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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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24 霧の子供


「ひょっとすると? 一人ずつ、馬車を下りてみるか?」


「え? ウソ?」


 シエラは、しばらく治まっていた虎への震えが身体に戻ってきたのを感じた。


「あ、あたしたちを殺すつもり?」


 十勝川は、不安でいっぱいになっているシエラの顔をじっとみて、やはり美人だなと思う。キツイ性格をお持ちのいっぽう、弱弱しい仕草が魅力を支えている人。自分の嫁にとても似ていて、そうした女性にひかれる性質なのだろうと、自らを分析する。


 自分がウィルでなければ、ここが異世界でなければ。という残念さと憤りを頭を振って断ち切る。主観カメラのはずなのにシエラ顔が見えるという、摩訶不思議な仕様。謎の設計だが、好みの相手を好きなとき見ていられるという点に、素直に感謝する。


「まさか。美人を殺すなんてもったいない」


「美人……」


 あわわと、顔を隠すシエラ。貴族女性は社交界においてお世辞と陰謀に揉まれる――のが常識だと十勝川は想像していいたが、彼女に限っては、言われ慣れていないようだ。カラカイがいがあって楽しいが、今は話を氷虎に戻す。


「思ったんだが、そいつが狙っているのは、3人のうちの誰かだ」


 シエラとパスが互いに顔を見合わせ、ぶるぶると首を振る。


「ひ、一人を生贄にさし出せば、それで、満足して帰るってこと?」


「言い方を間違えたな。狙う、じゃなくて、返してほしがってるようにみえるんだ。襲うつもりなら、馬車なんかとっくに粉々だろうし」


 グオ。


 茂みと化したトゲの木の向こうに、牙をのぞかせた氷虎がいる。言葉を理解したかのか、威嚇の声は発するが近づことはしてない。魔法を警戒してるのかもしれないが。


 十勝川がカーソルを動かして全部の〔トゲ樹木 1〕キャンセルした。茂みを形成していたトゲの木がいっせいに消えさった。


「なにを、」


 青くなったシエラがさらに警戒を高めたのを無視し、十勝川はカーソルを操作していく。〔エリア配下 1m^2につき 5〕を選択。


「200坪もあればいいか?」


 選択された辺り一帯の地面が一瞬だけ光ると、鎮座している樹木の枝がブンブン震えると幹が左右に大きくゆれる。


「一度、試してみたくてな」


「木が…」


 樹木たちは、地面から根をのっそりと引き抜くと、巨大な体躯をぶおんぶおん揺り動かしながら根の足で歩行して、一本ずつ氷虎へと迫る。森が、四方から距離を詰めてくるという圧迫感ある景色に、さすが不死の魔物も立ちおよぶ。十勝川の配下にある樹木軍は、行儀よく氷虎を囲んでしまった。


「ファンタジー映画で、木が歩くのを見たことがあってな。アクティベートしておいたんだ。思ってた以上の成果に驚いてるんだが、樹木の檻だなこりゃ。凍らせたくらいでは破壊できんだろう。エネルギーをバカ喰いした甲斐があるってもんだ」


 緑一色だった地面が、氷虎を封じた檻を中心にして焦げ茶色の線が伸びている。樹木達が根っこをひきずった土の跡であり、強引な周囲魔法の威力を物語っていた。大小の堀り跡があちこちに点在していた。


「あなたは、何者?キコリじゃないの?」


「それは後だって。なら、ひとりずつ馬車からおりたら、左右に散らばってくれ」


 氷虎はたしかに木々の間に閉じ込められている。信じがたい光景だが、襲い掛かられる危険はないと、まずシエラが恐る恐る、続いてパスが元気良く馬車から降り立った。シエラは左へ。パスは右。馬車を中心に十分に離れた二人だが、氷虎はそのどちらも見ずに、まっすぐ馬車の方を向いている。


「やっぱりか、そんな気はしてたんだが」


「どういうこと?」


「氷虎のお目当ては、睡眠中の子供だ」


「魔物が追ってきたのは、この子だったってこと? まさか?」


意味がわからないと、首をかしげるシエラ。


「その子は、どこからやってきた?」


「わからない。戻ったときには、この子は馬車の中で寝ていたから」


「氷虎が現れたのは?」


「あたしたちが、馬車に戻ったとき……あっ」


「そいつとトラは、何か関係がある。起こしてみてくれ」


 樹木に閉じ込められた状態で、身じろぎもしなくなった氷虎を確認するシエラ。いまだ名前さえわからない声が、馬車の子供を起こせという。


「あんたのことは、何と呼べばいいの? 」


「名乗ってなかったか? 十勝川 真人(とかちがわ まこと)って言う。マコトが名前だ」


「マコト トカチガワ、ね」


 もう一度だけ氷虎を見たシエラは、重い歩みで馬車に近づき、音もたてず乗り込んだ。寝息をさせてる子供は、これまで無害な同乗者だった。氷虎に関わりがありそうと言われると、忌むべき対象に思えてくる。手を触れたとたん、呪われるのではないか。


「…おい」


 声をかけるが起きない。これで起きるならば、とっくに目を覚ましてる。横向きに寝ている姿の肩に狙いを定めしゃがみこむと、そろりと指先を伸ばしてみた。


 シエラの指がもう少しで肩に触ろうというとき、子供の目が、バチッと開く。


「む。おこさないでほしかったのに。あと三日は寝たかったのに。わしは、寝起きが悪いのに」


シエラの手を振り払ってすくっと立ち上がった見た目十歳の男の子供が、明瞭なセリフを言い放つ。今しがたまで熟睡していたとはおもえない、即答ぶりだ。


「わし?」


 そぐわない一人称を聞きなおすが、子供はそれには答えず、じっとシエラの目を覗きこむ。目線はしゃがんだシエラとは同じ高さ。瞳までかかる前髪ごしに、感情を読み取れない瞳は微かも動かない。


 息苦しさを覚えて、視線を外したのはシエラのほうだった。


「お主。弱いくせにウィルを従えているのな? 」


言葉を失った十勝川をよそに、シエラの中に単純な怒りが沸き立つ。


「あ、あたしが弱いって言った? ガキが、偉そうにっ!」


 反射的に腰に括りつけてる短刀を抜き取るシエラ。十勝川の「よせっ」の言葉と同時に、刃先を子供の首に突きつけようとする。


 ただの脅しのつもりだったが、切っ先が首に触れる一瞬前、男の子の首がかき消えていた。首だけではない、男の子そのものが見えなくなったのだ。代わりにその場にあったのは霧。短刀を握った右手は、男の子の形をした冷たい霧の影を抜けていった。


「なに?子供は?」


 何がおこったのか理解できないしシエラは、腕を振った勢いに振られてよろける。


 肘をついた格好で止まると、じとっとした湿りを感じる手先に目をやる。その手は、短刀ごと手を洗った後のように濡れており、ポタポタと数滴、雫落ちていった。

 ますます意味が分からないと、立ち上がると、馬車の外から声がする。


「わしはなにもしてないのに。人間ってのは、いつも乱暴だな」


 いつの間に降りたのか、子供はゆうゆうと地面人間立っていた。重さがないように軽く数歩で、木の檻に到達する。並ぶ木の間から手を差し入れると、氷虎がすりより大きな頭を垂れた。


 恐ろしい魔物は、子供にされるがままに頭をなでられている。暴れる姿を知らなければ、まるで大人しい猫のようだ。


「今は眠い。世話になった眷属の礼をしたいのに、安息地を探さなきゃいけない」


 そう言うなり、また子供が見えなくなると、代わりに辺りは霧に包まれた。


 ミシッ、ギギギギ、メリメり、バキッバキッ。


 はるか頭上から木の枝が軋む音が鳴る。それは生木を無理やり握りつぶすような、握りつぶされるのに抵抗しているような、樹木の悲鳴だった。2度3度、そうした音が聞こえてるたびに、地面が震える振動が足元にひびいてきた。


 音は唐突にしなくなり、時を開けずに霧もなくなった。見上げた空には、青空が広がっていたが、それは、霧がかかる前には見えていなかった景色だった。


「眷属は、わしが連れて行く。二度と会うことはなかろう。それよりも寝ていたいからな……」


 その言葉のとおり、氷虎はいなくなっていた。そして、豹虎を囲っていた樹木たちも、根の痕跡だけを残して消えてしまっていた。


 シエラも、そして倒れているパスも口を開かなかった。しんと静まった森が、息を吹き返し、虫や鳥の声が聞えるにはしばらく時間が必要だった。遠くに無く何かの鳴き声が届くようになって、最初に言葉を発したのは十勝川だった。


「お前たち、とんでもないモノと旅をしてたようだな?」


「そ、そのようだね。あれは何? 霧の妖精?」


「そんな可愛いものじゃなさそうだだけどな」


「あいつ、あたしのことを、ウィル使いだった言ってた。ウィルってなに?」


「ああ。その件な。そいつは……」



 やっと本題に入れると十勝川が思った矢先、森の奥から、草木をかきわけて誰かがやってきた。がさ、がさっと、何かを引きずるような慎重な足取りで、一直線にこちらの馬車を目指してくる。


 十勝川はモニターを操作して、未確認の相手を拡大すると……。


「いやあ、シエラ。上手そうな獣が獲れたぞ。3人じゃ食べ切れそうにないな。余った分は煙で燻して、スモークにするか。ん? おい、煮炊きの準備はどうしたんだ?」


 狩りに入っていた、モリグズだった。



やっと「巨人」フラグを回収!

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