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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
五章

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1 三者面談

おまたせしました新章の開始です


 王都ベシュトレーベンは、森に囲まれた小高い丘にある平らな都市だ。丘といっても10mほどの絶壁で、時間を区切った近距離空間移動魔法結界によって人々は出入りしている。魔法結界も張られており、陸上はもとより空や地下からの攻撃を跳ね返す。


 難攻不落。奇襲不可能城として知られる城内に住む住人たちは、出入りの不便さを引き換えにして、安全な暮らしを営んでいる。


 ベシュトレーベンの中心にある、城の一室では、たった三人の会談が行われようといていた。


 主催は、王太子ラフリール・サンドバン。人好きのする笑顔が印象的な次期国王。会う者すべてをとりこにすると言われるハンサムボーイだが、彼はこれからやってくる来賓に、どのように切り出せばいいか頭を痛めていた。


 ツェルト村では犯人グループの捕獲した一人を尋問しており、判明した内容はメルクリートによって王都に届けられていた。犯人の一人は北の辺境の男爵だという。ラフリールはおぼえてないが、物覚えよい側近によれば謁見で顔を合わせたことがあるらしい。


 しかし問題はそこではない、誘拐の首謀者が大国であるドリーヨーコ帝国の重要人物であったということだ。ツェルト村の子供をさらったということは一般の誘拐ではないだろう。クレセント国の秘匿された国策を理解していての凶行であり、他国の自治に干渉する行為と受け取れる。これは単なる犯罪を通り越して大きな外交問題であるといえる。


 そのことを突きつければ、貿易や戦略などの交渉の面で大きなアドバンテージが得られる。通常ならば。しかしそこには、幅広い技能の魔法使いを競わせるという【合わせ月の焚(クロスルア)】の協定を破っているとい負い目があり、首謀者が一筋ならではいかない相手という、壁があった。


「なあディック。エリザベート・シュベーラー伯爵がきたら、なんと言えばいい?」


ラフリールは、会談前に呼んでいたディック・エール神父に、弱った顔で相談する。


「なんで、ここに僕を呼んだのか、理解に苦しみます。しかもツェルト村でしたっけ? そんな機密を メニュハナル神国の僕に話してよかったんですか?」


「君を、どうしても味方に引き込みたくてね。いずれ、我が国にきてもらいたい人材だし」


 ラフリールはニコニコしながら、ディックの手を優しく握った。

 手の甲を、男からさわさわ摩られる感触に耐えるディック。


「そんな趣味は、ないのですが?」


「私も、男色趣味はもってないが、君ならば許してもいい」


 カビ雑巾を捨てるかのように、ディックはラフリールの手をぺっとふり離した。


「冗談、だよ?」


「笑えません。殿下が失敗したお茶の売り込みより、笑えませんから」


「あれは、私の黒歴史とする。公務記録も破棄してある。はっはっは。さて、本題にもどるが……」


 そのとき扉が軽く開いた。ほんの少し空気が通る隙間をはさんだ扉の中と外で、従者同士がなにやら言葉を交わしてる。扉はすぐに閉まった。室内側の従者がラフリールのところへきて一言に告げる。


「ドリーヨーコ帝国、エリザベート・シュベーラー伯爵のおなりです」


 ラフリール王太子の首が、ぎりぎりと音を立てて回転すると、ディックを向いた角度で静止した。


「余計な時間をとったせいで、到着しまったではないか!」


「殿下が、へんな挙動をしていたせいですよね?」


 今度こそ扉が大きく左右に開かれると、エリザベート・シュベーラー伯爵が、侍女を伴って煌びやかに登場した。彼女がゆるりと室内に入場すると、背景では従者の手により重々しく扉が固く閉じられた。

 

 ラフリールは、さっと居住まいを正すと、挨拶をするために優雅な足取りでシュベーラー伯爵へ近寄る。


「これは、シュベーラー伯爵殿下。先日会いしたときよりも、美しさが増しておいでですね。ご足労いただきまして恐悦至極です」


 シュベーラー伯爵は、貴族女性らしいシミひとつないしなやかな手を差し出す。メニュハナル神国の大使であるディックがいることに気がついているはずだが、目線はラフリールに固定されている。


「ラフリール様のお顔を拝見できるなら、足を運んだ甲斐があるというもの。いつお呼びいただいても結構ですのよ」


「そう言っていただけると助かります。シュベーラー伯爵。ありがとうございます」


 揃えられた指を優しく取ったラフリールは、軽く傾いで甲にキスをする。


「お言葉が堅いですわね。王太子ラフ。私のことは、エリーと呼んでください」


「とんでもない。私ごときが、大国ドリーヨーコの伯爵さまにむかって愛称でおよびするなんて、とんでもありません」


「一国の王太子がそのような。私の名前くらい気軽に口にしていただけないと、本日の会合が滞ってしまいますわ」


 めんどくさい社交辞令をすこしでも省け。意訳すればそういうことらしい。早速、放たれたジャブにラフリールは軽いめまいを覚える。


「ではそのように。え、エリー?」


「はい」


 双方、ふるまいも言葉もケチのつけどころがない丁寧そのもの。会合の目的が敵の糾弾であることを知らなければ、誰もがうらやむカップルの蜜月と思うかもしれない。エリーを呼ばせだ伯爵も、ラフリール負けないほど美しい女性なのだ。万人の心を奪う微笑みを向け合いながら、ラフリールは、伯爵を席へと誘う。


 伯爵が着席したことで、繰り広げられた節度ある儀礼の終わりを知ったディック・エール神父が、やっとのことで口を開いた。


「では王太子殿下、僕はこれで失礼させていただきま――」


 暇を告げて立とうとしたディックは驚いた。尻が椅子に張り付いてしまったかのように、なぜか腰が持ち上がらない。何事かと指でさぐってみると異質な感触が当たった。


「冷たい!」


 思わず腰のあたりに目をやれば、長い上質な着衣が氷によって椅子と密着している。それだけてない。座っている椅子の足も凍りついて床と一体化していた。靴の裏も犠牲になったようで、かかともつま先も、まったく動かせない。


ラフリールが嬉しそうに笑顔で語った。


「そう言わずに、付き合ってくれたまえ」


 口でそう言うとすぐ〔心話〕で続けてきた。


『逃げるな、頼む!』


魔法使いですらないディックは〔心話〕が使えない。しかし相手が〔心話〕を使っている場合、考えた言葉が伝わることを知っている。


『魔法をかけたな! あなたは、次期国王でしょうが! 他国の僕に頼るまえに、頼りになる側近とかいないのですか?』


『ウルウル……』


『捨てられた子犬の真似ごとは、止してください。はあ……わかりました。ここにいますよ』


 席を立つのを諦めたディックは、わざとらしいため息をついて、大人しく背もたれに身体を預ける。途端、凍魔法が解除されて、ディックと椅子を縛っていた氷は融けて水となって床をひたした。


 角で待機していたラフリールの侍女がモップで床を綺麗し、一礼をして下がっていった。


「それで、え、エリー。わざわざあなたをお呼びした理由ですが――」


 事前の打ち合わせに失敗したラフリールは、どのように話をもっていこうか頭を回転させる。遠回りすぎては伝わらない。かといって、誘拐事件を直接に暴露するわけにもいかない。回復魔法の話から入るというのは最悪の手だ。


「――あなたのお国では――」

 

 一語づつ言葉を選んでいく。

 機先をとられた感はあるが、まだ始まったばかり。挽回は可能だ。まずは……普通に魔法を取り巻く環境の話をふって、相手の言葉尻をとる。そこから逃げ場のないところに追いつめていくのが上策だろう。どうにか方針を決めたラフリールは、同い年の女傑を見据えた。


「――どういったタイプの魔法使いを、」


 ラフリールが次の言を言おうとするのを、伯爵が指先で制した。


「ツェルト村の誘拐のこと、ですわね? 」


 真っ向勝負キター!!

 ラフリールは改めて思った。この女のこういうところが苦手なんだと。玉砕どころか自滅としか思えないキーワードの登場に、王大使は動揺を隠し切れなかった。


「あ、あなたの指図で、間違いないのですね」


「そういうことになりますわね」


 顔色を変えるどころかまつ毛の一本さえ動かさない完璧な笑顔。その仮面の下からは、一切の感情が読み取れない。


「わ、わかっていて、おっしゃっていますよね?」


 無理やり付き合わされ傍観していたディックだが、共通の仮想的国の、暴虐ともいえる厚顔を目の当たりにして黙っていられなくなった。心を許しているラフリールに少しでも加勢しようという気持ちもある。


「誘拐。誘拐ですよ? 他国の子供を。ドリーヨーコ帝国の良識を疑いますね」


「良識と、いうことであれば……」


 初めて存在に気づいたかのように、まあるい瞳をディックへ向けた。柑橘系の果物をかじった後のようなフレッシュな唇が、未成熟な良識論に噛み付く。


「……挨拶すら交わしていない、第三国の大使が、横からくちばしを刺してくる。そういうことは、良識ある行動なのでしょうか。メニュハナル神国ディック・エール神父さま?」


『そういうことか』


 ラフリールは舌打ちしたくなった。伯爵は、部屋の中に足を踏み入れてから、一切、ディックを無視していた。社交的で知られるこの女性伯爵に似合わない態度だとは思っていたが、あれもディックの助太刀を遮る布石だった。


 そして今、ディックを黙らせるカードとして使ったというわけだ。王太子が独りで抵抗せざるをえないように。


『ごめん』


『いや、私がうかつだった』


 メニュハナル大使の介入を阻止を完了した伯爵の瞳が、ラフリールという標的をロックオンしてくる。


「ついでに言わせていただければ。【合わせ月の焚(クロスルア)】の、条約をお破りになることが、クレセントでは、良識ある政治なのでしょうか?」


論理のすり替え。良識という言葉の罠。やはりそこを突いてきたか。回復魔法使いの秘匿は、国家間の協定破りの誹りを受けかねない重大な規定違反。誘拐を暴露して共倒れの戦術かと思えば、盾を構えるまえに次々に切り込んでくる。まったくもって手に負えない相手だ。


しかし、誘拐事件からすでに数日が過ぎている。黒幕に抵抗できる正当な言い分を用意するだけの時間はあったし、こうした事態への理論武装は、以前から考えられていた。


「何をおっしゃっているのか分かりませんね。いつ、クレセントが条約を破ったと?」


「【合わせ月の焚(クロスルア)】は、能力ある魔法使いをすべからく競わせて私たち周辺国に知らしめるとととに、目に適った人材を高額の派遣料と引き換えに斡旋する。よろしいですわね?」


「【合わせ月の焚(クロスルア)】への参加を希望している魔法使い。それと、我が国と当該魔法使いとが合意する。この二つの前提が抜けておりますが、おおむねその通りです」


「ところがある村では、特別貴重な魔法使いがたくさん暮らしているというお話があります。これは重大な条約違反ではありませんか?」


「ほう、そのような村があるのですか?」


 ラフリールは、白々しくとぼける。


「ラフ様。ふふふ。お心の隠し方がお上手になりましたね。幼少から知る者として、嬉しく思います。いえ、少しばかり寂しくもありますね」


「エリーのご教示の賜物ですよ。お会いするたび、あなたは私に姉のように接してくれた。よき思い出です。はて仮に、そのような村があったとして、いちいち公言する義務まではないと判断できそうですが?」


「公にすることはないと。なるほど。確かにそうですわね」


「ふむ。静に暮らしたい村人の眠りを妨げる権利は、王族といえど持ち合わせていないのですよ。とくに、クレセントは魔法使いの意見が強い国ですからね」


「そうですわね。村人が望まないなら、そういうことでしょう」


 シュベーラー伯爵は、かすかに息を漏らすと悲しそうに目を伏せた。ラフリールもそれに釣られて息を吐く。そうだ。いくら才能があろうとも当人が望まない限り、【合わせ月の焚(クロスルア)】へは参加させないし他国への派遣はできない建前になっている。彼の村出身の者は、回復魔法の競技には|参加希望することはない《・・・・・・・・・・》。ゆえに、回復魔法の村など存在しない(・・・・・)ことになるのだ。


 テーブルにおいてあるお茶は冷めきっているだろうが、ラフリールをそれを飲んで喉を潤したいと思った。だが今はダメだ。握り絞めているこぶし少しでも緩めれば、中の汗がしたたり落ちるだろう。


 終わったのか。彼女は諦めてくれたのか。それが明確になるまでは、一片たりとも弱さをさらけ出すわけにはいかない。とっくに感付かれていたとしてもだ。


 シュベーラー伯爵は侍女を呼ぶと自分の椅子を引かせ、立ちあがった。


『終わった』


 そう、ラフリールが安堵したとき伯爵の口から、予想もしなかった言葉が飛び出した。


「私は、わが国が保護した子供を、世界の人々のまえに連れていきましょう。そしてこう言うのです。『クレセントでは、回復魔法使い達を村に押し込めて、厳しい監視のもと自由な行動を奪っている』と。『王家は彼らを独占し、民の治療の機会を奪っている』と。」


 ラフリールは、開こうとした手を強く握り締めた。魑魅魍魎の扱いに長けたシュベーラー伯爵のような女性と対峙するには、氷魔法にも劣らない冷徹さを総動員しなければいけなかったのだが、彼は熱かった。いつ立ちあがったのか。100年以上の王家の貴賓たちを座らせていた頑健な椅子が、彼の後ろで倒れている。


「なら競争だな、エリー! 貴方が部隊が王都に連れてくるのが先か、私が無事に奪い返すのが早いか、競争だ!」


「そのケンカ買ったわ」


 シュベーラー伯爵はくるりと背中を向けると、登場したときと変わらない優雅さで、侍女を引き連れて退場していった。ディックは、冷静さを失った暫定友人の姿を、珍しいものを見るように見上げていた。

 


「ふふ。ラフ君。単純なこと。国を背負うにはまだまだ修行が足りないわね」


 扉が閉ったその先では、伯爵が微笑んでいた。

 シュベーラーは、競争をするつもりなどまったくなかったのだ。


「さて、始めましょうか」



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


1週間の間に、2~3話を進めておく予定でしたが、みごとに失敗しました。

国のトップの腹の探りあいって、難しいですね。何度も書き直して気が付けば日曜日。

なんとか、5章全体のプロットは用意しましたが、実際はキャラ達のデタトコ勝負です・・・orz

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