28 依頼達成
「いっやあ。どっから手を付けようか……まいった」
『どうしたの、モコト?』
昨日に続いて街の鍛冶屋までやって来ていた。ガスラーさんが、ベアリングの構造がわからないって言ったので、なんちゃって講師役を引き受けたのだ。
カウウル観光を楽しみにしてたのに、残念でしょうがない。
ベアリングを説明しろって言われても困るのよ。パーツ中央ではオイルまみれの球がクルクル回って、外が固定されれば、内側が自由に回るだけってのが私のイメージしたベアリング。まぁ軸受けだよね。
テキトーな記憶のみを頼りに動きゃいいかって造った……というまがいもの的シロモノだ。詳しい構造なんぞ聞かれても困る。全部をナゾ構造ってことにしとけって言ったんだけど、鍛冶屋さんが納得してくれないらしい。
技術屋ってのは細部にこだわるのが仕事だからね。そんなお方を相手に、私の怪しい部品を量産する権利を売りつけようとしてるガスラーさん。たいがい崇高な神経をお持ちのようだ。
仕方ないので、コックピットの工房空間で再度同じものを作ることにした。クラウドポーチから出したのを渡して、それで納得してもらう。あとは勝手に切るなり焼くなりバラすなりして、自分で調べてくれぃ!
『聞きましたよ。モコトさん、生前は商人をなさっていたとか。そんないい加減さでよく勤まってましたよね?』
グサっ!
いや正しくは、広告代理業を兼務するコンサル会社だったんですが。いま思うと現場の技術屋泣かせのやり方をしていたのかもしれない。
「激しく反省……」
そんなことをやってる片手間。グレンカレンに付けていたミニバンクのほうの、事態がカオスになってきていた。
ん?
まったく反省が足りないってか?
それは横においておこう。
反省なんか、死ぬまでにすればいいのだ。
それより今はあっちの方だ。
グレンは、大怪我。トラの前で満足げにヨダレを垂らして気絶してる。
カレンは、眠りこけた子供を抱きしめて離さない。
そしてレガレルは。
知らないオッサンの首に縄をかけて、依頼達成だーと、バカ騒ぎに叫んでいる。
フェアが不安そうに、どうしたのと聞いてくるんだけど。
「どう、解説したものか……。私の言語力では手にあまることになってるんだわ」
『かいつまんで言ってくれない?』
「あっちのチームが、大きなトラと幼児とオッサンをゲット。グレンは大怪我」
『大きなトラと、大きな幼児と、大きなオッサン、を入手?』
『ゴブリン退治に行ったんだと、思ってましたが?』
かいつまみすぎたか。怪訝そのものといった表情でフェアが、そしてリーゼ君のアップが、モニターに大写しに映し出される。フェア、それ句点の打ち方まちがってるから。
『トラと幼児は偶然の遭遇。で、ゴブリンの正体がオッサンだったってオチ。食うに困って作物を荒らしてたんだってさ。それをゴブリンの仕業にみせかけていたらしい。レガくんが聞き出したとこによればね』
少しばかり詳細に話す。間違ってないよね。
鍛冶屋側では、ヴェストリさんが、どうにか解体したベアリング相手に真剣に向き合っていた。
『ほう、中には本当に玉が入ってんだな。興味深いな、こいつをオレの技術で再現するには――』。
思考の邪魔はしたくないので、ガスラーさんとヴェストリさんへの〔心話〕は解除している。ちなみに、声だけが聞えても混乱すると考えて、あっちとこっちの〔心話〕は繋げていない。フェア側の声は向こうに聞えないし、グレンちゃんたちの声も届かない。私が仲立ちしているかっこうだ。
しばらく腕組みをしてしていたリーゼ君が、おもむろに口を開く。
『怪我のほうはレガレルが治すだろう。二人に回復魔法がバレるのは、このさい仕方ないですね。キツく口止めするとして。オッサンは依頼者に確認をとってもらってギルド引き渡し。トラの件は……街にいれたら騒ぎになりそうだな。外で待ち合わせて話を聞くとしますか』
「わかった。そう話しておく。さすがわ、リーゼ君。決断が早い」
『二十五歳没の、大人のモコトさんが、ぼくより鈍いほうがおかしいんです』
「ぐぬ。没、言うな」
視点を移すと、ガスラーさんとヴェストリさんが固い握手を交わしていた。交渉が成立したらしい。夢に一歩近づいたと、ガスラーさんは満面の笑み。この人ほど、くるくる表情の変わる人は、この世界で見たこと無い。
交わした握手が離れたところで、その二人がフェアをつまりこちらを振り向いた。
『お待たせしてすみません。話は終わりました。今後ともいいお付き合いができそうです。なにもかも、モコトさんのおかげです』
『おう!いい技術が手に入ってうれしいぜ。ウィルのねぇちゃん。一緒に祝杯を挙げたい気分だが……身体がねえんじゃ残念だな』
え、いや、いきなりお礼を言われても、困るんだけど。
あ、〔心話〕を切ったままだった。ちょいっとスキルの対象に、ガスラーさんとヴェストリさんを加える。
「私は、思いついたことをやっただけよ。馬車が動きさえすればよかったんだ」
『動くどころじゃありませんよ。革新的です!』
「いやむしろ、技術として役立てようと考えた、お二人のほうがエライと思う。うん」
『なに言ってんだ。そんなことはねぇよ』
『そうですよ』
謙遜し合っても仕方ないんだよね。だいたい、ベアリングは私が考え付いたわけではなくて、どこかの優れた技術者たちが研鑽した結果生まれたものだ。現代では無くてはならない製品を、みようみまねでパクっただけ。スルーしないで、再現しようとしているこの二人のほうが、私なんかよりよっぽど偉いと思ってる。
私の代わりにみつめられて困っていたフェアが、言った。
『モコトが正しいと思う』
「うん。そうそう」
『きっと、モコトはなんも考えてないだろうから』
「うん、そう。……え?」
『いろんなこと知ってそうなのに、土壇場になるまでやらないし』
「あれ、、そうだっけ?」
『思いつきで、雲の上まで飛んだりするし』
「ちょっと、、、フェアバールさん?」
『だから、二人とも気にしないでいい、と思う』
『ぼくも、そう思います』
なぜかリーゼ君までも加わって、私のディスり大会になってしまった。少しは年上に対して敬意ってものがあっても、罰は当たらないじゃないか。おい。
「キミ達。大人だって傷つくことはあるのだよ……。あ、レガ君側に変化あり」
『どうしたの?』
「グレンの怪我を治したところなんだけど、カレンちゃんが怒ってるんだ」
ミニバンク画面には、元気に立ち上がったグレンと、レガ君につっかかってるカレンが映し出されていた。掴みかからんばかり……ではなく完全に掴みかかっているカレンちゃん。あ、炎魔法を使おうとしてる。
「それはやりすぎだよ、カレンちゃん!」
『バカレルのくせに、治癒魔法が使えるなんて変すぎカナ! プルカーンにだって王都から来た一人しかいなかったんだよ。ぜったい変だって!』
「……このように、おっしゃってますがリーゼ君?」
フェアとリーゼ君にだけ届くように、向こうの〔心話〕を伝えた。
回復魔法の件はカンタンなようでいて根が深い。ツェルト村人意外の人が知ったときの驚きは、フェアが騎士さんを治療したときにみせたガスラーさんの態度でもうかがい知れる。
それにしても、くってかかるとは予想外。私が思っている以上に、切り出し方が難しいみたいね。リーゼ君が無表情でつぶやいた。
『ああ。とにかく、戻って来いって言ってください』




