3 傍観
札幌の街から急上昇した光は私だけではなかったが、今は一人。ふらふらと、漂うままに宙に浮いてる。というか、凄い速度で飛んでいる。しばらくは、眼下に地球の地平線が望めたが、いつのまにか闇の中にいた。
ここはどこ。
私は誰。
私?
私は、芝桜藻琴。
うん。意識は、しっかりしてるな。たぶん。
意識はあるが身体はない。
スレンダーなりに、自信のあった私のボディが、実態をもたない光になった。
手足の感覚はあるけど一切見えない。
これが、死ぬということなのか?
私がかばったあの子も、光になって飛び出したのだろうか。
だとすれば、同じように何処かを飛んでる可能性がある。
寂しくないよう、せめて誰かと一緒にいてくれと願おう。
私のしょぼい知識によれば、三途の川を渡って閻魔様に断罪されるとか、天使に連れられた飼い犬のソリで空に続く道を駆けるとか。そういうのが死後だ。
この状態は、どういうコト?
これが死というものなら、終着点は、あるのだろうか。
それともずっと永久に闇の中をさまようの?
闇の中に置かれたまま、この先、死ぬまで人生を振り返れってか?
あ、一応、死んでるんだっけ。
長い時間、まったく変化がないものだから、いつの間にかうとうと眠寝てしまった。
どれくらい寝ていたのか。
目が覚めたら海の上だった。
きれいな夜明けの海をさらに飛んでると、まずは陸がみえ、やがて森が見えてきた。
目的地というのがあるのなら、ここがそうなのかな?
太陽が昇ってきて眼下を照らす。闇から開放されたことに安堵する。
速度が落ちてきたことで、眼下を観察するゆとりがでてきた。
じっと目を凝らしてると、森には開けた部分がかなりある。
あれは畑かな。集落のようなものも見えてきた。
水車や風車のある小川が流れるのどかな村。建物の作りは、石と木を組み合わせたシンプルな構造。二階建もあるが平屋が多いか。中央には、集会所のような高い塔。よくわからないけど、100から200軒くらいの家が建ち並んでる。1000人は暮らしていそうか。
村の上空で移動が止まり、今はふわふわ浮いている。
観光の歴史村なのかな?
ヨーロッパの田舎町というか、それにしては時代がかってる。
道路がアスファルトでさえない。剣の練習してる人もいるし。
あちこち、間違い探しのような光景があるんだよね。
飼われている生き物に、見覚えが無いのよ。
ツノが三本ある牛のような生き物や、首が二つある馬のような生き物が、囲いの中でノンビリ草を食んでる。
生えている木の中には、顔のついてるヤツがある。
洗濯物を吊ってる紐の高さが、建物より高いけど、どうやって干すのか。
小川の流れ込む池には、石板が浮いていて、前後左右いったり来たりしてる。
ワケが分からん。
これは何かのドッキリ?
意地の悪い神さまが、私を試そうとしてる?
たたたっと、子供が走って行った。
何人かにぶつかって怒鳴られてるが、脇目もふらず、村のゲートに向かって駆けてく。私は、興味を惹かれて、その行き先に目をやる。
村から外れた場所には、100から200人ほどの集団。それが村に向かって歩いている。体格は子供くらいだが、姿は異様だった。
頭部が大きい。身体の大きさに対して頭のバランスが悪い。服装は、獣の皮で申し訳程度に身体を覆っている。そして、それぞれの手には棒や剣などの武器。盾を持っている人もいる。
人?
あれは人なんだろうか?
見た目の印象をそのまま言えば、ファンタジーアニメに登場するコブリンのよう。武器をもって移動している威圧的姿は、どう見ても穏やかな話し合い目的には見えない。集団の中には妙に黒くてデカイヤツが、一匹だけ混じっている。
お、門にいる村の人も気づいた。
大声で叫び、仲間を呼んでる。
わらわら、村人が集まってくる。
うーん。
これって、開拓村のイベント?
観客らしき人は見当たらないんですが。
かなり、危機迫ってる感じなんですけどねぇ
・・・呑気に眺めていたら、闘いが始まった。
村の人達の何人かが、先頭に飛び出し、両手を前に突き出す。なんと、何もないところに、青っぽい板が現れた。その後ろに控えた数人も、手を前に突き出す。
おーーわっ!
なんか、カラフルな色んな物が、飛んでくぞ?
弓矢みたいだったり、槍だったり、ボールみたいだったり。
ゴブリンの集団に向かっていき、当たったそばから倒れされていく。
逆にゴブリンからの攻撃は、青い盾が防いでいる。
これって、もしかするといわゆる。
魔法ってヤツか?