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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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23 氷のトラ


「……氷虎?なんで? ま、さか? 追ってきたの?」


 声にならない声を搾り出すシエラ。


「だから注意したのにな。このでかいヤツを、知っているのか?」


こくりと頷いたシエラ。人を人とも思わない女が、緊張で身体を震えさせている。ギャップが少しかわいいと、一人にやける十勝川。


「氷のトラ。死なない魔物って言われてる。追っ払ったと思ったのに、なんであたしたちをつけ狙うの?」


「会ったことがあると?」


「言ったまんまだよ。こいつのおかげで一人死んでる」


「同じ氷虎とは、限らないんじゃないか?」


「こんな化け物が、そこら中にいるものか? あたしだって初めて見たんだ。同じやつに決まってる」


「そんなものか。じゃ、なんで狙われてるんだ?」


「魔物の理屈なんで、知るわけないじゃない!」


「そうか? そりゃ……」


 ぐぅわおおおおぉぉーー!!!!


 ごちゃごちゃうるせぇとばかりに、咆哮をあげる氷虎。おびえたように振動した空気に馬車が揺り動かされた。空気は風となる。生暖かい温度から急速冷凍され、シエラとパスの軟らかい肌を刺す。冷え切った大気はまるで氷のトゲのように痛みと化した。二人は両腕を抱え、自らの身体を抱きかかえた。


「痛いのか? 怪我はないようだが」


「な、何をのんきに!」


「なんも感じないからオレは。オレを信じないで、逃げなかったお前が悪い」


「隠れて正体ださない男。そんなうさんくさいヤツの言葉を誰が信じるか。増援って話でもなさそうだし」


「あんたはキレイだからな。客観的にはストーカーかと思うけど、姿を見せられない事情があるんだわ」


「知るか!」


 ごまかすように言い切るシエラ。十勝川は女が頬を染めたのを見逃さない。キレイという言葉に反応したのか意外とウブなのかもしれない。とはいえ、荒ぶる魔物を前に長々と話せてるのは、その氷虎が、襲ってこないからだ。向かってくる気配はないが、立ち去る素振りもない。魔物が執着する理由など知らないが、このままでは、人間のほうが根負けしてしまうだろう。


 言葉をやりとりするシエラの目は、馬車の後ろをいったりきたりしている氷虎に釘付けになってる。切りかかっても勝てる敵ではない。それは、すくんで震える身体が力の差を示していた。情けないが本能が恐怖しているのだ。


 モリグズはどうしたのだろう。森に消えたまま姿を見せない暫定の相棒が、虎の咆哮に気がついてないはずはなく、隠れて様子を伺っていると思っていい。もっとも出てきたところで、彼の魔法は威力不足。けん制にしか使えないのに、闇魔法は支援に不向きときてる。


 考えるまでもない八方ふさがりに、頭を抱えた。

 十勝川が、助け舟をだす。


「ツレナイネ。しかしそんなあなたに挽回のチャンスを与えます。乗ってみるか?」


「チャンス?」


「オレが、こいつを沈める。そのかわりに一つだけ、こっちの言うことを聞いてくれ」


恩を売るような提案をしてるが、これはフリだ。十勝川には、助ける以外の選択肢がない。死んでもらっては自分が困る。


強がるシエラが鼻でわらった。


「ふ、ふん。あんたに、そんな力があるのか?」


「造作もない」


 何事もないふうに言ってのけた声に目を見張り、コックピットの、シエラ視点モニターの視界がほんのすこし拡大した。


前回、ギャズモルがやられた遭遇では、逃げることしかできなかったシエラ。氷虎の強さを知ってるとは思えないが、倒せる自信があるという。慢心ではないのなら賭けるしかない。シエラにも選択肢はなかった。


「自信があるならやってみな。もし、氷虎から逃げられたら話をきく」


「それでいい。仮契約が成立だ。ハンコを押す書類がないのが残念賞ってとこだ」


 そういいながらもすでに十勝川は、手許の十字キーでカーソルを探っていた。

 氷虎は、みたまんま氷の獣だ。あたりの空気すら凍らせる冷気の化け物だと決めつける。しかし魔法を使ってこないところから、攻撃手段は爪や牙だけか。でかくて冷たいトラだ。


「獣ならばヒグマと同じ。封じ込める方法はいくらでもあるってな!」


 グルルと威嚇する氷虎の真下に〔トゲ樹木 1〕を発動する。

 突然現れた足の裏を刺激するトゲトゲを嫌った氷虎は、たくましい筋力でちょいと跳び避けた。


「え?魔法? 」


 シエラの声を無視した十勝川は、虎の動きのみに注視する。


「逃がすわけねーよ」


 避けた氷虎をみて、その先にも〔トゲ樹木 1〕用意。

 トラの肉球を狙って、トゲの木が生える。

 再び跳ねて避ける氷虎。

 だが、跳んだ場所には別のトゲ木が待ち構える。

 

 虎の小ジャンプとトゲのワナの応酬。

 それが何度となく繰り返されていった。

 シエラは、氷虎をもてあそぶ樹木の魔法に見入ってる。


「逃げるの早えぇ。逆モグラ叩きだなこりゃ」


 ガル、ガルルッ


 避けても避けても、その先には足裏を点く痛い木が生えてくる。

 トゲの木は着地のたびが増えていってる。

 ちくちくするエリアが徐々に広がってきた。

 しみったれた連続攻撃。

 避けることしかできない氷虎がいら立つ。


 とうとう、踏みしめる場所がわずかとなった馬車の後方。

 氷虎は、一帯から脱出しようと、大きく後方へ飛び上がった。


「飛んだよっ! 」


「これを待ってた!」


 十勝川は〔絨毯ツルカボチャ 半径5メートル〕を選択。サイコロの展開図のような升目がモニターに表れる。それを、タクティクスRPGの目のように細かく仕切られたフィールド上を矢印で動かして設置した。都市開発ゲームで芝生を設置する容量である。


氷虎の潜在能力はわからない。飛行ができないとするなら、重力にしたがって落ちるしかない。予想落下地点に設置したのは、背丈ほどの高さまで密集するカボチャの蔓。


「リアル、シ○シティだっ」


 ガウルルル?


体長はおよそ5メートル。地面からの高さは小柄な成人に届く。大人なら三人は乗れそうな巨体が、しなやかな蔓群に埋まっていく。

 氷虎はカボチャのワナから脱しようともがく。だが、植物の足場はいかほども踏みごたえがなく、動くごとに沈みこんでいく。身体をよじって脱しようとするも、身を封じられて動けなくなっていった。


 目の前の展開を信じられず、なんども瞬きしているシエラ。

目の前で脅威の対象が捕らえた安心から、へたり込むパス。


「最初から、これを狙って?」


「まあな」


「こんな、こんな魔法って。あれ? どっかで」


 絡みついた蔓に動きが封じられた魔物の姿に、シエラは別のことを考えはじめた。魔法といわれる脳力は、おおむね、火水風土、それに光や闇などに大別されている。樹木を使う魔法は珍しくウワサに聞いた程度だ。氷虎よりレアだとさえ言えるが、つい最近、同じ魔法に出会っているのだ。


「あんたは、あのキコリ……?」


 グォァォオオォー!


「安心するのは、まだ早いか」


「え?」


 捕らえたはずの氷虎が、蔓を食い破っていた。足が使えないと理解した魔物は、身体の周りを凍らせる手段を選んだ。氷点下のバナナは釘が打てるほど硬くなるが、細い氷は子供でもポキポキ折れる。憎らしいほど冷静だ。


 ばきっ、がきっ、ざさっ。


 氷虎は、高値で取引されそうな立派な牙をふるい、ガチガチに凍った蔓をすべてかみ壊していた。粉々に砕け散った蔓の残がいを蹴みしめると、向けていた背を翻した。シエラの奥の十勝川を正視し、ニタリと嗤ったように見えたのは気のせいだと思いたい。


「さすがわ死なない魔物。老練なことをするもんだ」


「どうするのこれ?」


 ワナを破ったものの、相変わらず襲ってくる気配はない。

 何か、いや誰かを要求している?そんな風にも見えなくもない。


「ひょっとすると? 一人ずつ、馬車を下りてみるか?」


「え? ウソ?」


 いままで治まっていた震えが、シエラの身体に戻ってきた。



十勝川・シエラのターンは、まだ続きます。

ちなみに登場人物は、四章までに出し切る予定でいます。


まだ、名前の決まっていない人物もいるのですが。。。どうしよう。

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