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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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27 もふとら


 グレンは、カレンを押しのけるようにしてトラのほうへと近づいていった。まるで魅了の魔力に取り憑かれかのように、引力ににでも吸い寄せられるかのように、氷虎へとふらふら歩いていく。


「グレンっ!」


 カレンは分身ともいえる姉妹を呼び止めようとするが、張り上げたつもりの声が弱弱しい。自分よりも大きい、こちらを見下ろしている氷虎が恐ろしくて、歯がかみ合わないのだ。体も硬直してしまい腕をつかもうと手を延ばすことさえできない。


『グレンは、いったいどうしたの?』


 モコト操るミニバンクが降りてきて、カレンの隣に寄ってくる。


「……モコトっち。あ、あれはたぶん、病気がでた、カナ。」


 止めたいけど止められない。もどかしく歯噛みしている間にもグレンは、さらに氷虎へと迫っていく。一歩、また一歩と。


「? おかしい」

 

 トラのという生物の俊敏性を思えば、とうにその攻撃圏に入っている。魔物のほうも近づくに任せている。トラのほうも動かないのだ。


「あれは、襲うつもりがないのカナ?」


『……というよりも』


 じつは、氷虎もとまどっていた。

 これまで、自分がみてきた人間の行動は二つに限定される。逃げるか殺そうとするかだ。しかし目の前にいる人間の少女は、どちらでもない目をしている。


「そのまま、大人しくしていてね――」


 氷虎はこの目を、よく知っている。


「怖くないからね、ただちょっと、あなたを……」


 自分を頼る主人が時折みせる、あの目とまったく同じものだ。


「もふらせて――!!」


 グレンが、しゃっと飛びかかる。

 いきなり飛び跳ねてきた少女をに対して、氷虎はいつも主人にするのと同じ行動を反射的にとった。右の前足で頭を軽く撫でた(・・・・・・・)のだ。


 ボコッ!


 無防備状態な身体にトラのレバーボディパンチが見事に決まって、グレンは吹っ飛ぶ。


「もふ――――……・・・」


 ひゅー、という擬音が似合いそうな空中遊泳をみせるグレンは、焼けたエリアの境界に生える樹齢千年は超えそうな立派な樹木にぶち当たった。ぶつかる前に頭をかばったせいで、鈍い音をたてた腕がおかしな方向に曲がった。


 グレンの身体はそのまま、ずりずりと極太な根元へとすべり落ちて意識を失った。


「グレンっ」


『グレンちゃん!』


 ハッと緊張から開放されたカレン。急いでグレンの元に駆け寄っていく。


 吹っ飛んだ少女にもっとも驚いたのは、氷虎だった。害意から少女を飛ばしたわけではない。自分の主人であれば、あの程度の撫で具合は受け止めてくれる。そのつもりでいたのに、どうやら怪我をさせてしまったようだ。トラは、申し訳けない気分でいっぱいになってくるっと尻尾を丸めた。


 モコトは、氷虎の前にミニバンクを配置して、行く手をさえぎる。

 氷虎はモコト手製の縫いぐるみをちらりと目をくれると、そのまま横に避けて、怪我をした少女の元にのっそり行こうとした。モコトは、その歩みを阻もうと、さらにミニバンクを移動する。しかし氷虎はめんどくさそうにさながら、再度ミニバンクを迂回していく。


『うーん。こっちと敵対する意思はないみたい』


 氷虎の態度を安全なものと判断したモコトは、ミニバンクでの邪魔をやめた。

 氷虎は、少女の元にしずしず近寄ると、少女を抱きしめるもう一人の少女の傍にしょんぼりとたたずむ。そして、


 べろりん。


 倒れている少女の顔を、舌でなめた。


 気を失っていたグレンは、何かを感じたらしく閉じていた目を開ける。目前にいる氷虎を確かめるなり、ぱぁっと表情が明るくなって、動かせる左手を氷虎の顔に伸ばした。


「やっと、もふれた……」


 片腕を痛そうに顔をしかめながら、もう片腕は、自らの三倍もありそうな頭を撫でるグレン。カレンは、トラにおののきながらも、グレンの顔に着いた汚れを黙って拭き取っていく。


 時が急ぐのを忘れたかのような穏やかなワンカット、と言っていいのか。

 優しい風が吹き抜けていった。


『どゆことカレンちゃん。説明してくれる?』


「グレンは、グレンはね。もふもふ好きなの。あまりに大好きすぎて、子供のころ、構いすぎた子猫を衰弱させてね。子猫を可愛がってたのは、ほかにも何人かいたんだけど、みんな、グレンを責めたんだ。泣きながらね。それからずっとカナ。ネコをみても撫でるのをガマンしてたんだ。殺しちゃうって言って」


『聞いたことある。大人のネコは逃げることができるけど、子猫はできない。ストレスで死んじゃうことがあるって』


「そうなの?うん。だから、いつか大きなネコを見つけるまで、撫でるのをやめるって……」


 大きなネコどころではない。


『で、トラに出会って我を忘れたと』


「だと思う。カナ」


 言葉が通じたのか、氷虎はグレンになでられるに任せている。


『グレンちゃんの件はわかり。じゃあ、このトラはなんで大人しくしてる?』


「さあ……?」


 モコトもカレンも首をひねるが結論はひとつ。これだけ人に懐くトラが、野生のはずはない。


『トラを飼ってる人がいるんだね。トラをペットにするのは、この世界じゃ常識?』


「まさか。聞いたことない、カナ」


 いくら強くたくましい魔物であろうとも、集団化した人間に狙われれば無事ではいられない。放し飼いは人にもトラにも危険極まりないのだ。どこかで飼い主が心配していると思うのは当然で、いまも行方を探してるのてばないか。


 別の新しい声が発せられた。


「もどってこないと思ったら、ここにいたのか? われの寝床は、どこだ?」


 トラがピクンとなって直立不動のお座りをした。人間でいうところの緊張状態と言っていいだろう。巨大といっていいトラがとる仕草としては非常にユーモラスだ。


 森を破ってやって来た何者かが、ここにいる誰かに向かって小言を言う。誰か(・・)とはこの場合、氷虎しかないだろう。


 カレンが声のほうに目をやってみると、そこには、少年というには幼い男の子が、眠そうな半目で立っていた。


「われの寝床……ぶふ!?」


 言葉を言い終わるより先に、男の子はいきなり抱きしめられてしまった。抱きしめた人間はカレン。


 グレンは? とモコトのミニバンクが振り返る。彼女は今、トラからも姉妹からも放置されており、苔むす樹木に身体を預けていた。よほど痛いのか、もふもふで満足したのか呼吸が荒くなっている。


「この子、カワイイ!! どっから来たの?ね、名前は? 年はいくつ? オネーさんおしえて欲しい、カナぁ」


 カレンが、一分あたりキーを百文字叩き込むプログラマーのごとく、矢継ぎ早に質問していく。


 男の子のほうは、最初だけは驚いたふうに目を見開いで抵抗のそぶりをみせた。が、面倒になったらしい。そのままカレンに身体を預けて……眠ってしまった。



どうやって、双子を接触させようか悩んだんですが。

良いアイデァがでませんでした・・・

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