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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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19 静寂のあとで


「お、お前、いい度胸をしてやがるなっ!」


 湯気が立つほど怒りで真っ赤になった剣士は、声を震わせながら、腰に携えた金細工を施した剣に手を延ばした。


「これ、どうするのリーゼ?」


「特に予定はない」


「ええええ?」


 剣を鞘から抜く剣士。

 ぎゃりんという鈍い音が、広いロビーの隅々を満たす。


「どこのガキだか知らんが、大人をからかう怖さを教えてやろう」


 慣れた手つきで剣を構えると、肩を怒らせてジリジリと迫ってくる。

 とりあえず、剣を抜いた人をAと呼ぼうか。って、名前つけてる場合じゃない。


「魔法って、使っていいのか?ここは?」


「いや、ギルドの中は争い禁止だと思う。問題になれば俺たちの目的も果たせなくなるぞ」


 レガレルとリーゼのごしょごしょ話してる。しゃべってる余裕ないと思うけど。

 なぜか気持ちに余裕があるのか自分でも不思議。理由を考えると簡単なことだ。この剣士さんたちが、あんまり強そうに見えないんだよね。二人を注意できないな。


 アーヴァンクやラインハルトのとき、なによりも、二百匹のゴブリン騒動のときのほうが、怖かったし緊張した。あのときは、本当に死ぬかと思ってたし。


「おしゃべりか。さぞかし、自分の魔法に自信があるんだろう。この国の魔法使いは、みんなそうだ。だが、魔法には弱点がある――」


剣士Aが、剣をブンブンと振り回しだした。

すぐ後ろのBとCも、うすら笑いを浮かべている。


受付のお姉さんの顔がほんのちょっと見えた。胸の前で両手を握りしめて 心もとない風だ。急な展開に驚いているのか、それとも矛先が変わって安心しているのか。よく分からない。


「――詠唱には時間がかかるってことだっ!」


 Aは、握り締めた剣をいったん頭上に大きく振りあげると、リーゼめがけて突進してきた。あたしは短い防御魔法を唱える。「護れ、エア…」しかし、リーゼがあたしの口を塞いで詠唱を遮った。


 どうして?


 剣士はもう、すぐ間近に迫ってきている。虫歯だらけの口を大きく開けて、口の量端がこれ以上ないくらい嫌らしくきり上がっている。


「ひゃっはー、あの世で勉強してろぉ!!」


 力かませに諸手で振り下ろされた剣が、リーゼの頭をとらえた。

だめ、切られる。


あたしは思わず目をつむり、彼の体を引っ張ろうとした時、ふいに頭の上の風を乱して、何かが動いた。


がっきーん!


 剣は、力の抜けた音をたてた。


「なんだ?」


この間抜けな声は、剣士Aか。


 おそるおそる頭をあげて目を開くと、剣はリーゼの上で止まっていた。頭を切り裂くはずの凶器が、中途で止められた。剣士はそれを信じられない目で見ている。あたしも信じられない。


 良く見れば、剣とリーゼのあいだには、見慣れた物体が挟まっていた。

 十分になめした肌触りのよい毛皮。元が魔物であったとは信じられない愛らしい表情。腕にしっかりと収まる三頭身のスタイル。


「み、ミニバンク?」


『そう。ミニバンクだよ。無茶するよね、リーゼくん』


 食後の会話のようにくつろいでいる、モコトの言葉が頭に流れる。


「助けてくれると思ってたんですよ」


 リーゼも、お茶受けが増えて喜んでいるような暢気さで返す。

 でも、いつのまにミニバンクがやってきたの。どこにも見えなかったのに。


「街の上を飛ばしていたんじゃ?」


『街の地図は完成した。せっかく二匹いるからね。一匹戻して〔隠蔽〕で頭上に浮かべてたんだよ』


 剣士たちは、初めて見たミニバンクに困惑していた。冒険者たちの間からも、なんだ?という声が聞こえてくる。後で説明しなきゃいけないなら、さっさと宿に帰りたい気分。


「そっちの女は、人形使い(パペットマスター)だったのか!」


 剣士Aがあたしをにらんできた。ちがう。モコトのミニバンクだよ。

 剣がとまった理由が分からないで、一瞬、混乱していたようだけど、気を取り直したようだ。弾かれた剣を引き戻すなり、ふたたび、下手な剣技で切り伏せようとしてきた。


 がしん!


 今度も、ミニバンクが邪魔をする。


「く、くそがっ!」


 がしん!

 がしん!

 がしん!


 上から、右から、左手から。何度も何度もリーゼを斬ろうとするが、その度に、素早く回り込んだミニバンクが剣先を頭で、ぽんぽん弾き返していく。


「切れない! 斬れない! ただのでかい毛虫のおくせに、なんで剣が通らない?」


 余裕をなくした口元からは、とっくに笑いが消えていて、そのかわり、ダラダラと汗を流し始めている。


『百年やっても無理だね。防御膜を張ってるから、そこらの剣じゃ傷もつかない』


 相手の耳に入ったらきっと怒るよね。リーゼなんか退屈そうにあくびをしている。


「何やってんだ。とっとと片づけろ」


 仲間のだらしなさに呆れたのか、剣士BとCが自分の剣に手をかけた。加勢するつもりだ。まずいなぁ。ミニバンクがどれだけ素早くても、剣士三人を相手にするのは分が悪いと思う。今度こそ、魔法で防御しよう。


 剣士たちを閉じ込める水の壁魔法を詠唱しようとすると、とてつもない大きな声がロビー中に響き渡った。


「そこのお前たち! 何をしとるんだっ!」


 あまりの大音量に空気がビリビリと震え、天井からぶら下がっている風送りの羽根もぶるぶる震えた。あたしも思わず両手で耳を抑え込む。詠唱どころじゃない。レガレルとお姉さんも、耳を塞いでる。


 剣士たちをみると、剣をもった姿勢のまま固まってしまい、動けないでいる。

 見回すと、ほかの冒険者たちは足をすくませていた。


《すっごい声だねぇ。レジスト魔法より性質が悪そう》


 そっか、あたしは詠唱を止めたんじゃなくて、止めさせられたのか。声の主はどこだろうと、辺りをきょろきょろ見回す。いつの間に来たのか、ギルド事務所側に何人もの大人が立っていた。窓口のお姉さんが、その一人の方へ駆け寄っていった。


「しぶちょ~っ!」


しぶちょ?


支部長(しぶちょう)のことだろうな」


 支部長と呼ばれた人は、どうやら背の低い女性のようだ。同じく背の低いあたしからは、カウンターが邪魔になって頭の上しかみえない。


 あっ。椅子の上にあがったらしい。上半身が見えたけど、自分の目を疑った。信じられないことに童顔なんだ。さっきの迫力ある声と顔が一致しない。いくつなんだろう。お姉さんの頭に手を置くと、よしよしと言ってなだめている。


「怖かったんですよ。あの剣士さんたちが、傷だらけのオークを高値で買い取れって、脅かしてくるんですっ! 本当に傷が多くてほとんど生ゴミみたいなオークなんです。そこの魔法使いさんたちが、かばってくれなかったら、今頃は……」


「ごめん。一人だけ残してしまって悪かったな。これだから冒険者ってヤツは。まあ、かんべんしてやれ。お前のほうも、そろそろ、荒くれ者相手の仕事になれろよ」


 ふえーん、とベソをかくお姉さん。

 その絵面は、小さな妹にあやしてもらってる姉といった風情だ。


「で、それはそれとして」


 椅子から降りて見えなくなった支部長は、今度はカウンターを回ってこちらにやってきた。剣士たちは、氷魔法から開放されたように動き出すと、大慌てて剣を鞘に収めた。


 支部長は、そんな剣士たちを人にらみすると、静に口を開いた。


「そこな剣士。アボット、ベール、チャーリー」


 名前の頭文字が、本当にABCだったと思ったのは秘密だ。笑いで肩が震えないようにしないと。くくく。


「お前たち、いつもいつも、目が届かない場所で、うちの子に無理を押し付けやがって。加えてこの騒動。さすがに今回は目こぼしはできない。登録を抹消させてもらう」


 剣士Aが、ぺこぺこしながら言い訳を始めた。アボットかなベールかな? ABCが私と一致してると限らないから。


「騒動については、俺たちのせいじゃない。はじめに絡んできたのはそいつだ」


「ほう? 本当か?」


 見た目だけはあたしと変わらない支部長が、リーゼに目を向ける。鋭いけれどどこか疲れた瞳。ぜったい、同年代のはずがないない。リーゼはなんと言う?


「その通りですね。彼らに言いがかりをつけたのは、ぼくのほうです」


 りぃぃ~ぜぇぇぇ~。正直すぎる!

 冒険者登録ができなくなるでしょう!!


 支部長さんの目が、ほんの少し細くなったと思ったら、穏やかに目じりが下がった。そして、剣士に向きあう。


「ここがギルド内部でよかったな?、お前たちは剥奪だけで終わるんだ」


「どういう?」


「先だって、ギルドに2つの情報が入った。ひとつは、プルカーンまでの街道で悪さをしていたラインハルトが捕まったこと。もうひとつは、武器屋にワイバーンが持ち込まれたこと。職員が一人になったのは、みんなでワイバーンを見に行ってたせいだ」


「なんだって!」


 剣士やギルド内に、ざわめきがおこった。


「食わせ物のラインハルトか?」


「何代目だっけ? 商人を襲うってあれか」


「いい気味だ。で、ワイバーンだって?」


「オレ、一度も見たことないど」


「あたしは、飛んでるやつは見たことある、でっかいよ」


「そんなのを倒したやつがいるのか?」


「オレの村は、去年襲われたんだ……」


 広がったざわめきは、おさまる気配がない。どっちとも、あたしたちだよね。まずいことをしてしまったのかな。


『少なくとも、手を挙げにくい雰囲気はある』


 支部長が手を挙げると、冒険者たちのおしゃべりが一斉に停止した。この支部長はなんなの。この手なずけは驚異的。ただのギルドの責任者と思えない。


「成し遂げたのは、五人の子供の魔法使いだという話しだ。ツェルト村三人プルカーンの二人。しかも一人はたった11歳の女の子という」


 あたしの顔をまじまじとみてくる。童顔なのに大人。いや、種族によっては人間の何倍も生きることもあるという。歳は100歳でも、その種族では子供ってこともあるかもしれない。


「おそらくはキミだろう。人形使い(パペットマスター)さん?」


 人形使い(パペットマスター)じゃない。11歳の女の子はあたし1人だけど、ラインハルトもワイバーンも、みんなでやったこと。とくにモコトが。そんなこんなをうまく説明できないし。なんていえばいいの。掴んでいたリーゼのローブを握る手に汗がにじむ。


 あたしが何も言えないでいると、支部長はあきらめたようにかわいらしく小首をかしげる。そのまま話を続けてくれた。


「こいつらが、キミたちと出会ったのが森であったなら、無事ではいられなかったろうよ?」


 ふんっと小さく息を吐く。言われた剣士たちはいきりたった。


「俺たちが、こんなちびどもに負けるってか?」


「その通りだ。それも、完膚なきまでコテンパンにな」


 支部長さん。せっかく剣をしまったのに、焚き付けないでほしい。


「毛も生えてないガキ相手に、負けるはずかるかぁ」


 ぽっ


 わ、わ、いきなりなんてことを言うのこの人は。赤くなってしまったじゃない。


 下品なセリフは剣士A。怒り心頭の見本のような顔をしてる。ふたたび柄に手をかけた形相は鬼のように歪む。支部長は、何を考えているのか涼しい顔をしている。リーゼも同類だ。


「いくら騒いだところで、弱いものは弱いのだよ剣士くんたち。とっとと出ていくがいい」


 右手は出口を指差してるけど、抜くなら抜けとばかりに、いっさいの隙をみせない。かなり強いんだろうな。あたしには分からないけど、剣士たちはそれを知ってるんだ。抜こう構えはしたけど、その状態から動けないでいる。


 ふたたび緊張に包まれたギルドに、新たな空気が送り込まれた。


 ばたんっ!


 扉が開く音がすると、間髪おかずに聞き覚えのある声がした。


「ねぇ。こういう場合ってどうなるの、カレン? あたしたち犯罪者?」


「知らないわよ。この人たちが襲ってきたんだから。あたしたちのせいじゃない」


 ギルドに入ってきたのは、双子の火魔法使いだった。

 ついさっき別れたのに、なんでギルドに?


「グレンちゃん、カレンちゃん、どうしたの?」


「なんかね、このグレイスさんて人が街を案内してくれるっていうから、喜んでついていったのに」


「案内されたのは裏の暗い道でね。ぞろぞろ男の人が集まってきて、剣をつきつけてきたの」


 カレンちゃんが、握っていた細い紐をひっぱると、空きっぱなしの扉から、四人の男女がふよふよと浮いて入ってくる。四人とも手足が縛られて身動きができない。しかも、服も顔も丸焦げになっており、ぼろをまとった裸といったほうが近い。かろうじて一人に胸を発見し、それが女の人だとわかった。ほかは区別がつかない。


「あたしの、炎のクモの巣(スパイダー)でちょっと火傷を負わせて、あとはグレンの炎の竜巻(エリアファイヤー)で一網打尽ってね」


「あんたたちが、プルカーン組みかい?」


 支部長が質問する。


「そうだけど? あなたは?」


「あたしは、ここの支部長だ」


「えー?お子様なのに?」


「フェアちゃんと同じくらいなのに?」


 荒くれ者の冒険者たちを押さえつける力がなければ、ギルド支部長なんか勤まらないとおもう。剣士たちが縮こまる姿をあたしはみてるけど、双子はそうじゃない。信じられないのは無理ないか。


 その彼女が、捕まってる人たちをため息混じりに見ている。

 ロビーまで浮かせて連れてた襲撃人たちが、床に置かれた。


「グレイスとその仲間か。どいつが新人殺し(ニューピーキラー)かと思ってたんだが、あんたが首謀者だったとはね。こいつらは、街の警備兵に引き渡す」


 支部長の合図で、十人以上のたくましいギルド職員が、グレイスと呼ばれた人とその仲間を引き連れていった。


「グレンちゃん、浮遊魔法を使えたっけ?」


「それは、あれね」


 グレンちゃんが、上の方を指さす。予想はついてたけどね。そこにいたのはミニバンクだった。つまりモコトが、手伝いをしたってことになる。


『へっへ~。返り討ちしてるのが見えたからね。ここまで運んできた』


「もう、なんでもできるんだね」


『攻撃が無理なのが、残念!!』


「さて、これでわかったかな?」


 なんのこと?

 支部長の視線の先に眼をやると、棒立ちになっていた剣士たちがいる。そうだった。彼らがひと暴れしようとしていたのを完全に忘れていた。


「グレイスたちは、あんたらよりも弱かったっけ? この子らに勝てる自信があるなら好きにしな」


 しばらく顔を見合っていた剣士たち。やがて柄から手を離すと、すごすごと、ギルドから退散していった。


「は~……やっと終わった」


「何いってんだ? 長いのはこれからだよ」


 支部長さんが、ハチミツさえ溶けそうな笑顔で、あたしたち五人を見まわした。


「はい?」


「冒険者登録にきたんだろ? ヨシュアから聞いてるよ。聞きたいことも山ほどあるからね。帰れると思わないことだね」


 宿に戻れたのは、日が落ちてさらに時間が過ぎてからだった。「女の子の笑顔は怖い」としきりにレガレルが言っていた。一緒にしないでね。


今日も読んでいただき、ありがとうございますっ

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