6 地図
いやー。面白かった。
地球は青かったとか、私はカモメとか、地球を外から眺めた感想いくつもあるけど、あれって本当だったんだね。
異世界だとはいえ、ここも惑星。はるか上空まで上がれば巨大な弧を描く見事な水平線が広がっていた。この星でも、陸よりも海の割合が圧倒的に高いことがわかったわけで、画像でしか知りえなかった眺望を直にみた。あまりの感動で、つい漏らしそうになった。
『どんなだった?』
『あたしも、みたかったー 絶対、飛行魔法習得したいっ!』
『ぼくも興味がありますね。早速、この地図と比べてみてほしい』
ロケットどころか飛行機の無い世界で、高度飛翔する手段は無い。飛行する魔法はあるようだけど、雲の上まで上がる術師は少ないとか。せっかくのファンタジー世界なのに、もったいない。
馬車で同行している女子たちや、レガレル、リーゼくん達から、景色の説明をせがまれる。私の人気、青天井で上昇中。
ただし例外もある。
『モコトぉ〜、あたし、飛ぶのは嫌だっていったよね!』
フェアは、おかんむりであった。
「だから、目をとじて、寝てていいって言ったんだよ。音と空圧は遮断してたんたから」
『寝られるわけ、ないでしょっ』
プルカーンの村から出発して半日。今はお昼過ぎだ。王都へ向かう馬車は二台増え、私達をいれて三台になっていた。私達は、ほかの商人さんや護衛騎士たちから離れて、林の奥に隠れていた。短い食休みを使って飛べるところまで上がってみたわけだ。
フェアはプンスカしてる。よっぽど怖かったらしく、身体のほうはガタガタ震えたままだ。
「ごめん。次は、もっと低く飛ぶから」
『飛 ば な い でっ!』
そう言うなり、草の中へとばったり突っ伏した。
いっぽうリーゼくんは真っさらな紙を数枚をよこす。サイズはB3版くらいか。渡された紙をクラウドポーチに収納する。クラウドポーチにいれたものを、コックピットから取り出せることは、リッコの実で確認済みだ。
かっこいいコックピットなのに、スキャニングもプリントも不可能。
十勝川がナイフを作りだしたマネをして、コピー機を登場させたがうまくいかない。紙を挟んでボタンを押しても、ガチャコンと動きはするが紙がでてこない。コピー機に関するイメージが中途半端なためらしい。なまじっかドットや印刷の仕組みの知識でコピー機を創作したのが仇になった。
肝心なのはイメージ。だから、図面が描けるほど詳しいか、逆に全く知らないほうが上手くいくようだ。「魔法少女は飛ぶもんでしょ」てな感じで、思い切りよく複製写真をぱっと生み出せればよかったのに。
仕方なく、撮影したてきた大陸の一部の画像を小型モニターに表示させ、取り出した紙を重ねる。昔のセル画職人のように、こうやって地形をペンでなぞる、と。
「略式大陸地図のできあがりっ」
どうだろうか。フリーハンドの写し絵ながら、測量が発達してない世界においては驚きの地図じゃないかな。縮尺だが、500万分の1だとおよそ日本の半分が収まるらしい。大陸だから、2000万分の1程度にしといた。国境線は、私にはわからんけど、形状は地形明確だ。
出来た地図をクラウドポーチに収めて、再度実体化。どんな図がでてくるのかと、みんな、わくわく待っていたが、紙に描かれた手書きの地形図をみたとたん黙りこむ。商人さんは、青くなってしまってる。
「あれ?やっちまった?」
『うーん、おれには落書きにしか見えないけど?』
『……これが正しいものなら、世界がひっくりかえるぞ』
道中、リーゼくんに見せてもらった地図というのは、街道と町の位置がびっしり描いてあった。子供の落書きの延長戦みたいなもので、いわゆるマッパムンディってやつだ、戦国時代劇の武将たちが軍略に使う略図よりは精密だが、ポルトラノ海図のような測量地図には届いてない。
私が差し出したほうは、陸の地形、外海や内海の入江や山脈の形状、確認できた大きな街の位置などを写し取ったものだ。ひいき目でも「塗り絵の下絵」程度の線画。その程度なのだが、リーゼくん所持の市販地図と比べれば、詳細に過ぎる。
『これ、売ったら大儲けできるの?』
『だ、だめです。こんなのを出したら国が黙ってません!』
『うん。下手をすれば、ここにいる全員が抹殺されるかと』
とりあえず利に走るレガレルと、世論を語る大人なガスラーとリーゼくん。この温度差はなんなんだろう。
「どゆこと?」
『つまりですね。国土を広げようとしているドリーヨーコ帝国や、ヴォロンデ神信者を増やしたいメニュハナル神国がコレをみたら、最高の機密事項にしたがるはずなんです。グローリエ海を飛び出す航海技術はあるから、外海ではすでに植民地の分捕り合戦をしてます。星を一周する計画も持ち上がっているとか』
「外海にでてるの? 羅針盤は?」
『コンパスですか? もちろんあります。航海用の地図は、ぼくの持ってるこれより遙かに精密ですね』
『じゃ、この地図があれば助かるんじゃない?世界も広がるし』
『俺もそう思うけど? 高く売りさばいて金持ちになろう』
私の意見にレガレルが同意する。方向は違うけど。爆裂魔法の双子は、その後ろで肩を並べて居眠りを始めてる。地図には関心ないようだ。
『それはあくまでも、地図が正しいものであった場合です。国や教会が認めれば、この製作者は、信憑性を確かめるため国から厳しい尋問をうける程度ですむでしょう。けれども……』
「正しいと認めれば厳しい尋問? じゃ、認めなかった場合は?」
『世を騒がせた大嘘つきとして、処刑されます』
「うへー」
やっとわかった。私意外に、この地図の信憑性を確かめる手段がないのだ。コンパスが登場してるなら、測量方法も確率されている。しかし当然だけど、Goo○leマップのように衛星軌道から撮影するような技術はない。どうやってこれを作ったと問い詰められた場合、持っている人間は答えることができない。最悪、でっち上げと言いがかりをつけられて、処刑されるってことね。
「私みたいに、飛んで見た人はいないの? ここは魔法の世界でしょう」
『モコトのように、地上から見えなくなく高さまで飛べる人はいないと思います。ぼく達は、この目で見てるから信じてるけど、地図だけ渡された人は混乱するだけだけ。それとも、1人ずつ抱えて飛んでいく?』
『あたし、絶対にいやだぁッ』
倒れてるフェアが声をあげる。まさしく魂の叫びだった。
いちいち飛んで説明ってのも不可能だしなぁ。で、勢いでプレゼンしてた人間としては、理論的な話しも苦手。どうすれば、納得してもらえるのか……ん?
「そこまでして地図を普及させる意味なくない?」
『そうですね』
私は個人的な周辺図が知りたかっただけだ。王都まで、どういう道を通っていくのか。いま、どの辺りを進んでいるのかを知っておきたいだけ。元の世界ならGPSとスマホでカンタンに位置を分かったし、場所を調べる癖がついていた。いま立っているところが、一体どの辺りなのかを把握してないと、気持ちが悪いだけなのだ。この世界にケンカを売ってまで納得させるつもりは毛頭無い。
位置に関しては〔オートマッピング 1〕によって達成されつつある。旧RPGの機能のように、ツェルト村からここまで、道路図が出来上がっている。さっき、大陸を俯瞰するまで上昇したときは〔広域マッピング 1000〕を使用。しばらくは不自由がないほど、マッピングエリアは一気に拡大した。
つまり、周辺の地形や移動距離などから、ほぼ正確な現在位置を把握できてるのだ。目的はすでに達成せしめられている。
しかし、地図一枚でこの反応かぁ。文明格差を考えると、うかつなことはできないなぁ。そう反省しつつ、別の紙も実体化させる。
「言いにくいんだけど、もう一枚も見る?」
よく行ってた書店にコーチャ○フォーってのがある。ドーナツ屋やら文具店、ミュージックショップもあって、本好きな私が1日遊べるステキな巨大空間だ。そこで買ったA4版地図の北海道縮尺は60万分の1だった。いま取り出したのは、リーゼくん地図を参考に、クレセント国と思われる部分を拡大したものだ。この縮尺は50万分の1。
北海道よりやや大きめってことから、クレセントがいかに小さな国ががわかるだろう。ひょっとして、この星そのものが地球より小型なのかもしれない。
反省?なんだっけそれ?
『さっきのを見慣れたせいかな。こちらは安心して見れます。内海の入江も丸分かりですね。海賊対策に、役立つかも』
『これならなんとか糾弾されないで済むと思います。国防にも使えるので、このまま王都に献上可能かも』
『なんだこれはっ! ツェルト村は、こんな端っこの田舎なのか』
さっきよりも反応がまともだ。処刑の足音は遠ざかったようだ。マジに考え込まれても困るんです。気軽に行こう気軽に。
地図の用途に夢中になっていると、がさがさっと草を掻き分ける音がした。魔物かとガスラーさんが身構えると、こちらを探す声が聞えてきた。
『おーいっ そろそろ出発してもいいかな?』
『あ、はーい』
なじみの護衛騎士にほっとしたガスラーさんが元気良く応える。よし出発だと、みんなが立ち上がる。レガレルは双子をゆすって起こす。フェアだけは横に倒れたままだ。
『えー? もっと休みたい、いま馬車に乗ったら気持ち悪くなりそう』
「じゃ、振動が伝わらないように浮遊しとく」
乗り込んだのは私達が最後だった。ガスラーさんが軽く鞭をいれると馬が迷惑そうにいななく。次の休憩地点はここからもう二時間ばかり進んだ場所だ。今夜はそこで一夜を過ごすらしい。初めての野営だぁっと、双子は喜んでいるけど、野宿だよ野宿。
護衛騎士たちに護られながら、馬車がまた動きだした。
ほんとにに、地図の話しだけで終わってしまいました。。。。
閑話休題ということで、すみません
それにしても、イラストが地図ばっかり




