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6 唐突な初陣

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「バーレーン! 知ってると思うけど、この子はまだ11なのよ!」


 怒っているサリサおばさんに、バーレーンおじさんが応える。


「このままゴブリンにやられれば、12歳の誕生日は来ない」

「!・・・だ。だけど!」

「言い争ってる暇はない。ネコの手も借りたいんだ。フェア、なんでもいい。頼む」


 魔法には自信をもってる。下手な大人よりも強力だと思うし、狩りにも慣れてる。でも、魔物と戦ったことはこれまで一度もなかった。


「ゴブリンと戦う? あたしが? 」


 ここであたしができる手伝いがあるとすれば、擦り傷を治すとか、そういうことだと思っていた。


 そのとき、カツワイさんが悲鳴を上げた。


「もう、ダメだ!!」


 門を塞いでひしめいてた大人達が下がり始めた。何人も何人も重なるように倒れてうめいている。


「ゴ、ゴブリンが、多すぎる! 持ちこたえられん!」


 支えていた大人達が後ずさりしてきた。人の壁が無くなり、門の向こうが見える。そこには、残忍に歯を剥き唸り叫ぶゴブリンがズラリと睨んでいた。


 カラダの大きさは、あたしより小さいくらい。一匹一匹は人間より小型でも数えられないくらい沢山いた。武器と呼んでもいいのか、壊れかけた剣や古ぼけた盾を構えている。でもほとんどのゴブリンが握りしめてるのはそのへんに落ちてそうな太い枝だ。倒れている仲間のゴブリンをも踏み越えてくる。


「は、半分は倒したと思うけど、防御魔法が尽きた。攻撃できるヤツも、もう、魔力が・・・」


 ゴブリン達は、ギラギラ目で睨みながら、剣やら棒切れやらを振り上げて、勝ち誇った笑みでジリジリ進んでくる。


 ゴブリンは、一歩迫るごとに大きさを増していくようだ。これが殺意というやつか。


 手が震える。

 足がすくんで動かない。

 あたしは、なんでこんなところに立ってるんだろう。


 お父さんは、どこにいったの。

 お母さんは、盾で守ってくれないの。

 このまま、二人のところへ行くのかな?


「フェア! 逃げて!」


 おばさんの声で我にかえる。

 死んじゃだめなんだ!

 今はダメ。

 何かしなきゃ、ゴブリンに殺される。

 とにかく魔法だ。魔法で隠れよう。


「ゴブリンを囲めっ ミラージュウォール」


 これは光と空気で大きな鏡を作り出す魔法。鏡の外からは、中が見えるけど、ゴブリン側からは自分たちが写ってるように見えてる。白々しい魔法だけど、鏡を知らなけれはゴブリン仲間に囲まれたと錯覚する・・・と思うけど。


 こちらの願いが通じたみたい。

 ゴブリン達は戸惑って足を止めてくれた。


 サリサおばさんやバーレーンおじさんたちも、一緒になって戸惑ってる。

 かすれた声を無理やり絞り出す。


「お、オバさん、みんな、逃げて」


 状況が分かったみんなが、ゆっくりとゴブリンから離れる。とにかくゴブリンの目を誤魔化して時間を稼ぐことはできた。でも、ミラージュウォールの効果時間は短い。今のうちに、もっと足止めしないと。


「誰か・・・バーレーンおじさん、土魔法を」

「何すんだ?俺は、攻撃魔法なんか使えんぞ」


「穴を掘って!そこを囲むように!」

「なるほど。わかった! シルトフォール! 」


 ゴブリン達の外側に、大人二人分ほどの深さの堀ができていく。バーレーンおじさんが得意とするのは、農耕や土木工事に欠かせない土魔法だ。


「次っ。魔法がダメなら、ゴブリンみたく棒切れで。何でもいいから武器になるものを!」


 大人たちが、それぞれ近場の家や納屋に駆け込んでいった時、ミラージュウォールの効果が切れた。ゴブリンには、突然、人間が現れたように見えただろう。


「ぐっぎぎぎっ?」


 ゴブリンは再び殺意のままに踏み出すが、そこにはもう地面がない。作ったばかりの堀の中へすべり落ちる。気づいて止まるゴブリンもいるが、後ろから押されて止まれない。次々と足を滑らしては堀の中に折り重なっていった。


 建物に駆け込んだ大人たちが戻ってきた。その手には、農作業で使う鍬やらスコップやらが握られていて、穴に落ちたゴブリンを滅多刺ししていく。穴に落ちなかったゴブリンには、狩り弓を持ってきた人達が狙いを定める。


「突き刺せっ ウォーターアロー!」


 あたしも水魔法で攻撃。細く仕上げた水の矢を、次から次へとゴブリンに飛ばして突き刺さしていく。


「すげえな!助かったよフェア。正面からやりあうだけが魔法じゃないんだな」


 負けが確定していた戦だったけど、なんとか逆転できる気がしてきた。バーレーンさんが、激励の拳を挙げる。


「よーし!撃退する道筋ができたぞ。このまま倒してしまおう!」


 危ういところで村がやられるところだった。後ろで回復魔法をかけ続けていた人達は、離れたところからホッと息を抜いていた。力が抜けて、へたり込んでる人もいる。


「フェアっ! 大丈夫っ?」


 サリサおばさんが、力強くあたしを抱き寄せた。


「すごくわね! いつの間にあんな魔法を。ケガはない? ヒールするよ」


 かけてくれた治癒魔法はいつも以上に優しく感じる。ケガはしてないけど、疲れが消えていった。これで、終わったのかな。ゴブリンは、残りもうわずかになっている。


 ふーっと、息を抜いたそのとき、あたしのお腹に衝撃が走った。


「・・・っ?!」


 お腹に下げた手が、木製の異物に触れた。

 ゆっくりお腹を見下ろすと、そこには投槍が突き刺さっていた。


 ギギギっと、軋むような声。


 ゴブリン達の後ろから、ひときわ大きなゴブリンが、ぬぅっと現れた。黒くてゴツゴツした皮膚。ゴブリンの親かな? ダークゴブリンという言葉が浮かぶ。あれが、投槍を投げたのか。


「おばさん・・・離れて」


 痛みに顔をしかめながら、サリサおばさんを突き放す。

 ダークゴブリンはジャンプで堀を越えると、側にいたバーレーンおじさんに右の腕を振る。


「うがっ」


 小虫でも払うように、ひょいと振った腕。しかしその力は強く、大柄のバーレーンおじさんが軽く飛ばされた。堀のゴブリンを攻撃していた大人たちにぶつかりなぎ倒される。


 ダークゴブリンがモゴモゴしゃべる。


「ニンゲン・・・オレタチの村・・・滅ボシタ。オレタチモ・・・滅ボス」


 ゆらりとあたしの前に止まった。お腹に刺さっていた投槍に手をかけ、串でも抜くように、するりと引いていく。槍の無くなった傷穴から血が吹き出る。ぐっと手で押さえるが、熱い液体は止まらない。


 身体が重くなってよろける。

 けっこう頑張ったけど、もう立っているのも無理みたい。


《これで終わるのかな》


 村を出ていくはずだったのに、村を助けることになった。

しかも、それさえも叶わないで死んでしまう。


《何もできないで。このまま、終わるのかな》


 暗くなってきた。

 身体の感覚が無くなる。


もっと、いろんなことしたかったなあ。





『ちょっと待ってね』


 ん?


『あいつ、不親切だなー、マニュアルの読み方くらい教えろっての』


 え?


『私の声、聞こえるかな? 死んでないよね?』

「なに? なに、この声?」


『あー、生きてるね。今、あなたの身体ガードしてるから。修復したいんだけど、使い方が不明中なの』



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