30 双子の進退
「レガレル。カレンちゃんに変なことしたの?」
「レガレル、そんな男だとは思わなかった。さらばだ」
『おーレガくん、やるねぇ』
あたしたち三人は、額にシワを寄せるという優れた非難手段でレガレルをじっと見つめた。
「……お、お前ら、この、わかって言ってるよな?」
赤い顔で大いに戸惑いをみせてくるレガレル。お茶を飲んで落ちつこうとしてるけど、歯にぶつかってカタカタさせてる。
『からかいがいのあるキャラだよね』
モコトの意見にでっかくうなづく。
「どうしたんだ、子供がやっちゃいけない行為をしたのか? わたしの配下になるなら、力づくで隠匿もできるが?」
シャリーハット殿下は、物騒な提案をしめした。
これ、話しが進まないから。
「すみません殿下、舎弟が粗相をしでかしたようで」
リーゼは立ち上がると、殿下にむかって最上級の礼をおおげさに捧げてる。
「誰が舎弟だ! なら親方って誰だよ」
ほんとに、話しが進まない。
というか、進めないつもりなの?
カレンちゃんの指が動いてぴたっとレガレル止った。あたしたちの、半ば誤魔化すためのディスり合戦を無視して、忌々しそうに叫んだ。
「なんで、回復魔法を使えるの!?」
やはり、それしかないよね。
マグカップとソーサーをかちゃかちゃ言わせて、ためらいがちに給仕さんが片付けていく。暖かい日差しが眩しく初夏が待ち遠しい春。暑くもなく寒くもない。過ごしやすい季節の過ごしやすいはずの庭園に、寒いくらいの風が通っていく。
「カレン、言ってもいいけど知らないほうがいいと思うぞ。グレンの怪我が治ったんだからいいじゃないか」
リーゼが言った。言ってから、シャリーハット殿下のほうをジッと見る。
殿下がしばらく視線を受けていたけど、あきらめたらしい。可愛い口を開いた。
「そうだな。カレンと言ったか。国策にかかわることだから、と言っておく。万が一口外した場合、責任は君だけに留まらない、ということも加えておこう。若者の好奇心は理解できるが、リーゼライの言ったとおり知らないほうがいいかも知れないぞ」
「何?そんなに、大変なことなのか?」
レガレルが、椅子から立ち上がって驚いている。
あんたが驚いてどうすんのと言いたいけど、あたしだって、そこまで大きな話だとは思ってなかった。
「国策?殿下も知ってることなの?」
カレンちゃんの表情が一瞬に硬くなったけど、すぐレガレルの方を見る。視線を向けられたレガレルはといえば、椅子に座りなおしてへたな口笛を不自然に吹いている。仕方ない治療だったのはわかってる。でも、あんたの責任が大きいんだからね。
ところでモコト、『米国のアニメか!』と突っ込みはナニ?
「それでも知りたい。仲間ハズレは嫌カナ」
そう言ってグレンちゃんを見れば、彼女も無言で首を縦にふった。
はぁ~。
『ずっと一緒だったからね、気持ちはよくわかる』
カレンちゃんの気持ちを代弁するように、モコトがつぶやく。
その声が聞えたかのように、シャリーハット殿下が言葉を発した。
「それじゃあ、条件をつけさせてもらうよ。ここから王都に着くまでは、ツェルト村の三人から離れないこと。王都に着いたら王家の人間に接触させるから、その者の指示に従うこと。この約束が守れるか」
グレンちゃんカレンちゃんは、綺麗に背をそらせて殿下に正対した。
「守ります」
二人に、着席するように手先で示したシャリーハット殿下。自身はテーブルに両手をのせると短い指を組む。ゆっくりと大きく息を吸うと、言葉といっしょに吐きだした。
「ガイサ、トールスマー、プルカーン、アクサイト、ヨデルク……知ってのとおりこの国には、魔法村と呼ばれてる村が31ある。それぞれ、特色があってな、君らの住むプルカーンは炎だし、トールスマーは、水だったるする。ここまではいいな?」
「はい」
「魔法村が誕生した理由は、三世代前の王の時代までさかのぼる。周辺の国がどうしようもなく強く、わが国では、他国の好き放題に拉致されまくっていた。それが当時の王のもと、集団で対応する術をみにつけ、国内にいた敵をすべて押し返した。その時に集まった魔法使いたちが、まとまって生きることを決めて、今の村々に別れたんだ」
「はい。【合わせ月の焚】が取り決められたのも、その時だとか」
「そうだ。村は31あると言ったが、ツェルト村だけはちょっと特殊でな」
「回復魔法使いが、集まったんですか?」
「いや。回復魔法使いがそんな都合よくいるわけがない。そういうことでは普通の魔法使いだったと聞いている」
「ではなんで、レガレルなんかが?」
「だから、なんかってゆーのを、ヤメロ」
「ツェルト村を作ったのは、種類の異なる複数の魔法を扱う者たちだった。かつての王族の一人が率いてな」
「複数魔法? 風と炎とか?」
「そうだ。もちろん中には、回復魔法を使う者も、何人かいたというがな。しかし、その程度だった」
リーゼが、驚いたふうに言葉を挟んだ。あたしも、そこは初めて聞く。
「それがなんで、カナ?」
「それは……」
「それは!?」
カレンちゃんが身を乗り出してきた。右隅に見えてるモコトも、見逃すまいと目を見開いてる。あたしも知りたい。
全員の注目を痛いくらい浴びた殿下が、居心地が悪そうに言葉を継いだ
「……わかっていたら苦労はしない」
「はぁ……」
『はぁ~~~』
はぁ~~~
「なぜか知らないが、ツェルト村で生まれるこどもは、ほぼみんな、回復魔法や治癒魔法、治療魔法が使えるようになっていた。しかも、複数魔法も備えてだ。今では住人の数は1021人に登る。この重要性がわかるな?」
「け、怪我がスグに治せます」
「正解だが、それだけじゃない。他国に対して【合わせ月の焚以上の優位が保てるってことだ。じつは、この国のあらゆるところにいる回復魔法使いは、ほぼ全員ツェルト村の人間だ】
「え?プルカーンの、ギースさんも?」
「その通り」
「でも王都から来たって。ツェルト村のことは一言もいってなかった、カナ」
「だから国策なんだよ。堅く口止めをしているし、ツェルト出身の者は生まれたときから秘密を貫くように教育を受ける。中には、口の軽い人間もいるようだが」
キラリッ、鋭い目線がレガレルを刺す。
レガレルは痛そうなフリで頭をおさえた。大げさに後ろへのけぞると椅子ごと本気で倒れた。
がちゃん!!
「っつー!」
「レガレル、軽いから……」
誰にも聞えないような小声でブツブツつぶやくと、隣のリーゼから頭をこつんと叩かれる。
「フェアも人のことが言えるか? アーヴァングに襲われた騎士を治療したのは誰だ?」
「そ、そうだった……」
冷たい目でテーブルを一望した殿下は、その視線を双子の位置で停止する。
「とにかく君たちもいま、それを知ってしまった」
「……っ!」
「始めに言ったとおりだ、カレンフレーム。それにグレンフレーム。これより君ら二人は王家監視の下、こちらの決めた場所で生きてもらうことになる。一切の行動は制限され魔法の修行も職業に就くことも許されない。もちろん、他国に目を付けられる可能性を排除するため、【合わせ月の焚】への参加も認められない」
「へ?」
「えええ!!!」
「好奇心に負けた君らが悪い。国の秘密を知るというのはそれほど重いんだが、わかってなかったようだな?」
『うッわぁ、若いのに外出できないなんて、まるきり年寄りの生活じゃん。でも、喰うには困らないのか。夢の年金生活だと思えば、それほど悪い話でもない……のか?』
完全にしょげてる二人に対して、なんてデリカシーのないことを。
さすがに、ちょっと頭にきて、つい声を張り上げる。
「悪い話でもないなんて、なにをバカ言ってんのモコト。死んでるのと同じなんだよ!」
…………あ。
固まっていた場の空気が、さらに固まった。
リーゼと椅子を直したレガレルが、同時にあたしを見てくる。
グレンちゃんと、カレンちゃんでさえ、口だけで「ヤバイって」と動かす。
『なんか、ごめん』
この場にいないはずのモコトの名前を呼ぶなんて、まして会話するなんて、とんでもないマネをしてしまった。どうやって言い繕えばいいの?ぎぎぎっと、壊れかけた風車のような音を立てて殿下のほうを向く。
一人だけ、ぽかんとしていたシャリーハット殿下が咳払いをひとつ。
「ひとつだけ、対案がある」
そういって双子の姉妹へ微笑んだ。
「王家近衛の魔法騎士として、このままバカタレ三人組の護衛を勤めるってのは、どうだ?」
そう言うと、膝からテーブルに上がり、あたしに向かって手を伸ばしてきた。
「え?」
『な、な……』
いきなりの行動にどうしていいかわからない。倒れるくらいのけぞったけど、逃げらない。頭をがしっかとつかまれたか、と思うまもなくかわいい顔が接近してきた。そして、上目遣いでこう叫んだ。
「さっきから、妙な間をつくってるウィル! とっくに王都から情報は伝わってるぞ。わたしも会話に混ぜろ!!」




