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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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31 黄昏の艦長

今回、ときにもって回ったような文章にしてしまってすいません。

雰囲気が伝わればよいのですが。


 漁船、商船、軍艦がところ狭しと停泊している湾内。そのあいだを忙しく行き来する艀。港では威勢のよい海の男たちが、オールをかきあげ、荷を満載した小舟を走らせている。海の街にみられる、いつもの景色だ。


 眩しかった西日が山の陰に隠れはじめ、湾の半分を茜色と薄紫色と西日分けている。もうじき日が完全に落ちれば、行き来する艀もなくなるだろう。


「親父、こっちにラムをくれ! ジョッキで三つ、いや、五つだ!」


「腹減った! 店のおすすめを人数分、たのむぜ!」


「わたしたちには、トッバロウワインと魚介の盛り合わせを」


 港湾都市ポートベルにある【凪の風】は本日も、大勢の男達と若干の淑女で賑わっていた。


 港に面した食事のできる店や宿泊施設は多いのだが、このホテル兼レストランには、他の店には置いてない、トッバロウ産の酒類を飲ませてくれることで人気が高い。


 海軍士官バルージュ・ウンベッターが、ここに宿をとっている理由は、もう一つあった。


「いつみても、俺の鑑は最高だぜ!」


 【凪の風】のテラスの真正面には、国王陛下から預かった自分のフリゲート艦【ピングイーン号】の姿が、確認できるのだ。


 小型ながら三本マストと三十門の圧風砲を備え、火力と速度、小回りを兼ね備えた外洋鑑の傑作だ。大小の船舶が停泊している湾内だが、ウンベッター艦長は【ピングイーン号】が一番注目を集めていると信じている。


 他国では、さらに大きな鑑を所有している。この港にもドリーヨーコの大型鑑が何隻か浮いていて、海に目をやれば否応無くその姿が目にはいる。そうした圧巻ともいえる大型戦鑑には見劣りするの仕方が無い。とはいえ、グローリエ海から外海に出ることの少ないクレセント国が持つ鑑としては、破格の性能なのだ。


 国内最大級にあたる新造鑑を手に入れるため、ウンベッターは、海軍のありとえらゆるコネを使った。同期も先輩も蹴落とし、もてる資産をかき集めて、関係貴族を気前よくもてなした。そのお陰で外海を手に入れたのだから、貢い甲斐があったというものだ。無駄にならなくてよかったと、心から安堵している。


 その代償も大きかった。各方面からの幅広い恨みも買った。これ以上の出世ができると思うなよ。対立派閥の貴族からそんな暖かい言葉もいただいた。


 もとより出世なんぞ望んでない。クレセントという国で、貴族でも魔法使いでない己が出世できる道は限られてる。海軍において、若くして艦長と立場にまで上れたのだ。それ以上を望んでは強欲というものだ。


 係留されてる姿は、朝焼けにも夕焼けにも、昼日向のひかりにも美しく映える。部下達の半分は、交代で休息して陸にあがっている。ここからは見えないが、残る半数も、下士官以下、長たちのいない艦の上でのんびり過ごしていることだろう。


 仔細もらさず訓練の行き届いた乗組員たちは、王家の命令があり次第、最短時間でいつでも出航できる。鑑と同じくらい自慢できるクルー達がウンベッター艦長の号令を待っている。海に生きる男にとって、こんな幸福がどこにあろう。


「いつまで見てても、飽きないな」


 ウンベッターは、かれこれ一月、とくにこの時間の勇姿をみるために、毎夕、この席を予約している。そこまで、惚れられた鑑もまた幸せといえるだろう。


 暗闇に消えるまで鑑を眺めていたかったのだが、そうもいかない。着席している人物たちが彼の言葉を待っていたからだ。ウンベッターが手を置いてる無垢の丸テーブルには、蒸留酒の注がれたデカンタとグラス。


 グラスの横には封書が置いてあった。口元が破かれ中身ののぞいている封書を向い側にいる二人のほうに滑らせた。


「そいつは、さっき海軍のポートベル本部で、提督から手渡された命令書だ。長かった休暇も終わりだな」


「読んでも?」


「構わないさ」


 副長のモクレン・ドゴールは、飲みかけのグラスを置くと、封書を手にとって中身を開く。命令書を一度読む。内容が頭に入らないのが、長いまつげをパチパチさせながらもう一度読む。ようやく意味がわかったらしく、もう一人のほうへと封書を渡す。ふんっと片手で受け取ったのは、主任魔法士のセレヌ・フゥレン。片手は、空いたグラスにデカンタから蒸留酒を注ぐのに塞がっていた。


「ドリーヨーコ艦船の監視。それと、ツェルト村で誘拐された子供の捜索?……ですか」


「監視については了解ですね。かの国は油断のならない覇権国ですから。でもいっぽうの、たかが辺境の誘拐撃に艦長を出動させるって件は不思議です。王国の意図は理解できかねますし、このふたつが両立する任務というのが、ちょっと想像できません」


 モクレン・ドゴールが首をひねると、セレヌ・フゥレンが詳しい疑問点を並べだした。二人の女性を見比べながら、本当に良い士官をもったものだとウンベッターはニヤニヤする。


「上の考えていることは、俺にはわからん。わからんが単純に結び付けてつけてみてはどうだ? その二件を」


「結びつける? 誘拐事件なら村に警備兵を派遣すればいいんです。どうせ、奴隷商人の仕業でしょうから、街道に網を張れば時間の問題です。艦長がうごくまでもありません。そして艦の監視といえば相手は海の上。あそこに浮いてるドリーヨーコ艦の動きさえここから見張ればいいだけです」


 ドゴール副長の意見を聞きながら、フゥレンは何杯目かの蒸留酒を、自分と館長のグラスに注いで氷魔法の【アイス】で氷を入足した。チョポンと酒のしぶきが撥ねて、テーブルに水玉をつくる。なみなみのグラスをひとくちだけ口に含むと、ドゴールの考えに意見を加える。


「いやモクレン副長。艦長は結び付けろといったんです。子供の誘拐とドリーヨーコ艦とを」


「だから、それは別々の命令ということで、私たちはここで待つしか……。ん? 誘拐と他国の艦? いやまさか、そんなバカなことが?」


「そのまさかが、今回のポイントです。誘拐したのがドリーヨーコの手先かスパイであり、艦がその子を待っていると考えれば、つじつまがあいます」


 ウンベッターのニヤニヤ顔が大きくなった。小気味良いやりとりである。自分の艦を眺めるのも楽しいが、頭の回転のよい部下達が、自分たちを高め合う場面に居合わすことも至高の幸せだといえよう。


「ま、話はそこまで。ここは艦の上ではないからな。作戦の立案は、明日、戻ってからにしよう」


 ウンベッター艦長は、副長の差し出した命令書をふたたび受け取ると、制服の内ポケットに仕舞いこんだ。満足した表情で、たっぷりの氷で冷やされたグラス手を伸ばしたが、取っ手を握る直前、誰かがひょいとグラスを持ち上げた。


 その誰かは、んぐっんぐっと冷たい蒸留酒を飲み干すと、ついでに氷を口に入れが口の中で噛み砕いていく。


「ガリッガリッ。んーんこの冷たさ、今日の暑さにはごちそうであるな」


 空になったグラスだけを、音を立てずにテーブルの上に上品に置いた。


「ああ、俺の酒が~」


 ウンベッター艦長が、一滴でも飲もうと殻のグラスを口の上で逆さにした。


「いくらここが自由貿易港とはいえ、他国の艦長に失礼ではありませんか、コンゴウ・テゼール男爵」


 ドリーヨーコ帝国海軍所属、コンゴウ・テゼールだった。背の高い痩せた身体を翻すと、分厚い唇をぬぐった。通りかかったウェイターに手を挙げて「同じ酒を頼む」と注文する。


「すまない悪いな。この季節に氷は珍しいのでな。ついもらってしまった」


「わたしが艦長のために作った氷です。横取りされたのは心外ですね。欲しいのならおっしゃってくれれば良いのです」


「ほう。そちらこそ、一介の仕官が他国の貴族に意見するとは、よほど失礼かと思うが。クレセントでは平民と貴族との区別がなっていないようだ、海軍士官バルージュ・ウンベッター艦長殿?」


 言葉だけをみると、魔法士フゥレンと会話をしているようだが、テゼール男爵が向いているのはウンベッター艦長のほう。フゥレンなど眼中にないと一切無視した態度を貫いている。


「ついでに言っておくが、我輩我輩のことは提督と呼んでくれていい。コンゴウ・テゼール提督だ。男爵を名乗る名ばかり貴族どもと一緒にされては迷惑だからな」


 ウンベッターは、デカンタの底に残っていた最後一口をグラスにあけて、フゥレンに氷をせがむ。ドゴール副長は、そんな艦長の挙動を目を細めてみつめている。


「艦長かわいい。一生ついていきます」


「む、モクレン。抜け駆けは許しませんよ。艦長には、このわたしがついて行くんです」


「あなたには、渡しません。ね、艦長」


 今度こそ、グラスの中身を飲み干したウンベッターは、前触れなしに始まった恋の鞘当に、居心地が悪くなった。そういう話は自分のいないところでやってほしいものだと思う。身の置き場に困たこともあり、振り向いてテゼール提督を見上げる。


「それで、テゼール提督。今はどのようなお話です? わたしの酒を横取りにきたわけではないでしょう」


「ごほん、左様。本国から命令書が届いてな。内容は実ににくだらんものだが、面白いことがおこる予感がしてな」


「命令書?また、外洋国への侵攻ですか」


「いや、それより面白いかもしれん。命令内容から予想するに、君と一戦交えることになりそうのだ」


「そのようなこと……」


「無い、とはいわさんぞ?」


 ウェイターがやってきて注文の蒸留酒をデカンタをテーブルに置く。テゼール提督が銀貨を支払って、釣りはいらないとウェイターを下がらせた。提督はそのまま空いている椅子を引き出して、ウンベッターの隣に座る。


 ウンベッターは空になったグラスの取っ手を握ったまま、困ってしまった。運ばれてきたデカンタから酒をもらっても良いのかどうかと。


「今日は、その戦線布告に出向いたというわけだ」


 提督は、デカンタを持ち上げると、ウンベッターのグラスに一杯だけ注いだ。


「ありがとう……でしょうか?」


「いや、さっきの分を返しただけだ。ほれ、氷をくれ」


 フゥレンの前にデカンタを差し出すと、魔法で氷を作れと要求する。フゥレンはまぶたを半分下ろすと、密度の高い軽蔑の視線で、自分を見てない提督をにらみ返した。


「なんでわたしが、あなたのために魔法を使わないといけないのです?」


「平民が貴族に尽くすのは、当然なる責務だ」


「クレセント国は魔法実力社会です。横暴な貴族は平民の信任を得られません」


 フゥレンに加勢して、提督をにらむドゴール。ぬるい蒸留酒を飲もうかどうか、ためらっているウンベッター。陽が沈んでランプの灯ったテラスには、決して目には映らない冷たい炎で取り囲まれていた。


「ふん。まぁいい。その、魔法使いという平民の驕りが、国をほろぼさないといいがな」


 提督はテーブルから離れると、背を向けてテラスから出て行く。その後ろ方をフゥレンの目が追いかける。階下へつづく階段のほうへ行くのかとみていると、そこで立ち止まった。


「……キングウラガンへ戻る」


 独り言かとフゥレンは思ったが、一瞬の後、テゼール男爵はいなくなった。見間違いかと目を擦って見直すとやはりいない。階下から上がってきた見知らぬ男が、男爵の立っていた場所を歩いていった。


「艦長、テゼール男爵は魔法使いですか?」


「……? いや。昔から知っているがただの船乗りだ。とても腕のいい……な。」



いつも読んでいただいて、ありがとうございます。


これで、四章は終わりとなります。

ぶっとんだ話にしたいのですが、なかなか殻を敗れない自分がいます。

5章は、もうすこし乱していきたいと思ってます


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