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異世界のイージス~少女の中でコックピット生活〜  作者: 北佳凡人
三章

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14 ギャズモル失策 後編


「おじさん……なんで知ってるの?」


 あっと思ったときには遅かった。女の子は大声を上げながら逃げていき、聞きつけた村人がこちらに走りよってくる。


「バレた、逃げるぞ!」

「なんて、間抜けなことを!」


 シェラが文句を言ってくるが、今はそれどころではない。慌てて馬車に乗り込み、馬に鞭をいれて駆け出した。見たところ、村にいる馬のほとんどは農耕馬。四頭立て馬車を駆れば楽に逃げ切れると踏んでいた。


「たった子供ひとりだ。スグにも諦めるだろう」


 しかしその見通しは甘かったと、知らされる。


「貴様ら、パスを返せー!!」


 ギャズモルたちが乗る馬車に追いついてきた馬は、五頭だった。いずれも、2~3人の人間を乗せている。大人3人の重さは馬の負担にしかならない。自分たちの二頭立て馬車ならスグに引き離せると思っていた。


「ばかか、魔物をけしかけてやれ」


 彼は【神経操作魔法】を得意とする。条件が揃えば人の心を騙して、自分に都合の良いウソを信じ込ますことができる。そしてそれは、魔物や亜人にこそ有効に働く。村にゴブリンをけしかけたのは、この魔法を使ってのことだった。


 今回も、街道沿いにあらかじめ魔物を配置するというワナを仕掛けておいた。


《奴らはお前らの敵だ》


 こっちに5匹あっちに3匹と、待機させていたゴブリンやオークをけしかけていく。


「くそっ」

「まかせろっ、ウォーターカッター」


 馬上の魔法使いは攻撃魔法を使って、次々と魔物を倒していく。そのたびに追いかけてくる速度は落ちていった。しつこく食い下がってくるが、巧妙に配置された魔物の襲撃に手を焼き、なんとか追手の姿は見えなくなった。


「やりましたな、ギャズモルさま」

「追ってくるのは想定内だ、これしきのこと」

「やつ等、追いついてきたよっ」

「なにっ?」


 一旦きえた馬の陰が馬車の後方に現れる。信じられないことだが、その影は大きさをまし、じわじわとこちらに迫ってくる。


「まさか、やつらは疲れないのか?」

「魔法をかけながら走ってきてるよ」


 シェラの言うことは本当だった。ヤツラは魔法を使っている。魔法の相手は人間ではなく、自分達が乗っている馬にかけているのだ。乗っている馬に回復魔法をかけ、疲れを回復させながら追っかけてきている。


 一人は攻撃、一人は馬をあやつる。そして一人が傷や疲れをとる。これを交代で追ってきているのだ。馬に負担をかけるのを承知で人間3人が乗っている理由はこれだった。


「そ、そんな無茶な方法、聞いたことないぞ」

「荷物を捨てて軽くしてっ」

「なにっ! これだって無料というわけではないのだぞっ!」

「つかまったら、公爵様に迷惑がかかる。いいから早くっ」


 商人に偽装するために買い込んだ荷物を手当たり次第投げすてる。多少は追手の障害になるが速度は変わらない。幾分か軽くなった馬車を引く馬にビシっと鞭をいれるが、こちらのほうがはるかに不利。


 ワナの魔物はすでに打ち止めで、新たに仕込むにか時間がかかる。御者をしているモリグズなら闇魔法の攻撃も可能だが、交代している余裕はなかった。迷っているうちにも、三頭の馬はどんどん迫ってくる。


「こなったら馬車を捨てるしかない。時間を稼ぐから、馬を離して!」


 馬車も無料じゃないと難色を示すギャズモル。それを無視するシェラ。限界まで速度をあげて走っている馬車から飛び降りて走り出していった。


 道端に捨てた衣服を拾いとった彼女は、左右にステップを踏みなが魔法攻撃をかわす。直前に迫ったところで、左右に掴んでいた衣服をそれぞれ二頭の馬の頭に被せた。


「ぐわあっ!」


 目の前を塞がれた馬は方向を見失い、乗り手を振り落として森に突っ込んでいった。残るは一頭。


「ふん、やるもんだ。仕方ない。モリグズ止めろ」


 馬車を停止させて馬と車を切り離すと、眠らせた子供を抱えて馬へと飛び乗る。どぅっと、馬の横腹を蹴ると、シェラを待たずに森の中に駆け出した。


 追ってくるのは三人だが、馬は一頭。見通しの悪い森を二手に分かれれば逃げ切れると判断したが、アテが外れる。当たり前だが、追手は子供を乗せているギャズモルを追いかけてきたのだ。


「もう、逃げ切れんぞっ! どこの国の間者だ? とっ捕まえて根こそぎ吐かせてやる」


 間者だと? この国の男爵だぞ俺は。平民風情が無礼ではないか。そう叫んでやりたい衝動をぐっと堪えた。

 一人しか乗せていないこちらの馬のほうが身が軽い。しかし魔法で馬の疲労を回復しつづける相手は、どこまでもどこまでも追いかけてくる。草に脚をとられることもあり、ギャズモルの馬は速度は、少しずつ落ちていった。


「ぐぬっ、しつこい」


 ジグザグに逃げるギャズモルを、水や風の魔法が掠めていく。直撃は避けているもののキズも増える。人も馬もじわじわと体力を削られていった。このままでは本当に捕まってしまう。


 公爵さまは約束してくれた。王家が秘匿している村の証拠を渡せば莫大な褒賞と食料を与えると。それは、貧困にあえぐ我が領地にとって、喉から手が出るほど欲しいものだ。王家に逆らうことにはなるが、背に腹は変えられない。


 正体がバレなければいいのだと自分を納得させ、調査と誘拐を引き受けたのだ。領地の存亡を左右する事案であり、失敗は破滅に繋がる。配下に任せずに自らが行うことに決めたのだ。辺境の村人など軽くあしらってくれようと。


 しかし今、その村の住人によって、我が身が危ういところにきている。捕まってしまえば全ては水の泡。ギャズモルは打ち首で領地は没取となるだろう。


「う、馬を囮にして物陰に潜むしかないか」


 これが最後の手段と考えて、手頃な大樹に周り込んだその時、木の根に足をとられた馬が転倒した。子供ごと放り投げられ、頭から茂みの中に突っ込んだ。


 ヒヒーン!

「うわーっ!」


 身体を打ち付けて動けないギャズモル。万事休すと思ったが、馬だけがすぐさま立ち上がった。主人を置いて走りゆく馬を、追手が追いかけていく。それは木の陰で見えなくなり、やがて足音も聞こえなくなった。


「た、助かったのか?」


 手足の震えが止まらない。楽に追い払えると思っていた辺境の村人が、どこまでもどこまでも追いかけてきたのだ。何度も諦めかけた。こうして、偶然にも助かったのは、わずかながら悪運があるのかもしれない。


「あれが……回復魔法の底力なのか」


 満身創痍の体に鞭打って、まだ眠り薬の効いてる子供を担いだギャズモル。よたつきながら森を彷徨って、どうにか二人に合流したのはさっきのことだ。モリグズも馬を失っていた。囮に使ったのだと頭をたれていた。




「馬車が見えたよー」


 予備の馬車を隠しておいた場所に着いた。馬車も、そばに繋いでおいた二頭の馬も無事にみえたが、身を潜めてしばらく周囲を警戒。どうやら待ち伏せされてはいないようだ。


 よいしょっと、シエラが担いでた子供を馬車に放り込み、自身も乗り込んだ。


「あれ? 先客がいるよー」

「なにっ」


 恐怖を露わにしながら、ギャズモルは腰の剣を抜く。ツェルト村の奴らが、馬車の中で待ち伏せていたのだと思ったのだが。


「子供が寝てるよ。ツェルト村の迷子かな?」


 待ち伏せではないことにほっとする。このあたりはまだ、ツェルト村から遠くない。不自然ではあるが、迷子が忍び込むというのはギリギリありそうな話だ。もしも村の子供であるなら、二人目を手に入れたことになる。

 計画とは違っても結果がでればいいのだと、力無く笑う。


「俺の悪運は、まだ尽きてないようだな」


 構えていた剣を鞘に戻す。

 子供とやらを覗き込もうと馬車に近づいた。


グアオ――――!!


 唸り超えとともに、横からの衝撃が身体を襲う。何が、と思う間もなくギャズモルの意識は遠くなっていった。




ギャズモルは、タイトル通りに失敗しました。いったい、何が起こったんでしょう??

これにて、三章は終了になります。


本編をベースにした短編もありますので、よかったら読んでみてください。

http://ncode.syosetu.com/n2343dg/

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