1 即応の村
お待たせしました。四章が、やっと始まります。
「この人、回復魔法のこと、知ってるよー!!」
商人の馬車を指差しながら、大急ぎで走る女の子。回復魔法を知っているという言葉。なんの変哲のない台詞なのだが、この村に限っては重要な意味を持っていた。一部を除いて外部の人間が知るはずがないのだ、回復魔法の村ということを。子供の叫けぶ声を合図になって、村が即応体制に入る。
とはいうものの、子供の言うことを鵜呑みにできるはずはない。ウソか本当か、真意を確かめるべく大人たちが馬車に近づく。が、職質するより先に馬車が動き始めた。
「マジか。馬を出せっ!」
誰が言うとなく直ちに馬が手配され、力のありあまっている人間が、数人ずつ乗った馬が三頭で追っていく。緊急事態だというのに不謹慎なほど嬉しそうだ。実はこれには理由がある。
「少しばかり遅れたが、まあ、追いつくだろう」
三人一組を馬に乗せる。普通はあり得ないやり方だが、回復魔法使いだらけの村だけに可能な追尾手段だ。火災や魔物襲撃など、非常事態に備えた訓練が行われているが、この追尾方法もその一つ。提案したのはさっき追っていった若い衆たち。活躍できる機会がうれしかったようだ。
村長は、集まってきた人々に状況を確かめていく。
「誰か。逃げたあいつらからなにか聞かれたか? 」
「この前もきてた商人だからねぇ。いつものように、雑貨や食べ物を買っただけだ。変わった話はしてないねぇ」
買い物をしたという奥さんも、普通の商人と変わらなかったという。住人たちは、お互いに顔を見回す。
「叫んで知らせたのは、リズ・ギャオモンだったよな。トッパ・ギャオモンの娘の? 誰か、連れてきてくれんか?」
それじゃ私がと言った女性が呼びに行こうとすると、人垣になっていた向こうから、バーレーンが現れた。
「そ、村長、トッパが……」
いい淀むバーレーン。その先には、髪の毛を見出し、地面をバンバン叩く半狂乱のトッパがいた。娘のリズが、母親にみついて離れない。
「あ あ あ。。あたしの子、かわいいパスがぁぁ……!!」
「お、おにいちゃんが、いないの。それを聞いたら、馬車の人が回復してって言ったの。それで…それで…」
取り乱すトッパ。健気にも自分が知っていることを説明しようとするリズ。昨夜トッパが、フェアバールの家に火をつけたことは記憶に新しい。燃やす予定だったとはいえ放火は放火なのだが、今は誰もそれを責める人はいなかった。
村長がそちらに進んでいく。親娘の側に立つと、慰めとも言えない言葉をかける。
「息子をさらっていったヤツは人間だ。魔物でないから殺されやせんよ。心配しないで待っておけ」
一時間あまりが過ぎた頃、偽商人を追いかけた連中が、歓声を受けながら戻ってきた。そこには、商人の馬車や馬などの戦利品があり、商人になりすましていた男も連れてこられた。一応の成果に住人が沸き立つ。
問題の男は馬車に乗せられていた。拘束されていないのは、その必用がないからだ。座ることもできないほど、まともな身体をしてなかったのだ。獣に襲われたようにズタズタに引き裂かれており、死んでないのが不思議なほどに衰弱していた。
「傍には、食いちぎられて腕が落ちてた。死なない程度の治療魔法はかけといたから、しばらくは生きてると思う」
若い衆がこともなげに言う。待ちわびていたトッパが、取りすがって尋ねた。
「パスは? うちの子はどこに?」
「・・・」
成果の中には、誘拐された子供パス・ギャオモンの姿はなかった。気が狂ったように泣き叫ぶ泣き喚くトッパ。サリサたちがなだめ連れて行く。
散らばっていた話しが、まとまっていく章です。
また、新たな展開も始まります。
できるだけごちゃごちゃしないように書いていきたいと思ってます




