10 盗賊退治
「ごめんね」
私はガスラーさんに謝った。せっかくの見せ場なのに、つい割り込んでしまったから。こっちの状況を報せたくて、閉じていた〔心話 1 対象:ガスラー〕を再接続したのだ。
本当に申し訳ない。出来心です。
彼女は生真面目な委員長タイプ。私よりも年下だけど、気分的に逆らえないんだよね。怒ってないかとビクビクしていると、
『あなたたち、捕らえられたんじゃなかった?』
思いがけない返事があった。
誰が?
誰に?
『え? なんのことか分からないけど。他はみんな討伐しちゃったから、好きなだけ戦ってね』
まあ、心配するのは当たり前かも。私たちの馬車の森の左右には、五人づつの盗賊がいたからね。
でも、アーヴァンクミニ。いや、コバンクだったっけ。
あれで上空から敵を発見すると、リーゼくんの「殺れる?」の一言で方針が決まった。やってみようか。
遠隔操作アクティベートで、2つのスキルが開放されている。〔策的 1〕と〔ロックオン 5〕だ。これってなんだろう。前者がレーダーなら、後者は戦闘機のミサイル追尾みたいな。よくわからないけど、いきない実践投入。
〔策的 1〕で複数の相手を補足し〔ロックオン 5〕で的を固定。フェアの攻撃水魔法の脆弱を補うため〔属性 土:バレット〕を付与。さらに〔分割 1(1辺り+1)〕で5分割にし、その条件で二回使ってもらった。
二発の初級魔法で一網打尽。ものの数秒の出来ゴト。カセットゲームのチュートリアル戦みたいに簡単に終わってしまった。
浮き足立ったグレンの炎魔法で森を焼いてしまうし、心配してもらうとか、かえって心苦しいです。
どっちかというと、その後のが大変。ガスラーさんたちとにらみ合ってる盗賊たちを誰が倒すかで揉め始めてしまったのだ。
「オレがやりたい。アーヴァンクのときは、いいとこ無しだったし」
「殺ろうと提案したのは僕だ。当然、権利は僕にある」
「始めての対人戦、絶対やっつけてみたい。父さんに自慢デキル」
「グレンは、魔法使ったばかりでしょ。村でも爆裂してたし。ここはあたしの精密火炎魔法が有効。カナ」
なんでそんなに攻撃的よ。どういう育ち方をしたの君たち。
「あたしは、わざわざ前に行きたくない」
おー。フェアは優しいねっ。面接官にビビる受験生なみにおどおどしてるね。
お互い、少し見習いう合ったらどうかね。
アーヴァンクのミニ。もう、ミニバンクでいいか。
地方の零細銀行みたいな響きがあるけど、これでいこう。
ミニバンクを二匹とも飛ばして、敵情視察。他に隠れてる盗賊はいないようだ。
「ラインハルトとやらの演説は、続いてるけど、どうするの?」
ちょっと考えるリーゼくん。
『あいつらの後ろに周り込めればいいんだけど、モコトが送りこめる?』
「転移魔法みたいな? ないこともないけど、条件が厳しくて、まだ無理」
『じゃ飛んで……』
『嫌っ!』とフェアの二つ返事。
ですよねー。
完全にトラウマになってしまってるなぁ。困ったなあ。何度も言うけど私の能力は便利なようでいて、フェアのサポートに特化している。彼女を動かさずに誰かを使うっていうのは不可能なんだ。
無理にこじつけて実行できるとすれば、遠隔操作。
「ミニバンクに、乗っかる?」
『みに、ナニ?』
「今、ふよふよ浮いてる、ぬいぐるみのこと」
『コバンクとかって言ってなかったっけ?』
「名前を変えた。これからはミニバンクで」
『舌の根の乾かないうちに変更ですか。ああ、そう言う方でしたね。なんでもいいですが、あんな小さなモノに乗れるのですか?』
このガキは、いつも一言多い。
「うん。あれは、十勝川に勝利し時に奪った〔重力制御〕で浮いてる。重さの影響は受けないの。二体あるから二人までで。誰が行く?」
『オレが』『あたしが』『あたしが』『当然僕が』
早く決めろ。
結局、じゃんけんに勝利したレガレルとカレンが、ミニバンク乗車権をゲット。小さなぬいぐるみにしがみついて、盗賊の背後に降り立つことになった。
居残り組の三人は見学するということで、馬車から出て盗賊から離れた真横へと移動。みつからないように茂みから静観してる。
『…一緒に死んでくれ!』
カッコイイセリフを吐いた年配の商人さんが投げた玉から、光と煙幕が発生。
いよいよ始まった。
「へえ、あんなのも、あるんだね」
『魔法を閉じ込めた玉みたい。モコトも作れそう?』
「できるかな。今度やってみるね。あれ、リーゼくん、何してんの?」
彼は、何かの魔法を詠唱していた。フェアの火事のときに使ったような魔法だ。あの時は、ブリザードを空間に押し込めてたけど今の対象は煙。盗賊三人のすぐ後ろの煙を、厚さ1メートルの長方体の壁の中に閉じ込めてしまった。デカサイズのショーウィンドウに封じられた、晴れない煙の出来上り。
フェアも似たような魔法が多い。君らは結界師か。
『よし。これで前後の連絡は遮断できた。後はそれぞれに任せます』
「じゃ、降ろすかな。レガレルとカレン、良いかな?」
『いいっていうか、早くしてくれ』
悲鳴にも似たレガレルの声。森を見下ろす上空に待機させていたミニバンクの二人を、盗賊から発見されないよう、背後にそろりとおろす。
『空中、楽しかったのに』
『や、やっと、足が着いた。フェアの気持ちが、痛いほどわかったよ』
盗賊を前にして暢気なことだ。
この二人、実力は未知数なんだよね。レガレルは、前回、危なかったし、カレンに至っては魔法を見たことさえ無い。
『んじゃいくか。オレが右でいいか?』
『それなら私は左で 』
「殺すのは無しでね」
『わかってるよ』
ホントかい?
それぞれが短い言葉で魔法を詠唱する。
レガレルは、手のひらをガチョーンの構えにすると、5本の指の前にそれぞれ金属の粒を作り出した。
カレンは、人差し指と中指を拳銃のように構えると、先にクネクネした炎のワイヤーみたいなものが現れた。
『フィンガーバレット!』
『ファイヤースネーク!』
詠唱の最後の一言を二人が唱えた瞬間、左右の狙った盗賊に襲い掛かった。
レガレルは五つの指弾でカレンは炎のヘビ。なるほどね。
無防備に背中を向けていた盗賊たちが、成す術なく次々倒れていく。
自分の身に何が起こったか、奴らは分かっていないじゃないかな。
倒した盗賊を積み重ねていくレガレル。
商人たちと剣を交えてる以外は片付いたとみて、リーゼ君が煙を開放した。
「まぁ、そんな感じで倒しちゃったから。怪我だけしないように頑張ってね」
剣と剣とが火花を散らす。そんなやり取りを見学できるとワクワクしていたが、あっけなく裏切られた。
『ちっくしょう!!!!』
仲間の全滅を知ったラインハルトら3人は、剣を捨て抵抗を止めてしまった。
モコト視点は、テンポ良く書けて気持ちいいのですが。
他のキャラ以上に内容が上滑りしてる気がします。




