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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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21 苦痛

「……それだけだ」


十勝川は、ブラウン管に映るカーソルを動かして、芝桜との〔心話〕を終了すると、呼吸が必要かどうかは別にして、思い出したように息を吐いた。


 この世界に来て。いや、自分が死んでから、いったい何日が過ぎただろう。光るブラウン管に照らされた、四畳半の佇まいをながめる。


 畳敷きの四畳半の、凹型のへこんだ一角にだけ畳がない。掘りごたつのような深くえぐられた場所には、70年代アニメにありがちなロボット操縦席が無理やり押し込められていた。温泉旅館の小上がりに据え置き型レースゲームがどんと置いてあるようだ。そう言ったほうが分かるだろうか。


 操縦席は、ジェット機のパイロットが着座するような仕上がり。三面のモニター外部が見られるという大掛かりなたたずまいなのだが、スキル操作はチグハグで、ブラウン管のゲーム画面を、十字ボタンで付きのコントローラーでカーソルを動かす。メッセージなどのインフォメーションも同じ画面の下に表示。コントローラーが有線でないのはちょっとだけ楽だ。


 脱いだヘルメットを横に置いて、操縦席から畳へ身体をうつす。座布団を引き寄せてごろりとなると、自然と、天井に貼ってあるポスターに目が行く。十勝川が小学生だったころ、学校の廊下に貼ってあったポスターと同じ物だ。モデルになってるアイドルタレントが好きだった。誰もいない放課後にこっそり持って帰ったのも、いまとなっては良い想い出だ。


 10月10日は体育の日!


 国民の祝日である体育の日が、10日から、第2月曜日になったのはいつだったろうか。妙なところが再現されているものだと、関心してしまう。


 この空間や世界に、そろそろ慣れてきたと思っていた。気の良い炭屋のウェイブと共に、ウィルとして過ごして行く。ようやくそんな覚悟を固めたところだったが、

十勝川の甘い予想は世界に裏切られた。思わぬ人間との遭遇により、将来設計の見直しを迫られることになったのだ。


 ウェイブと離れた、あの出来事を振り返る。





「止血もしたし、怪我も治した。なんで危険が去らない? おいウェイブっ!」


 考えられる回復スキルは、ほとんど使った。〔疲労解除 40〕というのはあるが、色は灰色のまま。これはまだ使えないスキルなのだろう。


 これ以上ないほどのだるい声で、炭屋がつぶやいてくる。


『あー。なんか疲れた。力が入らないんだ』


「嘘だろ、疲労か? そんなの、食事と睡眠だろうが。すぐ寝ろ!」


『ああそうする』


 炭屋は目を瞑って身体を休めるようとするが、疲れが、おいそれと無くなるはずもない。モニターのログウィンドウには、止めどなくメッセージが流れていく。



 MSG

  ウェイブ・クラムが危険水域に近づいてます 生体エネルギー 30%

  エネルギーゲインが低下してます 残り 10%

  ウィルと生体ウェイブ・クラムとのシンクロが著しく低下してます

   残りライン 0

 MSG



 このときの十勝川には、メッセージを読んでるゆとりがなかった。十字キーをカチャカチャ鳴らしてカーソルを動かし、有効なスキルを捜し求める。


「くっそー、どうすりゃいいんだああああああ!!! 」


 そして、最後のメッセージをも見落とした。



 MSG

 シンクロが、できなくなります――

 MSG



 コックピット内部が真っ白になり、十勝川の意識が消えていったが、再び意識が戻るまで、大した時間はかからなかった。気が付けば同じコックピットに座っていたし、モニターに映る景色は、あい変わらず馬車のある森の中だった。ただし視点のほうは異なっていた。映っていたのは、ウェイブ・クラム。


 十勝川のいる人物は、虫の息の炭屋を横に目ると、そのまま馬車に乗り込むところだった。意味が分からかった。彼の中にいる俺が外から見ているのはなぜか。馬車が動き出し、炭屋が遠ざかっていく。起き上がろうとしている様子に、死んではいないとホッとする。


 いまの自分の状況を教えてくれる何かを探して、むちゃくちゃに辺りを見回す。

 ブラウン管に視線を落とすと、あらゆるスキル群が、グレーになっていた。エネルギーゲインは底辺から、やや回復しているが、使える状態になってない。


 メッセージログが、忙しく行を増やしていく。ウィルの状態が回復しただとか、体力が68%あるだとか、そういった細々したログが、どんどん流れていってる。十勝川は、その中に、見慣れない言葉を発見する。


「バイグッド? スキルの確認? なんだ?」


 ログには、シェラ・バイグッドという言葉が、数多く並んでいた。その上でスキルをチェックしろとか、健康の状態があまりよくないとか、そういった文字がどこまでも続いている。こうした慌しいログの状態は、これまで一度だけみたことがある。十勝川は、暴れまくるメッセージにカースルを当て、自分が気を失っていたと思われる時間まで下へ下へと、遡っていった。何分か苦闘して、ようやく、今ある状態を確信できる証拠に突き当たった。


「うそだろ……」


 MSG

  シェラ・バイグッドとシンクロしました。シンクロ率73%

 MSG


 景色はさらに炭屋から遠ざかり、もう、草と木に隠れて見えなくなってしまった。





 あれから何日かが過ぎたが、いまだ十勝川は迷っていた。

 それは、十勝川ウィルが入り込んでしまった、この女のことだ。


『あんたは間違いなく、ツェルト村の子供なんだね? 』


 声の主はシエラ。モリグスとかいう男と共に、子供を誘拐してきた女だ。ドリーヨーコとか言う国の公爵の密命を帯びての人さらい行動だということが、会話から読み取れた。いまは、さらってきた子供に何度目かの質問の最中だ。


『うん』


『そっちの、まだ寝ている子は?』


『知らない』


 アドバイスと称して、芝桜に〔心話〕しろとふったのは、ツェルト村という、聞き覚えある単語が飛び出したからだ。こちらの質問に答てもらった礼のつもりだが、連絡をとるかどうかは、十勝川の知ったことではない。自分の問題だけで、十分、頭が痛いのだ。


 芝桜藻琴にも言ったが、プルカーンの村長や炭屋には〔心話〕で連絡を入れている。あのあとすぐ、ウェイブは、駆けつけた住人の手で助け出されたらしい。二人の反応はこうだ「寂しくなるけど頑張って~」と。男よりも女のほうが、何かと楽しかろうと、羨ましがられた。


シエラは、殺人を生業とする人間である。それは問答無用でウェイプに襲いかかったことからも分かる。相手が女というだけでも手を焼きそうなのに、誘拐とか暗殺を仕事にする人間の中に、自分がいる。羨ましいどころではない。


「はあ〜」


十勝川は、何百回目かのため息を盛大に吐いた。


「やっと、ウェイブと通じるようになったと思ったのに、突然の左遷かよ」


 初めての慣れない職場で苦労して築いた関係が、上司の気まぐれで、地方送りとなった気分だ。それとも、クラスでぼっちの男に友達ができたとたん、親の転勤が決まったとでも言おうか。


十勝川が人間であるならば、ことはシンプルなはずだった。接触は簡単明快。やあ、と挨拶をすればいい。友好か敵対か。相手が、どんな反応をしようとも、その時に対応するだけだ。友好なら歩み寄ればいいし、敵対してくるなら、すたこら逃げることもできるのだ。


ところが、ウィルの自分にはそれが許されない。敵意をむき出しにされたところで、そそくさと立ち去ることさえできないのだ。


ウェイブの身体から、この女の身体へと移れたことは奇跡だと考えてる。外に出られる条件がシンクロ率とかいう数字の低下であり、それを引き起こすのは、宿主の生命の危機だと仮定する。しかし、出ることができたとしても、誰かに入れる保障はどこにもない。相手のドアが開いているかどうかは、外出してみなきゃ分からない。


 万が一の奇跡にすがって、善人そうな人間に半殺しにしてもらうと? 半殺しにする人物を善人といえるかどうかは置いといて、もし次にこの女が殺されかけて、ここから離れることがあったとしても、都合よく誰かに移れるとは思えない。

 能天気なのは、芝桜だけで間に合ってる。


「女で、しかも殺し屋ときたもんだ。なまら難しくね? 仲良くできる自信なんぞ、ダイヤモンドダストの欠片ほども湧かねえ」


 ツマラナイ例えを言ってるうちにも、シエラによる、子供の取り調べが進行していく。


『ぼく、村に帰りたい。返しておばさん』


『お ば さ ん? もう一度言ったらただでは済まさないからね。あたしは、まだ二十二歳だっ。笑うんじゃないモリグス!』


 二十二歳か若いんだな、と十勝川はつぶやく。貴族であることもほのめかしているが本当だろうか。殺人を請け負える人間というのは、冷静な狂人か今日の飯にも困る貧乏人しかいないと、自分の人生の尺度で計る。すくなくとも権力を揮う者がやるべき仕事と思えないが。


 地位は貴族であったとしても、裏方として使い潰されてる一族なのかもしれない。忍者ってこともあるうるか。いや、この短気さでは、忍びは勤まらないだろなと結論づける。


『パスって言ったね? 回復魔法は使えるんだね?』


『それは、村のおきてで言えないことになってる』


『言わなくてもいいけど、そうなると、また村にもどらなきゃいけなくなるよ』


『ぼく、帰れるの?』


 嬉しそうに飛び跳ねそうになるが、次の言葉が期待を裏切る。


『死体になってね。あんたを殺して、回復魔法を使える別の子供をさらってくるのさ』


 そう言ったシエラは、腰にくくり付けてあった短剣をすっと取り出す。パスと名乗った少年は、黒く光る短剣をじっとみつめるばかりだ。


「このシェラ・バイグッドは鬼だ」


 本心かどうかは分からないが、脅かすやり方としては直球すぎる。大人なら交渉の入り口になるかもしれないが、相手は子供。泣き喚いてしまって、話しどころではなくなるのでないか。日本の子供であれば、事態が飲み込めないできょとんとするか、泣いて、滅茶苦茶に手足を振り回して逃げることだけ考えるのであないか。


 どうなるものやらと息を殺していると、パスの右手が動いた。右手は、そのまま短剣を握っているシエラの手を掴む。誰もが、剣を押し戻すつもりかと思ったが、いったん離すと、今度は鋭い刃のほうをぎゅっと握り締めた。


『何を……?』


 驚いたシエラが、反射的に短剣を引っ込める。握ったままで刃物が動いたことで、パスの左手が引き裂かれる格好になった。


『つっ』


 痛みにうめく少年は、切れた手を右手で押さえる。だらだらと、指の間から血液が流れ落ちて、馬車の木材を赤く濡らしていく。シエラとモリグスが同時に声を荒げる。


『自分から、どういうつもり?』


『何をやってるんだ』


 この慌てぶり。ウェイブに無表情で切りかかった同じ人間とは思えない。

 十勝川も、もちろん驚く。


「治すスキルは?」


 コマンドを探っていくと、治療系のスキルがいくつか見つかった。大部分は、宿主のシエラを回復させるもの。身体の略図と一緒に、体調や怪我の状態がつぶさに確認できる便利なものだ。エネルギーを消費することで治療が可能。若干なら、強化や防御もできる。


 他人を治療・回復させるスキルの使い方もわかったが条件がある。シエラが相手を仲間と認定する必要があるのだ。女とコンタクトできてない現状では無理な話だが好機ととらえた。


「これが吊り橋か」


 十勝川は、〔心話〕をアクティブにして、会話に入り込むタイミングをはかる。


 シエラは慌てて短剣を手放して、サイドポケットから軟らかい布を取り出す。パスの手に充てようとするが、少年は強い意志をもって首を振った。


『治療魔法、見たいんでしょ?』


 パスは、左手の平を上に向けると、そこに自分の右手をかざす。

 痛さに顔をしかめながらも、短い呪文を唱えた。


『傷を治して消毒 ヒール&キュア』


 両の手の間から青い光がもれたかと思うと、瞬く間に収束した。はいっと言いながら、シエラたちに向かって血だらけの左手を開いてみせた。ぽかんとしているシエラをみて、あることに気付く。


『あ。これじゃわからないよね』


 パスは、ウォーターを唱えながら両手をこする。手の間から水が流れ出て、左手についた血を洗い流す。ふたたび、手を開いてみせると、今度こそ、二人の目が丸くなった。そこにあったはずの少年の傷は、あとかたも消えたなくなっていたのだ。


『こ、これが』


『そう、治療魔法。ぼくはまだ小さいから強い魔法は使えないんだ』


『始めて……みた』


『オレは何度か。しかし本当に子供がなぁ。ドリーヨーコ帝国が誘拐をたくらむはずだ。これが明るみになれば、国の関係がかわるぞ』


 十勝川も、一部始終を見ていたが、この成り行きの意味が分からない。治療など、ありきたりなものだと思っているからだ。異世界初心者の自分でさえ使えるのだから、とりたてて珍しいものとは考えていなかった。



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