわりと浮かせると、馬車から飛び出して屋根の上へと着地した。

 同じく屋根で寝そべっていたレガレルの軽い悲鳴が聞える。


「わっ! お前、なんでやってきた!」


 モコトは、マークしている対象を遠隔操作できる。条件によっては【自立性】を与えることも可能だ。その条件の一つには大きさというのがある。モコト体格と似たようなサイズの物体にしか、【自立性】は与えられないのだ。


 もともとのアーヴァンクというのは人より大きい魔物だ。それを、剥製を作ってもらう際に人間サイズまで、縮小してもらったのだ。


 モコトはオヤバンクに【自立性】を与え、ついでに、ミニバンクの制御権も譲っている。ここぞというときはモコトの命令が優先されるのだが、二匹はいまオヤバンクの指揮の元で馬車を護衛している。


 空中に浮かぶミニバンクを、胡散臭そうに護衛騎士が見上げるが、【人形使い(パペットマスター)】の人形ということで押し通している。ロリ体型のギルドマスターが付けてくれた便利な称号だ。


リーゼライは少し広くなった空間で肩を回した。


「それで、騎士に任命された二人は、何を命令されたんだ?」


 カレンと、クラウディを抱いているグレンに話しかける。

 【騎士(ナイト)】。ギルドマスターである王族の殿下が任命した、これも胡散臭い称号だ。本来、騎士になるには公的な儀式が必要だし、騎士(ナイト)とう爵位には給料か領地がセットになる。王族だからといって、ポンポン任命できるのだろうか。

 

 騎士と呼ばれたことで、グレンとカレンが嬉しそうに頬を赤らめる。


「二つ言われたカナ」


「二つ?」


「うん。あなたたちをポートベルまでの警護すること」


「そして、例の誘拐された子。パスくんだっけ?その子の保護カナ」


 二つの依頼とやらを分担して話したグレンとカレン。この辺はいかにも双子っぽい。


 ツェルト村の二人は、パスという名前に反応をみせる。素直な男の子とフェアバールを執拗にいじめていた女の顔が思い浮かべるフェアバールとリーゼライ。カレンは、知り合いなのだろうと推測して、何も聞かなかった。


「まあ警護は、馬車を護っている騎士さんたちもいるから難しくはない。俺たちも戦えるし。でも保護っていうのは……」


 リーゼライが疑問を口にして途切らせると、物思いから戻ったフェアバールが引き継いで応える。


「え? 誘拐犯を捕まえろってこと?」


 たくさんの騎士やギルドの大人たちが、血眼になって見つけられない犯人。成人したての子供たちに捕まえろというのは、理不尽に過ぎると、フェアバールにも思える。しかし、グレンがすぐ訂正した。


「まさか、強引なシャリーハット殿下もそこまでは期待してないよ。ただ、少しでも情報が知りたいみたい。ぜんぜん、見つかってないらしいから」


「カナ?」


『リーゼ君のオヤジさん村長も、同じことを言ってるよ。すでに、ツェルト村のからは離れていて、港町、ポートベルだっけ? を目指してるって捕虜が言ってるとか。そこまでわかってるのに、見つかってないんだ』


「俺たちが出発した日か、その翌日に誘拐が行なわれたわけだ。街道には枝道もあるけど、同じような進み方をしても、おかしくないな」


『接触する可能性は、高い?』


「そうかも。騎士の初仕事だね」


「がんばるカナ!!」


「ならば、訓練といこうか」


「訓練? また?」


『ツェルト村でも、やったよね?』


 フェアバールとモコトが、面倒くさそうだという風に答える。


「確かにやったな。でもあれは訓練と言うより、モコトさんの性能試験の意味合いが強かった」


『性能試験って、私は機械か』


「でも今度は、本当の連携訓練だ。これはやっておなかいとマズイと思う。人数も増えたし俺たちはパーティとしてはイビツすぎる。役割をすり合わせしておかないと、互いに怪我をさせかねないからな」


「そうか。たしかに。レガレル、グレンちゃんにカレンちゃんが増えたけど、実践は行き当たりばったりだったよね」


「イビツか……イビツだね。パーティ全員魔法使いとか。ありえない」


 御者席からそれを聞いていたガスラーが、抗議の声を上げた。


「一応、わたしも仲間ですからね。魔法使いじゃないけど、連携は必要です。興味もあるので一緒に訓練させてください」


「もちろんいいですよ。攻防の幅が広がるし、歓迎します」


「よーし、訓練がんばるカナ!」


「おー!!」

「おー!!」

「おー!!」

「おー!!」

『おー!!』


「わ、どうした!」


 みんなの声が街道にこだました。馬車の屋根の上。一人だけうとうとして話しに混じってないレガレルは、イキナリの大声で飛び起きたのだった。





 馬車は小休止と昼を挟んで走っていく。午後になり、二時間ばかり走ったところで、テント設営に丁度よい広場をみつけた。ガスラーは、馬車の速度を落として広場の中央に停車させる。


「時間は早いですが、今夜の野営はここにしましょう。宿泊の準備が整ったら、朝に決めたとおり訓練。食事はその後になります」


「えー?腹へったよ!」


「レガレル。満腹にしたら、あんたは、動かなくなるんじゃなかったカナ?」


「そりゃあ、食後の休息は大切だからな」


「だから最初にやるの。はい、そこにある天幕を広げて!」


 ブーたれるレガレルの尻を叩きながら、テントを設営していくカレン。売りことばに買いことばを繰り返すうちに、いつのまにか、リーダーシップをとっているカレンであった。そして訓練が開始される。




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