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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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12 整地


 到着した野営地というのは、広めの空き地って感じ。街道際に、10メートル幅で50メートルくらいかな。それくらいの長さがある空き地だった。モコトは、よーちえんのグランドって言ってるけど、何それ。


背後のゆるい丘には、周囲の森と同様に高い木が生い茂っている。


「お客様がた、今夜はここでの野営になります。始めての人は不自由ですが、ちょくちょくあるので慣れてください」


 ガスラーさんは、荷台の上にてっぺんに載ってる大きな荷物を、ボスンと落とした。


「それは?」


「天幕です。馬車の中は狭いので、これを仮設して、その中で寝ます」


 バッサバッサと準備を始めたので、みんなで手伝うと五分程で組み上がった。真ん中がツンと持ち上がった革製の円形の天幕はツギハギだらけ。だけど、エアレルの皮でできてるとかで、買うと相当高いらしい。旅商人の必需品だって。


 エアレルとは双頭の牛のこと。ツェルト村にも何頭かいる。


 中に入ると意外に広くて、10人は楽々眠れるそう。自分のリュックをモコトに出してもらうと、枕にして早速ごろんとした。


「近くに川が流れていますから。誰か汲んできてくませんか?」


 あたしの喉がなった。魔法じゃなくてたまには自然の水が飲みたい。水を飲もうと外に出れば、となりの馬車の前にも天幕が張られていた。こっちのが大きい。


 リーゼが青々とした丘の方を仰いでいる。何かと思って隣に並ぶと、モコトが感想を言う。


『見通しが、悪いよね』


「そうかもね。うん。あたしもそう思う」


『生い茂った草木が近いと、それだけ虫に噛まれるんだよね』


「虫?ま、虫は嫌だけど、いまは盗賊だな」


 大きなバケツを抱えたレガレルが言う。ガスラーさんに水を汲んでくるのかな。


『盗賊? さっき片付けたんじゃ?』


「あんな似非じゃなくて、ほかにもいるんですよ。ここだと丘から見下ろされる位置だし、木が遮蔽物となって発見が難しい。カンタンに迫られてしまう危険があります。夜になればなおさらのこと」


「じゃどうする?」


「壁を作れないかと、考えたんだけど」


 リーゼの言葉に目を輝かせてる双子がいた。


「なら、やることは一つだね。消そうよアレ」


「うん。みんなのために、ひと肌脱ごうカナ」


 あれを消す?


何か不穏な空気が漂ったのを感じて、つい後ずさり。


 グレンは、丘に向き合い両手を頭の上にかざすと、魔法の詠唱を始めだした。

 

リーゼとレガレルも、詠唱する彼女をみつめてる。


「マジ?」


「吹き飛ばせるのか? 仮にも丘だぞ?」


 詠唱しながら、最高の笑顔でにっこりするグレン。


「グレンの全力の威力は、すごいんだよ。村でも五本の指にはいるカナ」


カレンがしそうに自慢する。

この眼、見たことある。昨日、爆裂魔法を放って気絶した人と同じだ。


 虫が気になるといったモコト。丘があると盗賊がいてもわからないと話した男子たち。これって、ただの会話なんだけど、それに乗っかって詠唱を始めるグレンの気楽さって、なんだろう?


不穏な空気が、現実になったようだ。

詠唱はまだ続く。


『ずいぶんと、長くない?』


「長いけどこれが本当。モコトがポンポンカンタンに使ってるほうが不思議なの」


 魔法というのは、モコトがよく口にするイメージの力だ。自分が使う魔法の威力や種類、到達する位置とか速さとか、そういうイメージを込めながら、呪文を詠唱する。普通は目的と呪文名がセットになっているけど、慣れてくれば「はしょる」ことも自由。

 

 だから極端に言うと、何も言わなくてもいいし長くても良い。こういう魔法をこう使うってことが、自分中にイメージ出来てさえいれば、身体の魔力を消費して魔法が発動していくんだ。


 そうは言っても、大きかったり魔法や複雑な魔法を使うには、かなりの集中がいるんだ。イメージを作るにしたって元になる理窟や原理が分かっていないと、ただの独り言になる。だからこそ、魔法書というのを勉強して覚えなきゃいけないし、魔法を一つ理解して使えるようになるためには時間がかかる。一語一語に思いを込めて詠唱しないと、魔力を使用する流れが生まれないから。


「ということで、魔法が大きくなるほど、詠唱が長くながぁくなるのが常識なの」


『ふぅん。この魔法はやばいってことだね。ほかの人に言って避難させなくていいの?』


 その言葉を聞いていたかのように、ざざぁっという音を立てて、大小さまざまな鳥達が一斉に飛んでいった。リスや狐たちも走りやすい街道に姿を現し、一目散に逃げていく。


「目の前の丘に打ち落とすんだろ? オレらも、ここにいたら土砂崩れの下敷きになるんじゃね? 逃げないか?」


「グレンは、そんなマヌケじゃない気がするが。でも、危ないなら保護しないと彼女が自分の魔法で自滅しそうだ。レガレル、壁を作れるか? フェアとモコトもいいか?」


 いつの間に出来たのか、頭のはるか上には千切れ雲サイズの炎の塊がいくつも浮いて、お互いにゆらゆらグルグル回っている。


グレンの横、扇形に並んだカレンも詠唱を開始した。ウソ?プルカーンの爆裂魔法使いが同時発動?どこまで大掛かりな魔法なの?


「二人の魔法が発動したら、そこがタイミングだ。いいか?」


「お……おう」


「わかった。あたしは、エアバリアを張る。モコト、防御の幕は宿泊所ぜんぶに広げられる?」


『そこはオーケー。でも無理ゲーっぽいかと……』


「話してる時間はもうないぞ。そろそろ発動する」


再びちらりと空に目をやる。ばらばらに周回していた炎が寄り集まって大きなウズを作り出していた。 気流が生まれて、塵とか枯葉が吸い寄せられていく。


 天幕からガスラーさんが、何事かと顔だけ出す。異変に気づいたヨシュアさんが、持っていたバケツを放り出してやってくるが、


 「お前たち、何を!」


 もう遅い。


 紅蓮の炎が眩しくなり、じんわりと辺りを照らす。

 かなり離れてるはずなのに、手や顔に熱さえ感じてきた。

 こづえの葉の一部が熱で焦げ出す。


 グレンの詠唱が耳に心地いいって感じるのは気のせい?


「――深遠なる炎を纏いし偉大な巨人よ我が言葉を聞き入れ深き情けにより大いなる力を分け与え給え……グレーテストフレアァ!!!」


 双子の詠唱が重なる。



 シュゴ ゴゴオオォォォー!!

 シュゴ ゴゴオオォォォー!!!

 シュゴ ゴゴオオォォォー!!!!

 シュゴ ゴゴオオォォォー!!!!!

 シュゴ ゴゴオオォォォー!!!!!!



 炎が寄り集まった火炎の雷が降り降ちる。それも、一本でなく五本も。昨日の村での魔法もすごいと思ったけど、あれはみんな手加減していたのだと悟らされる圧倒的威力!


 大地を揺する衝撃に続いた荒れ狂う炎は、森と大気を飲み込んで縮小したかと思うや、熱を放出しながら、見えるもの全てを焼き尽くす。


 これが、これこそが爆裂魔法なんだっ!


「見とれてるな!抑えるぞ!熱風を追い払え! コールドウィンド!」


「雪崩れくる土砂を押し止めろ、アースウォール!」


 なんか、二人ともかっこいい?


「ええと。空き地にいる人みんなを炎から護れ、ウォーターウォール!!」


『じゃ、わたしは強化と範囲拡大ね』


 火炎が突き刺さった大地は、大岩を落とした水面のように、大量の土砂しぶきを上げる。逆らうのを諦めたように、吹き上げられた土くれは、炎の柱に飲まれて、溶かされたり灰にされていった。


「くっ!」


 三人プラス付加魔法が、爆裂魔法の勢いを削いでいく。


 背後から生まれた強風が、熱風を押しやる。

 冷たい水の壁が、撃炎の洗礼を食い止める。

 高い土壁が、高熱の流出灰土砂を遮断する。


 グレンの魔法は、斜め上から射ち落とされて被害があっちに行くようにしたようだけど、熱も土も、都合よく動いてはくれない。それを防御するための魔法だけど。


「うわっ痛っ!」


 リーゼの風を潜り抜けた熱石が、ウォーターウォールをも突き抜け、パラパラとぶつかってきた。あれだけの爆炎をすべて防ぐのは、やっぱ難しい。


「グレン!」


 グレンが魔法切れで倒れた。

 慌てたカレンが助け起こしたけど、彼女のほうもふらふらだ。


 長い長い時間が過ぎていく。伸ばしに伸ばされたような暑いひとときは、どうにか終了した。物すごく永く肌では感じたけど、終わってみると一分も経っていないかも。


「なんとか、抑えきったようだな?」


「たぶんな。生きてるし」


「また、死ぬかと思った」


 ゴブリンの襲来からずっと災難続きの気がする。これが、大人になって自立するってこと。人生は死と隣り合わせなんだね。きっと。


 モコトなんかは、本当に死んで魂になってるし。

 あたしも、死んだらウィルになれるかな?

 お互いの検討を祝ってハイタッチ。


「お、お客さ、ま……。あんたたちねえ!」


 天幕から飛び出したガスラーさんの口調が変わってる。

 これは、本気で怒ってる。


「何を、危ないことをしてるの!」


「あの、整地?」


「盗賊から襲われないように、見晴らし良く。ですね?」


 ビビるレガレルに、タジタジのリーゼ。

 あたしも、しゅんとなる。獣人みたいに尻尾があったら隠したい。


「わたしはですね。あなたたちを無事に王都までとどけると、約束してるんです。親御さんや村の長かた達から預かって、安全な旅をするって。た、たしかに、行き届かないところもあります、ありますよ。さっきの盗賊の件でも、わたしのほうが助けられましたし……」


 そこで、大きくひとつ息をする。


「あなたたちは、力のある魔法使いです。でも、だからといって、わざわざ危険な真似をするのは違うでしょう。そう思いませんか? 遊び半分感覚で、自分達を危ない目にあわせるのは、魔法使いでもやっていけないことでしょう? 怪我どころか死ぬかも知れないんですよ! わたしの言葉は、間違ってますか――」


 ガスラーさんの怒りは続く。ヨシュアさんも困った顔をしている。こんなに叱られたのは、久しぶりの気がする。怒り心頭とはこういうのを言うんだね。本気で怒られるのって、気持ちを揺さぶられて、なんか気恥ずかしい。


 倒れているグレンを除いて、あたしたちは、心の底から謝った。




 一段落しても、丘はまだ熱を帯びていた。

 丘を覆っていた森は姿を消し、その何倍もの広さで木々の枝葉が燃えて消えた。今は見渡す限り、煤けた柱だらけの樹海になっている。それでも、目標にした丘は半分も削られていなかったんだ。


 崩れて流れた土砂は、レガレルの土壁にせき止められて高さ3メートルほどのなだらかな段丘になっている。


『だから無理ゲーだって。土ってのは、よほどの高熱じゃないと燃やせないからね。平らにするのは言うほど簡単じゃないんだよ』


「そおかぁ。モコトのところではどうやってるの?」


『ごごごって重機で削り取って、ガガガってダンプで運ぶ。どこかの谷か処理場へね。この規模なら一月以内?』


 なんか、よくわからない。


「プルカーンでは、何度も何度も魔法を仕掛ける。そのうち、完全に平らになっている、カナ?」


 とりあえず丘は低くなったし見晴らしもよくなった。盗賊が襲ってくる心配はなさそう。ということになった。



 レガレルは、みんなを代表して水汲みに走らされている。

 罰として、魔法での給水はダメ。あたしも手伝おう。



変な盛り上がりをしてしまいました。

そろそろ本編に戻らないと。。。。

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