11 片付け
商人のリーダーさんの指示で、大木にがんじがらめに縛りつけてある盗賊たち。
みんなが活躍したおかげで、なんなく捕まえてしまった。レガレルはへへんと胸を反り、カレンはグレンと共に喜び合っている。よかったよかったと、あたしとリーゼも加わって、ハイタッチをくり返した。
二人ともスゴイ。あんな怖い大人を目の前にしてやっつけしまうんだから。
でも。
捕まえたのは良いいことなんけど、ここは村や町から遠いんだ。盗賊を捕まえておく場所がない。馬車はギュウギュウ詰めで乗せられないし、歩く速度に合わせていたら、どんどん遅くなってしまう。
【合わせ月の焚】に間に合わななくなったりしたら、リーゼたちが可愛そうと、心配をしていた。
「そこは大丈夫です」
騎士さんの一人に先に走って行って、次の町の領主に連絡してもらうことになったと、ガスラーさんが丁寧に答えてくれた。兵士か冒険者たちが、派遣されてくるだろうって。捕まえたお礼に報奨金がもらえるかもしれないっていうけど。そこはよく分からないとか。
「この人たちは、魔物に食べられたりしないのですか?」
リーゼがガスラーさんに尋ねてる。
そうだね。いくらなんでも、食い殺されるのはかわいそうだと思う。
「この辺に強い魔物はいないし、獣は人を恐れて街道まで現れません」
強くない魔物は出るんだね。
動けないこの人たちってどうなるの。
「は、喰い殺されるのも仕方ないだろうよ。ラインハルトの風上にもおけんヤツラめ!」
ガスラーさんの大先輩という商人が、ことのほかご立腹。ロープで縛ってさらに互いを繋いでいる盗賊たち。葉っぱのついた枝を持って、リーダーの頭をビシビシ叩いていた。
「なんで、あそこまで怒ってるんです?」
「ヨシュアさんも、かつてラインハルトをしてたんですって」
「えぇ――?」
『ラインハルト・ペンドラゴンって、襲名するのかい?』
「あたし達は、お父さんから聞いて知ってた、カナ?」
元々、地元に帰るための資金集めを始めたのが発端始だったという。「国を憂うる志士」みたいな問答を旅人と交わして喜ばせる。その代わりにわずかな路銀を提供してもらう。そんなやり取りをしながら、魔物を倒しつつ故郷を目指したんだって。
帰り着くまでの数ヶ月で解散、というのが当たり前だったんだけど、ある時から、それだけで食べていく人がでてきた。それが集団を結成して、とうとう、今回の事態に陥ったという。
「【合わせ月の焚】の被害者的な部分があるからな、誰もが大目にみてたんだが、調子こいてつけあがりやがった。人を殺そうなんて、普通の盗賊より性質が悪い」
「まあ、こいつらのことは気にしないで。先を急ぎましょうか」
「そうだな。だがその前にお礼しないと」
ヨシュアさんと呼ばれた年配の商人さんが、あたしたちのほうへやってきた。
「お前さんらのおかげで、命を拾いました。本当にありがとう」
ヨシュアさんが深々と頭を下げてきた。ガスラーさんやほかの商人さん、護衛の人たちも後に続いて頭を下げる。お礼されるのはうれしい。うれしいけど、あたしの倍近い体格の大人がずらり並ぶのは怖い。覆いかぶさってくるような威圧感に負けて、リーゼの後ろに逃げた。
「いいえ、ぼくたちは出来ることをしただけですから」
リーゼが代表で、きちんと受け答えてくれた。こんなときはリーゼだね。
レガレルとカレンは誇らしげ。活躍できなかったグレンはちょっと不満げ。
「謙遜しないでいい。隠れた嬢ちゃんの魔法で、オレが受けた怪我も治してもらいました。その歳で回復魔法とは、まったくもって信じられない才能だね」
首を回したリーゼから、ぎろりとにらまれる。
いや、ほら、血が出ていたから。ついね。
「オレの故郷プルカーンの火魔法、ツェルトの複合魔法か。しかし……それにしては、出来すぎてる気がしないでもないな?」
ぎく。
この商人さん、モコトのこと感ずいた?
「隠れた敵の発見といい、背後に回って手際のいい、キミ達は今日始めてであったんだろう? それにしては優れた連携だが。ほかにも何か特別な魔法があるのかな? ん?」
揃えの悪い顎ヒゲをなでながら思案顔。値踏みするような覚えようとしているような、一人ひとりの顔を順に見つめてていく。
『ばれた?』
《違う、と思う》
モコトとリーゼの心話を合図に、みんながぱっと動いて壁を作った。リーゼ、グレン、カレン。なぜか一番前に立ちふさがるのはガスラーさんだ。そしてあたしも壁に加わる。
「ほう。その男の子がポイントゲッターなんだな?」
みんなが庇ったのはレガレルだった。
「なんでオレ?」
『この中でいちばん口が軽いでしょうが! フェアは黙っていられるけど、レガ君は陥落が早いからね』
「魔法の詮索は、やめておきましょう。ヨシュアさん」
困ったように前に立ったガスラーさんが、年配さんをいさめてくれた。
「ごめんごめん。将来性の高い魔法使いに唾をつけとくのは、商人として当たり前だからな。いやすまん」
ニコニコしながら引き下がっていったけど、目はレガレルを凝視。あの目には覚えがある。なにかたくらんでいるときのリーゼの目だ。可愛そうに。
『よかったねレガ君。すべり留めができて』
そういう見方もあるのか。
「ともかく、野営地へ急ぎましょう。日が暮れるまえに準備したいし」
「そうだったな。ああ、大事なことを忘れてた」
ヨシュアさんはそういうと、再び盗賊のほうへ足を向ける。
お縄にされている何代目かのラインハルトがそっぽを向く。
「我らはこの通り捕まった。もう用はないはず。そちらの婦人の言う通り道を急いだらどうだ?」
そう言うなり、地面に向けて不敵につばを吐いた。
なんか、余裕あると感じたのはあたしだけ?
「魔法で逃げられちゃ不味いからな」
そう言ったヨシュアさんは、懐から杖を取り出した。あれは魔法の杖か。村で使っている人はいないけど、話には聞いたことがある。魔法の力を高める効果があるそうだ。
「貴様、魔法を使えるのか?」
「何を不思議そうにいうか。オレもラインハルトだったと言ったろう。【合わせ月の焚】で士官できなかった一人だ。オレは地力が弱くてな、こういうのに頼らないと威力が足りないんだ。情けないが分かるよな?」
「殺す気か?」
「まさか。逃げられないようにするだけだ。間魔法詠唱を禁ずる、――」
聞いたことがある詠唱だ。珍しい魔法だけど、つい昨日使っているのをみたばかり。印象が強いから忘れるはずない。プルカーンの村長さんが使っていたアレだ。
「ウソだろう? やめ、」
「ーー15日でいいか。スペルブレイク! スペルブレイク! スペルブレイク ……」
一人一人に「、まるで愛でるように、詠唱凍結の魔法をかけていく。
「く、チクショう。魔法でロープを切ろうと思ってたのに」
《高潔の刃》と名乗った盗賊団は、みんな魔法を封じられた。彼らは、捕らえにくる騎士か兵士を待つだけしかできなくなった。
ヨシュアさんは、盗賊への興味を失くしたように街道から見える狭い空をまぶしそう眺めると、いくか、と馬車に乗り込んでいった。もう、お日様は傾きだしてる。木の葉の間から差し込む日差しが眩しい。
あたしたちも、行こうか。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
誤字や脱字へんな表現がありましたら、ぜひぜひ、お知らせください。




