5 神の説明
文字訂正しました
私は、ただただ、村での争乱を見下ろしていた。
あれって、ゴブリンなんだなー。
村の人は、魔法で応戦しているんだなー。
このとき私は心から思った。
「ビールと、ポテチが欲しい」
まあ、疑ってもしょうがない。ここはいわゆる異世界ってやつなんだろうね。村人の魔法は効果があるようだけど、多勢に無勢ってヤツ。ゴブリンのほうが優勢だ。
のんびり観戦している私っていうのは、いったいなんだろうかねー。
飛行機のエンジンに潰されて死んだ。光の塊になってこんなとこに辿りついたのだが。魂っぽくふらふらするにしたって、死体傍の札幌付近とか、せめて地球の上周辺で漂うのが自然。
わざわざ別の世界に漂着するなんて、出来過ぎにもほどがある。偶然にしちゃおかしいでしょ。何者かの思惑が働いてるとしか思えない。
「その通りだ。キミ程度の頭でよくそ理解できたな」
え?
頭の中に声が響いた。
「何者かの思惑である。つまりそれが私だ」
なんか・・・これは、聞いたことのある軽薄な声色と言葉。
反射的に、怒りが湧いてぶちのめしたくなる。
「ぶちのめす? それは私に無礼千万であろう」
正体不明のムカつく台詞に、思わずキレた。
「姿をだしなよ!」
ボワっと、ピンクの煙とともに、中から三頭身のウサ耳幼児が現れた。
「見ての通り。君の小さな理解力でさえ分かるものと思うが。私はこの世界の神さまという存在だ。わざわざこの身を披露してあげたのだから、心の底から敬ってくれ」
バランスこそデフォルメされているが、姿は良く知っている。
私を目の敵にしていた、あの課長だ。
「私は課長ではない。キミの印象にもっとも強く残っている姿と性格を拝借したのだ。私の名前は・・・ぐっ」
思わず手がでて、軽薄ピンクの首を絞める。
「あ゛た゛・・・何をする! ギミ。その手は・・・うむウィルっぽくなってきたな。く・・・苦しい・・・」
手? ウィル?
確かにさっきまで無かった。
そう言えば、身体もうっすら見えている。
まあそれは、どうでもいい。
本能が告げてくる。
この課長的な自称神さまとやらは、生かしておいてはダメな生き物だと。
それ以前に、この姿は神経を逆撫でする。息の根を止めることに専念しよう。
「・・・」
息をお引き取り遊ばさしたようだ。
握り締めていた首を解放する。
「ゲホつ、ゲホつ、あー、死ぬかと思ったではないか。最も、神さまとは、死なないから神様なのだが。ワッハッハー!」
「死なないのかっ!」
「うむ。死なないのだ」
課長神は、一拍、間をあける。
「口でしゃべれるのか、またウィルが進歩したな。まぁいい。キミ。いろいろと訊きたいことがあるんじゃないのか? 何でも答えてやろう。私は神なのだから。」
それは、そうだ。知りたいことは、山ほどある。
下に見えてる世界とか、あのファンタジーな闘いとか。
なによりも、聞きたいことがある。
「今の私の状態ってなんなの?」
「答えてもいいが、キミの頭で理解できな・・・ がっ!」
右手の拳でブチのめす。
バスっといい音を残して、見えなくなるまで飛んで行った。
・・・と思ったら、スグ目の前に現れる。
「なんという暴力的振る舞い。暴力反対だ!」
「あんたは、一体なんなの?」
「言ってるじゃないか。この世界の神さまだ」
こんな、姿にも言葉にも威厳のない神さまって、いるわけない!
「神さまだって、人の子だ。キミは、他の神さまを知らないだろう。世界の数だけ姿も性格もさまざま。私のスタイルは記憶をラーニングするものなのだ」
確かに。これまで神ってやつに会うチャンスは無なかった。
神だと言われても感慨は無い。おみくじ代の100円返せと思う程度だ。
そうは言っても、神様らしいイメージってものがあるっしょ。
その前に、神さまって人の子なのか?
「そこはスルーだ。実は時間がないので要点だけ言う。それを聞いたら、さっさと、仕事にかかるのだ」
え?
何?
仕事?
「ひとぉつ! キミはここでは、ウイルという存在であ」
ウイル?
どっかの王子の愛称か、それとも犬の名前みたいだ。
「ひとぉつ! ウイルはヒトの中に入って、誠意をもって助太刀する」
入る? 入るって?
「ひとぉつ! ウイルは魔法的な力を持ち。その力は育てることが可能である。」
「ひとぉつ! ウイルが入れるヒトには条件がある」
ウィルがウィルがって、まるで壁に貼った社則を読み上げるように、ウィルという言葉を連呼する課長神。いったいこの先にどんな結論が待ってるんだか。
「そして今現在、条件を満たしているのはあの子だ。さらに付け加えるなら、人に入らないままウロウロしてるウイルは、早晩、消えて無くなる!」
さっきから私が気にしていた子供に、短い人差し指を向ける。
素早く私の後ろに回りこみ背中に手の平を当ててきた。
「おそらくだが。このタイミングを逃せば次はない。時間がないのだ。このまま入れ!!」
ぐいっ。
背中を押された私は、光となって地上の子供へ突進していった。
声だけが後ろから追いかけてくる。
「ウィルの活躍方法と使用上の注意は、キミの世界でお馴染みのやり方に合わせてある。では、死なないように善処してくれ」
こうして私は、ウィルなる存在として、この世界に降り立つことになった。
なにひとつわからないまま。
いつも読んでいただいて、ありがとうございますっ!
50話を目安に、ストーリーを考えてます。