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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
四章

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9 堕落の騎士道



 バリケードを挟んだ互いの姿勢は対照的であった。こちらの護衛は油断はしていないものの、陣形というものがない。いっぽう対峙している集団は、ニタニタ歯を見せてるも三列の攻撃陣をなしていた。加えて最後列のメイジは魔法の詠唱のまっ最中。すぐにも何らかの魔法が放たれる状態にあった。


「――全てを置いていっていただきたいと思います」



 ガスラーの背中に冷たい汗が流れる。


「なぁに、そちらの全財力に比べれば、ここにある荷駄など僅かな申し出にすぎないはず。諸手を挙げて引き受けていただけるものと確信しております。決して渋ることはないでしょうが……万が一受け入れていただけないときは」


「そのときは?」


 反射的に聞き返したヨシュアの言。タイミングを合わせたように、後ろの遠くから叫び声が聞こえた。


「ぅぁ…」


 ラインハルトが、大げさな仕草で、ひょうひょうと謝った。


「申し訳ない。言うのを忘れてました。ここからは見えませんが、最後列の馬車に乗っている若人達を襲うように指示を出してました。男共は死亡したでしょうね。女性は、無条件でいただくことにしてます」


「なんだと?」


「お客様に、何をっ!」


 馬車の影越しに、火の手の上がるのがみえた。最悪の想像が、ガスラーの脳裏を駆け巡る。まさか、リーゼライとレガレルが殺された? あれほど煩かったモコトの声が、聞えてこないのは、フェアバールが気絶させられたからか。


 つい数分前まで、クッションやら、アーヴァンクぬいぐるみで、一緒に笑い合っていた彼ら。あの笑顔は、賊の手によって消されてしまったのか。信じたくなかった、すぐにも、この足で確かめにいきたかった。


「私たちの仲間はいくらでもいる。貴方がた方に対峙している者だけが全てではないのですよ」


 はっはっはと、ラインハルトが歯並びのよい口を開けて嗤う。どこまでも上品な男である。盗賊まがいに身をやつしても生まれのよさは隠せないようだが、こいつが貴族なのは見た目だけなのだと、ガスラーは頭の隅で苦々しく思う。


「誰かを殺してやりたいと思ったのは、これが始めてです」


「貴様っ、ラインハルトっ、高潔が身上ではないのか? 人を殺して奪うなど《高潔の刃》の名折れだろうがっ!」


「ははぁ? 殺さない? 誰がそう言いました? むろん我々とて殺戮は望みません。処理が面倒ですから。あなた方が我々に同意すればコトは穏便に済む。それだけの話です」


「すでに殺しておいて、何を言うかっ」


「貴方がたには、まだ一つずつ命があるでしょう。自分らの命と引き換えに、物資を差し出すというのはいかがです? 悪くない取引だと、商い心のない私は思うのですが」


 多勢に無勢。目の前にいる十一人のほか、人数不明の暗躍チームが隠れている。装備も戦力も、そして準備や布陣までも、相手が上回ってる、勝てる見込みは、まずない。


 たとえここで彼らに屈服したとしても、命さえあればやり直せると、商人としての理論的な頭脳がそう叫ぶ。それがきっと最善の選択だろう。間違いではない。


ガスラーは、唯一の武器である腰の短剣に手をかけた。


敵の言い分に乗って生き残ることができたとすれば、もはや自分に誇りを持つことはできないであろう。儲けることを第一とする商人にはあるまじき回答だが、どうでも構わない。無邪気な子供達を刈り取った下種に従うくらいなら、思い切り暴れて死んでやる。


ヨシュアをちらりと見やると、彼の口角も不敵に上がっていた。ラインハルトを凝視しつつ、味方に届くほどの小声で謝る。


「すまないな。俺は、商人として失格のようだ……。ガスラー、それに護衛たち。一緒に死んでくれないか」


 老練先輩は、懐から一握りの魔法玉を取り出すなり、バリケードに力任せに投げた。


その名の通り魔法をを封じた玉である。衝撃によって込めた魔法が解放されるが、それは大きさに比例する。あんなミニサイズでは余り効果を期待できない。


バリケードに当たった魔法玉が炸裂。目を焼くほどの光が盗賊川だけに放射された直後、真っ黒な煙がもうもうと産み出された。煙は、穏やかな風に流されて、盗賊連中を覆っていく。


「わ、二重魔法かっ!」


「この隙だっ!」


護衛の四人が素早く前に出る。打ち合わせなんぞ出来ようもないが、互いの動きを予測する。彼らは馬車をせき止めてる丸太のバリケードを撤去する。そう目測したガスラーら三人の商人は、乱戦に持ち込もうと考えた。


「商人どもが命を投げ出した。魔法放てっ」


ドッガァァァーン!


 背後に落ちる火魔法。馬車に繋がれた馬たちが恐怖にいななく。プルカーンで見慣れた爆裂魔法には数段劣るが、数人を葬るには十分な威力。直撃すればひとたまりもない。


「煙を払え、スモールウィンド!」


 煙の中央から魔法の風が発生。渦を巻いて外へ外へ広がっていく。盗賊たちの視界を奪っていた煙が少しづつ薄らいでいき、先頭にいたラインハルトら三人が見えるようになった。


 護衛たちがバリケードに取り付く。三つのうち一つでも撤去できれば、騎士が突入できるようになる。


 ふんしょっと、重いバリケードを持ち上げてる四人。それを横目にヨシュアら三人は別のバリケードを超えていった。


「ぬおおおお~」


 短めの曲刀を右脇構えにしたヨシュアがラインハルトに突っ込んで行く。ガスラーともう一人は、その左右に並んだ盗賊に相対した。


「旅商人を舐めるなっ」


 ガッキィィーン!!


 ぶつかり合う剣と剣、火花がはじけ飛ぶ。


「ふ、商人風情が、我らの敵ではないっ。後列、こいつらを討て!」


 ラインハルトの指示が飛ぶ。


 そうだ。煙の奥には、参戦してない盗賊がまだ八人もいるのだ。護衛の四人は、ようやくバリケードを撤去し終えたところ。やっと騎士たちが馬を動かし始めたのが、ガスラーの視界に入った。


相手のショートソードをなんとか短剣でしのいだガスラーは、覚悟を決める。いまにも、煙の奥から敵が出現して自分を殺すだろうと。


「ごめんね…」


 謝りの言葉を誰にともなくつぶやいた。







『ごめんねっ!』


 幻聴か。聞こえないはずの声が、頭の奥から響いてきた気がした。


『盛り上がってるところ悪いんだけど』


 幻聴ではなかった。間違いようがなく鮮明に彼女の声が聞こえる。物事への遠慮というものを置き忘れたような、開けっぴろげなウィル。芝桜藻琴である。


「捕らえられたんじゃ?」


 敵の味方が入り混じる最中なのだが、ガスラーはそんなことなどお構い無しに思発してしまった。


『え? なんのことか分からないけど。他はみんな討伐しちゃったから、好きなだけ戦ってね』


 いまさっきまで、まるで晴れることを渋っていた煙が、嘘のように消えてなくなった。澄んだ空気が街道の奥の景色まで運んできて、辺りの状態を露わにしていく。


 みると後列にいた八人の盗賊はすべて倒れていた。それどころか、討伐された連中は皆山のように、重ねられていたのだ。


「どうしたお前たち、なんで…誰にやられた?」


 驚愕したのはラインハルト。


「わっはっは、悪党はみな俺たちか退治した。残ったのはお前たちだけ。とっとと諦めろ」


 盗賊山の前に立っていたのは、【合わせ月の焚(クロスルア)】参加予定者。ふんぞり返ったレガレルと、油断なく魔法の準備をしているカレンだった。



ぽっと出の盗賊に、話しを喰ってしまいました。

名前をつけると、引っ張られてしまいますね。まだまだです。

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