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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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26 ゴブリン退治


「ゴブリンは一匹。でも、姿を見たものはいない――」


「ワナは通用しないし、狩ろうとすれば出てこない。カナ――」


「で、いつの間にか作物が荒らされている。と、まとめるとこういうことだな」


 説明を聞き終えた三人は、最近荒らされたという畑に案内された。とはいっても、家から向こうは見渡す限り畑であり、開拓は森の始まる限界点まであった。そのうちの、森にほど近い場所が今回荒らされた畑だという。


 畑の中には、防風がわりに残されたらしき林が三つと、小規模のため池があった。三世帯を養うには、やや過分な規模だといえる。


「見たものがいないって、それ、本当はゴブリンと違うんじゃないか? 」


「たしかにね。ゴブリンはいつも集団で動くけど。でもこの状態は」


「でも見て。荒らされてるって言うよりも、レータを収穫した跡って感じ、カナ?」


グレン、カレン、レガレルの三人は、思うがままの意見を口にした。


 ここまで案内してくれた大きな女性は、フェアリと名乗った。その名を聞いたレガレルは「図体と…」と言いかけたが、両脇の双子が抑えつけたことで、余計なイザコザを回避した。


「? 君たち、わりと目がいいんだね。まあ、依頼を受けたからには、しっかり退治してくれないと困る。私たちは仕事があるから後はよろしく」


 フェアリは、いいたい事だけ言いきったところで、さっさと戻っていってしまった。


 この畑で育てているのはトマタという赤色野菜。トマタ畑の何本もある(うね)のうち、一部の畝のトマタだけがきれいになくなっていた。獣がやったものなら、食い散らかした残骸があるはずだがそれがない。手足をもつ、多少知恵のある魔物の仕業にみえた。


 トマタは、赤色をした春から初夏の食卓に上る人気の野菜だ。塩をふってサラダにして良し、肉と煮込んでシチューにしても美味い。直に火を通せ場所酸味が生まれ、料理の幅を広げてくれる。この季節に欠かせない食材である。


「あたし、トマタ大好き。主役を上手に引き立てるんだよね」


「レガレルと一緒、カナ?」


「どーゆー意味だあ?」


「暴れないのっ! あ、足跡が残ってる」


「……え?うそだろ? 誰も見たことないゴブリンが足跡なんぞを残した?」


 グレンの言った通り、畝のはしには足跡があって森の中へと続いていた。全くのヒント無しでは闇雲に捜すしかなかったが、多少なりとも目印があれば、捜索は楽になる。


「それならカンタンじゃん。辿った先にはゴブリンだー!」


 レガレルはヒャッハーと叫びながら、足跡の続いてる森へとガサガサ飛び込んでいってしまった。


「あ、待って!」


「やっぱ、バカレガレル」


 二人は急いで追いかけたが、間に合わない。森はいきなり視界が悪く、レガレルの後ろ姿はどこにも見えなくなった。


「ゴぉブリーン、どぉ~こだぁ~…」


レガレルの、ゴブリンを捜し求める声だけが、風にのって漏れてくる。魔物のゴブリンが返事をするはずがない。


「レガレルゥー、離れちゃだめー!」


「もどっといで、バカレルー!」


「なん だっ てぇぇぇーー」


二人の叫びに一度だけ答えが返ってきた。が、それを最後に葉摺れの音以外の音は、いっさい聞えてこなくなった。


「・・・マジ、足手まとい。邪魔しに来ただけのヤツ」


「こういうのを、なんて言うんだったカナ。投げた石は戻らない?」


『私の国で鉄砲玉って言うんだよ』


 カレンは顔を上げて朝のまぶしい空を見上げた。いつの間にいたのか、そこに浮いてるのは一匹のミニバンク。〔心話〕をしてきたのはモコトだ。


「てっぽうだま、っていう言葉の意味が分からないカナ。行ったきりってこと、カナ?」


『その通り』


「レガレルは、迷子にはならない?」


 不安そうにグレンが訊ねた。


『森がそこそこ深くてレガ君の姿は見えないけど。心話はできるから迷子にはならない、と思う?』


 深い森の入り口で、グレンとカレンは森より深くため息をはいた。


「自己責任だ。うん」

 

 捜索対象が増えてしまったが、後回しでもよさそうだという決議を下す。まずは依頼どおりゴブリンを捕まえようと、森の中を再び歩きだした二人。ちょうどそのとき、二人のほうへ向かって、下草を踏み歩く音が近づいてきた。


 ガサ……ガサ……。


「レガレル?」


「おーい、バカレル! こっちにおいでっ」


 ガサガサ、ガサ…。


 相手からの返事はなく、移動する音だけが少しづつ大きくなってきた。


「ゴブリン?」


「違うと思う、カナ?」


『こっちからも見えない。気をつけて』


 モコトは、双子に警戒をうながした。

 それを受けてカレンが、グレンを護るかのように前に出る。魔物と相対し魔法を使う場合、小回りの効くカレンが前に立つのが二人のフォーメーション。ピンポイントの炎で撹乱してるあいだに、大きな火炎を準備するのを定石としていた。


「ちょっと視界が悪いカナ? これじゃ不利になる。ファイアウォール!」


 カレンが、右手をかざしながら呪文をつぶやく。すると、右手からおうぎ形に炎の壁が現れた。軽く押すような仕草をみせると、壁は、幅を広げながらカレンの手から離れていった。


 触れる草木を取り込んで燃やしながら、炎の壁は突き進んでいく。森の中に発生した魔法の壁は、炎と熱気を奮いながら全てを燃やし尽くすかに見えた。


『うへー! 森林火災?』


「そこまでは燃えない、カナ」


 カレンの言った通りだ。炎の壁は拡がるだけ広がると、紅蓮だった色がオレンジになり薄いイエローになってやがて消えてしまった。延焼が心配された森の炎だが、壁が無くなると同時に、燃えるのをやめた。


 炎の壁が押し通った一面には、燃え残って焦げた幹を別とすれば、視界の届く開けた空間が出来上がっていた。カレン鼻の奥をいぶる燃えカスが刺激する。そうした間にもグレンが詠唱を続けている。


 モコトが操作するミニバンクがするすると高度を下げてきた。今は双子の頭の少し上をふよふよ浮いている。


 モコト本人はいま鍛冶屋の裏にいた。さきほどベアリングを説明を終えたところ。ガスラーと違い鍛冶屋は、モコトの怪しい説明にもピンとくるところがあったらしい。今はベアリングを再現すべく、己の土魔法と鍛冶の技術を奮っている最中だ。


『へー。魔法って、いったい何なんだろうね。フェアの家は、消すまで燃えてたのに……』


「え? モコトっち、フェアの家を燃やしたの?」


「帰る家がないってこと、カナ? 可哀想なことを……」


『い、いや、なんで私が燃やしたことに? 冤罪です……て』


 軽口はそこまでだった。モコトが口調を変え魔物が登場したことを告げた。


『でて来たよ。これって、見たこと無いけど。誰か知ってる?』


 魔物を目にしたとたん、グレンの詠唱がとまった。

 

『グレン、いったいどうしたの、カナ?』


「こ、これって……」


 グレンが言いよどむ。


 二人の、そしてモコトのミニバンクの前にいる魔物は、真白な中に漆黒の縞模様をあしらった虎。冷気をまとった巨体は、いまにも飛びからんとしていた。




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