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7 座り心地


 あたしたちを乗せた馬車は、列の一番後ろを付いていってた。プルカーンから馬車が二台増えて、乗っていた商人さんはガスラーさんよりベテラン。かなりのおじさんなんだけど、危険な先頭役を引き受けてくれたんだ。可愛がられてるね、ガスラーさん。


 四人の護衛騎士に、商人さん専属の護衛も加わって、さらに安心の旅になった。護衛が増えたからって、盗賊や魔物が出ないわけじゃないって、彼女はいうけど、安心は安心だね。


 ごとごとギシギシ走る馬車の中、みんなそれぞれにくつろいでいた。レガレルは屋根の上にいる。アーヴァンク出現の時に乗って以来、気に入ってしまったらしい。「バカと煙は……」ってリーゼがからかった。そのリーゼは、地図を眺めて難しい顔をしている。また何か悪だくみを思いついたのか口元が笑っている。


 あたしのほうは、休憩場所からの馬車の旅がすんごく快適になった。モコトが浮遊魔法をかけてくれたおかげで、ガタゴト揺れてる馬車のゆれが伝わったこなくなったんだ。


「モコトったら、こんな便利な魔法を隠してたんだね」


『別に隠してはないよ。これは、浮遊と衝撃吸収のバリアの応用。どっちも何度か使ってるし』


「フェアちゃんだけいいなあ、ソレ」


「ねえ、モコトっち。あたし達もできないカナ?」


 プルカーンから乗ってる双子の女の子が食いついた。女の子といっても私より5つ上の十六歳。レガレルと同じだね。名前は、グレンとカレン。名字はフレームだって。カッコイイ。髪型半分あたしと同じショートだけど、おデコを半分出してる。見分けがつきにくいのを本人たちもわかっていて、気を使って区別してる。左のおデコ出しがグレンで、右出しがカレンだ。


 うらやましいくらい積極的な二人で、レガレルを問い詰めてモコトのことを聞き出した手並みは尊敬に値する。押しの強さで、ガスラーさんやモコトともスグに仲良くなってしまった。


 二人とも、炎系魔法が得意だという。いかにもなプルカーン人って感じ。でも、爆裂魔法が自慢のグレンに対して、大きさより正確さが大事だと語るカレン。コダワリがあるらしい。昨日、トカチガワウィルの爆裂魔法大会に参加していたのはグレンだけだったとか。言われてみれば、並んでいたような気もする。



『私のは、魔法と違うんだけどね。二人とも盾魔法は使える? 空気を圧縮する風魔法とかは? 要は、おしりにクッションすると楽なんだよ』


「風魔法なら、ちょっと使えるけど、ずっーと敷いたりはできないカナ」


「モコトっち。フェアちゃんにしかかけられないの? ソレ」


『うーむ。フェア絡み限定なんだよね。拡張は可能なんで、フェアが乗ってるこの馬車を浮かすことはできるようだけど。あ、ちょっとまって』


 モコトは、何か閃いたみたいだ。あたしの目にだけ映ってる顔は、悩んでるときのリーゼみたいなシワを眉間に寄せて、うんうんと唸ってる。さっき、地図を作ったときもそんな顔をしてたっけ。


「馬車ごと、高く飛ぶなんて、絶対に止めてっ!」


『今はしないよ。そうじゃなく、こんなのを作ってみたんだけど、うまく実体化できるかな?』


 そう言うと、なにか、プニプニした物体が出現させた。丸くて平べったい。手に取ってみると、表面はツルツルしている。軽くゆびで押すただけでふわりと凹んだ。


「な、なにこれ?」


『よし成功。イメージで作った物も、クラウドポーチから出せることが判明したね。色々と幅が広がるなあ。あ、これはね、《エアクッション》って言うの。空気を閉じ込めた入れ物だね。グレンちゃん、座ってみて』


 お尻の敷物っていえば、布に綿を入れた座り物か。あれもクッションっていったっけ。布も綿も貴重品だから、使ってるのは一部の貴族くらいだね。どこにでもあるのは、ケモノの皮をなめした敷物かな。御者役はとくにお尻が疲れるので、いまも、御者のガスラーさんが二枚敷きで座ってる。


 モコトが出したこの《エアクッション》ってのは、どちらとも違ってる。ぽよんと跳んでいきそうなくらい、軽くて弾力がある。


 おっかなびっくり、エアクッションに手を伸ばすグレン。初めての感触に戸惑いながらも、掴んだり両手で折ったりしている。二つに曲げても、手を離せばすぐ元の形にぺこんと戻る様子が、すごく楽しい。


「うわっ、気持ちいいー!」


 お尻に敷いたとたんに、嬉しそうに叫んだ。それを聞いたガスラーさんが、グレンより、ずっと大きな声で要求してきた。


「なんですか、それは?? 今まで見たことありません。わ、私にも、貸してもらえませんかっ!」


『気に入ってもらえてウレシイなぁ。いま、人数分作るね』


 そう言うと、たいした時間を空けずに、色違いのエアクッションがポンポンっと現れた。待ちきれないとばかりに、御者席から手を伸ばしてくるガスラーさん。ほいっと渡すと、礼を言って、奪い取っていった。


「いいですねー、これは、快適ですっ! モコトさん、作り方教えてもらっていいですか? これは、絶対に売れますよぉー」


 蹄と馬車の木綸のきしみ音に負けないくらいの歓喜の声が、街道の森にこだまする。これが、昨夜、わたし達を叱った人と同じ人? 人格変わってない?


 馬車の屋根上に座っていたレガレルが、騒ぎを聞きつけて降りてきた。自分の分のクッションを取ると再び登っていった。座りごこちを確かめているんだろうけど、飛ばされて落としてもしらないからね。


 いつの間にか地図から目を離したリーゼも、クッションを触りまくってる。いきなり、自分のカバンの横から短剣を取り出してきた。


「なにやってるの? リーゼ!」


「ん? 強度を確かめてるのさ」


「だめー」


『わ、割れるよっ』


 クッションは、みるからに弱そうだ。刃物なんか刺したりしたらカンタンに壊れて、中の空気がなくなっちゃう。腕を押さえてつけ止めたけど、間に合わなかった。握った短剣がクッションに向けられた。


「みかけと違ってかなり丈夫ですね。これなら、防御にも使えるかも」


 割れると思ったクッションだったが、空気漏れどころか、短剣のほうが弾かれてる。ざっくざっくと、刃物は何度もクッションを刺すけど、そのたび、何かに邪魔されているように短剣が止まる。


「うそ……?」


『割れない? マジ? ビニールの素材って、塩化ビニル樹脂とか言うんだよね。化学とか分からないから、フェアをガードしてる薄い膜のイメージで作ったんだけど。マズイものを生み出した……のかも』


「さっきの大陸地図と同じで、他所に出せませんよ、これも」


 まずくてもなんでも、あたしたちが使えれば、十分だと思うけど。モコトはがっくりしてる。ガスラーさんも「再現不可能かあー」と落ち込んでる。


 あれ?


 みんなに行き渡ったクッションだけど、一つ足りないことに気づく。


「モコト、とても言いにくんだけど。あの、わたしの分は?」


『ふっふー。気づいたね。フェアは今、必要ないからね――』


 そうか。それはそうだね。わたしが楽チンに座ってるところから、話しが始まったわけだから。無くて当然。残念だけどあきらめる。


『――だから、これをあげる』


「え、なんかくれるの?」


 クッションの代わりに床の上に現れた物は、膝下までの高さがある2つの塊だった。肌触りが気持ちよさそうな毛皮で覆われているね。よくよく視れば、目や口があって、短い手足らしきものやシッポも付いてる。これって……。


「ちっさな、アーヴァンク?」


『そう。アーヴァンク。ぬいぐるみっていうの。布や皮で形を作って中に綿を詰めるんだよ。前の村で剥製の話をしてたでしょ。アーヴァンクの皮を使って加工できないかなぁって試してみたら、こんなのが出来上がった。ほら見て』


 小さいアーヴァンクの一匹が、ヨチヨチと立ち上がった。ぴょんと跳んだかと思うと、あたしの膝の上に上ってくる。


「う、動いた。モコトが動かしてるの?」


「かわいい、カナ」


「貸して貸して、コレ」


 馬車の中が騒がしくなってきた。双子が声を張り上げ、床に残ったもう一匹を抱きしめた。ガスラーさんは、レガレルを手招き、御者を変わってと叫んだ。さすがのリーゼも、動く剥製に目をまん丸にしてる。


『そ、私が遠隔操作してるの。自律式のがいいんだけど、まだスキルが足りなくてね。小型のアーヴァンクだからコバンク? 遠隔操作だから自由に動くよ。空も飛ぶし』


 わたしの膝に乗っていた《コバンク》が、勢い良く馬車から飛び出していった。まずまず歓声を上げる双子とガスラーさん。賑やかさが留まるところを知らない。

 わたし達の目的って【合わせ月の焚】だったよね。これ、別のことに盛り上がりすぎてない?


《フェア。これ内緒話ね。コバンクにはカメラとマイクが着いてるんだ》


《いきなり、心話? カメラとマイクって何?》


《2匹の目に映っているものは、こっちに見えるし、拾った音が聞えるんだ。見ててね》


 いつもモコトが見えている位置に、森の景色が映った。意識を集中すると、景色が大きくなって、3台の馬車が森の街道を進んでいく姿がはっきり見える。騎士さんを乗せた馬が、馬車の前後を挟むように駆けてるね。ずっと先にいる人たちまで見える。


「わ、まるで飛んでいるみたい」


「ん。飛んだよね? アレ」


 思わずでてしまった声に、グレンが答える。マズイ。内緒話だったっけ。


 モコトが作ったコバンクが飛ぶとか、それが見ているのがあたしからも見えるとか。こんな魔法、聞いたことがない。自分でも言ってたけど、もう、魔法じゃないよね。


《これでいちいち、フェアが跳ばなくても遠くの景色が見られるってわけ》


《そうなの? 助かったぁ》


《ま、飛ぶときゃあ飛ぶけどね。私が見えるのはいいけど、フェアに見えるのは変に思われから、ナイショ》


 むー。映っていた街道の景色が消え、モコトの顔が戻ってきた。


《わかった。そういえば、道の先にも人がいたけど。あれは旅人さんかな》


『え、誰かいたっけ?』


 ちゃんと視なよ。


『あちゃー。前に変なのがいるなあ』


 その言葉を聞いたせいか、ガスラーさんが、馬車の速度を落としはじめた。


「先頭の馬車が、止まったようです。モコトさん、もしかすると?」


『10人くらい並んで、こっちをにらんでる。ガラが悪そうだから盗賊ってやつかも。よく出るの?』


 本当に?話には聞いたことがあるけど、あたしたちが、旅の商人を襲う盗賊を襲わるとは、思ってもみなかった。


「なんていうか、ここの盗賊はちょっと特殊なんです。人を殺したりはしないんだけど」


 めんどくさそうに語るガスラーさん。人殺しはしないけど、特殊?

 いやな予感しかしない。



また、まったりした話となってしまいました。

アーヴァングのちょっとした設定は先に繋がっていきます。

なんか、ミニ設定だらけで、首を絞めてる気がしますが

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