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4 決心


 なんでなんでなんでっ!


 悔しさで、涙が止まらない!

 ここには、あたしの居場所はないんだ。


 村にいる人間は、みんな、あたしを知ってる。

 いくら隠しても、醜い痕を蔑んでくるか、哀れみの目を向けてくる。


 このまま村を出ていくんだ!

 もう、称号なんてどうでもいい。

 あたしを知らない町なら、隠してる火傷は知られないはず。


 家の中へと駆け込む。

 ガザガザと家中をひっくり返す。

 必要そうなモノを漁る。

 リュックにギュっと詰め込む。

 そのまま背負って飛び出す。


 隣で音をききつけたらしくサリサおばさんが何か言ってきた。それを無視して、一番近くにある東の門へと駆けていく。もういい。このまま出て行くんだ!


 少しばかり走ったところで、村の雰囲気がいつもと違うことに気づいた。いつもはのどかな村が、とても騒がしいのだ。血相をかえた大人達が怒鳴りながら、あたしと同じく東の門へ走っていく。


 この人達も、村を出て行くつもり?


「子供は、村の奥へ行けー」

「回復できるヤツは、門の後ろで待機! 」

「攻撃使えるヤツ、もういないかー!?」

「あーだめだ、主力はゴブリン退治に出てる。夕方まで帰って来ない!」


 なんだろう。この慌てぶりは、いままで一度も見たことがない。

 すこし隣をバーレーンおじさんが走っている。村の役人をやっていて時々声をかけてくれる。大人の中では優しい人だ。あたしから話のできる数少ない男の人でもある。


「おじさん? どうしたの? みんな慌てて 」


 声が小さかったからか、こちらに気がつかない。顔がこわばっている。ちょっと大きい声をだす。


「おじさんっ!!」

「・・・あ、フェアか? ゴブリンが襲撃してきた! 百匹以上もいる。いや、二百かもしれん。それくらい沢山いるらしい!」


 二百以上のゴブリン? まさか? そんな集団聞いたことがない。走りながら会話を続ける。


「村長やリーゼ達が退治にいったんじゃ?」

「それとは、別の集団らしい。追い返せないと、村がヤバイ」


 あちこちから、家畜の鳴き声が聞こえてくる。子供達は、追い立てられるように家に入れられ、ばたんばたんと窓や扉がが閉まっていく。


 あたしが出て行こうとしてた東の門は、山ほどの人だかりができていた。手入れの行き届いていた芝がめくれて、土煙がもうもうと上がっている。あの向こう側で、大人達がゴブリンと闘っているということか。


 なんて運の悪い。

 よりによって今、こんな争乱が起こるなんて。


 厚い人垣の間から、怪我人がずるずると引きずり出された。皮の鎧の上から刺さってる矢を、力任せに引き抜かれる。痛みに堪えた、抑えたうめき声。待機していた魔法師が、すぐに回復魔法を唱えて、怪我を治した。

 バーレーンおじさんは集団の後ろに加わって、何事が叫んでいる。


 幸いなことに回復魔法師はたくさんいる。というより、村の魔法師のほとんどは回復や治療魔法を得意としてる。怪我の治った大人は、ホコリを払いながら立ち上がると、馴れない武器を手にして戦いの場へ戻っていった。


 出て行くと決めはしたけど、こんな状態をみれば迷ってしまう。

 どんなに嫌いでも、生まれ育った村なんだ。知っている人だらけの村をほっとくのは、人としてやってはいけないと思う。

 想像もしてなかった出来事なんだ。家出の意志を横に置いとこう。今は、何が手伝わなきゃ。


 次々と怪我人が担ぎ込まれる。その数はあまりにも多すぎた。回復して戦線に戻るよりも、運ばれくるほうが増えてきている。同じ人が、何度も何度も回復しても戦いに戻っていく。いくら回復魔法師がだらけと言っても、いつまでも続かないんじゃ。


 治療魔法が苦手なあたし。

 助けるという点では、みていることしかできそうもない。


「だ・・・だめだ。ゴブリンの勢いが止まらない。このままじゃ・・・押し切られてしまう。戦えるヤツは、前に出てくれ。誰でもいい」

「誰でもって言ったって、なんとか戦える大人は、みんな前に出てるだろう」


 ツェルト村で、魔物や人間を相手に戦える大人は少ないんだった。戦える魔法を使えるのは30人だとか。身体を張れる戦士は数えるくらいしかいない。そのほとんどは、夕方まで帰らない。


「強力な防御魔法を使えるヤツがいれば・・・」

「今、それを言っても、仕方ないだろう」


 壁役が務まる魔法使いの多くは、5年も前に無くなったと聞いてる。その中には、父さんと母さんもはいっていた。


 何もやれなくてぼんやり考えていると、後ろから、誰かがあたしの手を引いてきた。


「フェア! 危ないから家にもどって! 」


 そこにいたのは、息を切らしたサリサおばさんだった。あたしを追っかけてきたのかな。そこに、バーレーンおじさんが割って入って、あたしを掴んでいたおばさんの手をはずした。


「なにするの、バーレーン!」


 おじさんが、あたしの肩を力強くつかむ。

 そして、低い強い声で、静かにつぶやいた。


「フェア・・・、お前。回復以外の魔法なら得意だったな?」





誤字脱字は、潰してるつもりですが。。

見つけた方、知らせてくれると助かります。

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