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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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18 冒険者ギルドにて


 ガスラーさんの馬車は、モコトが直した。どこがどう良くなったのかは、あたしにはわからないけど、鉄と木で作られてたタイヤは、プヨプヨしたのに包まれている。


 乗り心地がよくなったんなら、大歓迎だね。


 感激して泣いてたガスラーさんと、口が閉まらなくなったドワーフ職人さんが、込み入った話しを始めた。


『商売の話みたいだから、放っておこう』


 モコトがそう言ったので、私たちは、ギルドに行くことにした。

 何の話か、今夜にも聞けるだろうし、いつでもいい。


 それにしても、モコトの能力は驚きがいっぱいだ。あたしを護るだけでなく、治療したり、地図を作ったり、小さなアーヴァンクを作ったり。いまは、馬車も修理してしまった。


「ウィルって……モコトって万能なの?」


『全然、そんなことはないよ。私は、フェアの盾。できることは、どれも、あなたを護るために存在してるんだ。ま、ミニバンクのおかげで、やれることが広がったけどね』


「あたしは護られているだけで、モコトに何もしてやれない。それが、ちょっと悔しい」


『そんなことは、ないよ。私だってフェアに護られてる』


「え?」


『フェアがいなかったら、この世界に来た時に、私は消えていたんだ。フェアの中にいることで、私が私でいられるんだよ』


「でも」


『この話は、これでおしまい。恩がどうのってことを気にしだすと、いろいろ縛られてくるからね。はい、終わり』


「うん……」


 モコト、いつまで私の盾でいてくれるの?

 その質問は、怖くてできなかった。




 あたしとリーゼ、レガレルの三人は、鍛冶屋だらけの通りを後にした。人だらけの大きな通りまで戻って、再び、ギルドの建物へ近寄っていく。


「グレンちゃんたち、まだいるかな?」


 冒険者ギルドの前にすくっと立つ。改めて見上げると、かなり威圧感のある建物だ。何階建てなんだか、外からじゃわからない。とにかく上にも横にもでっかい。


 リーゼとレガレルが、力をこめて扉を押す。木製の大きな扉は小さなきしみ音をたてて意外に軽く開く。肩透かしをくらった二人は、倒れこむように建物に入る。


 冒険者ギルドは中も広かった。天井が高い。

 村長家がすっぽりおさまってしまいそう。


 中は無人、ということは無くて、10人以上の人がいた。

 集まっている人は、みんな冒険者なんだろうね。女の人もいるけど男性のが多い。体の大きな大人ばかりだ。何人かがこっちを振り向いた。ギロリとした視線に身がすくんで、思わずリーゼの裏で遮る。


『これがギルドか。異国風情ある内装だね』


「双子は、いないみたいだな。冒険者登録をすませて、さっさと帰ろう。俺たちには場違いだ」


「そ、そうだな。うん」


 知らない大人だらけだというのに、リーゼは、いつもと変わらない。時々、村長さんの代わりに、村の仕事を指揮していたのは伊達じゃないってことだね。あたしほどじゃないけど、レガレルも雰囲気に呑まれてる。キミの父親のバーレーンさんのほうが怖い顔だよ。

 モコトは……いいか。


「奥のカウンターが、受付だな?」


 あたしの手を引き、リーゼがずんずん歩き出す。レガレルが、慌てて後に続いてきた。


『ずいぶん、緊張してるね。ここにいる人は仕事目的だよね? 大丈夫。フェアを襲う人はいないよ』


《そういうことじゃないの》

 知らない大人を見ると、身体が縮こまる。困った体質だと思うけど、自分じゃどうしようもない。


 カウンターの窓口は三つあるけど、今は受け付けが一人しかいなかった。カウンター裏を占めてる事務所の机にも人がいない。休憩でもしてるのかな。


 窓口にいるのは若いお姉さん。三人の身綺麗な剣士と、やり取りの最中だ。


「……では、オーク三匹コボルト五匹の討伐したということで、依頼完了を確認しました。依頼料は契約通り支払われます。ですけど、材料の買取については、オークの引き取り価格が六割低下します」


「ん?低下とは、どういうことかな? きちんと買い取ってくれるって言ってだよな?」


剣士の一人が、ぐいとアゴを突き出してお姉さんに詰めよった。腰にさした直剣をがちゃりと鳴らしたのは、脅かしてるようにうかがえる。


「あ、あの、あそこまで傷だらけとは思っていませんでしたので。オークの身体に剣の跡がたくさんありました。あれでは皮は使えませんし、お肉も、まとまった塊が取れません。し、商品価値が下がって……ですから六割の低下です。すみません」


 お姉さんは、腰が引けてしまった。助けを求めようと、自分の後をちら見するけど、誰もいないことはわかっている。しょんぼりと肩を落として、剣士と相対し直す。わたしは誓った。絶対にギルド職員にはならない。


「本来は、買い取りできないんです……」


 うつむいてしまって、もう言葉さえ聞き取れない。

 脅かし効果が上手くいったことに満足した剣士は、もう一押しとばかりに、威圧のトーンを上昇させた。


「オークはオークだ。そちらの売値なんぞ、俺たちの知ったことではない。適正価格で買い取るってのが、ギルドの筋ってものではないか?」


 先頭の一人がカウンターをドンと叩くと、他の二人も、ドスの効いた顔を近づける。


「わ、わたしには、決められません。だ、誰か、せ、責任者が戻ってから……」


「今直ぐだっ。急いでんだよ、俺・た・ち・は!」


 腐ったリッコの実を売りつける押し売り。あたしの目にはそう映ったけど、ギルドではこれが当たり前なのかな。これだけ騒いでいるのに、他の冒険者は誰も止めようとはしてない。


『ムカつくねぇ。冒険者ってそんなに偉いの?』


 やっぱり乱暴なやり取りなんだね。よかった。

 あたしもムカムカして気分が悪い。けれども、こちらが絡まれたわけじゃないから、怒ることもできない。もし口を出したとして、その後がわかわないし。


 わたしは、じっと凝視しながら、後ろで順番を待つことしかできなかった。とにかく彼らが終わらないことには、冒険者登録ができない。


 すると剣士の一人が、首を回してこちらをじーっと見はじめた。何かに気づいたのか、わざとらしく、しかめ面を作る。


「おやや? 表で会った、田舎のガキたちじゃねえか。お手手つないで揃って冒険者ごっこか?」


 言われて自分の手を見下ろすと、リーゼの左手を握ったままだった。気恥ずかしくなって離そうとしたけど、きつく握り直された。恥ずかしさが飛んで安心が残った。


《誰だっけ?知ってる人》


『知らない人』


 表で会ったと言われても思い出せない。さっきまで鍛冶屋で馬車を見ていたのだ。顔を思い出そうと、短い一日の記憶をたどっていると、リーゼが口を開いた。


「その節は、常識をご教授賜りまして、ありがとうございます」


「え?」


「ほら、街の入り口で、道を塞ぐなと注意してくれた御仁たちだよ」


 剣士は自分のアゴを撫でながら、あたしたちを見回す。上から下まで舐める様な遠慮ない視線に肌が泡立った。


「ほう。ガキのくせして礼儀をわきまえてるんだな。いい心掛けだ」


「はい。今も一つ、勉強させていただきました」


「勉強?」


 淡々と答えるリーゼ。

 何を言ってんの?


「はい」


一拍だけ呼吸を開けたリーゼ。お姉さんをいたぶってた、先頭の男もこっちに気がついたようだ。剣士三人の視線が集まるのを待って、今度は声を張り上げる。


「一人しかいない、かよわい女性に、人数をカサに商品にならない買取りを強要。相手の譲歩を引き出すと、今度はさらなる押し付けを強行。まったくもって、見事な手腕としかいえません。ガキの僕たちには絶対に実現不可能な、恥知らずで斬新な方法は、魔物討伐に通じるところがあります」


《ぷふっ》


 言っちゃった!


「んな? おちょくってんのか?」


「勉強だと言ってます。みれば、ここにいるほかの冒険者たちは、みんな若い人ばかり。あなた方の強硬を妨げられる人は、おられないようです」


あたしから離れた手が、大げさな身振りでロビー全部を指し示す。つられて振り返ってみると、ここにいる冒険者全員が、剣士たちを注目していた。彼の言うとおりだ、よく見れば、リーゼやレガレルとそう変わらない人ばかり。あたしが思ったほど年上の大人は見当たらなかった。自分の大人恐怖症が悩ましい。


「まるで計ったようなタイミングで実行された戦術は、芸術の一言に尽きます。ぼくも、自分より弱い立場の人にお願いするときがきたら、あなた方のマネをして、威嚇することにします。ご教授、ありがとうございますっ!」



 一瞬だけ静寂に包まれたギルドに、拍手が湧き上がった。みんな、剣士たちの横暴に憤りを覚えていたみたい。

 リーゼ、人を怒らせるのが得意なんだよね。

 レガレル、ニヤニヤしているけど緊張はどこいったの。


 当然だけど、剣士たちは真っ赤になって怒ってる。


「お、お前、いい度胸をしてやがるなっ!」


「これ、どうするのリーゼ?」


「特に予定はない」


「ええええッ?」



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